JOINT TO THE FUTURE   作:永瀬皓哉

9 / 14
予期せぬ接敵-エンカウント-

「意識があるヤツは頭を庇って慌てず逃げろ! 怪我をしてるヤツがいたら助け合って避難するんだ!」

 

 自慢の俊足で誰よりも早く現着した希繋は、現場の警察・消防と連携を取りながら避難誘導に当たっていた。

 本来、第二前線部隊のメンバーとして前線に出たのであれば真っ先にすべきことはレイダーの調査・分析、そして初期戦線の維持であるが、彼の戦績は部隊内最低ランク。

 しかし、それでも部隊のメンバーたちが彼を第二前線部隊のメンバーとして高く評価しているのは、もっと違うところにあるのだ。

 

『レイダーが南西より接近中。対処に向かいますか?』

「いや、南西からなら第一部隊の陸上メンバーが間に合う。第三部隊の現着もそろそろだろう。それまでに避難誘導くらいは済ませておかなきゃ救助が遅れる!」

『わかりました。それと、第二部隊本部から連絡が入っています。「第一・第二部隊の航空戦力が間もなく到着。それまでに避難を間に合わせるように」とのことです』

「無茶言ってくれるな……!」

 

 希繋は元々、人命救助を目的とした前線部隊『第三前線部隊』のメンバーであった。そんな彼が前第二部隊長に引き抜かれた理由は、その俊足と人柄にある。

 世界中で活躍する全レイジングリベンジャーズの中でもトップクラスのスピードを誇る彼は、航空機のような離陸準備を必要とせず、また陸上を走行する大型輸送車よりも小回りが利き、さらに「肉体を電気に変換する単一機能(オンリーワン)」を使えば遮蔽物もすり抜けて現場へ素早く駆けつけられるため、とにかく「早く現着して対応する」ことに関しては右に出る者がいない。

 また、彼は普段から人の悲鳴を無視できないタチである。本来非番であり、教導部が新人研修の意味も込めて対処に当たるべきレイダーにも、幼い優芽の悲鳴を聞いて駆け付けてしまったように、彼は自分の管轄でない部署・部隊とも交流があり顔が広い。それは単にレイジングリベンジャーズだけに留まらず、第三部隊に居た頃の縁から警察や消防、そして友人が務めるグレンコートに至るまで、とにかく彼は必要な時に必要な人脈をすぐさま頼れる。故に、誰よりも早く現着することでどうしても単独行動が増える彼だが『孤独』には決してならない。

 

 当たり前だが、いくら彼が優秀な救急リベンジャーであったとしても、助けられない命はある。

 誰かを助けたいと思ってレイジングリベンジャーズ第三部隊に入った。しかし……だからこそ、彼は死ねなかった。自分が死ねば自分が助けられるはずだった命も死なせてしまう。目の前の命がどんなに叫んでいても、彼は自分の身の安全を前提に動かなければならない。故に、彼は自分の命を守りながら、より多くの命を助けられる手段を探し続け、見つけた答えが(これ)だ。

 

 助けを求める人を直接助けられなくても、助けを求める人を直接助けるための準備を素早く済ませられれば、きっと自分が差し伸べる手よりももっと多くの手になるだろう。

 

 一秒でも早く現着できていれば、避難誘導の完了も一秒分早くなる。

 一秒早く避難誘導が済めば、他の前線部隊は一秒早くレイダーの対処が可能となるし、要救助者の捜索・救助も一秒だけ猶予時間(タイムリミット)が増える。

 たった一秒で失われる命があるレイダー襲撃において、彼の稼ぐ一秒は単なる戦力以上の意義があるのだ。

 

「桐梨隊員!」

「第三隊長。今、おおよその避難誘導が完了しました。避難先には最寄りの救急医療センターに連絡を入れました。俺はこれからみなさんの護衛をしつつ、周囲の警戒をします」

「避難ルートは先ほどエクレールから貰った。通常の避難経路がレイダーに塞がれている中、よく素早く対処してくれた。ありがとう。避難先には第三からも救護メンバーを向かわせている。避難ルートにも被害確認のため何人か向かわせたが、今のところ問題はなさそうだ」

「お力になれたなら光栄です。エクレールの探査によれば、建物内部には要救助者と思われる生体反応が複数個所に固まっています。そのマップも送信するので使ってください」

 

 それでは、と言って電光を散らし姿を消した希繋を第三前線部隊の隊長とその隊員たちが見守る。

 

「相変わらず、忙しい人ですね」

「ああ。だが彼のおかげで要救助者の数と位置ははっきりしている。あとはミーティング通りだ! 接近するレイダーの対処は他部隊および桐梨隊員に任せ、各自全力で救助に当たれ!」

「「「実行(キャリア)!」」」

 

 第三部隊の力強い号令が、建物の外で周囲を警戒する希繋の耳にも届いていた。

 地上に溢れかえるレイダーたちを迎え撃つべく、レイジングリベンジャーズの戦闘特化部隊『第一前線部隊』が少し前から交戦しているものの、やはり数が多い。

 

 対レイダー兵器であるユナイトギアは、基本的に第一・第二部隊にしか配備されないし、そもそも運用方法から異なる。

 レイダー撃滅を目的とした第一部隊の場合はもちろん「レイダーを倒すため」にそれを用いる。しかし第二部隊はあくまでも「レイダーに対処するため」……つまり第一部隊が来るまで戦線を下げないよう時間を稼いだり身を守ったりするための運用なのである。つまり、第一部隊が出ている状況で、第二部隊所属の希繋は積極的に交戦区域に入る必要はなく、いわゆる「撃ち洩らし」「はぐれ戦力」のような相手から民間人や第三部隊を守る方を優先しなければならない。

 ――本来なら。

 

『北北西240メートル。永岑北区ふれあい公園で二人分の生体反応。交戦地帯から離れたレイダーが急速に接近しています』

「なんでそんなとこに!! いや、考えるのは後だ! いくぞエクレール!」

『了解。第三部隊のみなさんには連絡を入れておきます』

 

 希繋は駆け出しながらベルトのチェーンから垂らした待機形態の輝核(ユナイト・コア)を手に取り、叫びと共に感情を解き放つ。

 

「レッツ!」

『Transformation!』

 

 高く掲げた声と心に応えるように、赤い宝石のようであった輝核(ユナイト・コア)は赤い輝きを放ちながら彼の全身を包む。

 両足を包む紅蓮の機装鉄脚(メカニカルブーツ)。レイジングリベンジャーズの内側にのぞく漆黒の忍装束を彩る赤いライン、そして彼の決意を表すような深紅が瞳を彩る。

 その名はエクレール。瞬間を駆け抜ける紅蓮の電光【閃脚・エクレール】だ。エクレールを装身(そうしん)した彼は、瞬く間にその身を紅の光へと変えた。

 

 

 

 

『数体のレイダーがこちらに向かってきているようです』

「……こうなるから、この子にあれを使わせるのには反対だったんです」

「だが代替案がなかったのも事実だろう」

 

 レイダー襲撃現場からやや離れた公園で、二人の男女が互いを窘め合うようにして言葉を交わしていた。

 片やベンチに腰掛け両目を閉じるように伏せた長髪の女性。そして、そんな彼女の正面でばつが悪そうに俯く群青の瞳を持つ青年。

 しかし、すぐに両者の視線はある一点に結ばれた。それは、女性の足に頭を乗せてベンチに寝かされた白髪の少女。

 おそらくは、小さく魘されるように声を漏らすこの少女によって、二人の足が止まってしまったのだろう。

 

「クルルルルルルルァ!」

 

 だが、そんな事情などレイダーからすれば知ったことではないのだろう。彼らの前に現れた9体のレイダーたちはむしろ好都合とでも言うように、じりじりと距離を詰めていく。

 二人を庇うようにしながら、男性はレイダーへと鋭い視線を向け、何かを決意した。

 

「チッ……仕方ない、ここは俺が――」

『いえ、どうやらその必要はなさそうです』

 

 男性がポケットの中から何かを取り出そうとした時、どこからか聞こえる機械的な音声によってそれは遮られた。

 そして、そんな言葉に男性が理由を問うまでもなく、その答えがやってきた。

 

 

 ――Crimson Impact――

 

 

「クロロロロロロィ……!」

「この赤い電光……なるほど。確かに俺の出番はなさそうだ」

 

 すさまじい衝撃と赤い光を伴って現れた()()に、男女はまるで驚く様子もなくその様子を見守っていた。

 

「ったく、なんだってこんな離れたところに……って、民間人!? このレイダーたちの狙いは彼らか!」

『一名、どうやら極度の不安状態で身動きがとれないようです。おそらく、その不安と恐怖に寄せられたのでしょう』

「極度の不安状態……レイダー由来のPTSDか? いや、なんでもいい。とにかく市民を守るのが俺らの仕事だ、早々に片づけるぞエクレール!」

実行(キャリア)

 

 目の前に残ったのは7体のレイダー。飛行型3体と浮遊型3体、そしてそれらを率いているであろう統率型レイダー。

 レイダーの特徴のひとつは、既存のどの生物にも似ていないその形にもあるが、統率型レイダーはそうではない。拘束衣に身を包んだ囚人のようなそのレイダーは、個体ごとに特異な能力を持つと同時に、早期に対処しなければならない厄介な性質も持っている。しかし、『統率型』と名付けられる通り、そのレイダーを含んだ複数のレイダーを潜り抜けてその懐に入ることは容易ではない。

 

(俺のスピードなら統率型まで距離を詰めるのに一瞬もいらない。けど特異能力がわからないまま接近して、もし拘束系だったら民間人が狙われかねないし、反射系なら最悪だ……!)

 

 希繋はこれまでにも何度かこれら統率型レイダーと交戦経験があるが、どれもまったく系統の異なる特異能力を持っていた。そんな中で、彼が最も命の危機を感じたのは『反射系』……つまり「自分が受けたダメージをそのまま接触者に返す」タイプの特異能力だった。なぜなら希繋はそのスピードを突貫力に換えることで攻撃を行うリベンジャーである。つまり単純な筋力による威力ではなく、接近速度がそのまま威力になるということ。もし相手が反射系の特異能力を持つレイダーなら、『一瞬で距離を詰めるだけの加速力を突貫力に変換したキック』が、脆弱な彼の体に返ってくるのだ。

 

「こちらリベンジャー05から本部へ。交戦地帯からやや離れた公園内に要救助者を発見。レイダーの対処はこちらが行う。第三から人員を派遣するよう手配してくれ」

『こちらリベンジャー06。要求を承認、既に第三部隊に通達済み。4分で到着するわ。それまできっちり守りきって』

実行(キャリア)

 

 しかし、それでも先手を打ったのは希繋であった。

 レイダーの構造や生態に詳しい土中隊員によれば、統率型レイダーは基本的に自身の持つ特異能力よりも「レイダーの行動を指揮する」という役割を優先する傾向にあるらしい。

 ならばまずは相手の手足となるレイダーを削ぐことで、確実に民間人を守れる状況に持っていくべきだと彼は判断したのだろう。

 ふよふよとクラゲか凧のように浮いている浮遊型レイダーの直前に接近、バク宙と同時にエクレールの踵に展開されたブレードで相手を切りつけ、着地を狙って接近した飛行型レイダーの攻撃を空中で体を捻って回避し、こちらを振り向く前にジャックナイフを叩き込む。

 

「クルルロォイ――!」

「させるかッ!」

 

 完全に初動をとられた形になったレイダーは、希繋に対して直接的な攻撃は意味がないと判断した統率型によって民間人の捕食を優先。

 残された2体の浮遊型がその本体の5倍以上は長いであろう尾のような触手を伸ばして希繋を拘束し、その間に飛行型が突っ切るつもりだったのだろうが、だとしてもそれは彼のトップスピードを見誤っていると言わざるをえなかった。彼らの拘束が届くよりも遥かに早く、彼の飛び蹴りが2体の飛行型レイダーをまとめて貫く。

 

(残るは動きの遅い浮遊型2体と統率型だけ。いけるか……?)

 

 灰となって散ってゆく飛行型を確認し、希繋は3体のレイダーを正面に捉えた。

 しかし、そんな彼を前に突如として統率型が不可解な行動に出始めた。

 

「コロロロロロァ……!」

「浮遊型を、取り込んでる……?」

 

 二体の浮遊型レイダーを、まるで貪るように取り込んだ統率型レイダー。

 そして、まるで蛹が成虫へと変態するかのようにその背を割って現れた体長3メートルを超える統率型レイダーの姿は、直前までの姿とは大きく異なっている。

 蛇のような下半身、胴体(アバラ)から伸びる8つの腕。背中にはトンボのような長い翅を持ち、両腕には鋭く大きな爪が4対。巨大な花か笠を被ったような頭部には、黄色い単眼が目の前の()を睨みつけている。

 

「『統率型レイダー変貌態』……!」

 

 そう、これこそが統率型レイダーを早急に処理しなければならなかった最大の理由。

 統率型レイダーは戦いを『学ぶ』ことで、特異能力とは別に自身が理想とする「最も戦いに最適化した形」へと姿を変える。

 

「……どうやら、慣らし(ウォームアップ)はここまでらしいぞ。エクレール」

『こちらも、ようやくエンジンが温まってきたところです』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。