JOINT TO THE FUTURE   作:永瀬皓哉

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未来を砕くーデスティニーー

「昨日はお世話をかけました」

「いいえ、元よりあの発作は予想通り。彼が接近するハプニングもなんとかやり過ごせたことですし、問題はありません」

「とはいえ、現代のあいつが既にここまで"出来上がっている"とは思わなかった。持ち得る力そのものは俺たちの知るあいつほどじゃないが、力の使い方や戦術的な立ち回りに関しては現時点で完成されていると言っていい」

 

 希繋たちが群レイダー襲撃後の調査を行っている中、その様子をまるで上空から覗き見るようなアングルで投影されているヴィジョンを見つめる3つの影。

 一人は、未だにやや青白い顔色のまま気丈に振る舞う優芽。そしてそんな彼女を気遣う長身の女性と、口元を手で覆うにして思考を巡らせる群青の瞳の男。

 希繋と統率型レイダー変貌態が交戦していた際に、その現場に居合わせたこの二人の男女こそ、優芽と共に未来からやってきたチーム『第二前線部隊』のメンバーであった。

 

「……想満(そうま)さんもわかってると思うんですけど、おに……桐梨希繋の持つ潜在的な戦力は未来を知るあたしたちでもわかりません。ただ、まず大前提として桐梨希繋はその潜在能力を絶対に引き出すことができない。だから、大事なのは潜在能力ではなく『現時点で発揮できる実力』が彼の力のすべてだということです」

「誰かを守りたいという彼の思想と、彼自身が最も力を発揮するスタイルが致命的に噛み合ってない、ということですね」

「はい。覚悟(さとり)さんの言う通り、桐梨希繋の戦術の中核にあるのはあの圧倒的なスピードです。速い、という一点を極めた戦術として有名なものにヒットアンドアウェイがありますよね。彼自身、これを得意としますが……あれは究極的に言えば『相手の知覚外から一瞬で不意打ちして逃亡する』という、暗殺のコンセプトに似ています」

 

 優芽の言う通り、希繋に限らずスピードを戦術の核としているリベンジャーたちに共通することは、基本的に真っ向勝負よりも不意打ちや初見殺しのような戦法が得意だということ。

 相手の認識範囲から逃れることを前提に戦術・戦法を組み立てるのがセオリーである以上、まさしく『暗殺』とコンセプトをほぼ同義とするものの、リベンジャーの敵は基本的にレイダーであり、そうでなくとも『特機犯』をはじめとする国際脅威に認定された犯罪者たちである。そのため、よほどの事情がなければこのコンセプトに異を唱える者もいなければ見当はずれな罪悪感を覚える者も居ないが……"彼"はそういうわけにはいかない。

 

 レイジングリベンジャーズ日本基地の第二前線部隊に配置された『桐梨希繋』という人物の役割は極めて特殊である。

 彼の思想・戦術・実力を加味して与えられた『第一次観察』という役割は、他の誰よりも早く現場に出て、相手の真意を確かめることにある。

 つまり、彼が「コミュニケーション不可」と認めることで日本支部は「已むを得ない戦闘」という建前を得るのだ。

 そして、だからこそ彼の判断は慎重に慎重を重ね、交渉の余地がないか、相手に明確な戦闘の意思があるのかを考え続けなければならない。

 

「正義や善悪のフィルターを通すことなく物事の本質を見極める彼の眼は、遠からず我々の目的を突き止めるでしょう。そうなれば、彼は間違いなく『英雄』に至ってしまう」

「つまり、奴の『眼』が真実へと到達する前に『英雄』を仕留め、奴が二度とそうならないよう監視する……それだけのことだろう?」

「とはいえ、私たち3人の中で最も彼への理解度が高く、的確に対策できている貴女が『昂揚剤(デトネイター)』に頼らざるを得ないというのも、また難儀ですね……」

 

 薬頼りの時限式。それでも、3人の中で希繋に対して最たる切り札になり得るとすれば彼女以外に無い、というのが共通認識だった。

 

「優芽、次が正念場だ。わかってるな?」

「もちろんです」

「想満さん! あまり優芽ちゃんにプレッシャーをかけないでください!」

「あはは、大丈夫ですよ覚悟さん。ちゃんとこなしてみせますから!」

 

 

 

 

 二時間後、彼女たちは行動を再開した。

 既に目的遂行のためのスケジュールには大幅な遅れが出ている中、これ以上の遅延は未来にどんな影響を及ぼすかわからないと考えた末の、やや性急とも思えるアクション。

 

 天空を彩る七色のオーロラ。そこから降り注ぐ無数の雨は愛知県名古屋市へと容赦なく降り注ぎ、無数のビル群が虹色の炎に覆われた。

 

 そして同時刻、これを観測したレイジングリベンジャーズもまた、すぐさま現場へと急行した。

 出撃命令から瞬く間もなく現着した希繋は、見覚えのある虹色の炎に思わず声をあげる。

 

「優芽ちゃん!」

 

 同時にエクレールの生体探査レーダーが周囲50メートルを探り、狙いの人物を探し当てる。

 

『地下から狙われています』

 

 すぐさまその場を飛び退くと、足元のアスファルトを砕いて水の矢が天へと駆け抜けた。

 そして、そのまま崩れていく足場を見ていると、それらの瓦礫を貫いて水の球膜(バリア)を纏った優芽が陥没エリアを挟んだ向かいに降り立つ。

 

「こちらリベンジャー05から本部へ。特機犯Aを発見。また、この混乱に乗じてレイダーが出現する可能性を考慮し、リベンジヴァルチャーでの出撃待機を提案する。送れ」

『こちらリベンジャー06、提案内容を認める。こちらも既に01と02を待機させたわ。あとはあなたの仕事よ、必ず説得しなさい』

実行(キャリア)

 

 返事をすると同時に、またも優芽の構えた水弓が矢を放つ。

 おそらくは牽制。同等の威力で返すとしても、固有機能(オンリーワン)で生成されただけの水の弓矢に対し、スキルであるスパークスティンガーではチャージが間に合わない。

 ならば、と迫る水矢を足場に空を駆け抜けた希繋が目指す先は優芽の懐。かける言葉など定めてはいない。だとしても、かける言葉が無いのでもない。

 

「イーリスッ!」

「エクレールッ!」

 

 やれッ、と叫ぶと同時に展開される電磁シールドと水の分身(まぼろし)

 優芽が広げた分身から放たれる多角的な攻撃のそれぞれを、電磁シールドを足場として縦横無尽に躱す希繋。

 

「優芽ちゃん! 俺を守ろうとしてくれてありがとうッ! 俺を助けようとしてくれてありがとうッ!」

「な、何をッ……!?」

「だけど俺は、蓬莱寺に負ける気はない!」

「――――ッ!」

 

 瞬間、本人を含めた分身すべての動きがぴたりと止まった。

 そんな彼女の様子に、希繋もまた地下へと降り立ち彼女と視線を交わす。

 

「君は俺を蓬莱寺と戦わせないために、俺が英雄となるその源を……エクレールを破壊するつもりなんだろう?」

「そんな……こうも早く、どうして……!」

「白露が……俺たちの娘が教えてくれたよ。未来で蓬莱寺が起こした悪夢のような事件……その解決に奔走し、俺も逢依も命を落としたって……。確かにエクレールさえなければ、俺が蓬莱寺に立ち向かう術は無い。家族がいる以上、万に一つも勝ち目がなければ俺は逃げの一手しか打たない。そして、そのためにも俺の持つ「英雄の力(エクレール)」を狙っているんだろう」

 

 彼女の狙いは希繋の言う通り、彼の持つ「英雄へと至るための力」……即ちエクレールの破壊。

 

 未来で突如として蜂起した蓬莱寺の一斉襲撃に対し、第一次観察を目的として真っ先に現着した希繋は、蓬莱寺に対して即座に「交渉の余地なし」の判断を下してその場で迎撃を開始。

 それまでに見せたことのない殺気を振りまき、まるで怒り狂う鬼のごとく応援の到着まで実に五分未満、彼は数十人の蓬莱寺たちを「処理」し続けたことで極度に消耗。

 悠生と優芽が現着した時、既に彼は八十七名の蓬莱寺の亡骸の中心で無数の凶器に串刺しにされた状態で事切れていた。

 

 もし彼がエクレールを、戦う術を持っていなければ、彼はその胸に秘めた正義感や使命感を持ってしてなお、妻と娘のために逃げの一手を選ぶことができただろう。

 しかし彼には戦う術があり、そして同時に周囲360°すべてを蓬莱寺に囲まれた状態でも八十七人のそれらを葬るだけの実力を持っていた。卓越した判断能力と決断力を持つ希繋が、その状況で「八十八人目以降は無理だ」と思ったのならもっと賢い手があったはず。つまり、あくまで彼は視界に入るすべての蓬莱寺を鏖殺するつもりであったのだろう。そして、何らかの事故的な要因によってそれは叶うことなく無数の凶刃を突き立てられるに至ったのだ。

 

 故に、優芽の目的は彼が「逃げの一手しか打てない状況を作ること」であり、そのために最も邪魔な存在こそエクレールなのだ。

 

「そんな……白露ちゃんが、どうして……? 白露ちゃんだって、守りたい気持ちはあたしたちと同じはずなのに……ッ!」

「白露が言っていたよ。優芽ちゃんは俺に憧れてリベンジャーになったんだって。少なくとも「リベンジャーとしての桐梨希繋」という点では、逢依以上に俺を理解してる人だって」

「……憧れないはずないでしょう。あの夜、わけもわからず理不尽な恐怖に追われていたあたしを救ってくれたのはあなたです……! ただ必死に走るだけだったあたしを、あなたが認めてくれたんだ……ッ! 走って、走って……なんにも解決策の浮かばなかったあたしに、諦めない大切さを教えてくれた! だから諦めない……あなたの(いのち)だけは……絶対にッ!」

 

 同時、話はここまでだと言わんばかりに放たれた水弾。希繋はこれらを固有機能(オンリーワン)による放電によって蒸発させはするが、迎撃の手札を切りはしない。

 

「俺は負けない。エクレールは確かにただの機械で、兵器だけど……それでも俺の大切な相棒だ。それにもし俺からひとつでも大切なものを奪ったら、君はもう後戻りできなくなる」

「そのくらいの覚悟ならあるつもりです!」

「……そんなわけない。そんなわけないだろ! 君みたいな優しくてまっすぐな子が、他人を傷つけて大丈夫なわけないんだ!」

 

 希繋の右手が、優芽の左手を握り込む。

 

「この距離じゃ俺はシールドを張れないし、腕ひとつ吹っ飛んでも死にはしない。俺の意識を一時的に刈り取ってエクレールを破壊するなら、今ここで俺の右手を撃ち抜けばいい」

「え……でも、そんなことしたら、だって……エクレールなきゃ、からだ……なおせなくて……」

「腕は治らなくても、君がエクレールを破壊してすぐに通報してくれれば死んだりしないよ。それに、いくら自慢の足が無事でもエクレールも利き手もないならさすがに俺も蓬莱寺相手に無茶しようなんて思わない。俺の相棒を奪う覚悟があるんだろう? 俺の命を守るためなら、俺と戦って俺に嫌われる覚悟もあるんだろう? なら……どうぞ、やってみなよ」

 

 優芽の手が震える。

 ずっと憧れていた手だ。決して誰かを傷つけず、求める人へと差し伸べられる希繋の手。

 ずっと憧れていた閃脚だ。理不尽に恐怖する人々の悲鳴を聞いて、誰よりも速く駆けつける希繋の脚を支え続けたエクレールの紅い光沢。

 今なら、その二つを奪うことは容易い。その二つを奪うだけで、自分が掴もうと必死になった未来が確実なものになる。今ここで、二人の仲間と共に掲げた本懐を遂げられる。

 やるべきだ。やらなければ。そう思えば思うほどに……優芽はその手から力が抜けていく。

 

「できない……できるわけ、ないじゃないですか……!」

「…………」

「あたしがどれだけこの手に憧れたか……! あたしがどれだけあなたとエクレールの絆を見てきたか……! ずっと、ずっと見ていた……! カッコよかった……求められれば誰にでも差し伸べるこの手が、あたしは大好きだった……!」

 

 繋いだ彼の手を懐かしむように、彼女はもう片方の手を添えた。

 希繋はまたも何かを見極めているのか、優芽に握られた手をされるがままに委ねた。

 

「本当に、本当に大好きだった……」

「…………」

「でも、大好きだったからこそ……あたしは未来を変えなきゃいけない……!」

 

 

 ――あなたがこの手を真っ赤に染める未来なんて!

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