【夜の王】〜いつか必ず背中を刺される男の軌跡〜   作:カラカラ

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キヴォトスホストオンナタラシ、その生態

 

 

 

 

 

 ───A.M. 6:30

 

 「──────」

 

 彼の朝は鳴り響く着信音と共に始まります。

 これらの着信は全て彼が何百人と登録した女の子(お姫様)たちからのアッツいモーニングコールです。まさしく世の男という男が雄叫びを上げて喜びそうなシチュエーションでしょう。さぞヨルくんも喜んでいるに違いありません。

 ちなみに、何百通と送られてきた通知ですが、これらは全部()()()()()()()に送られてきたものです。彼は寝落ち寸前まで連絡を返していますからね、必然的にそうなるでしょう。

 

 

 

 「ふぅー……いい風だ」

 

 しばらく更新され続ける画面をそのままに、彼は窓を開け放ち、朝の新鮮爽やかな風を体内に取り込み始めました。

 ちなみに、あたかも日課であるかのように窓を開け放っていますが、実はそこまで日課的な行動ではないのです。気が向いたら、気が付けば、たまにはやっても良いかも………その程度の認識なのです。

 その日その日の気分によって行動が左右されるのがこの男の特徴です。ヨルくんの生態を知りたい方はぜひ覚えておきましょう。

 

 

 

 「いただきます」

 

 洗面所で顔を洗い、自身の顔をしばらく見つめた後、リビングへと向かい朝食の準備をし始めました。

 彼は生まれてこの方“朝パン派”を貫いているため、今日も例に漏れず焼けたトーストにジャムを塗りたくっていますね。

 そして椅子に座り一口。あの表情を見ると随分と美味しいらしいです。

 

 「さて……」

 

 朝食を片手に、もう片方の手で一日の最初の業務───女の子たちから送られてきた大量の連絡の返信を開始します。

 短い文をちょくちょく送ってくる子、長文で一括に送る子、ちょっとヘラ気味な子、メール越しに反吐を吐いてくる子、メリーさんが書いたような怪文書を送ってくる子など、女の子によってタイプは色々ですので、一人ひとりにあった返信を心がけましょう。

 うっかり選択をミスれば背中からグサリです。気をつけましょうね、ヨルくん。

 

 

 

 「…………」

 

 ある程度返信も終えたのでしょうか、今度はテレビを付けてニュースを見始めました。

 ホストとは世情や流行には敏感でなければなりません。それもひとえに仕事のためです。

 どんな話題であろうとも、姫が出した話題には即座に対応しなければならない……ホストとはシビアでハードな世界なのです。

 

 「………ふーん、変な顔の深海魚、ちゃんと変な顔でオモロいなぁ。今度誰かに話してみよ」

 

 ただ、ヨルくんはちょっとズレた情報を入手する事も多く、たまに姫たちを本気で困惑させる事もあります。ですが、それもまた愛嬌として受け入れられているのでご心配なく。

 

 「何なら今日にでも───あっ、今日休みだった」

 

 そう、今日は月に数回あるかないかの完全オフ日なのです。

 【クラブ・ムーン】は様々な紆余曲折を経て、現在は彼のワンマン営業で成り立っています。そのため、大黒柱どころか家そのものである彼は常に働きっぱなしです。

 

 「………休みの日って何するんだっけ」

 

 あらあら、ヨルくん、とうとう頭を抱え始めましたね。いざ休みを与えられても、何をすれば良いのか分からなくなってしまうとは、何処ぞの風紀委員会委員長さんと似ていますね。

 きっと彼女なら嬉々としてお昼寝を誘ってくれると思いますが、誘ってみてはどうでしょうか───って、彼女側にそんな時間ありませんでしたね。やはり彼女の最大の敵は忙殺される仕事の量なのかもしれません。

 

 おっと、ここで机上に置いてあった雑誌を手に取りました。

 その雑誌のタイトルは【KOVUE】。キヴォトスでは有名なファッション誌ですが、その表紙には堂々と彼の姿が載っています。

 

 「……服、買いに行こっかな」

 

 随分と適当ですね。たまたま目に入った物に今日という貴重な一日を費やすなんて少々勿体無いと思いますが……

 

 ですが、そうと決まれば早い。口に半分咥えていたトーストを一気に飲み込み、外出用の服装を着込んで快晴の青空の下に出て行きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふんふんふ〜ん♪」

 

 雲ひとつない青空。

 夏の時期が近い事を知らせる照り輝く太陽。

 可愛らしい動物とイカついロボットの住民たち。

 キャピキャピでキラキラな制服を着飾るうら若き乙女たち。

 ───そして、そんな彼ら彼女らの視線を一身に集めるギザったサングラス男が一人。

 

 家を出てから数十分後、彼は比較的近場の大型ショッピングモールを気分上々で歩いています。

 

 特徴的な髪型はニット帽で覆い隠し、衣装は黒を基調としたパーカー。紫系統のサングラスも相まって、チャラいというよりもギラギラが似合う恰好です。

 

 これが彼の私服───もとい、お出かけ用の服装です。

 

 彼は自身の容姿が目立つ事を認識しているため、出かける際はお忍びコーデを着飾ります。これもその一種だと捉えてもらって構いません。

 そう認識出来ている癖に、こんな白昼堂々と鼻唄を歌いながらショッピングモールを練り歩くその様は、今の自分は決してバレる事がないという絶対的な自信の表れでしょう。

 

 故に完全無欠の完璧(パーフェクト)なお忍びコーデだと思っているのです────彼にとっては、ですが。

 

 

 

 

 

 「ねぇ、あれって……」

 「あっ、ヨルくんじゃん!」

 「今日はお出かけの日なんだ……私服姿見れるなんて超ラッキー!」

 

 無論、バレない筈もなく。

 そもそも乙女たちや動物、ロボットが練り歩くショッピングモールの中で、全身黒と紫のギラギラサングラス野郎がいたら当然浮くに決まっています。

 それに、髪を帽子で覆い隠そうと一番重要な顔面はサングラスしか覆っていないため、その横顔や笑った時の口角の上がり具合、店員と話す声などから簡単に特定されてしまい、今ではたまに現れる激レアモンスターみたいな扱いを受けるようになっていました。まるでメタ◯ラのようですね。

 

 さて、そんなこんなでバッチリ存在を認知しているうら若き乙女たちの中でも、様々な種類に分かれています。順番にご紹介しましょう。

 

 

 「見てみて!ヨルくんが猫ちゃんのマグカップ取って笑ってるよ!」

 「やばっ!!超可愛いじゃん!写真撮っとこ……」

 「いや〜、普段のヨルくんもいいけど、オフの日の緩みきったヨルくんもいいよな……」

 「なんか……キュンってくるよね……」

 「分かるわ〜」

 「眼福眼福」

 

 一つは穏健派。普段の彼とオフの彼にギャップに胸キュンをしてしまい、話しかける事もせずにただ遠くから眺めて癒されたいだけの比較的害のない集団です。

 

 

 「あの人、カッコイイなぁ……」

 「あれ、なんかテレビで見た事があるような気がする……」

 

 「ヨルくんがいる!こんな機会滅多にないから話しかけに行きたい、けど……」

 「うん、分かる。なんか、こう……オーラがすごくて近寄りがたいよね……」

 「あんた行ってきたら?」

 「ム、ムリだよ!ただでさえ普段からまともに話せた事なんかないのに……!」

 

 彼女たちは日和派。話しかけに行きたいが、結局日和ってしまいその場で二の足を踏みまくる集団の事を指します。

 

 

 「なんかやけにツラよくね?あいつ」

 「姐御知らないんですか!?ヨルですよ!【クラブ・ムーン】のホスト・ヨル!数多のファッション誌の表紙を何度も飾り、ここ最近だとテレビにも進出してきた、今一番イケイケの男ですよ!」

 「ふーん、テレビもファッション誌もあんまり見ないから知らなかったわ。にしても、そんな男とショッピングできたら優越感半端ないんだろうな〜!よ〜し、テメェら!誘いに行くぞ!」

 

 彼女たちはアタック派。胸キュンとか鑑賞とかどうでもいい、取り敢えず私たちとランチに行かないか?と積極的な行動に出る事が出来る集団です。

 

 

 「お〜い、そこのお兄ぎゃー!!

 「ん?おい、どうしぐわああああ!!

 「なっ!?またヤツらか!?」

 「………彼の平穏を乱す者は、たとえ神が赦しても我々が赦しません」

 「この者たちに天誅を」

 「うわああああああ!?

 

 彼女たちは過激派に属する者たち、通称“ヨルを見守り隊”の方々です。彼のオフを邪魔しようとする者の下に何処からともなく現れ、その者らに鉄鎚を下す事が使命としたイかれた集団です。

 彼女らこそが、彼に間違った認識を植え付けてしまった第一の要因であるわけですが、彼女たちがいるお陰で彼のオフ日は守られていると言っても過言ではありません。

 

 さて、今日も“ヨルを見守り隊”の方々がいるお陰で彼の平穏なオフは守られる事でしょう。

 めでたしめでたし────と思われていた場面で、見守り隊の意識を掻い潜って彼に近づく大人がいますね。彼女は一体……?

 

 

 「あれ?ヨルくん?ここで何してるの?」

 

 「えっ」

 

 

 誰にも出来なかった事を平然とやってのけるのは“主人公”の特権だと言わんばかりに、最近キヴォトスに赴任したばかりの先生は、純度100%のうら麗しき笑顔で挨拶をかましたのでした。

 

 

 

 

 

☆★

 

 

 

 

 

 すんごいギラギラした子がいたから声をかけてみたら、案の定ヨルくんだった。

 ヨルくんは『なんで分かったんですか?』って本気で戸惑っていたけど、むしろなんで気付けないと思ったのか。サングラスしていても君ほど目立つ子はそうそういないよ。

 

 その後、もうお昼時だしって事で、店内に配備されてあるフードコートに立ち寄って今に至る………が。

 

 「ね、ねぇ?その、やっぱり悪いよ。大人が子どもから昼食をご馳走になっちゃうなんて。後でちゃんとお金を払わせて───」

 「いいんですいいんです。ティーチャーさんはそう言いますけど、大人子ども云々の前に僕は一人の男なんです。女性と共に食事を摂るというのに、相手に財布を出させるわけにはいきません」

 

 『ですから、どうかここは僕の顔を立てると思って』と嫌味ひとつない笑顔を向けられてしまう。

 ………ズルい子だ、と思ってしまった。ああまで言われてしまったら、私に反論の余地がなくなってしまうではないか。

 

 「それにしても、ティーチャーさんに話しかけられた時は本当にビックリしましたよ。心臓が止まるかと思いましたもん」

 「え?そ、そんなに?ヨルくんなら街中で話しかけられる事も多いんじゃないの?」

 「実はそうでもないんです。なんせこれまでお忍びで声をかけられた事がありませんから」

 

 そう言って笑う彼は何処か嬉しそうで。

 

 「ティーチャーさんは僕にとって()()()()()、か。ふふっ、なんだか嬉しいですね♪」

 「んぐッ……!?」

 

 不覚にも一瞬トキめいてしまった。でも仕方なくない!?だってあんな笑顔で……!あんな甘い言葉を言われたら誰だってドキってするもんでしょ!?それに言い方もなんかアレだし!

 

 でも、落ち着いて考えてみればその言葉にどれだけの信憑性がある物か分かったものじゃないよね。

 だって───なんかやたらと見られてるし。ちょっと視線を移せば血走った目をしている子どもたちが私たちの事を凝視してるし……

 

 「ところで、ティーチャーさんはどうしてここに?」

 

 あれ、言ってなかったっけ。そういえば、確かにあの後ドタバタしていて聞かれる時間もなかったか。

 

 「いわゆるパトロールみたいなやつだよ。たまにこうやって歩いてみて、ちゃんと生徒たちが安全に過ごせているか見に来ているんだ」

 「マジっすか。なんていうか……すごく優しい人なんですね、ティーチャーさんって。なんだか学校の先生って感じがします」

 「ギ、ギクっ……!!そ、そう?そう言ってもらえて嬉しいな〜、なんて……」

 

 あ、危なかった……!危うく私が先生だって事がバレるところだった……!

 いや、別に名乗ったらいけないとかそういったルールはないけどさ、前回の醜態*1を晒したままバレるとか色々恥ずかしいじゃん!『先生ってこんなのなんだ……チョロ』って内心思われたくないじゃん!

 いつかはバレてしまうんだろうけど……少なくともそれは今じゃない!大人としての威厳を復活させてから改めて自己紹介するんだッ!!

 

 「じゃあショッピングモールにいるのに碌に買い物も出来ていないんですか?」

 「ん〜、まぁね。でも私はいいんだ。子どもたちが買い物を楽しんでいる姿を見れるだけでも嬉しいからさ」

 「…………」

 

 そう言えば、ヨルくんはしばらく熟考した後ひとつ頷き、口を開いた。

 

 

 

 「ティーチャーさん、僕とデートでもしませんか?」

 

 

 「へ?」

 

 

 

 

 

☆★

 

 

 

 

 

 「このお洋服もいいなぁ……あっ、あっちの服も似合いそう……」

 

 現在、私たちは服屋さんにいる。

 彼からデートのお誘いを受けた時は何事かと思ったけど、蓋を開けてみればなんて事のない普通の買い物だった。彼の目的である服を見繕ってほしいというお願いも込みだけど。

 まったく、言い方には気をつけてほしいよ。一瞬ときめい───オホンッ、心臓が跳ね上がったじゃないか。

 

 「ねぇ、本当に私が服を選んじゃってもいいの?何か欲しい服とかあったんじゃないの?」

 「いいんですよ。僕はあなたが選んでくれた服を着たいんですから」

 「…………」

 

 どうしてそう女の子が喜びそうなセリフを恥ずかし気もなく言えるんだろうか。

 いや、逆に恥ずかしがるような肝っ玉じゃホスト失格なのかも……?

 

 「それよりその手に持っている服は……」

 「あぁ、うん。一応選ばせてもらったよ。自信はあまりないけどね……」

 

 私が選んだのはルーズフィットのレトロデニムジャケットと、ポケットの多いカーゴパンツだ。夏が近いという事も考慮しつつ、彼に合いそうな服を選ばせてもらった結果こうなった。

 無難というか、普通というか……言ってしまえば面白みのない服だ。現在進行形でギラギラとした服を着ているヨルくんの好みとは反対かもしれないけど……きっと似合いそうだと思ったから。

 

 

 「────ありがとうございます!すごく嬉しいです……!大事に着ますね!」

 

 

 あどけなさなが残る、純粋無垢な笑顔。その笑顔が私の内に宿っていた不安や憂慮を全部浄化してくれた。

 うむむ……なるほど、これは他の女の子たちもハマるわけだ。あんなにクールでカッコいい男の子が、こんな笑顔も出来ると知ってしまったら、そりゃあギャップ萌えも胸キュンもしますわ。

 私?大丈夫、致命傷で済んでるから。

 

 「買ってきました」

 「えっ、いつの間に?」

 

 ほんの少し考え事をしていたら、すでにお会計を済ませていたらしい。

 男の子ってみんなこんな感じなのかな?私なんてレジの列に並んでも周囲の服を見渡したり、カゴに入ってる服をずっと吟味してる時だってざらにあるっていうのに……

 

 「それとこれを……」

 「ん?」

 

 何やらビニールに包まれた物を手渡された。

 ただ、ビニール越しの感触とその重さで何となく理解してしまった。

 

 「こ、これってもしかして………」

 「はい、ティーチャーさんの服です」

 「えぇ!?」

 

 そうだと思ったよ!?いきなりすぎてビックリしたよ!不意打ちにも程って物があるんだからね!?

 

 「ど、どうして……」

 「細やかな物ですが、これを今日のお礼という事で受け取ってはいただけませんか?」

 「む、むむっ……」

 

 どのみち私には受け取る以外の選択肢は残されていない。購入前だったら色々やりようはあったんだけどね……

 

 「………今回はありがたく受け取るけど、次からは事前に言ってほしいかな。サプライズも嬉しいけど、こうも貰いっぱなしだと色々と肩身が狭くなっちゃうからね……」

 「あぁ、それならご安心を。後でちゃんと対価を頂くので」

 

 あっ、今回はちゃんと対価を請求してくれるんだね!……対価を要求されてこうも喜べる世界線もなかなか珍しいよね。

 

 えーっと、この服いくらしたんだろう。ちっとも買い物する気なかったからお金全然卸してないせいで、ちゃんと足りるか心配だよ……

 

 「財布なんか取り出さなくてもいいですよ?これは今日のお礼なんですから」

 「え?でも対価って……」

 「……なるほど。ティーチャーさん、少し耳を貸して下さいますか?」

 

 耳を貸せだって……もしかして公然には言えない値段でもしたのかな……!?

 

 いろんな不安がごっちゃ混ぜになりながらも、ゆっくりと耳を傾けて────

 

 

 

 

 

 「今度、お互いが選んだ服を着てちゃんとしたデートをしましょう」

 

 

 

 

 「対価は、ティーチャーさんの素敵な私服姿で手を打っておきますから」

 

 

 

 

 

 ババっと目にも留まらない速さで後退る。きっと今の私の顔はりんごのように真っ赤なのだろう。

 そんな私の醜態を見る彼は満足そうな顔をして、人差し指をそっと自身の唇の前まで持ってくる。

 

 「それで良いですか?ティーチャーさん」

 「……………………はぃ」

 「よかったです。それじゃあ追って連絡します。今日はありがとうございました♪」

 

 やり切ったと言わんばかりの姿勢で立ち去っていく彼の後ろ姿をただ眺める事しか出来なかった。

 

 …………私が威厳を取り戻せる日は来るのだろうか。

 

*1
第一話参照




評価・お気に入り登録・感想等ありがとうございます。正直ここまでの方に読んでいただけるなんて思っていなかったので、とても励みになります。引き続きどうぞよろしくお願いします。
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