イシュタルが消えてからあまり経たない内に水面下では【イシュタル・ファミリア】が牛耳っていた【歓楽街】の利権を巡って壮絶な争いが繰り広げられていた
それぞれが妥協案を飲み込み飲み込ませる中、その割りを食ったのはやはり元【イシュタル・ファミリア】のメンバーだろう
彼女達は恩恵が消えた事であっという間に居場所を奪われその大部分が新たに別の神の眷族となるか故郷に帰る事になった
そしてここにその大部分から漏れた者が1人
極東の衣服キモノを完璧に着こなし狐の耳と尻尾を持つ少女彼女は元【イシュタル・ファミリア】の秘蔵っ子にして切り札サンジョウノ・春姫。彼女は冒険者でこそ無いもののその特別な魔法で特殊な立場にいたがそれも過去の話
今はファミリア解散の手切れ金を使いながらその日を食い繋ぐ日々を送っていた。普通なら彼女に娯楽を楽しむ余裕は無く今日も仕事探しに奔走する筈だったのだが運良く映画館の【無料チケット】を手に入れそれを使う為に映画館に来ていた
「ここが…………映画館?」
「いらっしゃいませ」
「ひゃい⁉」
呆然と立ち尽くす春姫にタダシが声をかける。春姫は驚き変な声を上げる
「これは失礼致しました。私、当映画館のマネージャーをしております。ヤマモト・タダシと申します」
「あ、はい。私、元【イシュタル・ファミリア】のサンジョウノ・春姫と申します」
「ご丁寧にありがとうございます。お客様は当館は初めてのご利用とお見受けしますが?」
「はい、あの。この紙を頂きまして」
春姫はそう言うと懐から1枚の紙を取り出しタダシに渡す
「此方は【無料チケット】ですね。映画を1本無料で観ることが出来ます」
「申し訳ありません。私最近まで部屋に閉じ籠っていてそう言った物に疎いのです」
春姫は困った様にそう言いタダシは少し驚いた様に言う
「そうでしたか。では私の方から映画と映画館の説明をさせて頂きますが?」
「はい、是非お願いします」
春姫はタダシの案内で利用方法と映画についてを知った
「説明は以上となります」
「は、はい。ありがとうございます」
「では、観たい映画をお選び下さい」
「あの、私英雄と姫の恋を描いた話に目がないんです。そう言う話は………………」
タダシはその話を聞きしばらく考えた後あるファイルを取り出し開く
「では、此方の作品はいかがでしょう?」
「これは、【アバター】?」
「はい、此方は大変面白い作品となっております」
「では、それにします」
「かしこまりました。それと此方のチケットはポップコーンと飲み物もついております。宜しければご賞味下さい」
タダシの言う通りポップコーンと飲み物を受け取り席に座るが
「少し小さい椅子ですね」
狐人であり箱入りでもある春姫は自身の尻尾と座席を倒すと言う事が分からずなかなか窮屈にしていた
そのまま映画泥棒が始まり本編が始まると同じ列の離れた席の客が座席を倒しているのに気付き顔を真っ赤にしながら席を倒し快適に座り映画に集中する
内容は資源が豊富なとある星にやって来た組織の1人が原住民との交渉役に選ばれ彼らと似た姿となり共に生活していく中で原住民の1人の女性と恋に落ちる物語
2人は次第に仲良くなり交渉役の男は組織を裏切ると言う形で原住民と共に住む場所を守る為に戦い土地を守り抜き英雄として彼らに迎え入れられ話は終わった
「いかがでしたでしょうか?」
「ひゃい⁉」
再び突然現れたタダシに春姫は驚き変な声を上げる
「これは失礼。お気に召して頂けましたかな?」
「は、はい。最後の動物達も一緒に戦う所なんてとても感動しました」
「それは良かった。またのご利用をお待ちしております」
タダシのその言葉にハッとし春姫は困った顔をする
「実はファミリアが解散になったので仕事がなくてお金がないんです。なので漸くは……」
「そうでしたか。失礼致しました」
2人は席を立ち再び出入り口に向かう
「タダシさん!!」
出入り口に近付くとベルに出会った
「これはこれはベル・クラネル様。また例の作品を?」
「はい!!あれ?お客さんですか?」
「はい、此方はサンジョウノ・春姫様です」
「よ、宜しくお願い致します」
「こ、こちらこそ宜しくお願いします!!」
そこでタダシとフと何かを思い付いた様にポンと手を叩く
「宜しければベル様。春姫様をあなた様のファミリアに入れて頂くのはいかがでしょう?」
「え?、ええええええええええええええええええええ⁉そんな急に」
「何か問題でも?」
「いやいやそんな事は…………でも春姫さんは本当に良いんですか?」
「はい、不束者ですが宜しくお願い致します。ベル様」
「………………………………分かりました。これから宜しくお願いしますね。春姫さん!!」
2人は手を取り交渉が成立し春姫は晴れて【ヘスティア・ファミリア】所属となった