アビドス在住の暁美ほむら……てどういうことよ   作:マドドラも面白いよ!?

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 乾いた発砲音が校庭に響き渡る。

 侵入者――ドタドタヘルメット団(いったい何種類あるのかしら……)の放つアサルトライフルの音だ。

 

 私は物陰に身を潜め、敵のひとりに照準を合わせて引き金を引く。

 

 一発、二発、三発。

 突撃してくる敵に、手榴弾を構えた敵に、シロコ先輩たちを狙う敵に向かって撃ち込んでいく。

 

 正直、人を撃つことに躊躇いはある。

 けれど、それ以上に『倒さなければやられる』という現実が重い。

 ギヴォトスに住む人は銃弾程度では『ちょっと痛い』で済ませてしまうが……。

 

 (人を撃つのは……やっぱりなれない……)

 

 できれば撃ちたくはないが、敵を倒さないとどうにもならない現実があるのも事実。

 感情を抑えながら、発砲を続ける。

 

 グリーフシードも、グリーフキューブも手持ちには余裕がない。

 変身して一気に蹴散らすのは難しい。

 

 だから、ギヴォトスでの戦いにも慣れていく必要がある。

 

 (……唯一の救いは、使い慣れた銃がここにもあったことね)

 

 私は両手でハンドガンを構え、静かにポイントを移動する。

 

 ――どうして、こんなことになったのか。

 話は、ほんの少し前に遡る。

 

 ◇

 

 「というわけで、今日はほむらちゃんの武器を探すよ~」

 

 「……とは言っても、あんまり選択肢はないんですけどね」

 

 ホシノ先輩とアヤネ先輩に連れられてやってきたのは、アビドス高等学校の武器庫だった。

 正直、(見た目は)普通の学校に武器庫があるという現実は、まだうまく呑み込めていない。けれど、ギヴォトスではこれが一般的らしい。

 

 昨日教えてもらった『トリニティ』なる学校には、『砲術研究会』なんてものがあるそうだ。

 読んで字のごとく――つまり大砲を扱うための訓練や研究をする部活。

 しかも、それが軍事学校ではなくお嬢様学校だというのだから驚きだ。

 

 お嬢様が大砲を撃つなんて……いや、でも……。

 

 (……いたわね。紅茶とケーキが大好きで、銃や大砲をぶっ放しまくる人が身近に)

 

 巴マミ……マミさん。改変後の世界でも一緒に戦ってくれる心優しい頼りになる先輩。

 

 (メンタルが弱いことが弱点だけど……トリニティにもマミさんみたいな人がいるのかしら?)

 

 それに、なんだか空中に浮かぶ宝石からビームを出す魔法少女も見たことがある。

 案外、この世界と私のいた世界、相性は悪くないのかもしれない。

 

 そんなことを考えていると、アヤネ先輩が武器庫の扉を開けてくれた。

 

 「お金は、必ずお返しします」

 

 「いいっていいってー、ほむらちゃんはもうアビドスの生徒なんだしさー。学校の備品はどんどん使っていってよね~」

 

 「できれば、で・き・れ・ば! 弾薬や銃身は節約していただけるとありがたいです!!」

 

 アヤネ先輩……苦労してるのね。

 正直、ループしていた頃は盾に大量の武器や弾薬を保管できていたから、それで魔女を撃破することもできたけれど……。

 今はその盾もない。限られた装備で戦い抜くしかない。

 

 (……そういえば、あの盾はどこにいったのかしら……?)

 

 「ほむらちゃん」

 

 私がどの銃にしようか迷っていると、背後からホシノ先輩が声をかけてきた。

 アヤネ先輩は、どうやら武器庫の奥の方へ行っているらしい。

 

 「ほむらちゃん」

 

 ホシノ先輩が話しかけてきた。

 どうしたのだろうか? 少しだけ顔が暗いような気がする。

 

 「銃……やっぱり、いる?」

 

 「いります。服を着ていない人間以下になりたくないです」

 

 即答だった。即答しなければならない。一乙女として必ず!!

 

 「あ、うん。そうじゃなくてね……」

 

 私の返答に対し、ホシノ先輩は少し困ったように人差し指で頬を触る。

 

 「……ほむらちゃんが銃を持ちたい理由って、『魔女』と戦うため?」

 

 「それもあります。けれどもそれと同じくらいにアビドスのメンバーとして皆さんの力になりたいんです」

 

 紛れもない本音だ。

 見ず知らずの私を助けてくれたホシノ先輩を始めとしたアビドス高等学校のメンバー。

 そんな彼女たちは『アビドス復興委員会』という委員会として活動しているらしい。

 その一環として私がこの世界に来て交戦した集団(不良生徒?の一種らしい)と戦っている。

 戦闘には少しだけ自信がある。

 こんな自分でも役に立てることがあるなら、力になりたい。

 もちろん、魔女と戦うこと……まどかに会いに行くことを忘れたわけじゃない。

 ただ、あの子ならこうする。こうした方が喜んでくれる。

 

 (なら、私もそうするべきよね……まどか)

 

 「気持ちはうれしいよ……でも相手は魔女じゃないよ? それども『魔法少女』の力を使って戦うの?」

 

 それは非常に悩んだことだ。

 いや、魔法少女になって戦うことは問題じゃない。

 ただ、問題点が二つある。

 

 「ホシノ先輩は私の弓の威力を見ましたよね?」

 

 「? うん、すごい威力……あ」

 

 問題点① 弓の威力が高すぎる

 まどかから受け継いだ翼の力を抜きにしても相手の銃器を一撃で破壊できてしまう。当たり前だ、元々人間……ギヴォトスの住民よりも遥かに厄介な魔女や魔獣に確実にダメージを与えることができるものなのだから。

 いくら体が丈夫とはいえ、ギヴォトスの住民がこの威力の矢を何発も受けてしまったら?

 武器破壊のみで戦うことも考えたけれど、何かの間違いで矢が当たってしまったら?

 魔力が何らかの影響……それも悪い影響を与えてしまったら?

 そう考えると魔法少女の力で生徒と戦うことは避けた方がよい……というのが今の結論だ・

 

 (それに、できるだけまどかと同じ弓で人を傷つけたくない)

 

 また、別の問題もある。

 

 「先輩にだけお話ししますね……」

 

 私は懐から昨日ホシノ先輩が返してくれたグリーフシードを取り出す。

 問題点② 魔力の消費を抑えなければならない

 何故この世界に魔女が現れるのかを調べる……そしてまどかに会うために魔法少女の力、魔力は必須だ。

 変身しているだけでも魔力は少しずつだが消費されてしまう。

 魔法を使えばさらにその消費は跳ね上がる。

 朝シロコ先輩と一緒にこのアビドスを回ったが、魔女の気配がまるでない。

 故にグリーフシードの数は一個のまま。元の世界で持っていたグリーフキューブもあるが、数は少々心もとない。

 このままでは、ソウルジェムは穢れてしまう。

 

 故に私はこのギヴォトスで魔女以外と戦う際に魔法少女の力は余り使わない方がよい、と考えた。

 そのことをホシノ先輩に伝えると、彼女は難しい顔をしながら質問をしてきた。

 

 「魔力がなくなったらどうなるの?」

 

 魔力がなくなったら……穢れでソウルジェムが満ちてしまったら。

 元の世界……まどかが改変した後の世界では私は円環の理に導かれ、まどかと会うことができるかもしれない……だけど

 

 (この世界には魔女がいる。もしかしたら魔女化してしまうかもしれない)

 

 そしてこの世界の住民、アビドスの皆を傷つけてしまうかもしれない。それだけは絶対に避けなくてはいけない。

 円環の理に導かれ、まどかに会える保証もこの世界にはない。

 

 (ホシノ先輩に話すべきかしら?)

 

 いや、話さない方がいいかもしれない。

 彼女が戦った存在が元人間……たとえ使い魔だけだったとしても、それは元人間の一部。

 つまりは……

 

 (言わない方がいい。こんなに親切にしてくれた人に……余計な重荷を背負わせたくはない)

 

 「変身を維持できなくなって、動けなくなってしまうんです」

 

 「!! それは、かなりまずいね。ハチの巣にされちゃうよ」

 

 「だから、魔女と戦う以外で魔法少女の力は温存しておきたいんです。でも、皆さんのお役に立ちたくって……」 

 

 「でも……ほむらちゃんは一発もらったらおしまいなんだからね?

  あんまり前に出なくて済む、ライフルとか……アヤネちゃんみたいに後方支援とかそっちの方がいいと思うよ」

 

 そうだ。私はギヴォトスの住民ではない。

 彼女たちのように膨大な体力もないし、撃たれても『痛い』で済む頑丈さも持っていない。

 そもそも『ヘイロー』すらないのだ。

 

 「それも考えました……けど」

 

 そう、ライフル系統は反動が大きい。

 私は生まれつき体力がある方ではないし、病気の影響もあったが、いくらかは魔力でカバーはできていた。

 ただし、それは魔女や魔獣を倒せば確実にグリーフシードやグリーフキューブが手に入る環境であった元の世界の話。

 魔女と戦うために魔力の消費は抑えないといけない。

 つまり、これまでのように普段の生活の中で魔力で運動能力を補う方法はできるだけ抑えたい。

 スナイパーライフルも考えたが、反動が大きすぎるし、なにより狙撃ポイント……高い位置を取る際にどうしても素早く動かなくてはいけない。

 魔力なしでは体力が持たないかもしれない。

 

 後方支援で役に立てるかというと……

 

 「今はアヤネ先輩一人で皆さんのサポートしているんですよね?」

 

 「そうだよー。だから人手が増えるとアヤネちゃんも喜ぶと思うよ。だから……」

 

 「もちろんお手伝いできることならどんなことでもします。けど……もしアヤネ先輩と私がいる後方に敵が来たら……」

 

 「……結局戦うことになっちゃうわけかー。アヤネちゃんも戦えるっちゃ戦えるけど」

 

 「最低でも護身はできた方がいいかと……」

 

 そのためにはやはりギヴォトスでの武器、銃が必要だ。

 それに、私はあまり頭がいい方ではない。そのせいで精神的に余裕もなかったとはいえ、何度もループ中に誤った行動をしてしまった。

 けれど、銃の扱いなら別だ。魔法少女になっている間なら、マミさんとも何とか戦える自信がある。根競べなら負ける気がしない。

 

 「……わかった。そこまで言うならおじさんは止めない。けど、基本は後方支援。前線に出る時もなるべく前には出すぎないように。おじさんとの約束だよ」

 

 「ありがとうございます!!」

 

 「でも使う銃は? ほむらちゃんの綺麗な腕だと……制限が結構かかっちゃうね~」

 

 ホシノ先輩は私の細い腕を見ながら言う。

 

 「銃自体は結構使ったことがあります」

 

 「え? そうなの? やっぱりギヴォトスみたいに生徒同士で撃ち合ったり?」

 

 いや、さすがにそんな世紀末みたいな世界じゃない。

 私のいた世界では、人が人に銃を向けることはかなり稀だった。

 何せ一発で死んでしまうし、警察もあまり発砲を控えていたと思う。

 私の知っている範囲ではだけど。

 

 「もちろん、『魔女』相手にですよ。その……今とは少し戦闘スタイルが違ったので……」

 

 「へー、そうなんだ。銃の撃ち方や整備の仕方は?」

 

 「拳銃からライフルまで、一通り使ったことはあります」

 

 実はミサイルまで使ったことがあるなんて、言わない方がいいでしょうね……。

 

 「じゃあ、これとかどうかな? おじさんがたまに使ってる銃のスペアなんだけど」

 

 「!! これは……」

 

 ロッカーから取り出されたその銃は、私が改変前の世界でよく使っていたものだった。

 名前は――ベレッタ。確か、米軍基地から盗……借りた記憶がある。手にすっと馴染む感触は、今でも忘れていない。

 よく見ると、銃身の下部にはライトなどを取り付けられるレールもある。

 正式には、ベレッタ9A21――だったはず。

 

 「この銃、元の世界でもよく使ってたんです」

 

 それにハンドガンなら反動も受け流しやすい。

 

 「え、そうなの? おー、すごい偶然だね~。よかったら、試射してみる?」

 

 「いいんですか?」

 

 「もちろん!! でも気をつけてね。さっきも言ったけど、ほむらちゃんは一発もらったら終わり。暴発にも注意だよ」

 

 「ありがとうございます。でも、いざとなったら魔法で――」

 

 直せる。そう言おうとしたその瞬間だった。

 

 ホシノ先輩が、ふいにいつもとはまるで違う目で私を見つめてきた。

 のんびりしていて優しい雰囲気がすっと消え、そこにあったのは、殺気でも怒りでもない。

 ただ、鋭く静かな、身が引き締まるような気配だった。

 

 「ダメだよ」

 

 たった一言。それだけのはずなのに、私はホシノ先輩から目を離せなくなっていた。

 ループ中に美樹さんやマミさんを怒らせてしまったときとは違う。

 これは単なる怒りじゃない。もっと静かで、それでいて苛烈な感情が、その目には宿っていた。

 「どんなに効率的でも、確実だと思える方法でも……自分の身を削ることを、当たり前にしちゃダメだよ」

 

 ―――ほむらちゃんが傷ついたら、ほむらちゃんを大切に思ってる人まで、きっと一緒に傷ついちゃうから。

 

 「制限があるのは分かってる。でも、その力はきっと、私たちが持ってるどんな力よりも便利で、強力で、汎用性も高いと思う。致命傷だって、魔法で治せるのかもしれない……でもね」

 

 ―――そんなふうに戦ってたら、いつか自分だけじゃなくて、友達の痛みや苦しみまで、分からなくなっちゃうよ。

 

 ホシノ先輩の声は優しくて、それでいてどこか遠くを見ているようだった。

 私を見ているようで、私じゃない誰かを重ねているような、そんな目をしていた。

 

 (もしかして……)

 

 ―――ホシノ先輩も、私と同じように。自分のせいで、大切な誰かを……

 

 「……なーんてね。ごめんごめん、ちょっとシリアスすぎたかな~」

 

 先輩は突然明るい声で笑い出した。さっきまでの雰囲気が嘘みたいに、いつもの調子で肩をすくめる。

 

 けれど――その言葉の重さは、ちゃんと私の胸に残っていた。

 

 先輩の言うことは正しい。

 これは、グリーフシードや魔力の消耗といった表面的な問題じゃない。

 まどかが、私の一番大切な友達が――私が傷つくことで、もっと深く、取り返しのつかないほどに悲しんでしまうかもしれない。

 

 ……思い出した。ループの中で、そういうことがあったじゃないか。

 私の無茶が原因で、まどかをより深く絶望させてしまった、あの時のこと。

 

 「けど、今言ったことはほんとの気持ちだからね。無理して魔女以外の敵と戦わなくてもいい。アビドスのために犠牲になる必要なんて、どこにもない。だから……いつまでも、ここにいていいんだよ」

 

 その声は優しくて――でも、言葉の終わりが届く前に。

 

 「大変です!!」

 

 奥にいたアヤネ先輩が、慌てた様子で駆け戻ってきた。

 手にはタブレット端末を抱えている。息が上がっている。

 

 「ホシノ先輩! ドタドタヘルメット団が……襲撃してきました!」

 

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