JOINT TO THE FUTURE   作:永瀬皓哉

6 / 15
家族会議-ミーティング-

 優芽(ゆめ)との悲しき相対を果たした夜。希繋(きづな)は今日あった出来事をファミリィハウスで暮らす家族たちに相談した。

 逢依(あい)は途中からとはいえ現場に居合わせていたため、その場の空気感や互いの主張の奥底にある感情のようなものを汲み取れたが、彼が兄と慕う男と実の姉はそうでないようだった。

 

「先に断っとくが、オレは別にそのアマを恨んじゃいねーよ。自分に剣向けるようなヤツを助けるなんざ、そうしたのが希繋だってんならよくあるこったろ」

「……そう、だね……。お姉ちゃんも、希繋のことは……心配、だけど……。でも……それでもやっぱりそうでないと、希繋じゃないもんね……」

 

 ぶっきらぼう、或いは軽薄で気怠い雰囲気をその隆々とした筋肉と共にまとった褐色の巨漢、大郷悠生(おおさとゆうき)

 そしてその隣の席に背筋を伸ばして弟の目をまっすぐ見つめる白髪赤眼の女性、桐梨小転(こころ)

 それぞれ様々な事情で血の繋がる家族を失った、あるいは捨てた者たちが、ある夫婦に拾われたことで血ではなく絆で繋がったのが彼ら『絆の家族(ファミリィ)』だ。

 

 彼らの育ての親によれば、現時点で世界中に40人程度の『絆の子(チルドレン)』が存在する。

 その内このファミリィハウスに暮らす4人こそが最初の絆の子(チルドレン)であり、希繋と逢依が『姉弟でありながら夫婦である』というのが法的に問題ないのもそういった理由だ。

 しかし、彼らはその経歴から『絆の家族(ファミリィ)』を心から愛している点で共通しており、同じ絆の子(チルドレン)に対する悪意や敵意に過激な反応をしがちだという。

 今回の姉と兄も、その例外ではなかった。

  

 二人は希繋という人物の人間性上、その優しさが自らを傷付ける行為に繋がってしまったことには一定の理解を示していた。

 優しさとは心の余裕の表れ、とは当人である希繋を除いた三人が持つ共通認識だ。餓えた者にパンを与えることができるのは、自らがいつでもパンを食べられるか、あるいはパンを譲ってなお自らの餓えを他者に気取らせない程度の余裕を持つ者だけだ。優しさあるところ余裕あり、余裕なき者に優しさは宿らない。

 故に――優しさは時として餓えた者に妬みという火種を抱かせる。自分は餓えて死にそうなのに、目の前のそれはパンを与えるほど腹か心に余裕があるのだと突き付けられる。それもまた、受け取る側の余裕次第と言えるだろう。

 しかし……いや、()()()()()兄と姉の怒りも並々ならぬものであった。

 

「でも……そんな希繋の優しさを、振り払ったのは……相手の気持ちどうこう以前に……可愛い可愛い弟の姉として、許せないかな……!」

「ン、まーそういうこった。オマエがその女を助けたいと思うんなら、そりゃオマエが決めたことだ、それ自体に文句言うつもりはねーよ。けど、兄貴としちゃたとえ理不尽と言われようが弟の想いを無下にしたバカには一言くれてやりたいってのがトーゼンってもんだろ」

「姉さんと悠生が出張ったら俺の出番がないし、何より優芽が無事じゃ済まないだろ」

 

 それに、と希繋は続ける。

 

「あの子……イーリスを使う時に『昂揚剤(デトネイター)』を使ってた」

 

 昂揚剤(デトネイター)……正しくは『第一種感情起伏成分含有薬品』と呼ばれる、一時的に感情の起伏を激しくさせるための医薬品である。

 一般的な薬局で購入できる同種の薬剤では最も効果の強いもので、感情の起爆剤として『デトネイター』などと呼ばれはするものの副作用が極めて強い第一種薬品でもあり、効果時間は個人差があるもののおよそ60分。効果が切れてしばらくすると極度の不安状態に陥り、周囲のケアなしでは早くて30分はそれが続く。通常は頓服薬として用いられるもので、周囲のケアがあれば不安状態はかなり早く回復するが、果たして未来から現代へと時間遡航した優芽に、そうしてくれる人物がいるかどうかはこの場の誰もがわからなかった。

 

「アレ、けっこう辛いのよね、副作用……」

 

 そう呟いた逢依もまた、優芽と同じく『昂揚剤(デトネイター)』の服用者だ。そもそも、感情の起伏が激しいほど強い力を発揮するユナイトギアはその性質上、逢依のような冷静であまり感情的にならない人間にとって扱いづらい部類の兵器だ。個人の資質に影響されないという点では、通常兵器が如何に優秀かがよくわかる。だがそれでも、今の人類にとって共通の脅威であるレイダーは感情生命体。ユナイトギア以外の攻撃を一切受け付けない化け物だ。そして、ユナイトギアという兵器もまた……使用者を『選り好み』する。

 つまり、感情的になりやすい人間の中からユナイトギアに選ばせるのではなく、そもそもユナイトギアが選んだ人物から最も感情の起伏が激しい人物を選んでいるのである。

 そして今のところ――逢依の持つ『クリュスタルス』は逢依以外の人間を誰一人認めていない。そのため逢依は『昂揚剤(デトネイター)』によって強引に感情エネルギーを高めてユナイトギアを運用しなければならない現状を受け入れざるを得ないのだ。

 

「私には希繋がいて、小転や悠生もいて……仲間も家族もいる。だから躊躇うことなくアレを飲める。けれど……」

「優芽は、どうだろうな……。できれば、あの子を支えてくれる仲間も一緒に来ていれば……いや、さすがにそれはレイジングリベンジャーズが言っていいセリフじゃないか」

 

 小転は既に引退していて、悠生は別部隊で働いているとはいえ、この場にいるのはレイジングリベンジャーズ関係者のみ。

 ユナイトギアは侵略性生命体に対してしか使用してはならない。それは国際法のひとつ『感情特機取締法』によって定められている。

 彼女がレイダー迎撃目的以外の理由で、この時代における正規所有者としての資格を持たずユナイトギアを運用したのであれば、レイダー以上の侵略性を持つ者として認定されてしまう。

 ユナイトギア悪用犯罪者――『特機犯』に対し、レイジングリベンジャーズに所属する正規所有者は自己判断でユナイトギアを使用してもよいとされるのはそのためだ。

 

(優芽が持つ『イーリス』は時間遡航することができる類の固有機能(オンリーワン)ではなかった。協力者は間違いなく居るだろう。けど……そいつが本当に優芽の『仲間』なのか、それとも優芽を『利用』しようとしているのか。それを見極めなければ、真の()()は得られない)

「そのツラ、まだ何か隠してんだろ」

「……そんなにわかりやすいか?」

 

 悠生は愛用の湯呑みに烏龍茶をなみなみと注ぐと、それをぐいと一気に呷って頷いた。それには、彼だけでなく二人の姉も同じように続く。

 

「さっき、希繋はイーリスのことを……『水を操るユナイトギア』って、言ってたよね……。希繋のイーリスが……『電気を放つ単一機能(オンリーワン)』じゃなく……『体を電気に変換する単一機能(オンリーワン)』だと、わかったように……変換した電気をただ放電するだけでなく……空気中の伝導体を、連鎖的に辿ることで……矢のように発射できると、わかったように……単一機能(オンリーワン)は使用者の発想力に……依存する」

 

 だけどね、と区切る。

 

「水の力は……確かに汎用性に富んだ……おそろしく強力な、変幻自在の単一機能(オンリーワン)だよ……。でも……どんなに変幻自在だろうと……あくまで水はひとつの物質にすぎないよ……。"時"という、非物質的な概念に対して……干渉できるだけの力は、ないんだ……」

「ってこたァ、オマエをボコったその女とは別に、ソイツに協力してるヤツがいる。そうする理由なんざ知ったこっちゃねーが……間違いなくその協力者こそが『時空干渉』系の特機犯だ」

「もちろん、今わかっている戦力だけでも優芽ちゃんを含め2人。他の特機犯がいないという確たる証拠もない。そもそも希繋だけのためとはいえ、時を越えて過去に攻めてこようとしてくるような相手が2人だけだなんて考える方が軽率で楽観的だわ。きっと、私たちの想像を超える力を持った敵がいると考えるべきよ」

 

 小転の単一機能(オンリーワン)への指摘から、希繋が懸念していた二人目の敵の存在。そして考慮さえしていなかった三人目以降の敵。ズルズルと芋づる式に現れる問題に、希繋は「やっぱり敵わないな」と苦笑する。だがそのおかげで、見えていなかった課題も含めて自分のすべきことが少しずつ見え始めて来たようにも思えていた。

 

「逢依。明日の午後の航空パトロール、俺も行くよ」

「……なら、望月隊員と土中隊員にはあなたから話を通しておきなさい。もし彼女がまた現れた場合、あなたがどうするつもりなのかも含めてね」

「わかった。風呂入ったら連絡しとく――えっ?」

 

 そう言った希繋がポケットのスマホを取り出し、仕事用のグループRAINを開こうとすると、以前共に仕事をした地球環境(Global Environment)保全団体(Conservation Team)――通称GLENCOTE(グレンコート)からメッセージが届いていた。かなり慌てた様子で、これを送ってきた人物の普段の様子からは想像もつかないような乱雑な短文で一言。

 

 

 ――お前の娘を保護した。早く迎えに来い。

 

 

 希繋はその視線を何度か逢依とスマホに行き来させると、彼女の手を引き大慌てでガレージへと駆け出した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。