真紅眼(あかめ)のモッピー   作:ナスの森

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再会

 

 なんか前世のCMとかでめっちゃ見覚えのある主人公らしき奴に話しかけられた(小並感)。

 名前も何か「遊城 十代」とか名乗ってきたし、GXをあまり知らないぼくから見ても話しかけて来たその人物が誰であるかは一目瞭然である。

 ……何か隣に半透明の「ハネクリボー」が見えるし、見事に精霊付きか。なるほど、5D‘sの龍可と同じように精霊も憑いていると。今の所見えている様子は……なさそう。

 でも何か他にも微弱ながら憑いている雰囲気があるし、精霊付きとしての格で見れば潜在的にはぼくよりもずっと高そうなのだ。……うん、そう考えると間違いなく主人公だな、間違いない。脳内姉貴もそうだと言っているから間違いない。さすがです姉貴(存在しない記憶)。

 ……一応、十代の後ろにいる低身長の水色の髪の男の子にも見覚えがある。名前はなんだっけ……骨藤翔だっけ。……え? 丸藤翔?

 やばい、声が似てるもんだから無印デュエルモンスターズの骨塚の方と混同してしまった。ごめんよ翔くん。

 見た目人を寄せ付けない雰囲気を醸し出してるモントピリアの容姿に臆する様子もなく話しかけてきてくれる十代に戸惑う一方で、翔くんとやらはチラチラと此方を伺っては、ぼくが目を合わせようとすると、さっと十代の背中に隠れやがる。

 臆病……いや、違うな? 臆病なのは副次的で、どちらかと言うと、“劣等感”か? 自信のなさの裏には、それと似たようなものが伺い知れる目だ。誰かと比較され続けてきたか、もしくは自分が嫌でも比較せざるを得ない程の人間が近くにいたのか。

 

 ……気後れしてるような雰囲気は、昔の“準”を見ているようでちょっと懐かしくもなる。あいつ今頃どうしてるかな?

 

 あまり他人を勝手に自分の物差しで測るのはよくないのは分かってるんだが、正直この時点でぼくがこの丸藤少年に抱く印象はあまりよろしくはない。とはいえ、推定主人公を兄貴と慕ってその背に付いていこうとする姿勢を見るに、他人を見る目はあるのかもしれない。……が、ぼくも遊城十代という人間は前世込みでもあまり知らないため、そう評するのも早計か。

 

 何にせよ、ぼくが踏み込むべきことではないか。

 ……そんな事を考えていたら、主人公の十代からアカデミアの施設を回りがてら「デュエルしようぜ!」みたいな事を言ってきた。あぁ、うん、そういえば、遊城十代って確かこういうキャラだったっけ?

 この世界では正直めずらしいことではないのかもしれないと思っているぼくも相当毒されていることだろう。

 何せぼくの頭の中の優先順位は第一に姉貴、第二に今世の両親とロゼ、その第三くらいにデュエルが来るからな。ソリッドビジョンで自分のモンスターの立体映像を間近で見れ、しかも共に戦えるときたもんだ。そうなるとソリッドビジョンを開発した社長率いるKC社の存在はある種、世界の在り方を左右するターニングポイントのような物なのだろうか。カードが主軸になる前の遊戯王は、どちらかというと様々なゲームを題材に扱っていたしな。

 

 ぼくも主人公に興味はあったので、十代の誘いは了承した。

 ……丸藤少年よ、なんでぼくも同行するってだけでそんな嫌がるのだ?

 いくらぼくでも泣くぞ? 泣くよ?

 姉貴人形に抱きついて大声で泣いて警察呼ぶぞ?

 

 いや、泣かないし、そもそも愛しの姉貴人形がこの学園にはいないから抱きつきようもないが。

 ……ハァ、時間を見てここでも作ってみるか。

 面倒とは思わない。クリーブランド姉貴のためならどんな労力だって惜しんだりはしないぼくだからな。

 

 そんなこんなで3人と一緒にデュエルアカデミアに入る。

 何か十代がデュエルの匂いがするとか言ってぼくの後を追い越して先行し始めやがった。

 いやデュエルの匂いって何だよ(哲学)。

 

 思わず内心でそう突っ込むも、そこはさすが主人公と言った所か。

 暫く歩いていたら、海馬ランドの試験会場を思わせる、観客席に囲まれた広大なデュエルフィールドのある広場に出たのだった。

 

 ウキウキしてここでデュエルしようと話し出す2人だったが……なんか入り口の上にオベリスク・ブルーの紋章が見えるから、ぼくたちが入ってはいけない場所なのでは、とぼくが訝しんでいると。

 

 案の定、先客のオベリスク・ブルーの生徒に注意された。

 十代や丸藤少年のことを「ドロップアウトボーイ」と言っていたのは少々引っかかったが、態々挑発に乗ってやる義理もない。

 ここは大人しく引き下がろうと十代に声をかけようとしたが、十代は「じゃあお前オレと勝負しないか? それならいいだろう?」とか笑顔でそう言ってきた。

 ……まあ、向こうが了承すればそれもいいのか。

 だがデュエルとはそもそも互いの闘う意思という同意があって初めて成立するものだ。向こうがソレを受けるかどうか?

 

 そう思っていたら向こうが少々驚いたように。

 

 

「万丈目さん!! クロノス教諭に勝った、110番と2番ですよ!」

 

 

 1人のオベリスク・ブルーの生徒の言ったその言葉に、ぼくは思わず思考が停止した。

 ……万丈目、だと?

 いや、まさかそんなことが。

 

 ……足音がして、思わず其方を見上げる。

 観客席の方から降りてきた、もう1人のオベリスク・ブルーの生徒。

 降りてくるや否や、十代の方を見下ろしてしかめっ面になるソイツの顔をぼくはよく知っている。

 

 次の瞬間、ソイツは十代の隣にいたぼくの方に目を移すと同時、向こうは今度は驚愕のあまり目を見開いていた。

 

 準!? なぜ準がここに!? 逃げたのか? まさか自力で脱出を?

 

「別に逃げてなどいない!!」

 

 ……ぼくの一瞬のアイコンタクトを読み取ってこの反応、やっぱり目の前にいるこのオベリスク・ブルーの制服を着たこの男は、ぼくの幼馴染みこと万丈目 準であるのだとようやく理解した。

 

 

     ◇

 

 

「……なぜ、こんな所にいる?」

 

 叫びたい衝動を必死に抑えながら(既に叫んでしまったが)、万丈目はなんとか喉から絞り出した疑問を口にする。

 ────えぇい! なぜ彼奴がこんな所にいる!?

 いまオベリスク・ブルーの生徒達……否、ある意味学園中において噂になっている受験番号こと110番がいるのはまだいい。

 身の程知らずではあるが、ドロップアウトボーイらしくはある。

 ……問題は、その隣にいる、見覚えのある顔。

 入試で彼の顔を見たときは、自分には見せたこともなかった真紅眼の黒竜と「黒炎弾」による苛烈なバーンダメージコンボであのクロノス教諭を先行1ターンで仕留めるという所業を観客席から目撃した時は、隣にいる110番がクロノス教諭を倒した時よりも大きく口を開けて唖然としてしまったのを覚えている。

 

 その顔を忘れよう筈もない。

 3年ぶりの再会ではあるが、色を反転させたラー・イエローの制服をマントのように横向きに掛けたその姿、相変わらずの変わり者っぷりには安心感すら覚える。

 ある意味自分以上に人を寄せ付けない空気を放ちながらも、男性らしからぬ女の子のような容姿が多少はその怖さを緩和している。

 銀髪に赤い目、少女のような容姿ながらも人を寄せ付けぬ空気を放つその男を、万丈目 準は知っていた。

 なぜなら、コートの入り口から観客席にいる自分を見上げるソイツは、自分の幼馴染みだったのだから。

 万丈目は、できれば彼に会いたくは無かった。

 ────同じデュエルアカデミアに来ても、あいつは精々がラー・イエローだ。オレと鉢合うことはまずないだろう。

 そう、高を括っていたのだが、まさか、こんな所で再会してしまうなんて。

 

「……久しぶりだな、準。元気そうでよかった」

「……ッ」

 

 そんな此方の内心などお構いなしに、眼下の幼馴染みはさも何の事もないように淡々と自分にそう告げてきた。……だが、その眼の奥に垣間見える喜色の色が、万丈目の複雑な思いを募らせる。

 

「え? あいつ、お前の知り合いか?」

「まあね」

 

 意外だったのだろうか、隣にいたオシリス・レッドのドロップアウトボーイが隣にいる幼馴染みに聞くと、幼馴染み……門戸フィリアは淡々と頷いて答える。

 

「お前が連れてきてくれなきゃ、ぼくは準に気付かないままだった。ありがとう、十代」

「……え? ハハッ、そんな事で礼を言われちゃ照れるぜ」

 

 一差し指で頬を掻きながら、脳天気に照れている110番こと遊城十代を見て、万丈目は思わず其方を睨み付けた。

 ────お前か!? お前のせいか!?

 クロノス教諭を倒した忌々しいドロップアウトボーイが、さらに自分と彼を引き合わせた疫病神でもあった事を知り、万丈目の十代に対する嫌悪は更に膨れ上がった。

 後で痛い目に合わせなければ気が済まないと、そう思うくらいには。

 

「お前、万丈目さんを知らないのか!?」

「しかも万丈目さんを下の名前で呼ぶとは、ラー・イエローごときが頭が高いぞ!」

 

(えぇい、お前等は黙ってろ!!)

 

 どうすればこの場から逃げることができるか、そう考えていた万丈目にとって、普段自分の下に付いている2人の取巻きの言葉は邪魔以外の何者でもなかった。

 

「同じ1年でも、中等部からの生え抜き! 超エリートクラスのナンバー1だぞ!」

「未来とデュエルキングと名高い……万丈目 準さまだ!」

 

 両手を振りながら自分を褒め称えてくれる2人の言葉が、今ではうっとうしい。

 しかし、更にそこに水を差すのは遊戯十代だった。

 

「おかしいな」

「……何が?」

「だって、デュエルキングって1番の事だろう? この学園の1番はオレだからさ!」

 

 親指で自分を指差ながら得意げに答える十代。

 ────せめて隣にいる奴のように筆記試験で満点を取ってから言え!

 腕を組みながらそう内心で突っ込みを入れる万城目。普段なら大声で笑ってやるところだが、そんな余裕は今の万丈目にはなかった。

 そんな普段の万丈目の言動を代わりにとったのは、あろうことか取巻き2人組だった。

 

「フ……フハハハハハハッ!!」

 

 笑い出す2人。

 ────だから、お前達が1番うるさいと何度言えば分かる!?

 

「ドロップアウト組のオシリスレッドが!? 身の程を思い知れ!!」

「お前も、万丈目さんの知り合いか何だか知らないが、ラー・イエロー如きが万丈目さんを下の名前で呼ぶとはな!!」

 

 笑い声から一転、2人は表情を顰めながら十代とフィリアに向けて怒鳴りつける。

 ────……いい加減、黙らないか。

 

「いいか! お前はラー・イエロー! 対して万丈目さんは超エリートクラス、オベリスク・ブルー1年のトップだ。昔はどんな関係だったか知らないが、今のお前と万丈目さんでは天と地ほどの差がある!」

 

 馴れ馴れしくするな!、とまるで払いのけるかのように、フィリアに向けて手を振るう取巻きに、ついに万丈目の沸点が振り切れようととしたその時。

 

「で、それが?」

 

 だが、そんな万丈目の怒りを差し止めたのも、フィリアだった。

 

「な、何?」

 

 熱弁してみせたのに、何のこともないように聞くフィリアに、2人は狼狽えたように前に出る。

 威圧してくる2人に対し、フィリアはすまし顔のまま向き直る。

 

「準がすごい奴だって事くらい、昔から知ってる。今更お前達に言われることじゃない」

 

 ……本当に、何の事もないように、フィリアは涼しげに言い切った。

 言い返されるどころか、すまし顔で肯定されるとは思っていなかったのだろうか、2人は唖然としながら後ずさる。

 

「……ッ」

 

 腕を組む万丈目の指が震える。

 ────お前のその目が、言葉が……昔から嫌だった。

 

 

「……それよりも────お前達の方はどうなんだ?」

 

 

 途端に、フィリアの纏う空気が変わる。

 今まで涼しげに2人の言葉を流していたフィリアの目、鋭く赤い眼光を放ちながら取巻き2人を射貫いた。

 

「な、」

「なんだと?」

 

 今まで強きだった態度はどこに言ったのか、フィリアの眼光を受けた取巻き2人は怖じ気づいたかのように後ずさる。

 

「昔から多かったんだ。お前達みたいに、準の事を褒め称えながら湧いて集まってくる蛆虫どもが」

「な、何を言って……」

 

 一歩踏み出すフィリア、また一歩下がる取巻きたち。

 

「実態は、たった1度の失敗で勝手に準を見限っていく奴ばかり。お前たちからは、其奴らと同じような匂いがするのは、ぼくの気のせいか?」

 

 何の表情も変えないフィリアだが、目だけは笑わずにじっと2人を見つめる。

 

「もしお前達が、其奴らの同じような連中だったら……ぼくは、お前達を許さない」

「────あ……」

 

 真っ直ぐ見据えながら、フィリアは2人にそう言い切る。

 唖然とする2人だが、その言葉が何より胸に刺さったのは、他ならない万丈目だった。

 その言葉に、過去に言われた言葉が掘り起こされる。

 

『なら、ぼくがお前を守ってやる』

 

 ────姉貴なら、そうしただろうしな。

 そんな風に付け加えながら、堂々と言い切った記憶の中にあるフィリアの表情と、今のフィリアの表情は同じだった。

 

「な、なんだと……!?」

「こいつ、女みたいな顔しながら言わせておけばッ」

 

 言いたい放題言われて腹が立ったのだろうか。

 取巻きの1人がずんずんとフィリアの方へ歩み寄っていく。

 それに対してフィリアは動じる様子もなくじっと待つ。

 

「あ、おい……!!」

 

 一色触発の空気にさすがの十代もまずいと思ったのだろう。

 フィリアを庇うようにして前に出ようとするが、その前に万丈目が大声で制止する。

 

 

 

「ビークワイエット!!」

 

 

 

 広間中に響く万丈目の声に、全員が視線を一斉に万丈目に向ける。

 一色触発の空気が薄れたのを確認した万丈目は気付かれないように、すぅ、と息を吐いた後に取巻き2人を見下ろしながら言った。

 

「諸君、はしゃぐな。其奴ら、お前達よりやる。そこの110番は入学試験で手抜きしたとはいえ、一応、あのクロノス教諭を破った男だ」

「実力さ」

 

 自信満々に言い返す十代。

 

「どうだか。……尤も、お前の方は手を抜く暇すらなかったようだがな。相変わらず無茶苦茶やりやがる」

「……見ていたのか。声くらい掛ければいいのに、相変わらず性格が悪いな、準は」

「ここでは万丈目“さん”と呼べ。早々に帰っていったのはお前の方だろう。お前こそ、その人を寄せ付けない態度をどうにかしておけ」

「自分を棚に上げてよく言うな」

「オレはいいのさ。嘗められるわけには行かないからな。だがお前は違うだろう?」

 

 緩慢に笑って見せながら、万丈目は眼下の幼馴染みにそう言い放つ。

 ……今の自分の笑みは、果たして虚勢を張れているだろうか?

 片隅に思い浮かんだその考えを即座に打ち消しながら、ただただ緩慢に笑う。

 

 暫しの間、万丈目とフィリアは見つめ合った。

 言いたいことがあるのは、万丈目も同じだ。

 だが、そうしては態々フィリアに黙ってアカデミアの中等部に入ったのが台無しになる。

 だから、万丈目はここから去ることにした。

 

「行くぞ、お前達」

 

 取り巻き2人にそう声を掛けて万丈目は背を向けて観客席を登っていく。

 

「お、おい、待てよ!」

 

 慌てて後を追いかける取り巻ち達と共に去って行く万丈目の背を、十代が呼びかける。

 それに振り返ることなく、万丈目は目を瞑りながら十代に言った。

 

「ドロップアウトボーイ君、ソイツの顔に免じてここは使わせてやろう。オレからの洗礼はまた後回しにしてやる。……ソイツとデュエルして、自分の身の程を先に知っておくのだな」

 

 最後に嘲るようにそう笑いながら、万丈目は取り巻き2人を引き連れてそのまま去ってしまった。

 残されたのは、十代たち3人のみだった。

 ……否、正確には4人か。

 

 

「……まさか、あの万丈目くんがデュエルフィールドを譲ってくれるだなんて」

 

 

 コツ、コツと物陰から足音が聞こえると共に、3人は一斉に其方に振り向く。

 そこには、白を基調としたブルーラインの制服を身に纏う女性が立っていた。

 この学園では数少ない、デュエルアカデミアの女子生徒の1人である。

 

「……わぁ、綺麗な人」

 

 ウットリと目を輝かせながら女性を見上げる翔。

 

「お前は……」

「初めまして。そして貴方の方は久しぶりね、門戸フィリア君。私の事を覚えているかしら?」

「……入試会場で話したな。あの時はどうも」

「どういたしまして、天上院明日香よ。これからよろしく」

 

 3人にそう微笑みながら自己紹介する明日香に対して、十代と翔の2人は少々顔をにやつかせながら自己紹介した。

 

「オレ、遊戯 十代。これからよろしくな!」

「あ、あのボク……丸藤 翔といいます……」

 

 十代と翔の自己紹介に明日香も笑みで返す。

 

「それよりも貴方達、万城目くん達の挑発に乗らない事ね。あいつら……ろくでもない連中なんだから」

 

 一転して、笑顔から険しい表情に代わり、明日香は万城目たちが去って行った後を睨み付けながら、吐き付けるようにそう言った。

 

「……へぇ」

「え?」

「態々そんな事を教えてくれるなんて……ひょっとしてオレに一目惚れか!?」

「あ、兄貴そんなあり得ない事……」

 

 呑気な笑顔で自分の顔を指差ながらそんな調子のいい事を言ってくる十代に、明日香は思わず唖然となるが、しばらくしてクスリと、微笑んで流す。流された十代は少し肩を落として落胆し、翔はそんな自分の兄貴分を苦笑しながら見つめる。

 

「……それよりも、“ろくでもない連中”というのはどういう事だ?」

 

 他2人が明日香の言葉に疑問を持たない中、フィリアは訝しげに眉を顰めながら明日香の方を見る。

 見ようによっては睨み付けてるとも取れるその眼光に明日香は内心またビクリとなったものの、物怖じせずに答えた。

 

「言葉通りの意味よ。(もっと)も、貴方に対しては目に見えて態度が違ったけど。あの万丈目くんと知り合いだったなんて、驚いたわ」

「準は確かに見栄っ張りで尊大だが、ろくでもない奴じゃない。だが、さっきの十代への態度は……」

「それは、これから貴方の目で確かめることね。私は貴方と一緒にいたころの万丈目くんを知らないし、ここでの彼の事しか知らないから」

 

 明日香の言葉に、フィリアは煮え切らない様子ながらも引き下がる。

 明日香としても彼らの関係は気になる所ではあったが、それよりも3人に話さなければならないことを思い出し、話題を変えた。

 

「そろそろ各寮で新入生の歓迎会が始まる頃よ。そろそろ自分達の寮へ戻った方がいいわ」

 

 再び笑みを浮かべてそう言う明日香に、十代たちははっとなる。

 

「そうだ、寮に戻るぞ……っていや違う! オレ、フィリアとデュエルをしにここに来たんだった!」

 

 寮に戻ろうと踵を返した十代だが、そもそもここに来た用事を思い出してフィリアの方を見やる。

 寮に戻りたい気持ちはやまやまだが、それ以上に今か今かとフィリアの方へ熱い視線を向けている。

 無論、フィリアもそれに答える腹づもりだ。

 

「……せっかく準が譲ってくれたんだ。早く済ますぞ」

「へへッ、そうこなくっちゃな!」

 

 互いにデュエルディスクを構え、デュエルフィールの上に立つ。

 

「ちょ、ちょっと貴方達ッ!?」

「ふ、2人ともぉ~、早くしないとボクら歓迎会に遅れるよ~!?」

 

 いきなり歓迎会のことを無視してデュエルフィールで向かい合う2人のデュエルリストに、明日香と翔が呼びかけるが、2人は微動だにせずに互いに見つめ合った。

 

「せっかくここまで来たんだ、やらなきゃ損だぜ!」

「早く終わらせる。それでいいだろ?」

 

 外野からの呼びかけにそれぞれそう答えながら、2人はデュエルディスクのスイッチを入れ、展開する。

 十代はレッド生用に支給された赤いデュエルディスクを、フィリアも同様に支給された黄色いデュエルディスクを構え、互いのライフの数値がディスク上に表示された。

 

 こうなった以上、デュエルを止めようとする人間はいない。

 

『デュエル!』

 

「は、始まっちゃった……」

 

 弱った様子で呟く翔。

 なんだかんだで、十代だけでなくフィリアも負けず劣らずのデュエルバカなのではないかと翔は思い始めていた。

 

「……仕方ないわね。私も同席させてもらおうかしら」

 

 腕を組みながらも、明日香もまたこのデュエルを見守ることを選んだ。

 口調とは裏腹に、2人を────正確にはフィリアの方を見上げる明日香の表情は真剣そのものだった。

 

(兄さんと同じ真紅眼(レッドアイズ )使い……入試では1ターンで終わってしまったけれど、同じくクロノス教諭を倒した彼が相手なら……必ず、兄の手がかりを掴んでみせる)

 

「ぼくのターン」

 

 フィリア 手札 5 → 6

 

 先行はフィリアの方だった、ドローフェイズで手札は6枚となり、フィリアはその6枚の手札を数秒吟味する。

 

「『ダークフレーム』を召喚」

 

《ダークフレーム》

☆4/闇属性/悪魔族/攻:1500/守:0

 

 召喚したのは、モンスターと形容してよいのか判断に困る代物だった。

 一言で言い表すのならば、黒い闇の立方体の集合体。

 それらが絶えず互いの位置を移動をしながら、さながら蠢く闇のような不気味さを醸し出していた。

 

「これは……」

「なんか気持ち悪いっす……」

 

 さっそくの異形のモンスターに対戦相手の十代も、翔も困惑する。

 対して明日香は動揺せずに見守っていた。

 

「『ダークフレーム』は闇属性の上級モンスターを生け贄召喚する時、2体分の生け贄とする事ができる」

 

 フィリアの説明に、十代は気付いたように顔を上げる。

 

「って事は……」

「早く倒さなきゃ、レッドアイズが召喚されちゃう……!」

 

 口を押さえながら翔が慌てた表情になる。

 入試で見せたフィリアのエースモンスターを考えれば、彼がなぜこの異形なモンスターを態々デッキに入れているのかは明白だった。

 十代は手札を吟味し、次のターンまでにあのモンスターを倒さねばと意気込むが。

 

「更に魔法カード『二重召喚(デュアル・サモン)』を発動。このターン、ぼくはもう1度通常召喚を行える」

「ッ、それじゃあ……!」

「フィールドの『ダークフレーム』を生け贄に……来い、『真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)』」

 

 『ダークフレーム』のソリッドビジョンが薄くなるように消え、その闇の残滓から灼熱の炎が吹き上がる。

 対戦相手の十代も、翔も、そして明日香もその光景に息を呑んだ。

 入試試験の時と同様、先行1ターン目からのレッドアイズの召喚。

 しかも入試の時は効果による1ターン限りの特殊召喚であったが、今度は先行での生け贄召喚だ。

 当然、次のターンもフィールドに残り続けるし、そうなれば十代は必然的にこの黒い竜を倒さなければならない。

 

『グオオオォッ!』

 

 巻き上がった灼熱の炎の中から姿を現したレッドアイズが、その咆哮を会場中に響かせる。

 

「これがあの伝説のレアカード、真紅眼(レッドアイズ)! 何度見ても迫力あるぜ!」

「や、やっぱりかっこいい……!」

「また、先行1ターン目でレッドアイズを……」

 

 三者三様、それぞれが感動したようにその光景を見上げる。

 

「兄貴気を付けて! 下手したら入試のクロノス先生の時みたいに……!」

「分かってるさ翔! さあ、どう来るんだ?」

「……更に、召喚したレッドアイズに『闇竜族の爪』を装備。攻撃力600ポイントアップ」

 

 真紅眼の黒竜 ATK:2400 → 3000

 

 召喚された真紅眼の黒竜の両手に鋼のような光沢を持つ素材で出来た爪が装備され、再び咆哮すると同時に攻撃力の数値が上がる。

 

「攻撃力3000……」

「……カードを1枚伏せてターンエンド。お前がクロノス教諭を倒した時、ぼくはその場にいなかった。お前がどうやってあの人を倒したのか、ぼくは興味がある」

 

フィリア LP:4000 手札:1枚

 

「そうか。なら見せてやるぜ、オレのターン!」

 

 そう言ってドローしたのは十代。

 

「オレは手札からから『強欲な壺』を発動! デッキから2枚のカードをドローする!」

 

十代 手札:5 → 7

 

 魔法カードで再度ドローする十代。

 ドローしたカードを見た十代はその笑みを深くさせ、フィリアの方を見た。

 

「来た来たぁ! さっそく見せてやるぜ! オレは手札から魔法カード『融合』を発動! 手札の『E・HEROフェザーマン』と『E・HEROバースト・レディ』を融合し、『E・HEROフレイム・ウィングマン』を攻撃表示で召喚!」

 

 手札の2体のHEROモンスターが姿を現し、空中に出現した光の渦へ取り込まれていく。

 やがて姿を現したのは、一体の融合モンスター。

 右手に赤い竜を模した砲身のようなモノを身に付け、棘の生えた赤い尻尾を生えている。

 そんな竜のような特徴とは裏腹に本体は緑色の人型で、背中には片翼の白い翼が生えている。

 こうして特徴を羅列してみるだけではアンバランスなように聞こえるが、実際に見てみればバランスのいい統制の取れたアメリカンヒーローらしい見た目として完成されている。

 

「来た!兄貴のエースモンスター!」

「攻撃力は2100……レッドアイズには及ばないけど、入試の時と同じなら……」

 

「あぁ、そうさ! 更にオレは『E・HERO スパークマン』を召喚し……フィールド魔法『摩天楼 -スカイスクレイパー』を発動!」

 

 ディスクから飛び出たフィールド魔法のセット欄にカード1枚差し込むと同時、周囲のデュエルフィールドの景色が代わり、地面から巨大なビル群が轟音を立てて立ち上ってくる。

 空もデュエルフィールドの無機質な天井から、月光差す夜空へと変化した。

 

「……ッ」

 

 その壮大な風景にフィリアも圧倒されたのか、僅かに目を見開いて魅入るように突如フィールドに出現したビル群を見渡した。

 

「ヒーローにはヒーローの戦う舞台ってのがある! 更にオレはフレイム・ウィングマンに『フュージョン・ショット』を装備!」

「……『フュージョン・ショット』?」

 

 聞いた事がない装備魔法の名前に思わず反復するフィリア。

 

「『フュージョン・ショット』は融合モンスターに装備可能。そのモンスターの融合素材となった攻撃力1000以下のモンスターを墓地から除外して、その攻撃力分のダメージを与える事ができるのさ! 更にオレは手札から魔法カード『H-ヒートハート』を発動! その効果によりフレイムウィングマンの攻撃力は500ポイントアップ! そしてスカイスクレイパーの効果により、オレのフィールドのHEROモンスターたちが、自分より攻撃力の高いモンスターとバトルする時、攻撃力は1000ポイントアップする!」

 

 腕を握りしめながら力強く効果を説明する十代。

 

《E・HERO フレイム・ウィングマン》

ATK:2100 → 2600

 

「レッドアイズの元々の攻撃力は2400ね……フレイム・ウィングマンの効果で与えるダメージもその数値。更にヒートハートとスカイスクレイパーの効果によりレッドアイズの攻撃力を600ポイント上回る。そしてフレイム・ウィングマンの融合素材となったフェザーマンの攻撃力は1000……って事は……」

「この攻撃が通れば、兄貴の勝ちっす!」

 

「まずは装備した『フュージョン・ショット』の効果を発動! オレの墓地の『E・HERO フェザーマン』を除外し、その攻撃力分のダメージを相手に与える!」

 

 フレイム・ウィングマンがその左腕をフィリアに向けて突き出すと同時、その左腕に装備された『フュージョン・ショット』の光が飛び出してフィリアへと直撃する。

 だが、そう易々と食らうフィリアではない。

 

「罠カード『ダメージ・トランスレーション』を発動。このターン、自分が受ける効果ダメージを半分にする」

 

 フィリア LP:4000 → 3500

 

 打ち出された光がフィリアへ直撃するが、そのダメージは本来よりも半減された。

 

「ダメージを半減されたっす……!」

「これではフレイム・ウィングマンの効果では仕留めきれないわね。でもレッドアイズを倒せれば彼のフィールドはガラ空きになる。そうなればスパークマンのダイレクトアタックが決まって、形成は一気に十代君に傾くわね」

「た、確かに! 頑張れアニキー!」

 

「ダメージは半減されたが、これからだぜ。フレイム・ウィングマン、真紅眼の黒竜に攻撃だ!」

 

 十代がそう叫ぶと同時、フレイム・ウィングマンがその白翼を羽ばたかせながら飛翔し、やがて摩天楼の中心にあったタワーの中心に片足を乗せて立つ。

 その様は、まるで映画でヒーローが参上する時のお約束の場面そのものだった。

 

「この瞬間、スカイスクレイパーの効果が発動。自分より攻撃力の高いモンスターとバトルする時、フレイム・ウィングマンの攻撃力は1000ポイントアップする!」

 

 フレイム・ウィングマン ATK:2600 → 3600

 

「行け、フレイム・ウィングマン! スカイスクレイパー・シュート!」

 

 塔の天辺から翼を羽ばたかせ、摩天楼の上空へと飛び上がったフレイム・ウィングマンの体が炎を纏い始める。

 炎をまといし不死鳥のヒーローが見下ろすは、眼下にいるフィリアのレッドアイズ。

 攻撃力が下回っているにも関わらず、黒竜は来いと言わんばかりに、両手に装備された爪を構えて待つ。

 

 炎を纏ったフレイム・ウィングマンがレッドアイズに向けて下降する。

 迫り来る流星を前にレッドアイズは為す術なく炎上し、光となって砕け散っていった。

 

 フィリア LP:3500 → 2900

 

「更にフレイム・ウィングマンの効果により、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える!」

「……『ダメージ・トランスレーション』の効果でダメージは半減だ」

 

 フレイム・ウィングマンの右腕に装着されていた赤い竜のヘッドの口が開かれ、その砲身から放たれれる。

 それは真っ直ぐフィリアの足下へと直撃し、フィリアの姿は巻き上がった煙と共に隠れた。

 

 フィリア LP:2900 → 1700

 

「よし! このターンに勝負は決められないけど、スパークマンのダイレクトアタックで形成は一気に兄貴の有利だね!」

(……そう、簡単に行くかしら。十代は確かにクロノス教諭を倒したけど、それは彼も同じ)

 

装備カードにより強化されたレッドアイズがフレイム・ウィングマンの攻撃により粉砕されたのを見た翔はガッツポーズを決めて喜ぶ。

 対して明日香は真剣な表情を崩さないままデュエルの行く末を見守り続けた。

 

 ……フィリアのフィールドを覆っていた煙が晴れていく。

 

「……え?」

「何!?」

 

 その煙の中から見えてきた影に、誰もが目を見開き、その光景を疑った。

 やがて煙が完全に晴れると、フィリアのフィールドにいたのは、間違いなく────

 

《真紅眼の黒竜》 ATK:3000

 

 先ほど、フレイム・ウィングマンの攻撃により破壊された筈のレッドアイズが、《闇竜族の爪》を装備したまま何事もなかったかのようにフィールドの上に立っていたのだ。

 再び上げられた咆哮が、周囲の煙を完全に吹き飛ばす。

 正義の炎を浴びせれてなお、黒竜は健在のままだったのだ。

 

「どういう事だ? 確かにフレイム・ウィングマンの攻撃でレッドアイズを倒した筈なのに……」

「『闇竜族の爪』を装備した闇属性モンスターが戦闘で破壊された場合、1度だけ墓地から蘇り、再びこのカードを装備する事ができる」

 

 疑問を口にする十代に対し、フィリアは淡々と状況を説明する。

 

「ぼくのフィールドがガラ空きになった所をスパークマンで直接攻撃する腹づもりだったんだろうが、レッドアイズが場に蘇ったことによりそれは叶わない」

 

 そう言い放つフィリアに対し、十代は攻撃を凌がれたにも関わらず楽しそうに笑った。

 

「やっぱそう簡単には行かねえか。そうこなくっちゃな! ターンエンドだ!」

「……ならエンドフェイズ、『ダメージ・トランスレーション』のもう一つの効果を発動だ」

 

 再び現れた『ダメージ・トランスレーション』のカードが突如として光りだし、困惑する十代。

 翔や明日香も同様だ。

 

「このターン、自分が受けた効果ダメージの回数の数だけ、ぼくのフィールドに『ゴースト・トークン』を特殊召喚する」

「なに!?」

「ぼくが受けた効果ダメージは2回。よって2体の『ゴースト・トークン』がフィールドに特殊召喚される」

 

 『ダメージ・トランスレーション』のカードビジョンが消え去ると同時、その下の地面から赤い目と口を持つ黒い半透明の幽霊が飛び出してきた。

 ゴーストの名の通り、そのトークンは怨霊のようなうめき声をこの摩天楼中に木霊させながら、フィリアのフィールドを彷徨うようにに飛び回り始めた。

 

《ゴースト・トークン》 ×2

☆4/闇属性/悪魔族/攻:1500/守:0

 

「ヒィ~、なんか気味悪いっすッ!?」

「……そうね」

 

 目に見えて怯える翔と、怯えるとまでは行かないものの胸を手で押さえて不安げになる明日香。単なる立体映像(ソリッド・ビジョン)だと分かってはいても、周囲の摩天楼の景色も相まってその不気味さは倍増されている。

 十代も同じような感想を抱いたのか、冷や汗を掻きながら、摩天楼を飛び交う『ゴースト・トークン』を見上げている。

 否、それ以上に十代の中のデュエルリストとしての勘が悪い予感を告げていたのだった。

 

十代 手札:0

 

「ぼくのターン」

 

フィリア 手札:1 → 2

 

「永続魔法『冥界の宝札』を発動。そして更に、2体のゴースト・トークンを生け贄に……」

 

 永続魔法カードを1枚発動した後、フィリアの場にいた『ゴースト・トークン』が最後のうめき声をあげながら、互いに螺旋を描くように上空へと上がっていき、一つとなっていく。

 その光景に、デュエルを観戦していた2人と対戦相手の十代はまさか、と冷や汗を流しながら摩天楼の上空へ昇天していく2体のゴースト・トークンたちを見上げた。

 一つとなったゴースト・トークンの塊が、やがて炎の螺旋へと姿を変えていく。

 

「まさか!?」

「噓、こんな事って……兄貴!」

 

 その見覚えのある炎に、まさか、と驚愕する観戦者2人。

 

「2体目の『真紅眼の黒竜』を生け贄召喚」

 

 炎の螺旋が晴れる。

 そこから現れた2体目の黒竜が、誕生の雄叫びを摩天楼中に響かせる。

 

《真紅眼の黒竜》B

☆7/闇属性/ドラゴン族/攻:2400/守:2000

 

「2体目の、レッドアイズ……!?」

「まだだ。生け贄召喚に成功した事により『冥界の宝札』の効果が発動、2枚ドローする」

 

 『冥界の宝札』はモンスターを2体以上の生け贄に捧げての召喚に成功する毎に2枚ドローできる永続魔法だ。

 今し方2体目のレッドアイズの生け贄召喚に成功したフィリアは、2枚ドローしたカードを見やり。

 ……悟ったように、目を閉じた。

 

 

 

「更に魔法カード、『融合派兵』を発動。融合デッキから融合モンスター1体を選択し、その融合素材となるモンスターをデッキから1体特殊召喚できる。

 ぼくが選択するのは────『ブラック・デーモンズ・ドラゴン』」

 

 『ブラック・デーモンズ・ドラゴン』のカードビジョンが目の前に映され、十代は更にはハっとなって、口を開けた。

 

「『ブラック・デーモンズ・ドラゴン』の融合素材って……まさか!?」

「そうだ。3体目の『真紅眼の黒竜』をデッキから特殊召喚する」

 

 再び、巻き上がる炎の螺旋。

 今度こそ、観戦者である翔と明日香も唖然となる他なかった。

 特に明日香に関しては、なまじ同じ真紅眼使いである兄の事を知っていただけに内心の動揺は計り知れない。

 晴れゆく炎の螺旋より、3体目の黒竜が雄叫びと共に現れた。

 

(……噓、レッドアイズが3体並ぶなんて……兄さんでもこんな事……!?)

 

《真紅眼の黒竜》C

☆7/闇属性/ドラゴン族/攻:2400/守:2000

 

 フィールドに3体並び立つは、3体のレッドアイズ。

 こんな光景が、果たして有り得ようか。

 

 

「更に魔法カード『ダークゾーン』を発動。フィールドの闇属性の攻撃力が500ポイントアップし、守備力は400ポイント下がる」

 

 そのカードが発動した瞬間、周囲のビルが発動前に戻っていくかのように地面の中へと消えていく。

 

「スカイスクレイパーが……!」

 

 崩壊していく摩天楼を見渡しながら動揺する十代。

 フィールド魔法カードは、自分、相手のカード問わずフィールドに1枚しか存在できない魔法カードだ。

 つまり、新たに発動したフィールド魔法によって既存のフィールドは上書きされ、墓地に送られる。

 

 

 代わりに現れたのは、先の人工物のビル群が建ち並ぶ光景とは正反対の、荒野だった。

 空は月すら見えぬ程の暗闇の雲に覆われ、青い稲光が絶え間なく点滅するように荒野を照らし続ける。

 ……正に、闇のフィールドに相応しい光景だった。

 

《真紅眼の黒竜》A(闇竜族の爪装備)

攻:3000 → 3500/守:2000 → 1600

 

《真紅眼の黒竜》B

攻:2400 → 2900/守:2000 → 1600

 

《真紅眼の黒竜》C

攻:2400 → 2900/守:2000 → 1600

 

 青い稲光に照らされ、咆哮する三匹の黒竜。

 そんな荒野の上に立ち、青い稲光を背景に咆哮する三匹の黒竜を従えるデュエリスト。

 付き従う黒竜と同じく、赤い眼光が十代を貫く。

 

「もうここはお前達(HERO)の舞台じゃない。この暗黒と雷鳴が、レッドアイズたちの戦場だ」

 

 ごくりと、十代は息を呑む。

 そして青い稲光を発する曇天の空に見える3対の赤い眼光を見上げ……その口から笑みが零れていた。

 

 

 

「……か……かっけえ……」

 

 

 

 漏らした言葉は、感激の喜びだった。

 その光景に圧倒されたのは翔や明日香も同様だった。

 見ようによって禍々しい光景であるが、それ以上に圧倒される。

 レッドアイズが3体並ぶだけでも圧巻だというのに、そのレッドアイズ達の力を引き上げる、雷鳴轟く暗黒の荒野。

 

 正に、言葉を失う他ない。

 

「兄貴のフィールドに、スカイスクレイパーはもうない……!」

「伏せカードも0枚。フレイム・ウィングマンとスパークマンがいるけど、フィリア君のフィールドには攻撃力が上がった3体のレッドアイズがいる。これが、1ターンでクロノス教諭を倒した実力……!」

 

 

 

「行くぞ、覚悟はいいな?」

「……あぁ、来い!」

「攻撃力が上がった3体のレッドアイズで一斉攻撃……トリプル・メガ・フレア!!」

「HEROたちよ、迎え撃て!!」

 

 一斉に攻撃を仕掛けるレッドアイズ達。

 三つの黒炎がそれぞれ十代のフレイム・ウィングマン、スパークマン、そしてプレイヤーである十代本人に襲いかかる!

 攻撃を迎え撃ったフレイム・ウィングマンとスパークマンは破壊され、最後は闇竜族の爪を装備した1体目のレッドアイズによる真紅の炎弾が十代へと直撃した。

 

 

「うわああぁあああ!!」

 

十代 LP:4000 → 0

 

 デュエル終了の合図と共に、フィールド魔法「ダークゾーン」が消え、元の静かなデュエルフィールドが2人のデュエリストを祝福するように戻ってきた。

 

「ガッチャ! 負けちまったけど、楽しいデュエルだったぜ!」

「……あぁ」

 

 3体のレッドアイズの同時攻撃を受けるという……デュエリストとしてはある意味贅沢な洗礼を味わった十代は満足そうに笑いながら、一差し指と中指を差すポーズを取った。

 ……そんな十代に呆気に取られつつも、フィリアもまたほんの僅かな微笑みで返した。

 




・主人公
正直ダメージトランスレーションを引きてなければ危なかった。
闇竜族の爪による蘇生効果すら意味をなさずフレイムウィングマンとの戦闘ダメージ及び「フュージョン・ショット」(未OCGカード)と「フレイム・ウィングマン」のバーンダメージでワンキルされる可能性があった。

・遊戯十代
やっぱレッドアイズかっけぇ……!
楽しいデュエルもできて大満足!

・丸藤翔
そんな……兄貴が3ターンで負けるなんて……でもレッドアイズはかっこいいっす。

・天上院明日香
兄さんと同じレッドアイズ使い……でも兄さんでもこんな事……!

・万丈目準
幼馴染み。
実は主人公の容姿も相まって過去に軽く性癖破壊受けてる。
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