平成ライダージェネレーション Re:Inherit 作:双子座流星群
あの日、あの時に助けに来てくれたヒーロー達の背後にも戦った人がいるんじゃないかと思って書きました。
夕暮れの街角。
人通りの少なくなった商店街には赤みがかった西日が静かに差し込んでいた。
小野寺隼人は制服姿のまま自転車を押しながら歩いていた。
隣にはクラスメイトのユイ、そしてその弟たち――小さな子供たちがキャッキャと騒ぎながらじゃれついている。
「今日はありがとうね、隼人。わざわざ荷物持ってもらっちゃって」
「い、いや全然。どうせ帰り道だし……」
そう言いながら隼人は頬をかく。
目線を合わせられずわずかにうつむくその表情には、どこか照れくささと不器用さが滲んでいた。
ユイは優しく微笑んだ。
だがその時――。
ギィ……ギギィ……。
金属が軋むような、不気味な音が街の奥から響いた。
子供たちの笑い声がピタリと止まる。
その方向を見ると路地の奥から黒い影が現れた。
その姿は人間ではなかった。
黒いタキシードに身を包み、昆虫を思わせる不気味な仮面を被った数体の存在――異形だった。
「な、なにアレ……? コスプレ……?」
呟いたユイの声も震えていた。
隼人は一歩前に出たが全身が硬直する。
(ウソだろ……? なんだよあれ……!?)
異形たちは無言で歩み寄る。
手には鋭利な武器を構えまるで何かに導かれるように彼らを囲もうとしていた。
「逃げろ! ユイ! 子供たち連れて!」
隼人が叫ぶがその脚は一歩も動かない。
心臓が激しく脈打ち、膝がガクガクと震えていた。
「お姉ちゃん、怖い……!」
子供たちが泣き出す。
ユイも彼らを抱き寄せながらも隼人の背中に縋るように立ち尽くしている。
(くそ……怖い……怖いよ……! 誰か、誰か来てくれ……!)
――その時、隼人の脳裏に蘇ったのは幼少の頃に夢中で見ていたテレビ番組。
“仮面ライダークウガ”。
優しく
でも誰よりも強く
人の笑顔を信じ
守るために命を懸ける男
五代雄介の姿だった。
(あの人なら、絶対……)
「っ……でも、俺は……」
弱い。
何もできない。
ただの高校生だ。
だけど今、自分の背後には大切な人がいる。
信じてくれた女の子。
泣いている子供たち。
(誰かが……やらなきゃ……!)
その時心の奥底で何かが燃え上がった。
「もう……こんな奴らのために、これ以上……ユイの涙は、見たくない……!」
隼人はゆっくりと腕を広げ、震える手で拳を構える。
「ユイ達には……笑顔でいてほしいだ……だから……だから……! 見ててください五代さん! 俺の……変身!!」
そう叫んだ瞬間隼人の体は戦闘員の方へと走り出していた。
何も変わっていない。
ただの人間だ。
だが、想いは燃えていた。
「うあああああああああっ!!」
拳を振るう。
足を蹴り上げる。
無作為に。
我武者羅に。
しかし敵は容赦しなかった。
鋭い腕が隼人の腹をえぐり、膝がその顎を砕こうと迫る。
隼人は鮮血で濡れ地面に叩きつけられた。
「……ぐっ……!」
血が滲み、痛みに意識が遠のきそうになる。
(俺じゃ……勝てない……!)
それでも背後から聞こえる子供の泣き声に意識が引き戻される。
「まだ……終わって……ねぇ!」
隼人は膝をつきながら血まみれの手で地面を掴む。
そして再び立ち上がる。
「俺は……五代雄介にはなれない……!でも!あの人の熱い魂は……俺に受け継がれてるんだ!!」
「平成ライダーなめんなあああああああっ!!!」
叫びと共に突撃する隼人。その姿に、一瞬だけ戦闘員たちがたじろぐ――。
その刹那。
ブゥゥン……!!
と爆音が空気を切り裂いた。
「!?」
街の奥から疾風のように現れた一台のバイク。
赤く輝く車体。
獣のようにうねるエンジン音。
間違いない、何度も見て何度も夢見た。
トライチェイサー2000だ。
その上にまたがるのは赤い仮面の戦士。
仮面ライダークウガ。
「くっ……クウガ……」
隼人の目が見開かれる。
現実感がない。
それでも、確かにそこにいた。
クウガはバイクを旋回させ、戦闘員たちを蹴散らすように走り抜ける。
やがてバイクを降りると血まみれの隼人のもとに駆け寄り、肩を貸して彼を支える。
言葉はない。
だが、確かな意思が伝わった。
クウガは隼人をそっと座らせるとその顔を見て、ゆっくりと右手を掲げた。
――サムズアップ。
それはかつて五代雄介が見せた、信頼と感謝、希望の証。
「……ありがとう、クウガ……」
涙が零れ落ちた。
クウガは戦闘員たちの方へと向き直る。
そして、圧倒的な力で彼らを打ち倒していった。
戦いが終わった頃には辺りはすっかり夜になっていた。
戦闘員たちはどこかへと消え、クウガの姿もまた、いつの間にか夜の闇へと溶けていた。
隼人は、ユイに支えられながら空を見上げていた。
「結局何もできなかったなぁ……」
幸い傷は深くなくユイが手当てしてくれたおかげで血は止まっている。
「……隼人くんが、守ってくれたんだよ。ありがとう」
ユイは血で濡れた隼人の手を握る。
「…!へへ!!」
照れくさくなり右手を突き出した。
その手はサムズアップをしていた。
それは確かに受け継がれたものだった。
平成ライダーの魂。
たとえ“ただの人”であっても、その想いがある限り、誰だってヒーローになれる。
ライダーはいつも君達のそばにいる
何があっても、君達と一緒だ。
生きて。生きて。生き抜け。
ライダーは君達と共にいる。