「ゲホッゴホッ」
1人の少女が薄暗い路地裏を体を引き摺る様に歩く。ズタボロの外套を纏い顔を隠し背中には身の丈の倍はあるリュックを背負い顔や体には無数の傷と泥汚れに包まれている
近くでは何かを探す冒険者達が多くおりそれらの視線から逃げる様に少女は建物の中に入る
「ハァ ハァ ハァ」
「いらっしゃいませ」
「っ!!」
顔を上げるとそこには煌びやかな光と本物そっくりの絵画、そして目の前には紳士服を着た男が立っていた。少女、リリルカにはこの場所がどう言った場所なのかある程度当たりがついていた
「ここは、映画館?」
「はい、私当映画館のマネージャーをしております。ヤマモト・タダシと申します」
「あ、はい。リリはリリルカ・アーデと言います」
「ご丁寧にありがとうございます。リリルカ様は当映画館のご利用は初めてでしょうか?」
「あ、すいません。実はトラブルに巻き込まれてたまたま逃げ込んだだけなので映画を見るつもりは………………」
「そうでしたか。ですが外に出るのもまた危険でしょう。ほとぼりが冷めるまで此方でお待ちになった方が宜しいのでは無いでしょうか?」
的確に事実を突かれ思わず口を紡ぐ。タダシは何も言わず笑顔のままリリルカの言葉を待っている。外をチラリと見れば冒険者達がキョロキョロと辺りを探していた
「………………………………ではお言葉に甘える事にします」
「かしこまりました。では当施設のご説明から入らせていただきます」
タダシはそう言うと施設の説明を始めた
「以上が当施設の説明となります。では見たい映画をお選び下さい」
「えっと、取り敢えずなんでも良いです。貴方のお勧めで」
「かしこまりました。では私の好きな此方の映画はいかがでしょう?」
そう言ってタダシはファイルを取り出す
「【42 世界を変えた男】?」
「はい、此方の作品はアメリカと言う国を舞台にした野球選手の話です」
「ヤキュウ…………それが何故世界を変える事になったんですか?」
「それは此方の作品を観てからのお楽しみと言う事で………………」
「……………………ではそれのチケットを1枚お願いします」
「かしこまりました」
チケットを受け取り指定された部屋に向かおうとした時
「あ!!そこの子。ポップコーンはいらないの?」
軽食販売コーナーから声が聞こえそちらを見る。見たところタダシが言っていた軽食販売コーナーだろう
「……………………いえ、私は……」
「今なら【映画館定番セット】が半額だよ~!!」
半額と言う言葉にリリルカの耳がピクリと反応する。値段と絵を見ればかなりのボリュームなのにかなりの低価格だった
「……………………じゃあそれ下さい」
誘惑に抗えず低価格のセットを頼んでしまった
「はぁ~い!!ではフレーバーをお選び下さい」
「……………………キャラメルと期間限定と飲み物はオレンジジュースで」
「はぁ~い。此方ご注文のお品物で~す」
渡されたセットを受け取り指定の席に座る
映画泥棒の警告の後本編が始まる
内容は肌が黒いと言う理由だけで差別を受ける黒人の野球選手、ジャッキー・ロビンソンがメジャーと呼ばれる一流の舞台で差別と戦いながら活躍していく話だ
(確かになんでも良いとは言いましたが。私にこれを見せるなんて…………皮肉のつもりなんですかね)
特にリリルカの心を乱したのは主人公が言われた言葉
主人公に味方してくれた男は彼にこう言った
『やり返してはダメだ』と
それに対しジャッキーは
『俺に臆病者になれと?』
リリルカも同じことを思った。リリルカも冒険者からそれはそれは耐え難い迫害と蔑みを受けてきた、それゆえに彼女も彼らにやり返してきた。だが
『やり返さない勇気を持てと言っているんだ』
その言葉通り、彼は耐え続けた。耐えて耐えて耐えて耐えてそうしている内に彼へ浴びせられる罵倒は称賛に変わり
彼は英雄となった
(リリには耐える勇気が無かったと言うことですか………………やり返さない勇気が無かったと。この方は確かにやり返さない勇気が周りを変えてくれたかもしれません。でもリリの周りは変わってくれなかった!!耐えても耐えても奪われるばかり!!親も仲間も神すら助けてくれなかったのに!!)
気付けば映画は終わっていた。リリルカはそれにも気付かずひたすらに唇を噛み締めていた
そこに
「やっと見付けたぞ糞小人族」
先程まで自分を探していた冒険者達が乗り込んでくる。中に入るのを見られたのだろう
「テメェ俺達から戦利品奪っといて優雅に映画か?良いご身分だな」
逃げ出そうにも完全に囲まれ逃げる隙間もない、ましてや大荷物を抱えていれば尚更だ
「覚悟しやがれ!!」
冒険者の拳が迫り来る。痛みに備え目を閉じるが何時まで経っても痛みは来ない
恐る恐る目を開けるとそこにはタダシが笑顔で拳を止めている姿があった
「お客様、当映画館でも暴力行為や大声での観覧はご遠慮願います」
「何だテメェ!!邪魔すんな!!」
「そう言うわけにはまいりません。この方は我々のお客様なのですから」
「ああ⁉テメェ死にてぇのか⁉」
「それ以上無理を言われますと……………………彼らが黙っては居ないと思いますよ?」
そう言ってタダシが映画の写し出されていた方を指差す、それに釣られリリルカ達もそちらを見ると再び映画泥棒が始まっていた
『ゲゲゲゲキキキキキ場内でのボボボボ暴力行為はははは』
しかし何やらノイズが走っており軈ては完全に映らなくなるとその向こうから頭にサイレンを被った一団が現れ冒険者達に手錠をかける。その姿は映画泥棒を追いかけていた者達にそっくりだった
「な、何だこりゃ⁉外しやがれ!!」
しかし彼らは何も言わず冒険者達を担ぐと冒険者と共に画面の向こうへ消え再び映画泥棒の映像が流れた。心なしか映画泥棒内で映画を見ている客役が増えた気がした
「彼らもまた映画館を愛する仲間と言うことです。さて、お嬢さん。当映画館のご利用、誠にありがとうございました」
タダシはそう言って一礼するとその場を去っていき事態に着いて行けなかったリリルカだけが取り残された
その後、リリルカも映画館を後にし何時もの生活に戻った
しかし彼女はそれからいくら罵られ蔑まれようと決してやり返す事はなかったと言う