アビドス在住の暁美ほむら……てどういうことよ   作:マドドラも面白いよ!?

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『まどかって……誰のことだよ?』

 

 数日前、佐倉杏子に言われた言葉が、脳裏に蘇る。

 まどか――鹿目まどか。

 私、暁美ほむらの、たった一人の親友。

 そして、私たち魔法少女の行き着く先――円環の理を管理する女神。

 魔法少女が魔女へと堕ち、世界に呪いを撒く運命を、まどかは覆してくれた。

 その代償として、彼女はもう、二度と会えない存在になってしまった。

 

 ――私が、助けられなかった子。

 

 

 

 夜の見滝原は不気味だ。

 ……いや、きっとその表現は正確ではない。

 

 “魔的”――そう表現するべきだろう。

 

 眼下に蠢く怪物、『魔獣』が放つ瘴気のせいだ。

 一般人には見えないその存在が、街の一部を包み込み、深夜の景色を非日常へと変えている。

 

(これが……あの子が守りたかった世界なのかしら)

 

 塔の上から飛び降り、魔獣の前に立つ。

 ソウルジェムから魔力を流し、弓に装填する。

 かつては銃器を使って戦っていたため、まだこの感覚には馴染めない。

 けれどこの弓は、まどかが存在していた証――私に残してくれた、大切な証拠だ。

 

 矢を引き絞り、放つ。

 

 魔獣に命中した矢は爆ぜ、敵を吹き飛ばす。

 一体撃破。さらに二体、三体と同じ要領で仕留めていく。

 

 まどかが遺してくれた翼の力もあるが、できるだけ魔力は温存しておきたい。

 魔獣を倒し、この世界の平和を守る。

 まどかが守ろうとしたこの世界を、今度は私が守る。

 

 それが、私の日常。――だったのに。

 

 

 

「……どこなの、ここは?」

 

 視界一面に広がる、果てしない砂漠。

 肌を焼く強烈な太陽の光。

 砂に呑まれかけている建物の残骸。

 

 「おうおう!! ここが誰の根城かわかってんのか? ガタガタヘルメット団のアジトだぞ!!」

 「姉御姉御! あの女、綺麗な宝石持ってますよ! 奪っちまいましょうよ!」

 

 未知の土地。

 世紀末のような台詞を叫びながら、頭に奇妙な輪っかを乗せ、銃器を持った少女たちが私を取り囲む。

 

(どこなのよ、ここは!?)

 

 

 

 ◇

 

 

 

 私はもともと、魔法少女としては決して強くない。

 だが、条件付きであっても、強力な固有魔法を持っていた。

 けれど今は、その力をもう使うことができない。

 まどかが世界を改変したことで、私の固有魔法も変わってしまったから。

 

 そして今の魔法は、効果も持続時間も短く、戦況を一気に変えるには不十分だ。

 

 だから、取るべき行動はひとつ。

 

 「じゅ、銃が!?」

 「なんだアイツ、アビドスの奴らでもあんな動きはしないぞ!!」

 「なんで弓で武器壊せるんだよ!? ていうか矢はどこから出てきた!?」

 「ひらひらひらひら蝶々みたいに!! かわいいな!?」

 

 ……ひとつだけ、褒め言葉が混じっていた気がするけれど、それは今は置いておこう。

 

 まずはこの場から離れ、安全を確保することが先決だ。

 そもそも、あの子たちは何者? 魔法少女なの?

 ……にしては、装備や服装があまりにも統一されすぎている。

 それに、あのアサルトライフル。

 魔法少女の武器で、あんな現代的な火器を使う子なんて、私以外に見たことがない。

 

 さらに――銃を破壊された衝撃を受けても、彼女たちは「痛い」で済ませている。

 魔法少女ならば、最低でも出血し、回復魔法が必要なはずなのに。

 

 そんな疑問を胸に抱えつつ、私は砂に埋もれた建物の上を駆ける。

 

(ここは……もしかして、魔女の結界?)

 

 もう、生まれるはずのない存在――魔女。

 魔法少女が絶望の果てに変貌する、哀しき存在。

 だが、まどかの改変によって、魔女は消滅したはず。

 

 それでも、この異常な空間を作り出せる存在など、魔女以外に思いつかない。

 

(じゃあ、あの子たちは……使い魔?)

 

 確証はない。

 一気に倒してしまいたい気持ちはあるが、もしも彼女たちが人間だったとしたら――。

 

 そしてもし、魔女や使い魔でなかったとしたら……。

 

(本当に、ここはどこなの?)

 

 マミさんは? 杏子は?

 そして――まどかは?

 

 

 

 ◇

 

 

 

 その日も、本来ならいつもと変わらない任務になるはずだった。

 

 アビドスで悪さを働く、通称“ガタガタヘルメット団”。

 どうしてこんな辺鄙な砂漠地帯にまでチンピラが集まってくるのかはわからないけれど、暴れられては困る。

 捕まえて警察に突き出せば賞金も出るが、正直それも面倒だ。

 

(ユメ先輩……)

 

 私の、大切な人。

 その人が守ろうとした学校と町。

 先輩は、いつもこんな気持ちを抱えながら私に接していたのだろうか。

 

(……おじさんらしくないかな~)

 

 少しだけ、感傷的な気分になっていた。

 だから、少し明るく振る舞うことにする。

 後輩の前でしんみりして、不安にさせたくない。

 

「アヤネちゃん、敵の位置を確認してくれる?」

 

 『了解です!! 送りますけど、ホシノ先輩、本当に無茶しないでくださいね!? あと、やっぱり皆を待ってからの方が――』

 

「大丈夫大丈夫。おじさんに任せなって。シロコちゃんたちは学校と町をお願いしたいしさ」

 

 『……わかり、て、ええ!?』

 

 通信越しに叫ぶアヤネちゃん。

 

「どうしたの?」

 

 『今、ドローンで偵察してたんですけど……ヘルメット団と、誰かが戦っているんです!!』

 

 おかしい。

 キヴォトスには戦える生徒もいるけれど、このアビドスでヘルメット団と戦うような子がいるはずない。

 

 よその学区の生徒? それとも、内輪揉め?

 

「とにかく、現場に向かうよ。戦ってる子は何人くらい?」

 

 『そ、それが……』

 

 『――一人!! 一人だけで、ヘルメット団と戦ってるんです!!』

 

 ……これは、急がなきゃ。

 

 私はアヤネちゃんが送ってくれた座標へと、全力で駆け出した。

 

 ◇

 

 砂煙が舞い、爆発音が夜の静寂を引き裂く。

 ヘルメット団の少女が叫びながら手榴弾を投げてきた。私は矢でそれを撃ち抜き、空中で爆散させる。

 

「嘘!? 弓で手榴弾を撃ち落とした!?」

 

「武器も、もう全部壊されちゃったよ!?」

 

 連携は甘いし、装備も中途半端。

 戦い方のパターンも読めている。

 一人が突撃して陽動、もう一人が狙撃、さらに後方でサポート――。

 

(こんなの、魔女のほうがよっぽど手強い)

 

 それに、身近には銃を使わせたら右に出る者がいない人……魔法少女としての大先輩がいた。

 彼女と比べれば、私も、この子たちも――ただの子供の遊びに等しい。

 

 魔力の矢を二本同時に放ち、二方向からの攻撃を迎撃。

 残った一人が驚いて動きを止めた隙に、私は一気に距離を詰める。

 

「た、助け……」

 

「今さら遅いわ」

 

 矢を構えると、少女は慌てて銃を投げ捨て、降参ポーズをとった。

 

 ――その瞬間だった。

 

「はーいはーい、そこまでっ☆ やりすぎだよ~」

 

 軽い声とともに、砂埃の向こうから別の少女が現れる。

 ピンク色の髪に、ラフな学生服。そして、頭の上に浮かぶ輪っか。

 戦いの最中は気にしていなかったが、ヘルメット団と同じ“印”だ。

 右手にはショットガン、肩には鉄塊のような巨大な何かを背負っている。

 

 ……仲間か?

 遅れて来た“本隊”?

 

(なら、今、倒す)

 

 私は矢を構え直し、無言で狙いを定める。

 少女――ホシノはきょとんとした顔で私を見つめた。

 

「え? えええ? なんでこっちに撃ちそうになってるの!?」

 

「……あなたもその集団の一員でしょ。見逃す理由なんてない」

 

「いやいやいや、違う違う! おじさんはただ――って、“おじさん”って言うのやめたほうがいいかな!? えっと、つまり、あの子たちの取り締まりに――」

 

 言い終わる前に、世界が、歪んだ。

 

 地面がぶわりと泡立つように盛り上がり、周囲の風景が溶けてゆく。

 ノイズのような音が耳を裂き、空が、ひび割れた。

 

「ッ!? これは……!」

 

 身体が無理やり引きずり込まれるような感覚。

 見滝原ではもう感じなくなったはずの、あの忌まわしい空間。

 

「えっ、なにこれ!? ミレニアムの変な発明? 空間転移? ギミック? やだやだやだ聞いてない!!」

 

「……まずい……!」

 

 矢を構える余裕もない。私は目の前にいた少女の腕を掴んだ。

 その後ろにいたヘルメットを被った少女は魔力を込めて思い切り蹴り飛ばす。

 

 目の前にいた少女の腕を掴んだのは巻き込まれないためじゃない。

 距離的にもう巻き込まれるのは避けられない。

 

 だから一緒に引きずり込まれたとき、すぐに動けるように。

 

 次の瞬間、二人は――不気味な記号と歪な建物が浮遊する、異界の奥深くへと落ちていった。

 

 魔女の結界へと。

 

 ◇

(なんで、魔女の結界が――!?)

 

 落下していく感覚の中、私の思考は衝撃と不安に塗りつぶされていた。

 魔女はもう、生まれないはずなのに。

 

(まどかに……何かが?)

 

 嫌な予感が胸を締めつける。

 もし、本当に何かが起きていたのだとしたら――

 

(……まどかに会わなくちゃ!)

 

 手段なんてどうにでもなる。

 そのためにも、今はこの異常を突破しなくちゃいけない。

 私たちは結界の中心へと吸い寄せられ、やがて地面に足をつけた。

 

 

 

 ――落下の感覚が消え、硬い床を踏みしめる。

 私はすぐに身構え、周囲を見渡した。

 

 だが隣では、ピンク髪の少女が目を回してふらついていた。

 

「うえぇ……視界ぐにゃぐにゃする……酔いそう……ていうか、ここどこ? 廃墟? アトラクション?」

 

「……喋ってる暇があるなら警戒して」

 

「えっ? あ、あのね、ちょっと混乱してるんだけど、お姉さん、この場所に詳しいの?」

 

 私は彼女を一瞥してから、再び周囲に目をやる。

 血のように赤い空。地面には意味不明な記号と、歪んだ家具のようなオブジェクトが浮かび、壁はなく、ただ空間がねじれているだけ。

 上下の境界すら曖昧なこの空間は――見滝原で幾度となく目にした、魔女の結界だった。

 

 私は矢を構える。魔女、あるいは使い魔がこちらに気づいているはず。

 そう思った矢先、奥から蠢く気配が漂ってきた。

 

(やっぱり……魔女は消えていなかった……!)

 

 唇をきつく噛む。

 

「来るわよ。私が相手をするから、あなたは下がって」

 

「下がって? ……ねぇ、誰に言ってるの? おじさん、これでも結構強いんだよ?」

 

 少女が背中に背負っていた鉄塊のような物体が、ガシャンと音を立てて展開される。

 それは盾だった。彼女はそれを軽々と片手で構え、目つきが先ほどまでとは打って変わって鋭くなる。

 

(さっきまでとは、まるで別人……?)

 

 魔力の気配は感じない。でも……。

 

「魔力の反応が三つ。先行してるのは使い魔ね。足止めでいい、大きいのは私が――」

 

「……何あの小さいの?」

 

「油断しないで。小さくても、倒すには――」

 

 その瞬間、火薬の破裂音がいくつも響いた。

 ショットガンの音――私も使ったことがある。その銃口から煙が上がる。

 

 目を向けると、ぐにゃぐにゃとした、目玉が無数についた異形の生物――使い魔が撃ち抜かれ、命を落としていた。

 

「ね? おじさん、強いでしょ?」

 

 魔力は……感じない。

 この少女、魔法少女じゃないの?

 なのに、純粋な火力だけで使い魔を倒した……?

 

(この気配……魔力でも、穢れでもない。けど、何か神聖な……)

 

「!! ……あの大きいの、なに!?」

 

 疑問は尽きない。けれど、今は魔女を倒すのが先。

 

 私は矢を生成し、弓に番えた。

 

「あの魔女は私が倒す。あなたは使い魔の相手をお願い!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 空間の奥――巨大な影が、のそのそと現れる。

 あの魔女には見覚えがあった。

 最後のループで、巴マミがまどかと美樹さやかを伴って入った、あの結界にいた魔女だ。

 

 植物の葉のような顔。そこに咲くのは、いくつものバラの花。

 背中には蝶の羽があり、空中を舞う。

 

 矢を放ち、羽を射抜く。飛行能力を奪い、着地させる。

 

「一人じゃ危ないよ!」

 

「貴女は自分の身を守って! あれを倒さない限り、使い魔は湧き続ける!」

 

「こんなのが……いっぱい!?」

 

 そう言いながらも、彼女は慌てていなかった。

 ショットガンを正確に放ち、盾で攻撃を防ぎながら、確実に使い魔を仕留めていく。

 

(……あの子に任せても大丈夫そうね)

 

 私は意識を魔女へと向けた。

 何度も倒した相手。時間停止が使えなくても――

 

(一気に決める!)

 

 矢を五本生成し、束ねて放つ。

 淡い紫色の軌道を描いて魔女へ向かう矢は、魔女の防御姿勢を誘導する。

 

 矢が命中し、爆発する。大きなダメージはない。

 でもそれでいい。この瞬間を作るための布石だから。

 

 

 

 ◇

 

 

 

(なんだこれ……)

 

 私――小鳥遊ホシノは、わけのわからない怪物たちと戦っていた。

 だけど、それ以上に気になったのは――あの子だ。

 

(あんな大きな相手に、たった一人で……しかも弓で?)

 

 こっちの世界じゃ、弓なんてほとんど使われてない。

 部活動くらいでしか見たことないのに、彼女はその武器で巨大な化け物を圧倒していた。

 

(……すぐ助けに行かないと!)

 

 目の前に飛び出してきた小さな生物を撃ち抜く。

 倒れた生物は、絵の具みたいに地面に溶けて消えていった。

 

(あれ、生き物なのか……?)

 

 ――そのときだった。

 あの子の背に、白く輝く翼が現れた。

 

 神聖で、優しくて、どこか遠いものを感じさせるその光に、思わず目を奪われる。

 同時に、周囲の使い魔たちがその光に吹き飛ばされていく。

 

(キレイ……)

 

 まるで、天使みたいだ。

 

 彼女は矢に光を収束させ、巨大な生物へと放った。

 体格差なんて関係ない。光の奔流が生物を貫きいた。

 

 (ん?)

 

 巨大な生物がいた場所に何か小さな物体が落ちてきている。

 慌てて落下地点へ向かい受け止めると、何やら特徴的な模様が入ったアクセサリーのようなものだった。

 

(何か変な感じがするけど……あの子のかな?)

 

「ねえ、これって…!!」

 

 言葉は続けられなかった。

 なんせ女の子が落ちてきていたのだから。

 

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ!!」

 

 急いで彼女も抱き留める。

 自分よりも身長が高いのに、すごく軽い。

 それに、きれいな髪をしている。

 まるで、先輩のようで……

 

(て、そんなこと考えてる場合じゃなくて!!)

 

「ねえ、大丈夫? ねえ!?」

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