JOINT TO THE FUTURE   作:永瀬皓哉

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目論見と対策-タクティクス-

 希繋の頭をガシガシと乱雑に撫でながら、彼――悠生は太陽のように笑う。

 2メートルを超える巨大な体躯。右腕に纏う黄金の装甲。上半身を彩る炎のような山吹色のタトゥー。

 その姿ある限り悪は栄えず、その背を前に同志は勝利を確信すると謳われる『英雄』が、その拳を握り込む。

 

「希繋、お前が言ってたのはあっちの女の腕ん中でバテてる嬢ちゃんだろ。なら……コイツは俺の遊び相手で文句ねーなァ!」

「いや文句たらたらだが……とはいえ俺じゃどうにもならないのも確かだ。でも絶対にやり過ぎるなよ。まだ対話で解決可能なフェーズを脱してないって判断だからな」

「チッ……まぁお前がそう言うならしゃーねぇ。ありったけ舐めプしてやっから簡単にバテんなよマント野郎!」

 

 気合十分、ユナイトギアを解除しながらその身ひとつで突貫する悠生を見て、それを慢心と憤ることもなく想満は表情を歪めながら迎撃に向かう。

 

「「すでに英雄である者」と戦うつもりはないんだがな……ッ!」

 

 悠生の拳をマントで防ぎながらも、想満は冷や汗を拭う余裕すらなく愚痴にしかならない言葉を洩らす。

 しかし同時に、希繋は「やはりあのマントは単なる武器や装飾じゃない」と確信を掴む。

 

 悠生の攻撃はすべてが一撃必殺。『一撃でもまともに当たれば必ず殺す』という文字に偽りなく、拳圧だけで1キロ先の装甲車を粉砕し、直撃すればユナイトギアを構成する特殊合金の塊でさえ原型を留めないと謂われるほど。そんな彼の拳が目標をまともに捉え、防がれるだけでなくマントには一切の形状変化が見られない。

 もしもあのマントを構成する繊維が特殊な何かであっても、拳が当たったのなら通常は触れた部分が拳によって押されてシワができるにもかかわらず、それがない。

 

「触れた瞬間に勢いと圧力が……いや、そうか! あれは逢依のクリュスタルスと同系統の……!」

(……桐梨希繋に気付かれたか。ならば、これ以上の戦闘継続に意味はあるまい)

 

 悠生の猛攻を防ぎ切りながら後ろで戦いを見守る二人に合図を出すと、想満はベルトポーチから催涙発煙弾を撒く。

 咄嗟に拳圧で催涙発煙弾の煙を霧散させる悠生だが、悠生のリーチから僅かに遠いところまで退避した想満はその拳圧をマントで防ぎ切り、背後に現れた「穴」へと姿を消した。

 

「空間接続系の固有機能(オンリーワン)か……」

「たぶん、優芽を抱えていた彼女のものだろう。逃がしはしたが、これで相手勢力の持つ力を一通り把握できた。ここからは任せてくれ」

「んー……まぁ不完全燃焼とはいえそういうのはお前らの仕事だからな」

 

 任せた、と言う悠生をその場に残し、希繋は周辺の被害確認へ向かった。

 

 

 

 

「なるほど。水を自在に操る力、空間接続、そして触れた対象のエネルギー値をゼロにする固有機能(オンリーワン)ね……」

「白露の証言も合わせると、空間接続は座標さえ指定していれば同じ座標の過去にも繋ぐことが可能だと思う」

 

 希繋が基地に戻ると、すぐに第二前線部隊のメンバー全員での対策会議が行われた。

 千変万化の戦術で翻弄する優芽の【水分操作】、触れている任意の対象が放つエネルギー値をゼロにする想満の【無効接触】、どちらも強力な固有機能(オンリーワン)だ。

 しかしその場の誰もが頭を悩ませていたのは――、

 

「えーっと、過去にも繋がるならなんでこの人たちはこの時代に留まってるんですか? 未来に行けば食料や寝床の確保も可能なんじゃ?」

 

 そう、指定した座標に間違いがなければ時間に関係なく繋ぐことのできる【座標転移】は、おそらく彼女たちがこの時代に遡る手段としても使われたはず。

 基本的にユナイトギアのもつ固有能力(オンリーワン)の効果や規模というものは使用者のイメージに依存する。極端に言えば「物理法則的に理論上可能である」ことよりも「使用者が出来るだろうと思い込むこと」が重要であり、本人の中で理屈付けできていてそれに違和感を感じていないなら他者から「その理屈はこういう理由でおかしい」と言われるまで成立する。

 つまり、【座標転移】は使用者が「接続する時間が過去でも同じ座標なら問題ない」と認識しているなら逆に「接続する時間が未来でも同じ座標なら問題ない」となるはずなのである。

 それが「やらない」のではなく「できない」のだとすれば、使用者の認識以上に歪められない極大の「世界のルール」に阻害されていることになるのだが……。

 

「あくまで僕の憶測なんですけど」

 

 そう呟いたのは、ここまで沈黙しつつ会議を見守っていた天雨通信官。

 

「もしもこの世界の時間の道筋が単純な過去と未来の一本道ではなく、過去……僕らから見て現代と呼べる部分がなんらかの理由で本来の道筋から逸れた、つまり「運命が変わった」と考えるのなら、そこを起点に新しい未来が造られるのではないでしょうか」

「あー、なるほど? え、じゃあ帰れなくない?」

「もし【座標転移】の条件が同一時間軸のものに限るなら、そうなるな。奴らが時間を遡り、これだけ大規模な活動をした時点でそこが運命の分岐点になる。彼らも帰れなくなることは想定済みだったはずだ」

 

 希繋さん大好きファンクラブじゃん、という望月の言葉は敢えて無視して、諸星が現状の問題を洗い出す。

 

「少なくとも奴らの動機が未来の希繋の救済であるならば、近く行動を再開するはずだ」

「加えて、希繋の第一次観察を理由に上層部の攻撃命令を抑えるのもそろそろ限界が近いわ。希繋、あなたが彼女たちを助けたいと思うなら、次が最後のチャンスと思ってちょうだい」

「……なら望月を借りたい。実のところ、次に優芽ちゃんが現れる場所にはもう見当がついてるんだ。それに今回の事件でレイダーが出現する規則性はお前ももう見えているだろう?」

「ええ。今回の頻発するレイダー襲撃は凡そ3つに分けられる」

 

 ひとつは未来勢力……特に優芽を起因とした希繋を失った喪失感と、取り戻せない可能性への不安をトリガーとした『個』レベルのレイダー群。

 そしてその『個』レベルのレイダー群を見た民衆の恐怖心をイーリスの『虹の炎』で煽ることによる『合』レベル以上のレイダー群。

 この2つは連動式となっており、結果的にひとつの勢力として合流する。

 

 しかしもうひとつ。ショッピングモール『スピカ』を襲った『群』レベルのレイダー群。

 これに関しては優芽や民衆のネガティブ感情とは別の何かによって『使役されていた』のではないかと第二前線部隊のメンバーたちは考えていた。

 本来、悪感情を貪る本能しか持ち合わせないはずのレイダーが統率型を投入していたとはいえ明らかに不自然なほど統制のとれた部隊編成で攻勢を仕掛けてきたことがまずおかしい。

 

「とはいえ、そのうち3分の2は今回の事件が片付けば解決する。ラストチャンスではあるけれど、上層部もあなたが解決できる問題ならそうしてほしいのが本音のはず。必ず成し遂げなさい。望月隊員も、悪いけど桐梨隊員の第一次観察の護衛について、必要なら彼の指示に従ってちょうだい」

「「実行(キャリア)ッ!」」

「諸星隊員はいつでもヴァルチャー2号で出撃できるよう待機。古谷隊員は桐梨隊員と望月隊員を追う形でレイダーの出現待機。二人が対象と接触したらすぐレイダーが出現するからすぐに対処して。土中隊員も古谷隊員に同行。現場でレイダーの動きを観察、必要に応じて古谷隊員のサポートと天雨通信官への情報共有」

「「「実行(キャリア)」」」

「天雨通信官は土中隊員からの連絡だけでなく監視衛星(リライズストリクス)の映像から戦闘状況をモニタリング。希繋が聞き出した情報から少しでも解決の糸口になりそうなデータを探し出して。空宮通信官は警察・消防と連絡して初期範囲の避難誘導を素早く行えるようナビゲート。進行に応じて第三部隊と連絡して被害を最小限に抑えて」

「「実行(キャリア)!」」

 

 そう言って、希繋は望月と共にガレージに向かった。

 先ほどの戦いで、希繋もではあるが優芽はかなり疲弊しているはず。加えて彼女は『昂揚剤(デトネイター)』の副作用で今はユナイトギアを装身する余裕もない。

 ならば、彼女の出現ポイントとそのタイミングさえ掴めれば今が紛れもない好機となることは間違いない。少なくとも『勝つ』ことが目的ならそれで間違いないはずだ。

 

(希繋さん、またなんか隠してるなー)

 

 もっとも、彼のスタンスは「相手の納得が行くまで対話を続ける」こと。勝利など二の次や三の次どころか、目にも入れてはいないだろう。

 なら、どうして今このタイミングなのか。なんだかんだ前線で共に死線を潜り抜けてきた仲間として、望月は希繋の考え方というものを理解していた。

 

「希繋さん」

「ん?」

「勝とうね」

「……そうだな」

 

 あ、この人やっぱり勝つ気ないな、と望月はうっすらと感じていた予感を確信に変えた。

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