真紅眼(あかめ)のモッピー   作:ナスの森

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出会い

 

「姉貴……3ヶ月間のお別れですね」

 

 整理整頓した自室。その隅にて今日も凜々しくて美しくてかっこいい等身大姉貴人形に語りかける。

 明日で暫しの別れだ。後悔がないように、せめて今日一日は姉貴とずっと一緒に話してみようと思った。

 姉貴と目を見つめ合う。

 ぼくと同じ赤い宝石のような目。はためく白いマント。流れるような金髪。そして、頼もしく男らしい、それでいて天真爛漫なはにかむような笑み。

 

「ぼくの寮はラー・イエロー。……正直、姉貴に相当する神の名を冠した寮生の階級が2番目なのか理解に苦しみますが、まずは姉貴と同じカラーの寮生になれたこと、嬉しく思います」

 

 まあ、カラー的なイメージで言うなら赤は確かにレッドライン、すれすれなイエローライン、将来安泰なブルーラインと劣等、中間、優秀といった具合に連想しやすいのは確かだ。必ずしも設立者の海馬社長の個人的な入れ込みが入っている……とは思いたくない。なら態々神の名を冠するなと突っ込みも入れたくなるが。

 

「……いっそのこと、本来の三幻神の階級に(のっとっ)って、下克上でも果たしてしまおうかとも思いますが、さすがにそれはぼく1人の力で出来ることじゃない。そうする時、姉貴はどのような方法を取るでしょうか?」

 

 ぼくの脳内姉貴が、目の前の姉貴人形を乗っ取るかのように話し始める。

 ────うーん、確かに1人でできることじゃないな。それを成し遂げられる、信頼できる仲間を集められるとも限らない。

 顎に手を当てて、脳内姉貴はそう話し始めた。

 

「やはり、ぼくでは無理なのでしょうか?」

 

 ────……うんうん。まずは自分の心に従ってやりたい事をしてみるといいんじゃないか? そして、同じことをやりたい仲間を見つける事が大切だ。

 

「仲間……ですか?」

 

 ────そうだ! 1人じゃできないって分かってるなら、まずは信頼できる仲間って奴を集めるんだ! そうすればやれる事だって増える。

 ────あと、もう一つ大切なこと。……どんな結果になっても、後悔しない事だ。例え果たせなかったとしても、全力を出し切らずに果たせないことが、1番悔いが残る事だからな。

 

「……なるほど。どんな結果になろうとも……参考になりました、クリーブランド姉貴……いえ、クリーブランド兄貴!」

 

 ────あ、兄貴はやめろって!? 私だってその……女の子なんだぞ?

 赤面しながらたじたじになった呟き始める姉貴に、ぼくの脳は有頂天になりそうだ。

 そうだ、姉貴はただかっこいいだけや男らしいだけじゃない。

 なにより……兄貴は女の子なのだ。

 かっこよさと可愛らしさも姉貴は持ち合わせているのだ。

 

「分かっています。姉貴はかっこいいけど、可愛らしい女の子でもあるって。ぼくはそういった意味でも姉貴に憧れていますから」

 

 そうだ。別にぼくはこの女の子らしい容姿で苦労したことはあれど、この容姿自体は好きなのだ。否、嫌いになれる筈がない。

 ────……で、でも……そう言いながら指揮官は、結婚指輪を私にじゃなくて……あの子にあげてるじゃないか……。

 

「……は!? そ、それは……そもそもぼくが姉貴と結婚なんて……畏れ多くて……」

 

 ────私はいつでも待っていたのに……結局指揮官が選んだのは私じゃなくて……あの子……。

 

「そ、それは言わないで下さい!? パチモンとはいえ、いまのぼくは姉貴の言うあの子自身でもあるのです」

 

 ────あの子を選んだのによりにもよってそんな事を言う指揮官は、少し許せないな。少しあっちで頭を冷やしてくるといいよ。

 泣きそうな顔で、それでいて冷たい表情になった姉貴がぼくを見下す。

 ……あぁ、そんな表情の姉貴も素敵で癖になりそう……じゃなくて!?

 

「ま、待って下さい姉貴!? もう少し、もう少しだけ話を……」

 

 ────さようなら……指揮官。

 

「あ、姉貴……姉貴ぃっ!?」

 

 それきり、脳内姉貴の声は聞こえなくなった。

 ……そんな、姉貴に見放されてしまった。ぼくはこれからいったいどうすれば。

 そんな考えを持ちながら顔を上げてみると、そこには相変わらずの満面なはにかみを浮かべる素敵な姉貴人形が立っている。

 脳内の姉貴は冷たかったのに、目の前にいる姉貴はぼくにやさしい笑みを浮かべてくれるまま。

 ……はっ、まさか!?

 

「まさか姉貴……ぼくがアカデミアに行っても後腐れがないように態とぼくを突き放して……あぁ、なんて優しいんだ」

 

 でも姉貴、その不器用な優しさはぼくにはお見通しです。

 だからこそ、その優しさにぼくは今日も救われた。

 たったの3年間、頑張れば良いのだ。

 

「姉貴の気持ちは分かりました。ぼくはアカデミアでも、姉貴の名に恥じないようにやってみせます!! だから見ていて下さい、姉貴」

 

 立ち上がったぼくは姉貴人形にそう決意を表明した。

 姉貴の激励は受け取った。

 もうぼくに怖い物なんてありはしない。

 

 

 ……ふぅ。

 

 

『…………………ハァ』

 

 

 後ろでため息を吐かないでくれロゼ!

 茶番なのはぼくだって分かってるんだよぉ!!

 

 

     ◇

 

 

「ハァ~……」

「まだ落ち込んでんのか?」

「だってあんな事を言われたら……」

 

 ヘリに乗ってでの空の旅を終え、デュエルアカデミアの入学式は校長による挨拶で幕を閉じることになった。

 各々が予め通達されていた所属寮への配属が決まったのも束の間、気持ちのいい学園生活に胸を馳せていた2人に、一つの突きつけられた現実によって打ちひしがれていた(一名はそんなこと気にもしていなかったが)。

 

「でも、オレは赤が大好きだぜ。燃える炎、熱い血潮……熱血のオレにはお似合いだぜ!!」

 

 オシリスレッド……三つに階級付けられた寮の中でレッドゾーン、つまりは危険域にいる生徒たちが所属する寮。

 他二つの寮と比べても建物、内装、その他環境諸々が優遇されていない寮に所属することになってしまったオシリスレッドの新入生こと丸藤 翔のそんな落ち込んだ態度とは逆に、そんな翔が兄貴と慕う、もう1人のオシリスレッドの新入生こと遊戯 十代は青空を見上げながら笑顔で熱弁する。

 

「そ……そうだよね? そうだ……今から落ち込んでどうするんだ。頑張れボク、ファイト! ……気張って行こう!」

「……うん?」

 

 そんな十代の熱弁を受けて幾分かやる気を取り戻した翔は熱意を新たにする。

 ……が、そんな自分の世界に入った翔を傍目に置き、別のことに興味を持ったのは十代は翔から離れてその方向へと走り出した。

 

「始まる前から落ち込むなんてだらしなかったよ、兄貴……」

「おーいっ、そこのお前!!」

「あ、あれー……?」

 

 自分に見向きもせずに背を向けて走って行く十代の後ろ姿に呆気に取られながらも、次の瞬間、十代が走って行く方向にいた人物に、翔は思わず驚愕の声を上げた。

 

「あ!! あ、あの人ってもしかして!!」

 

 慌てて翔も十代の後に続く。

 オシリスレッドとも、ラーイエローとも、オベリスクブルーとも取れない白いジャケットを、袖に通さずに右側の肩に、サイドマントの如く横向きに掛けたその人物に、2人は見覚えがあった。

 赤い目に銀髪と特徴的な見た目に、女の子と見違うような中性的な見た目をした生徒。

 

「おーい、お前だろ!? 入試でクロノス先生を先行一ターン目で倒した奴って!!」

「……お前達は?」

 

 振り向いたその顔は、正に赤目の美少女か、それとも美少年と称するべきか。

 しかしそんな美顔とは裏腹に、そこに纏うクールでドライな雰囲気が、翔を一歩を後ずらせた。

 しかしそんな少年に対しても十代は臆することなく話しかける。

 

「オレ、オシリスレッドの遊戯 十代ってんだ!! これからよろしくな。後ろにいるのは……」

「ど、どうも、丸藤 翔です。よろしく、えっと……黒炎弾の人?」

「……なんだその呼び名は」

「ひぃッ! ご、ごめんなさい」

 

 訝しげに目を細めた赤目の少年の表情を見た翔は思わず十代の背に隠れてしまう。

 密かに新入生たちの間で呼ばれていた渾名でつい呼んでしまった翔はしまったと思いつつも、十代の背に隠れるしかなかったのである。

 只でさえドライな空気を醸し出しているのに、眉まで顰められたら、端から見れば不機嫌そうにしか見えない。

 

「そうそう! 黒炎弾だよ黒炎弾!! オレも遠くで見てたけど、あのレッドアイズを1ターンで召喚してクロノス先生を倒しちまうなんてすげえぜ!」

 

 ま、オレもクロノス先生に勝ったけどな、と付け足して十代は笑顔でピースしながらそう言う。そんな十代に毒気を抜かれたのか、美顔の少年は一瞬だけ目を唖然と開きながらも、いつもの仏頂面に戻って答え始めた。

 

「手札がたまたまよかっただけだ。あんなのはすごい内に入らない」

「そうかぁー? 運も実力の内だって言うじゃねぇか。オレだってあの時《ハネクリボー》を引けてなかったら負けてたしな!」

「お前は……そうか、あの番狂わせの110番か。そこまで言うなら褒め言葉として受け取っておく」

 

 目を閉じて悟ったようにそう言う少年の表情は、幾分か和らいでいた。

 案外、自分に向けられる賛辞は素直に受け取ってくれる性格なのかもしれないと翔は目の前に美少年に対する苦手意識を多少和らげる。

 

(でもこうして見ると……本当に男の子なのか女の子なのか分からないや……)

 

 少年をしみじみと観察しながら、翔はそんな事を思う。

 人を寄せ付けぬ雰囲気は、見る人によってはミステリアスにも映るだろうか。

 

「そういえばお前の寮ってどこなんだ。なんか回りの奴と違う制服着てっけど……」

「……ちょっと分かりづらいけど、ここを見れば分かるか?」

 

 少年の右肩に掛けられた白いジャケットを指差ながらそう聞いてくる十代に対し、少年はそのマントのある“部分”を指さす。

 よく見ると、そのジャケットは他の生徒がよく来ている制服の、寮の色を示す色と白いラインの色を反転させたような色になっている。思い出してみれば、寮の同室にいた前田隼人も同じようなタイプのレッド生の服を着ていたことを翔は思い出した。

 つまり、メイン色の部分が白になっているだけで、本来なら白い色をしている部分が彼の所属寮を示していることになる。

 

「ラー・イエローっすか……」

「希望を出せば制服を変えて貰えるからな。パンフを読んでこっちにしてもらった」

 

 横にかけた白いラーイエロージャケットをポンポンと叩きながらそう答える美少年の顔は、どこかなく誇らしげだった。

 色といい、ジャケットの羽織り方といい、彼なりのこだわりでもあったのだろうか。それを推察することは翔にも、十代にもできなかった。

 

「ちぇッ、なんだ。同じ寮なら毎日お前とデュエルできるって思ったのになぁ……」

 

 両腕を頭の後ろに組んで十代は残念そうに言う。

 

「決めるのは学園側だ。ぼく達が泣き言を言ってもどうにもならないだろう」

「そうだよ兄貴……こんな人がラーイエローじゃなくてオシリスレッドだったら、ボク達なんて今頃……いや、兄貴は違うか……」

 

 そんな十代を一瞥しながら少年はそっけなく答える。

 それに同意するように翔が俯きながらそう答えるが、自分と違いクロノスを倒した十代なら所属寮はどうあれ落ちることはなかっただろうと思い直す。

 ……そんな風に俯いていたら、刺すような視線を感じて翔は思わず見上げる。

 そこには……相変わらずのドライな赤目が翔を事なげに見下していた。

 

「ひぃッ……な、なんなんすか?」

……自信がなさすぎるのも困り物だな……いや、なんでも」

 

 そっけなく目を瞑りながらそう答える少年に、翔はタジタジになりながら十代の背に再び隠れるしかない。

 そんな同い年の弟分に十代は多少困った顔で笑いながらも、再び少年の方へ向き直る。

 

「そういや、お前の名前まだ聞いてなかったな!」

「……ラー・イエロー、門戸(もんど)フィリアだ」

「そっか!! それじゃあフィリア、これからオレ達3人で施設を見て回ってみねえか!? デュエルフィールドを捜しがてらお前ともデュエルしてみてえしよ!」

「えぇっ!?」

 

 そんな十代の提案に1番に驚いて声を上げたのは弟分の翔だった。

 何分、最近不仲で碌に話もしていない自分の実の兄貴と雰囲気が似ているものだからか、中々この少年に対する苦手意識を翔は拭えないでいるのだ。

 

「だってよぉ、あの真紅眼と戦えるんだぜ!? クロノス先生を1ターンで倒した奴と戦えるなんて、ワクワクするだろ?」

「そ、そんなの兄貴だけっすよ~」

 

 確かにかっこいいけれども、と内心で付け加える翔だが、それ以上にそのレッドアイズを使って兄貴でさえ苦戦したクロノス教諭をたったの先行1ターンで倒して見せたフィリアと一緒にいることの恐怖の方が勝ってしまう翔であった。

 だが、不幸なことに向こうは表情に反して案外乗り気だったのか、木に寄り掛かっていた体勢から身を乗り出して十代の誘いに乗っていた。

 

「……別に構わない。ぼくもお前のことは少し気になっていたしな」

「へへっ、そうこなくっちゃな!」

「そうと決まれば早く行くぞ。時は金なり、だ」

 

 そう言って、白いラーイエローの制服を横掛けに羽織った少年は足早に校舎の方へと背を向けて歩いて行く。

 

「あ、ちょっと!」

「へへっ、せっかちな奴だな。あいつもデュエルがしてえって事か!!」

 

 行こうぜ翔、と十代も遠くにいる少年の背を追いかけ始める。

 

「あ、待ってよ兄貴!」

 

 不安を抱きつつも置いて行かれるのはもっと嫌なのか、遠ざかっていく十代の事を叫びながら翔もまた2人の背を追いかけた。

 

 

 

 

 

『クリクリ~』

「ん?」

 

 突然、十代の前に姿を現したハネクリボーの声が聞こえたような気がした十代は思わずハネクリボーのカードを取り出して聞く。

 

「どうしたんだ相棒?」

『クリッ、クリッ』

 

 カードに描かれてあったハネクリボーのハネがある方向を指さすように、動いていたのでそれに釣られて十代もその方向を見やる。

 

 

「あれは……」

 

 そして、十代は見た。

 

 黒いベレー帽を被り、黒い軍服を身に纏った少女。

 容姿の特徴は主であるフィリアと特徴が重なっており、少々暗めの銀髪に赤目が特徴の少女が、フィリアの隣を悠々と浮きながら移動していたのだった。

 よく見るとフィリアの目線も時々に其方の方に向いていることから、フィリアも自分と共にいる半透明の少女のことは見えているようだった。

 

「見たことねえモンスターだ……」

『クリクリ~』

 

 十代の呟きにカードの中のハネクリボーも同意するように鳴く。

 あとでもう一つ、話したいことができたなと考えつつも、十代は再び前を歩く少年とのデュエルに思いを馳せるのだった。

 

 後に、十代は自分の手元にいる相棒も同じように見えるようになるという事をまだ知らない。

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