JOINT TO THE FUTURE   作:永瀬皓哉

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防衛戦-ディフェンス-

 統率型レイダー変貌態と相対する希繋の頬を、つぅと一滴の冷や汗が伝う。

 対人戦においては「リベンジャー最弱」とさえ称される彼であるが、少なくともレイダー戦、特に一体多の殲滅戦は彼の得意分野である。しかし、逆に一対一(タイマン)の戦績はというと、他のリベンジャーより抜きん出た成果を出しているわけではない。なぜなら、彼は基本的に敵の群れに紛れつつ意識外から超高速で仕留めて次の標的へと向かう一撃離脱戦法(ヒットアンドアウェイ)を基本戦術のひとつに取り入れているからだ。つまり、紛れるほどの群れや遮蔽物のない公園での真っ向勝負は、彼が最も苦手とする状況であった。

 逢依によれば、第三部隊の到着まであと3分弱。要救助者を守りながらこの状況的劣勢で変貌態と対峙し続けなければならないのかと、彼の焦燥は既に最高潮に達している。しかしそれでいて、彼がその胸の内に灯る恐怖と不安の炎を抑え込めているのは、この恐怖と不安を自分の背中を信じてくれている民間人を守り抜かなければならないという、レイジングリベンジャーズとしての矜持と義憤。自分が倒れたら誰がこの背の向こうの彼らを守るのか。恐怖と不安などに怯える余裕があるのなら、歯を食いしばって立ち上がるのがリベンジャーというものだ。

 

「コロロロロロロロァ……」

 

 先手を取ったのは変貌態。トンボのような翅を素早く動かし空へと舞い、胴体(アバラ)から出たカマキリのような腕を伸ばして希繋へと攻撃を仕掛ける。

 希繋はその攻撃が牽制か、あるいはあの触手こそが変貌態の持つ特異能力の媒介となる部位なのかを見極めるため、まずは迎撃の一手を打つ。

 

「エクレール」

充填完了しています(コンプリーテッド)

 

 ――Spark Stinger――

 

 仮にあちらが牽制であればスパークスティンガーでも相殺できるはずと考え、希繋は12個のスフィアをその場に配置し電撃槍を一斉射。

 スパークスティンガーは速射性・貫通性にこそ秀でているものの、誘導性がなく威力も決して高くはない。

 希繋はすべての電撃槍が(カマ)を捉えたと確信しつつも、その鋭い視線を緩めることはなかった。

 

 そしてやはり、変貌態の刃は着弾時の(ケム)に紛れるように希繋へと伸びてきた。

 希繋はこれをギリギリまで寄せるように見つめると、片足分を逸らす程度の動きでこれを回避。さらに7つの(カマ)も殺到するが、すべて半歩程度の動きで躱していく。

 少なくとも、攻撃速度が自分の動体視力を上回っているということは無いと改めて確認した希繋は、地面にめりこんだ(カマ)のひとつを蹴り壊す。

 

(体調に変化なし。少なくとも反射系や自身の負傷をトリガーとしたネガティブエフェクトを付与するタイプの特異能力ではない、か。なら攻勢に出ても問題はないな)

「コロロロロロロ……」

 

 中距離以上の間合いをとってからの攻撃は希繋に回避の余裕を与えるだけだと気づいたのか、空中から急速降下、その巨大な腕で希繋へと襲い掛かる。

 確かにその判断は正しい。亜光速での行動に追いつく動体視力を持つ彼に、距離は開けば開くだけ「観察」の時間を与えることにしかならない。まして、体から切り離した弾丸やエネルギーならばともかく、体の一部を伸ばすというのはその一部を失う結果にも繋がりかねない最たる悪手と言えるだろう。

 加えて、彼が纏うエクレールは機装鉄脚(メカニカルブーツ)型であり、レイダーに対して有効なダメージを与えられるのはこれが装備された両脚の攻撃のみ。

 通常の蹴り技ももちろん強力ではあるが、彼の得意とするスピードを突進力に換えた攻撃は中距離以上の助走を要求する。そのため、あまりに至近距離では決め手を欠く。

 

(接近してこちらが切れる手札を減らすつもりか)

 

 第三部隊の到着まで残り1分。接近した変貌型に対して標的が自分から逸れないよう相手に攻撃に合わせて何発か迎撃しつつ、つかず離れずの間合いを維持し続ける希繋。

 少なくとも、この変貌態は希繋の天敵とするタイプの特異能力を持っているわけではない。そのため、攻勢に出ること自体は不可能ではない。

 しかし、今現在の状況において最も優先すべきはベンチで行動不能になっている三名の要救助者の保護である。もしもここで攻勢に出て、変貌態の特異能力が苛烈な範囲攻撃あるいは自爆系のそれであったなら、彼らを巻き込んでしまう可能性があることを希繋は危惧していた。そのため、彼らが避難を完了するまでは徹底的に現状と標的を維持するつもりなのだ。

 

(攻撃そのものは単調……。単純な突進の他、あのデカい腕をぶん回す、突き出す、鉤爪で切り裂く。あるいは脇腹から伸びた8つの(カマ)を伸縮させて切りつける。今のところ尾を巻き付ける、という攻撃はしてこないが体型的に可能だろうな。あとはあの単眼……構造的に視界が前にしかないのか? なら死角はかなりありそうだが、それを何で補ってるんだ……? 或いは、それがヤツの特異能力なのか……?)

 

 頭上から振り下ろされた巨腕を半身の姿勢で避けると、それを待ち受けるようにもう片方の腕が横薙ぎに迫る。最初の攻撃を半身で避けたことで、完全に背後を狙われる形となったこの攻撃だが、希繋はこれを後ろ蹴りで難なく対処するが、まるでそれを待っていたとでも言うかのように変貌態の(カマ)が彼の姿勢を支える軸足に殺到。

 しかし蹴り技をメインに据える以上、軸足への攻撃を想定していないはずもなく、希繋は蹴り上げた足を戻すより早く軸足一本で跳躍。この攻撃を回避しつつ、変貌態の脳天に踵落としを打ち込み、動きがわずかに制止したレイダーに対して押し込むように突き蹴りを入れ、さらに要救助者から引き離す。

 

(……そろそろか)

 

 既に第三前線部隊からは「目標交戦地点を肉眼で目視した」という通知が届いており、彼らの足音が近づいていることにも希繋は気付いていた。

 これで要救助者の保護という最優先事項は果たせるだろうと、変貌態の動きに留意しつつ彼らの様子を確認しようと振り向き――彼はわずかに呆気にとられた。

 

「いない……?」

 

 彼の視線の先……先ほどまで3人の要救助者がいたはずのベンチには、人影のひとつも見当たらなかったのである。

 

「コロロロロロロロロォイ……!」

『ディアマスター! 来ます!』

 

 戦闘に集中していたとはいえ、要救助者の状態には常に気を配っていた。

 特に身動きの取れない一人に関しては、もしも第三前線部隊が来るよりも早く容体が悪くなりそうならば逢依に無理を言って救助に呼ぶことも視野に入れていた。

 そんな希繋の感知をすり抜けて、いつの間にこの場を去ったのか。物音ひとつ立てず、気配の揺らぎさえ感じさせず。

 

「コロロロロロ……ッ!」

 

 とはいえ、そんな疑問は迫る(カマ)に阻まれた。今は胸に浮かんだ疑問と困惑をひとまず呑み込み、目の前に在る脅威を排除することが最優先。

 むしろ要救助者がいないのなら、配慮も不要となるわけだ。

 

「決めるぞエクレール」

充填完了しています(コンプリーテッド)

 

 バチン、という乾いた音が大気を揺らし、その身を包む真っ赤な電光が影すらも眩く染めていく。

 希繋が勝負を決めに来ているとわかったのか、変貌態もまたその身体の表皮に金属質の光を蓄えていく。おそらくあれがこの変貌態の特異能力『硬質化』なのだろう。

 おそらく、ここまで使用してこなかったのは表皮の硬質化に伴い身体組織が強張り行動不能、あるいは急激な行動速度低下を伴うせいだろう。

 逆に言えば、機動性のほぼ全てを捨てて守りに特化した姿だとすればその硬度もまた推して知るべきなのだろうが……希繋は構わず駆けだした。

 

 音も置き去りに駆け抜ける彼の体はまさしく一筋の電光。

 その速度は光にも近しいものの、質量の極めて少ない電撃態では突進力に換えても威力に変換できないが……。

 

 ――Crimson Impact――

 

「コ――……」

 

 接触の直前、電撃態から実体を取り戻すことで加速を威力と転化させたその蹴りは、鋼鉄の如く頑強な変貌態の胴を易々と貫いた。

 

「……ま、こんなもんか」

「桐梨隊員!」

「お待たせしました。要救助者はどちらに?」

 

 変貌態の爆散と同時に、到着した第三部隊のメンバーたちが要救助者の所在を訊ねてきた。

 希繋はどう答えたものかと逡巡するが、あるがままに説明した方がいいだろうとここに訪れた経緯から説明し、要救助者の状態からしてまだそう離れたところには行っていないだろうと捜索を行ったものの、結局その後は彼らを発見することができないまま、全レイダー撃退の通達と同時に撤収。後は警察と消防に北区ふれあい公園周辺で捜索を兼ねたパトロールを要請するのみとなった。

 

 が、希繋にとっての悲劇はまさにこの後であった。

 統率型レイダーの存在そのものは希少なものではないが、変貌態は個々に固有の特異能力を持つ上、形態から戦闘スタイルまで千差万別である。

 今回の場合、硬質化という一言で言ってしまえばシンプルとも思える特異能力であるが、それは統率型レイダーが希繋の戦い方を見て「動きは速いが軽い攻撃が多い」と判断した結果だ。事実として、希繋は統率型レイダーが変貌する直前までほとんどスキルを使用することなく、軽業のような身のこなしと多彩な蹴り技のみで大半のレイダーを処理していた。そのため、スピードで勝負をしても勝ち目がないと判断し、攻撃性の高い(カマ)や巨腕で攻め立て、いざという時には躱せない分ディフェンスを高めるというのは極めて合理的だと言えるだろう。

 結果としては、亜光速で接近する48kgの槍とも言うべき希繋のクリムゾンインパクトによって貫かれたものの、レイダーがどのようなリベンジャーと交戦することでどのような判断を行いどのような変貌をもたらすのか、というデータは、ひとつの傾向(パターン)として今後の対変貌態戦略への重要な資料となる。

 

 故に――希繋はこの日めずらしく残業することになり、朝聞いたあの白露の寂しそうな独白を聞いていながら帰りが遅くなるという痛恨の二重苦を味わうことになったのだ。

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