皆は「三幻神」という単語をご存じだろうか?
遊戯王を履修している人間ならば9割、否、ほぼ10割は知っているであろう3枚の神のカード。
「オシリスの天空竜」。
「オベリスクの巨神兵」。
そして、「ラーの翼神竜」。
ご存じの通り、原作「遊戯王」、及びアニメ「遊戯王デュエルモンスターズ」のバトルシティ編においてキーとなった3枚の神のカードの事だ。
神の名の通り、通常のモンスターとは一線を画すモンスター。
皆はこの3枚の神のカードの中でどれが1番好きだ?
ぼくは勿論────「ラーの翼神竜」に決まっている。
使い手であるミスター顔芸こと闇マリクのインパクトや、他の二体の神を更に上回る耐性、姿形、そして不死鳥形態のかっこよさ。
そういった諸々の理由はあるが、何よりも1番の理由は────
「クリーブランド姉貴と同じ色だってことだ」
鏡に映った自身の、見覚えのある顔を見つめながら独りごちる。
話は変わるが、ぼくの前世には「アズールレーン」という、所謂艦これ的な軍艦擬人化ソーシャルゲームがあった。
そのゲームにも、「三幻神」とプレイヤーたちから渾名付けられていた3人のキャラクター、もとい艦船が登場していたのだ。
名前の由来は勿論、先ほどあげた遊戯王の「三幻神」に因んでのモノ。
なぜそう呼ばれるのかをざっくり説明すると、その3人のキャラクターのレアリティはSRで、SSRの艦船たちと比べて容易に入手しやすく、ゲームを始め立ての初心者のプレイヤーがかなり始めの段階で世話になるのだ。
しかも、アズールレーンは編成次第では一部の同じスキル持ちのキャラのスキル発動が重複してしまうと、効果が弱い方のスキルが強い方のスキルに打ち消されてしまうという特徴がある。
この3人はステータスこそSSRに及ばないSR相当のモノしか持ち合わせないが、このスキルが重複せずに絶妙に噛み合い、しかもそのスキルがそれぞれ強力なモノなので、この3人を一緒の編成にして出撃したときの強力さと、シンボルカラーが丁度被っているのもあって、このような呼ばれ方をされるに至ったわけだ。
この3人の個々のスキルの詳細は省くが、3人がそれぞれ、どの神と同じシンボルカラーを持っているのかを挙げてみる。
一人目、ウィチタ。シンボルカラーは赤、つまりは「オシリスの天空竜」相当。
二人目、ヘレナ。シンボルカラーは青、即ち「オベリスクの巨神兵」担当。
そして三人目は我らが憧れこと……クリーブランド姉貴。担当するカラーは黄色。つまり、最高神ラーの翼神竜に相当するキャラクターだということだ。
つまり何が言いたいかというと。
「最高神に相当するクリーブランド姉貴は、やはり最強だという事だ」
誰よりも強くてかっこいい姉貴が最高神相当のカラーなのは、言い得て当然という事だ。
……おいそこ、OCGでは紙のカードだの、ヲーの翼神竜だのと言うんじゃない。ちゃんと多数の介護……もといサポートカードで救済されたじゃないか。
つまり、どう足掻いても姉貴が最強だという結論は揺るがないんだ。
そんな強くてかっこいい姉貴が、ぼくは大好きだ。
……確かに、大好きなのだが。
「……いくら姉貴が好きだからって何で……」
困惑気味に眉を顰めるその顔は、少女らしい可愛らしさがありつつも、どこか不機嫌そうだ。
若干獣耳を思わせるような髪型の銀髪に、赤い目が軽いチャームポイントの少女が、目の前の鏡に映り込んでいる。
……いや、正確には少女ではない。
「なんで生まれ変わったらモントピリア(男)になってるんだ……」
頭を抱えて
暫定モントピリア(男)の容姿に転生してからはや15年。
女と見違えられる容姿に苦労しつつも、この世界には存在しないクリーブ兄貴……もとい姉貴の等身大自作粘土像をより所になんとか頑張ってきた。
別に、それだけならまだいいんだ。
いいんだが……。
「なんで、遊戯王の世界なんだ……!」
これじゃあどれだけ手を伸ばしたってクリーブランド姉貴に会えないじゃないか!!
……うぅ、クソ。
ぼくは一生、この等身大自作姉貴粘土像だけに縋って生きていくしかないのか!?
答えろルドガー!!
そう思いながら、地面に手を付いて項垂れていると、隣に現れた半透明の、黒い軍服の少女が肩をポンポンと叩きながら慰めてくれるが、ぼくの心の嘆きが止むことはない。
……でも、ありがとうロゼ。
お前も、ぼくと一緒にこの世界に来てしまったばかりにレイに会えてないモンな。……本当に、ごめんよ。
◇
それはそれとしてほんの拍子に、両親からの勧めでデュエルアカデミアの高等部への入学試験を受ける羽目になった。
この世界の重要な事柄の割合はデュエルの部分がかなり大きく占めている。
プロにはならずとも、デュエリスト養成学校で好成績を収めればかなりの箔が付くと両今世の親が進めてくれたのである。
今世の両親も両親なりでぼくの事を思ってくれているのは伝わってきてくれたので、それを無碍にすることもできず、ぼくは受けることにした。
……正直な所、あまり乗り気でない。
デュエルアカデミアは全寮制の学校。しかも場所は絶海の孤島で、外部からは隔絶された所にあるのだ。
そんな窮屈な所に3年間もいなきゃならないなんて冗談ではない。
今世のぼくの両親も、ぼくに目一杯の愛情を注いでぼくを今日ここまで育ててくれた。そんな両親と、たったの数年間とはいえ離ればなれになるのはな……。いくら夏休みの間は帰れるとはいえ、これだから全寮制という奴は。
せめて5D’sのネオ富野シティのアカデミアだったらそんなこともなかったろうに。
何より、ぼく力作の、クリーブランド姉貴等身大粘土人形を持ち込めないのだ。
つまりぼくはこれから暫定3年間、両親や姉貴の加護なしにこの隔絶した孤島で窮屈な学園生活を強いられなければならないんだ。
という訳で、筆記試験に取り組む時のぼくのモチベーションは、正直とてつもなく低かった。とはいえ、両親の言った通り、デュエルアカデミアで好成績で卒業することによる箔付けのメリットは確かに魅力的だ。例えプロにならずとも、就職先に困るということに陥るリスクはかなり低い。
……それに、何よりこの顔はクリーブランド級3番艦の擬人化たる彼女と同じだ。
モントピリアと同じ顔をしているぼくの失態は、姉貴の顔にも泥を塗ることにもなる。
例えこの身がパチモンでも、それだけはあってはならない。
本物の
姉貴に恥はかかせません!
……とまあなんだかんだ張り切って、ぼくは受験番号2番の座を手にしたのだった。
いや、1番と筆記試験が同率一位ならぼくの方が1番でもよかっただろう。
姉貴はいつだって1番なのに、いつもぼくの方と来たら……。
……ええいままよ、まだ実技試験が控えている。
落ち込むのはそれからでもいいだろう。
◇
唐突だが、デュエルアカデミア、と来れば思い浮かぶのはアニメ「遊戯王デュエルモンスターズ」の続編に当たる「遊戯王デュエルモンスターズGX」のメイン舞台となる場所だ。
余程の空似でなければ、おそらくぼくがこれから通う事となるデュエルアカデミアはその舞台となる場所そのものになるだろう。
……で、ここでとある問題が発生する訳なのだ。
ぼくは「遊戯王デュエルモンスターズGX」の内容をあまり知らない。
ぼくが前世で死ぬ前、リマスター版が放送されるという話を聞いたことがあったが、あまり見る気にもなれずに未視聴のまま。
終ぞぼくはGXの内容を殆ど知らぬまま前世で死を迎えてしまった。
こうなれば配信サイトなりで見るべきであったと後悔するも、すべて後の祭り。なるようになるしかない。
そもそも、主人公と同じ学年になるかも定かではないというのに、これからの展開の知ったか知ってないかを語るのはナンセンス。
ぼくはぼくなりに、クリーブランド姉貴の妹(?)の名に恥じないように生きていくしか今後の方針はないわけだ。
それに家族やクリーブランド姉貴粘土像には会えないとはいっても、ぼくにはロゼがいる。精霊故にぼく以外の人間には見えないが、少なくともまったくの孤独という訳ではない。
……この世界では他の閃刀カードが存在しないためか、なぜか彼女は「閃刀姫」とはまったく関係ない効果を持つモンスターとしてぼくの手元にいる(しかも何故か光属性ではなく闇属性モンスターとしてだ)。
しかも、ぼくのデッキに好相性なカードでは決していないが、それでもデッキに彼女がいるかいないかでぼくの心持ちというか、やる気は全然違う。謂わばお守りのようなものである。
彼女さえいれば、例えクリーブランド姉貴がいなくても、やっていけない事はない。
そう意気込んで、ちゃんと試験会場に間に合うように家を出たつもりだったのだが。
「まさか、電車の人身事故で遅刻しそうになるなんて。つくづく、幸先が悪い……!!」
念のため試験会場に電話で事情を説明して、遅延証明書も確保してあるとはいえ、何と幸先の悪いことだ。
一応、向こうは受付の締め切り時間が過ぎても特別に待っててくれると言ってはくれたが、それをいいことにのんびり行っては向こうの心証も悪い。
全速力で走って息が上がってくる中、隣にいるロゼが心配そうに顔を覗き込んでくるが、精霊である彼女が人間界に干渉する術は持たない故、彼女の助けを借りて、なんてことはできない。
なによりこんな下らないことで精霊の力を借りてはそれこそクリーブランド級の名折れだ。ぼくは自分の足で、なんとかして締め切り時刻前までに試験会場に辿り着くのだ。
時計を見ながら走り続け、何とか海馬ランドの正面入り口のビルまで辿り着く。
……ここが、かの「Death-T編」で有名な海馬ランドか。
……大丈夫だよなぼく? さすがにもう死のテーマパークなんて物騒なモノやっていたりしないよな?
海馬社長が改心(もといマインドクラッシュ)した後の時系列であろう事が分かっていても、どこか身構えてしまう。
……立ち止まってそんなことを考えていたら、傍にいたロゼがツンツンと肩をつついてくる。
「っ、いけない、早く行かないとっ」
ロゼのお陰で当初の目的を思い出したぼくは、再び足を動かして海馬ランド内の試験会場へと一直線へと向かった。
……さすがは海馬ランドと言うべきだろうか。
「子供が只で入れる遊園地を作る」という、社長の夢を体現する施設の一つなだけあって、とにかく広いし、でかい。
そこかしこにブルーアイズの銅像があったり、ブルーアイズ関連のレジャー施設があったりするのはまあ目を瞑るとしても、そんな敷地の広い海馬ランドの中を走り回るのは勿論大変な訳で。
それでも、息を挙げながらもぼくは送れるわけにはいくまいと試験会場を目指した。
……暫くすると、目的の試験会場の前にある駐車場が見えてきた。
そして、会場の入り口には、既に締め切りの準備をしている受付員たちの姿があった。
まだ完全に撤去していないのに、おそらくぼくを待ってくれているからだろう。
これ以上待たせるわけにはいかないと、全力で受付員たちの前までかけよる。
「ハァッ……受験番号、2番……
「アハハハ……残念だけど、受付時間はもう過ぎちゃったよ。先ほど君と同じように電車の事故で送れた受験生がいたけれど、その子はなんとか間に合っていたね」
「そ、そんな……」
サングラスをかけた受付員の言葉に唖然となり、ぼくは立ち尽くした。
「間に合わなかった、このぼくが……これじゃあ、姉貴に合わせる顔が……」
膝を着いて、震えながら呟く。
……あぁ、終わった。
姉貴の顔に泥を塗ってしまった。
姉貴ならこんな時、どう遅れても間に合わせていただろうに。
……そんなぼくの様子を見ていた受付員のお姉さんが慌ててぼくの方に駆け寄ってくる。
「ちょ……そんなに落ち込まなくても……!!」
「遅れたのは君のせいではないだろう!? それに君は110番の子とは違って事前に連絡も入れていたし、証明書だって取ってきたんだろう!? そんな事で君を追い返したりしないさ」
慰めてくれる受付員さん達の言葉で、一旦目が覚める。
……そうだな、こんな所で落ち込んで何ていられない。
これで試験管や審査員たちの心証がどうなるが、これからの実技試験の内容で挽回できない訳ではないのだ。
落ち込むのは後にしろ、ぼく。
「……失礼しました。これ、証明書です」
こほん、と息をはき直して立ち上がり、駅員さんから貰った遅延証明書を渡す。
「……ふむ、証明書受け取ったよ。今は先ほどギリギリで試験会場に入った110番の子の実技試験中だろうから、その次が君の試験になるだろう。……月並みの言葉だが、君なら受かると信じているよ、2番クン」
「ありがとうございます。……では」
気のいい受付員さんの激励を受けた私は、軽く会釈して試験会場へと入っていく。
「あの……先輩」
「何だい?」
試験会場の中へと駆け込んでいく受験番号2番の受験生の背中を見届けた女性の受付員が、恐る恐るといった様子でサングラスとスーツを身につけた受付員に問う。
「あの2番の子、声と顔で勘違いしそうになりましたが……男の子、なんですよね?」
「……アカデミア高等部に入れる女子は基本、中等部から進学するブルー生のみな以上、そうなのだろうな」
先輩と呼ばれた男の受付員が、その問いに自信なさげに答える。
なにはともあれ、受験番号1番と同率一位で筆記試験を突破した受験番号2番のあの受験生に対して放った彼の発破の言葉も、紛れもない本心からのものだった。
◇
「いいぞぉー、110番ン!!」
「……(良きライバルになれるかもしれないな、1番クン)」
試験会場は現在、沸き立っていた。
デュエルアカデミア実技担当最高責任者クロノス・デ・メディチと、遅れてやってきた受験番号110番の受験生とのデュエル。
実技担当最高責任者とは即ち、このデュエルアカデミアの実技担当において尤も実力のある教諭であることを意味し、明らかにデュエルアカデミアの門を叩こうとする受験生に対する実技試験にしては度が過ぎている。
これは試験と銘打った……クロノス・デ・メディチによるドロップアウトボーイへの制裁であると、上の観客席から見ていた何人かの在校生は察していた事だろう。
だからこその、予想だにもしない結果。
あのクロノスの繰り出した切り札「
誰もが、予想だにしていなかった番狂わせに、会場は唖然とする他なかった。
「イェーイ、勝っちゃったオレ! やったあぁぁぁッ!!」
そんな彼らの計り知れない驚愕に目もくれず、そんな番狂わせを巻き起こしたとう本人はデュエルフィールドの上に立ちながら、観客席の皆に喜びのサインを送っている。
あのの実技担当最高責任者に勝てた事に対して驕ることもなく、ただ楽しいデュエルをし、それに勝って見せたという純粋な喜びのみが彼にあった。
「ちょっと面白いんじゃない、あの子?」
「……まだ1人、試験を受けていない受験生がいる」
観客席の最上階から見守っていた2人の男女がそんなやりとりをする。
興奮に包まれる会場に、また1人、受験生が入ってくる。
「……ちょっと、いいかな?」
「あら、貴方は?」
獣耳を思わせる髪型を腰まで下げ、その銀髪を一つに纏めた少女のような容姿の、少年。
赤い宝石のような目に、どことなく人を寄せ付けぬドライな空気を醸し出す少年。
その少年に話しかけられた青い制服の女子こと、天上院 明日香はこんな所にアカデミー以外の女子がいるのは珍しいなと思った。
「さっき受付員に今110番の試験中だって聞いた。随分湧き立ってるようだけど、アレがそう?」
「えぇ。試験の相手はアカデミアの実技担当最高責任者のクロノス教諭よ。最初は気の毒だって思ったのだけれど」
思わず、説明している明日香の口に笑みが零れた。
存外、自分も興奮を抑え切れていないのだと明日香は自覚する。
本当に、“彼”は面白そうだ。
「ふーん、二重の意味で出遅れたって訳か。やっぱり今日はツいてないな」
明日香の言葉を聞いた赤い目の女の子(?)はそう言って淡泊そうにため息を吐く。
「まあいい。ぼくもいつも通りやるだけだ」
「……その口ぶり、もしや君が遅れてやってきた2番の受験生か?」
「そうだけど」
「えッ?」
隣にいた青年の発言に、明日香は思わず少女の方を見返す。
あり得ない。多少ボーイッシュさは見受けられるが、顔も、声も、どう見たって女の子のソレだ。
アカデミアに所属する女子生徒はみな中等部からの進学組だ。
高等部から入学してくる女子なんて、特例でもないかぎり存在しないだろう。
つまり、この多少ボーイッシュな少女にしか見えないこの子の性別は……。
「貴方、男の子なの?」
「そうだよ。正真正銘、ぼくは生物学的に男だ」
それがどうかしたのか、と少年の淡泊な赤い目が明日香にそう問いかける。
『受験番号2番、門戸フィリア君。デュエルフィールドまでお越し下さい』
暫く彼の赤い目に見つめられていたら、女性試験管によるアナウンスが会場に流れる。
下の名前が横文字からして、何処かのハーフなのだろうか。
「……もうか。じゃあ行ってくる。また会えるかどうかは、試験の結果次第かな」
淡泊にそう告げて、赤目の少年は背を向けて手を軽く上げながら向かっていくのだった。
その背中を2人は何も言わずに見送った。
「う、うぐぐぐ……あり得ないーノ……私があんなドロップアウトボーイに……」
「クロノス教諭!! 至急お耳に入れたいことが」
「……な、何事なノーネ……」
懲らしめてやると決めた受験生に逆に返り討ちにされたことで、デュエルフィールドでショックのあまり膝を着いてたクロノス教諭に駆け寄ってきた受付員の1人がクロノスに耳打ちする。
「実はもう1人、それも受付期間過ぎに来た受験生がいて……」
「そんなの最早論外なノーネッ!! そんなドロップアウトボーイ以下は即刻追い出すノーネッ!!」
感情のあまり立ち上がったクロノスは受付員にそう詰め寄って怒鳴りつける。
飛んでくる唾を嫌そうに防ぎながらも、受付員は続ける。
「で、ですが……遅れてきた生徒は受験番号2番。あの1番の三沢くんと、筆記試験同率一位の受験生です」
「に、2番?」
「はい。しかも、110番の生徒と同じく電車の事故で、本人も事前に此方に連絡は取ってくれていましたし、遅延証明書だってちゃんと……」
「……ムムムムムム」
受付員から距離を取ったクロノスは腕を組んで悩み始めた。
あの三沢と同率一位という事は、先ほど自分が敗れたドロップアウトボーイとは異なり、優秀な生徒であろう事は疑いようがない。
それに加えて事前に連絡をしていたり、遅延証明書まで取ったりと、遅れて来たなりの向こうの誠意は見せている様子。
優秀な受験生を、そんな理由でむざむざと追い出すのは彼といえど憚れるモノがあった。
「分かったノーネ。但し……」
何かを決意するように、クロノスは顔を上げる。
「引き続き試験官はこの私が引き受けるノーネッ!! 勿論、試験用のデッキではなーく、自分のデッキを、使うーのデスッ!!」
その発言に、受付員はコイツ正気か、と疑うような目をクロノスへと向ける。
だが、こうなったクロノスを止める手立てを彼は持たず、受付員はため息を吐いて、あの少年に向けて心の中で謝る。
(済まない2番くん。電車が遅れてしまったばかりにとんだ災難だ。先の110番くんのような奇跡が2度起こるとも思えない……せめて、全力で教諭に抗ってくれ……!!)
せめて、あの2番の受験生がクロノスに善戦してくれことを祈った。
◇
デュエルコートのブザーが鳴り、試験を受ける最後の生徒がリフトでコートに上がってくる。
その姿を見たクロノスはニヤリと笑いながら挨拶をした。
「ボンジョ~ルノッ!! 私の名はクロノス・デ・メディチ。学園では実技担当最高責任者やってるーのデス! シニョーラ、貴方の名前を名乗りなさーイ!」
「……受験番号2番の門戸フィリアです」
「オーケー、シニョーラ・フィリア。これより貴方のデュエル・アカデミア入学の、実技試験を行うのーデス!」
「宜しくお願いします。……それと、恐縮ですがクロノス先生」
「何なノーネ? 質問なら今のウチーに、全部しておくのーデス」
コホン、と咳き込み、淡泊に告げる。
「ぼくは女ではなく男です。ですから、“シニョーラ”は……」
「……」
若干、気まずさと非難を込めるような目つきに、クロノスは思わず気まずそうに目を逸らした。
(マンマミーアッ!! 何たる失態なノーネ!! デュエルアカデミアの女子は、みな中等部からの進学組しかいないと知っていたノーニ、つい見た目に騙されて
これから優秀な生徒になるであろう受験生の性別を間違えてしまう己の失態を恥じつつも、クロノスはウォッホンと大きく咳き込んで場の空気を誤魔化した。
「そ、それでーワ、質問がないようなら、実技試験を始めるノーネ!」
「……分かりました」
────この先公、誤魔化したな?
内心でそう突っ込みつつも、デュエルディスクを構え始めたクロノス教授に対して、フィリアと呼ばれた受験生もまたデュエルディスクを展開して構えた。
『デュエルッ!』
互いにディスクにセットしたデッキからカードを5枚ドローし、開始を宣言する。
「試験の規則とーシテ、先行は受験生に譲るノーネ!!」
「分かりました。では先行、ドロー」
ドローフェイズ、デッキからカードをドローしメインフェイズに移行した受験生は暫し、手元にある6枚の手札を吟味する。
……内心では先行でドローできるというちょっとした懐かしさと感動に浸っていただけなのだが。
そんな受験生の様子を見ていたクロノスもまた、自分の手札に目を落として吟味し始めた。
(シニョーラ……じゃなくてシニョールフィリア、済まないノーネ。私も先ほど、大口叩いて敗れた失態をどうにか挽回したいノーネ!! シニョールフィリア、受験番号2番、筆記成績同率1位の貴方なら、相手に不足はないノーネ!!)
自分の手札を見ながらそう意気込むクロノス。
やがて、目の前の受験生は動き始めた。
「ぼくは手札から
ソリッドビジョンで現れた見たことのないカードに、クロノスは思わず刮目する。
「キコーザァ? 紅玉の宝札ゥ?」
またあのドロップアウトボーイの「羽根クリボー」のような自分の知らないカードを使うのかと、クロノスは思わず身構えた。
そんなクロノスに構わずに、受験生は効果の説明を続けた。
「手札からレベル7の『レッドアイズ』モンスターを1枚墓地に送り、デッキから2枚ドローする。
ぼくは手札から……『
受験生の言葉から聞こえた単語に、クロノスは思わず己の耳を疑った。
だって、その口から告げれたのは、世界に百枚と存在しない筈の、あのレアカードなのだから。
「ジーズッ!! ま、まさかーノ、レッドアイズッ!?」
目を仰天させて驚くクロノスの反応は無理もない。
驚くのはクロノスだけではなく、周りの観客席にいた他の受験生達や在校生、スタッフたちも皆同様に、まさかのレアカードの登場に驚いている。
『レ、レッドアイズだって!?』
『あのレアカードを、どうしてあんな子がッ!?』
『でも……せっかくのレッドアイズを墓地に捨てちまうなんて何考えてんだ?』
『あの受験番号2番、実は大したことないんじゃない?』
驚愕と、失望の声が飛び交う。
幸いにもそんな観客達の野次が逆にクロノスの頭脳を冷静にさせた。
(た、確かーに? レッドアイズを持っている事には驚きましたが、墓地に送られたのなら怖くはないのーネ! せっかくの強力なモンスターを墓地に送るなんて、このシニョールもやはり大したことないノーネ!!)
勝ちを確信したクロノスはしめしめと自分の手札に再び目を下ろした。
(今の私の手札にーは? 『融合』の魔法カードと、『《
ほくそ笑むクロノス。
そんなクロノスの内心など露知らず、受験生は自分のターンを進めた。
「更に
ぼくが特殊召喚するのは……『
「な、何ですートッ!?」
瞬間、受験生の前のモンスターゾーンから、炎があふれ出した。
あふれ出した炎は螺旋の奔流となり、収束していき、やがてその形はある姿を成してゆく。
かの青眼の白龍とは対照的な、比較的痩せ細った、鋭角的なフォルムの黒い竜。
召喚者とお揃いの、赤い眼を持つその黒竜が、その眼光をクロノスへと向けた。
『た、たった1ターンであのレッドアイズを召喚だって!?』
『墓地に送ったのはこのためだったのか!?』
『か、かっこいい……!』
『まさかこの目で直接見られる日が来るとは……』
観客席もまた沸き立つ。
前の受験番号110番の受験生の実技試験で起こった番狂わせに続いて、今度は伝説のレアカードの召喚された姿をこの目で拝めると来た。
もはや実技試験の枠を超えたエンターテイメントが、2回連続で巻き起こったのだ。
興奮もやむなしという奴だろう。
しかし、そんな観客たちの興奮を鬱陶しいと感じたのか、クロノスは歯ぎしりしながら頭を横に激しく振り始めた。
「~~~~ッ、ノンノンノンノンノンノンンンンンッ!! 確かーに、たったの1ターンでレッドアイズを召喚したのはお見事ですーが? 『思い出のブランコ』の効果で特殊召喚されたモンスターはエンドフェイズに再び墓地に送られマース!! 攻撃できない先行でやっても意味は無いノーネ」
「攻撃する必要はない」
「エッ?」
講義という名のダメ押しをするクロノスの言葉にそう返す受験生に、クロノスは思わず口をあける。
「
あんぐりと、クロノスの口が大きく開かれる。
確かにこれなら攻撃できない先行でもダメージを与えられるし、例えエンドフェイズに墓地に送られるのだとしても、墓地から特殊召喚する意味はある。
真紅眼の嘴のような細長い口が開かれ、黒炎の弾が収束していく。
そして、ソレは全てを焼き尽くす、殺意となってクロノスに放たれた。
「ノ、ノオオオォォオンッ!?」
クロノス LP4000 → 1600
悲鳴を上げるクロノス。
実際はただのソリッドビジョンで肉体的なダメージはないといえ、やはりリアルな立体映像なだけあってその迫力と恐怖を推して知るべし。
煙から姿を現したクロノスは咳き込みながらも立ち上がる。
(ゆ、油断したノーネ。さすがは筆記試験一位、この私に先行でライフを半分以上削るのは見事なノーネ。デスーが……)
「これで貴方は何もできないノーネ。とっととターンを終了して、レッドアイズを墓地に送るノーネ!」
「いや、これで終わりだ」
次のターンで一気に勝負を付けてやると意気込むクロノスの声を、可愛らしくも淡泊な声が無慈悲に遮る。
えッ、と再び口を開けるクロノスの前に、その死刑宣告は成された。
「更に魔法カード《魔法石の採掘》を発動」
デュエルディスクの魔法・トラップゾーンに差し込まれ、発動された1枚の魔法カードの立体映像が、クロノスの目に入る。
その効果を知っているクロノスは、思わず口を震え上がらせた。
「そ、そのカードは、手札を2枚捨てて、墓地の魔法カード1枚を手札に加えるカード……て、てコトーはぁッ!!?」
「墓地の《黒炎弾》を手札に。そして……再び発動する」
再び、黒竜の口が開かれ、禍々しく流動する黒炎が渦巻き始める。
最早、クロノスに止める手立てはない。
「あ、あり得ないーノ……」
後ずさり、クロノスは震え声で自身に向けられた黒炎を見ながら呟く。
次のターン、次のターンさえ回ってくれば、必ず勝てる手札だったのに。なのにその
「このわたくしーが、先行1ターン目で負けるなんて、あり得ないーノッ!!?」
頭を抱えながら震えるクロノス。
だが、そんな彼に与える慈悲を、目の前の黒竜は持たない。
主と同様、ただ淡々と、無慈悲にその黒炎をクロノスへと放った。
「ぼ、暴力反対ナノーネ……ノオオオオォォォンンンンッッ!!!!」
クロノス LP1600 → 0
クロノスの悲鳴ごと呑み込み、炸裂する黒炎。
……暫くして煙が張れると、そこには膝を着いて唖然としたまま、自分を負かした受験生を見つめるクロノスの姿があった。
「先行1ターンキル……うん、悪くない」
そんなクロノスすら目に暮れず、そう呟く受験生ことフィリア。
……いつも通りの淡々としたその口調は……心なしか少し弾んでいるようにも聞こえた。
「……それにしても」
呟いて、フィリアは思わず隣の方へ目を見やる。
そこには、またいつの間にか隣に浮いて此方を見ていた半透明の《閃刀姫‐ロゼ‐》の姿があった。
「いつも思うんだが、なんで真紅眼を場に出している時だけぼくの前から姿を消すんだ、お前?」
『─────?』
訝しげに見つめてくる
────まあ、もし真紅眼が苦手だっていうんなら、仕方ないか。
転生して以来の心の相棒だが、未だ彼女のことを理解できていないことを多少歯がゆく思いつつも、フィリアは未だ呆然とするクロノスに軽く会釈して試験会場を去って行くのだった。
騒然とする会場、自身に向けられる注目の視線に構うことなく、フィリアは淡々と会場を後にした。
そして────
◇
「合格通知。所属はラー・イエロー……勝ったな」
姉貴と同じカラーだ。
やったぜ。
誰にも知られないように、ボクは自室の部屋の中で軽くガッツポーズを取った。
……ロゼも、同じポーズを取ってくれた。
そうえいば《閃刀姫‐レイ‐》もクリーブランド姉貴と同じカラーだったな。
ロゼも喜んでくれたようで、ぼくも嬉しい限りだ。
・オリ主
なぜかアズールレーンの「モントピリア」の容姿で転生していた。しかし男だ。
見た目はモントピリアだが、下にはアレが付いてる。
入学した暁には、姉貴とお揃いの白いマントの代わりに、ラー・イエローの上着制服を横向きに羽織らせるつもり。
エースモンスターは真紅眼の黒竜。真の切り札は……。
・閃刀姫-ロゼ
オリ主に憑いているデュエルモンスターズの精霊。
主人公が真紅眼を召喚している間だけなぜか姿を消す。