「先に断っとくが、オレは別にそのアマを恨んじゃいねーよ。自分に剣向けるようなヤツを助けるなんざ、そうしたのが希繋だってんならよくあるこったろ」
「……そう、だね……。お姉ちゃんも、希繋のことは……心配、だけど……。でも……それでもやっぱりそうでないと、希繋じゃないもんね……」
ぶっきらぼう、或いは軽薄で気怠い雰囲気をその隆々とした筋肉と共にまとった褐色の巨漢、
そしてその隣の席に背筋を伸ばして弟の目をまっすぐ見つめる白髪赤眼の女性、桐梨
それぞれ様々な事情で血の繋がる家族を失った、あるいは捨てた者たちが、ある夫婦に拾われたことで血ではなく絆で繋がったのが彼ら『
彼らの育ての親によれば、現時点で世界中に40人程度の『
その内このファミリィハウスに暮らす4人こそが最初の
しかし、彼らはその経歴から『
今回の姉と兄も、その例外ではなかった。
二人は希繋という人物の人間性上、その優しさが自らを傷付ける行為に繋がってしまったことには一定の理解を示していた。
優しさとは心の余裕の表れ、とは当人である希繋を除いた三人が持つ共通認識だ。餓えた者にパンを与えることができるのは、自らがいつでもパンを食べられるか、あるいはパンを譲ってなお自らの餓えを他者に気取らせない程度の余裕を持つ者だけだ。優しさあるところ余裕あり、余裕なき者に優しさは宿らない。
故に――優しさは時として餓えた者に妬みという火種を抱かせる。自分は餓えて死にそうなのに、目の前のそれはパンを与えるほど腹か心に余裕があるのだと突き付けられる。それもまた、受け取る側の余裕次第と言えるだろう。
しかし……いや、
「でも……そんな希繋の優しさを、振り払ったのは……相手の気持ちどうこう以前に……可愛い可愛い弟の姉として、許せないかな……!」
「ン、まーそういうこった。オマエがその女を助けたいと思うんなら、そりゃオマエが決めたことだ、それ自体に文句言うつもりはねーよ。けど、兄貴としちゃたとえ理不尽と言われようが弟の想いを無下にしたバカには一言くれてやりたいってのがトーゼンってもんだろ」
「姉さんと悠生が出張ったら俺の出番がないし、何より優芽が無事じゃ済まないだろ」
それに、と希繋は続ける。
「あの子……イーリスを使う時に『
一般的な薬局で購入できる同種の薬剤では最も効果の強いもので、感情の起爆剤として『デトネイター』などと呼ばれはするものの副作用が極めて強い第一種薬品でもあり、効果時間は個人差があるもののおよそ60分。効果が切れてしばらくすると極度の不安状態に陥り、周囲のケアなしでは早くて30分はそれが続く。通常は頓服薬として用いられるもので、周囲のケアがあれば不安状態はかなり早く回復するが、果たして未来から現代へと時間遡航した優芽に、そうしてくれる人物がいるかどうかはこの場の誰もがわからなかった。
「アレ、けっこう辛いのよね、副作用……」
そう呟いた逢依もまた、優芽と同じく『
つまり、感情的になりやすい人間の中からユナイトギアに選ばせるのではなく、そもそもユナイトギアが選んだ人物から最も感情の起伏が激しい人物を選んでいるのである。
そして今のところ――逢依の持つ『クリュスタルス』は逢依以外の人間を誰一人認めていない。そのため逢依は『
「私には希繋がいて、小転や悠生もいて……仲間も家族もいる。だから躊躇うことなくアレを飲める。けれど……」
「優芽は、どうだろうな……。できれば、あの子を支えてくれる仲間も一緒に来ていれば……いや、さすがにそれはレイジングリベンジャーズが言っていいセリフじゃないか」
小転は既に引退していて、悠生は別部隊で働いているとはいえ、この場にいるのはレイジングリベンジャーズ関係者のみ。
ユナイトギアは侵略性生命体に対してしか使用してはならない。それは国際法のひとつ『感情特機取締法』によって定められている。
彼女がレイダー迎撃目的以外の理由で、この時代における正規所有者としての資格を持たずユナイトギアを運用したのであれば、レイダー以上の侵略性を持つ者として認定されてしまう。
ユナイトギア悪用犯罪者――『特機犯』に対し、レイジングリベンジャーズに所属する正規所有者は自己判断でユナイトギアを使用してもよいとされるのはそのためだ。
(優芽が持つ『イーリス』は時間遡航することができる類の
「そのツラ、まだ何か隠してんだろ」
「……そんなにわかりやすいか?」
悠生は愛用の湯呑みに烏龍茶をなみなみと注ぐと、それをぐいと一気に呷って頷いた。それには、彼だけでなく二人の姉も同じように続く。
「さっき、希繋はイーリスのことを……『水を操るユナイトギア』って、言ってたよね……。希繋のイーリスが……『電気を放つ
だけどね、と区切る。
「水の力は……確かに汎用性に富んだ……おそろしく強力な、変幻自在の
「ってこたァ、オマエをボコったその女とは別に、ソイツに協力してるヤツがいる。そうする理由なんざ知ったこっちゃねーが……間違いなくその協力者こそが『時空干渉』系の特機犯だ」
「もちろん、今わかっている戦力だけでも優芽ちゃんを含め2人。他の特機犯がいないという確たる証拠もない。そもそも希繋だけのためとはいえ、時を越えて過去に攻めてこようとしてくるような相手が2人だけだなんて考える方が軽率で楽観的だわ。きっと、私たちの想像を超える力を持った敵がいると考えるべきよ」
小転の
「逢依。明日の午後の航空パトロール、俺も行くよ」
「……なら、望月隊員と土中隊員にはあなたから話を通しておきなさい。もし彼女がまた現れた場合、あなたがどうするつもりなのかも含めてね」
「わかった。風呂入ったら連絡しとく――えっ?」
そう言った希繋がポケットのスマホを取り出し、仕事用のグループRAINを開こうとすると、以前共に仕事をした
――お前の娘を保護した。早く迎えに来い。
希繋はその視線を何度か逢依とスマホに行き来させると、彼女の手を引き大慌てでガレージへと駆け出した。