アビドス在住の暁美ほむら……てどういうことよ 作:マドドラも面白いよ!?
夜の見滝原。
ビルが乱立しながらも一部自然を残すこの町を蝕む存在、魔獣。
それらを狩った後、私はいつも一人になりたい時来る電波塔の頂上に来ていた。
ここは町全体を見渡せる上に監視カメラ等もない。
ここから一人で景色を見ていると、少しだけ心が落ち着く。
(今夜も何とか乗り切れた……)
魔女と違い、魔獣は弱いーーーという甘い希望は打ち砕かれていた。
魔女との戦いのノウハウなら私にも自信があるが、魔獣相手なら別。
まどかから貰った翼もあるが、油断はできない。
さらに、
(時間停止さえ使えれば、もっと楽なのだけれど)
まどかを助けるため使い続けていた魔法、時間操作。
一か月内限定という条件付きだが、時間を停止することもできる。
私の戦闘の根幹を担い続けていた魔法は今は使えない。
ソウルジェムから弓とは違う、もう一つの武器を取り出す。
盾。世界が改変される前の、私の魔法の象徴。
中心には砂時計が設置され、これが落ちきることで時間逆行を行うことができた。
(だめね……やっぱり動かない……)
何度か砂時計を動かそうとしたり、魔力を流してみたものの動く気配は全くない。
せめて盾の裏側ーー中に入っている武器を取り出したいが、こちらも使えそうな気配はなかった。
(世界が変わったこと、そしてまどかがいたことを証明してくれる物の一つだけれど……)
手元にあったとしてももう意味はない。
それに今の自分にはまどかから貰ったリボンと弓がある。
だったらーー
◇
……どこか遠くから、にぎやかな声が聞こえる。
「で、ホシノ先輩、この子どうするんですか? いきなり空から落ちてきた謎の美少女ですけど」
「むしろ、そういうの拾ってくるのがホシノ先輩って感じになってきましたね……」
「いや〜、おじさんも罪深い女になっちゃいましたな〜。これはもう、映画みたいなロマンスの予感……?」
「主人公もヒロインも女の子な時点でツッコミどころ満載なんですが!?」
「『謎の美少女、アビドスに現る!!』って感じで始まって〜」
「続けるんですか!? ていうかアビドスの名前、軽く使わないでください!!」
「とりあえず起きたら名前聞きましょう! あと血液型と趣味と――」
「聞くとこそこ!? ていうか、お見合いか何か!?」
――ワイワイと賑やかな声が耳の奥に響く。
年頃の女の子たち。声の調子からして、私と年齢もそう変わらない。
まぶたが、ゆっくりと重さを失っていく。
「ん、目を覚ましそう」
「あ、ほら皆! 集まりすぎ! 起きたらビックリするって――ああっ!」
「セリカちゃん、引っ張らな――って、キャアッ!」
「わ、私も~」
「……ん、私も」
ドサッと何かが倒れる音。ベッドが揺れ、意識が一気に浮上する。
目を開けると、そこは見知らぬ天井。見知らぬ空間――けれど、どこか懐かしい雰囲気。
(……保健室?)
設備は簡素。病院ほどではないが、何度も通った場所に似ている。
「痛った〜……」
「セリカちゃん、何に躓いたの?」
「もう、皆ギュウギュウですよ!」
「ん、仲良し」
横を見ると、制服姿の少女たちが四人。
とっさに跳ね起きて、魔法少女として力を引き出そうとするが――
……体が重い。鉛のように。
(魔力を使いすぎた……)
異形との戦い。長時間の砂中の移動。見知らぬ地での力の酷使。
さらに、あの“魔女”のような存在まで――
(……ソウルジェム!?)
気づけば、自分はどこかの学校の体操服のようなものを着せられていた。つまり、変身は解けている。
ならば、私の魂――ソウルジェムはどこに?
慌てて周囲を見回す。近くの台の上に財布と携帯、そして――
「あ、この指輪探してるの?」
ツインテールの少女が立ち上がり、指輪に手を伸ばしかける。
「触らないで!!」
反射的に体を動かし、指輪を掴んだ。それは、私の命。誰かに触れさせるなんて――
「ちょ、アンタ! 取ってあげようとしただけなんだけど!」
「まあまあ、セリカちゃん」
――ループの中でも、余裕がないときにはこんな風に反応してしまっていた。
特にさやかには……そして、そんな私をいつもまどかが……
「……リボン」
思い出す。手が、髪を探る。けれど、ない。あの、まどかにもらった――リボンが。
私はもう一度、体操服の襟元や袖口を確かめる。だが、どこにもない。あの、まどかからもらった大切な――。
「髪に着けていたリボンはどこ」
震えそうになる声を必死で押さえつけながら私は目の前の少女たちに話しかけた。
「え、リボン? そんなのあったっけ?」
「たぶん洗濯に出したやつじゃないですかね? ほら、制服と一緒に」
「洗濯!?」
思わず声が荒くなった。
「どうして、勝手にそんなこと……! あのリボンは、大切なもので……他人が、触れていいようなものじゃ――」
「ちょっと、何よその言い方!」
黒髪をツインテールにした少女が、むっとして一歩前に出てくる。
「こっちはあんたが倒れてたから、気を遣ってやったのに!」
たしかに、彼女たちは悪気があったわけじゃないのかもしれない。
けれど――けれど、あれは、まどかの……。
「まあまあ、ストップストップ」
その時、空気をやわらげるように、聞き覚えのある声が割って入った。
少しだけ私より背の低い、長いピンク色の髪。
そして頭上には、彼女たちと同じく宙に浮かぶリング。
――砂漠で、魔女の結界に一緒に取り込まれた少女が、のんびりと微笑んでいた。
「リボンも服も、今干してるところだよ。だいぶ汚れてたし、そのままだと傷んじゃうと思ってね。もし気を悪くしちゃってたなら、ごめんね」
その声には、責める響きなどまるでなかった。
むしろ、こちらの苛立ちをそっと包んでくれるような、穏やかな優しさがあった。
「でもホシノ先輩!」
「うんうん、この子も悪気があって言ったわけじゃないと思うし……」
ホシノと呼ばれたその少女は、黒髪ツインテールの子へゆっくりと近づき、ふわりと微笑みかける。
(……先輩? やっぱり、ここは学校なの……?)
そう考えた瞬間、背中に寒気のようなものが走る。
この場所が“普通の学校”であるはずがないという違和感が、ずっと頭の隅に引っかかっていた。
「指輪とリボン……そんなに、大切なものだったの?」
「……大切なんて、そんな一言で片づけられない」
私は言葉を選びながら、ゆっくりと口を開いた。
「もう会えない友達からの……最後の贈り物なの」
その瞬間、ホシノは少しだけ目を見開いた。
眠たげな目に、わずかな驚きと、理解の色が差し込む。
「ああ、そうだったんだね。……ごめんねえ」
ホシノは静かに頷いた。
「君が倒れてから、あの集団に襲われたでしょ? それでこっちに運ぶ時に、結構砂まみれになっちゃって。……おじさんが気を利かせて洗濯に出してくれたんだ。だから、セリカちゃんたちが悪いわけじゃないの」
「……そう、だったの」
「そうそう、ごめんね、セリカちゃん。私が先に確認しておくべきだったよ。だから、この子のこと、許してあげてね」
「まあ……そういうことなら」
セリカと呼ばれたツインテールの子が、私の方へ再び視線を向ける。
さっきのような怒りはもうなくて、ほんの少し、憐れむようなまなざしになっていた。
「……無くさないようにしなさいよね。大切なものなんでしょ」
「……ありがとう」
そして、ごめんなさい。
私が謝罪したことと、ホシノの介入のおかげで、張りつめていた空気がやわらいでいく。
でも、私はまだ――聞きたいことが山ほどあった。
その中でも、とくに気になっていること。
「……ここは、どこなの? 突然砂漠の真ん中にいて……」
「ん? ここ?」
「あ、ここはですねっ!!」
「アビドス高等学校ですよ!!」
「ノノミ先輩にセリフ取られた!?」
「より正確に言うとね~」
ホシノがくすくすと笑う。
「キヴォトス。学園都市キヴォトスのアビドス高等学校だよ」