危ない所だった。
まさか『フュージョン・ショット』とかいう前世では聞いたことがない装備カードが出てくるとは思わなかった。
でもおかげでフレイム・ウィングマンの効果ダメージ分と合わせて『ダメージ・トランスレーション』によって生み出せる『ゴースト・トークン』を2体生み出せたことで2体目のレッドアイズのアドバンス召喚に繋げることができた。
さらに2体をリリースする事によるアドバンス召喚によって、次のターンにドローした『冥界の宝札』の効果を起動することに繋がり、そこで引いたカードが魔法カード『融合派兵』とフィールド魔法『ダークゾーン』のカードだった。
正直言う……『ダメージ・トランスレーション』様々だなこれは。
この1枚がなければ、ぼくはフレイム・ウィングマンとの戦闘ダメージ+効果ダメージ+「フュージョン・ショット」の効果ダメージで後攻1ターンキルされていた所だった。
先行で立てたレッドアイズが自己再生付与の『闇竜族の爪』を装備していようが関係なく、ぼくは負けていた。
さすがはチームサティスファクションのリーダーが使っていたカードだ!
『やめろ』とかいう幻聴が聞こえたような気がするが、冗談抜きにこのカードがなければぼくは負けていた。
なるほど、これは確かにクロノス先生が負けたのも納得だ。
それにしても……スカイスクレイパーとフレイム・ウィングマンの組み合わせは正直すごくかっこよかった。
あのコンボを使ってでのジャイアント・キリングは確かに絵になる。
風の噂を耳にして、あのクロノス先生の切り札はあの『古代の機械巨人』だって聞いたからな。……なるほど、たたきのめそうとして、逆に生徒や職員たちの衆目に晒されている中で、クロノス先生はそのジャイアント・キリングの踏み台になってしまったわけだ。
……そう考えると、クロノス先生に同情しなくもない。実際ぼくも負ける所だったしな。
「ガッチャ! 負けちまったけど、楽しいデュエルだったぜ!」
こちらに指を突きつけながら満面の笑顔でそう行ってくる十代に、自然と笑みがこぼれてしまう。……あぁ、負けてもなおこんな風に楽しかったと言えるのは、確かに主人公だ。
ぼくなんてデュエル中はどうやって勝つかに夢中になるばかりで、楽しいかそうでないかなんて意識はまるでない。後になって「楽しかったな」って思えればそれでいいタイプだからな、ぼくは。純粋に目の前のデュエルを楽しみながらプレイできる十代は少し眩しく感じる。
……そう考えていると、肩をツンツンと突かれる感触がして、ぼくは其方へ振り向いた。
『…………』
そこには、ぼくに向けて拳を前に突き出すポーズを取ったロゼがいつの間にか立っていた。……毎度のごとくレッドアイズを出している間はぼくの目の前から消えてみせるのはどうなんだろうか。そんなにレッドアイズが苦手かお前は。
そう思いつつも、ぼくはロゼの拳にそっと自分の拳を付き合わせる。
『……ん!』
そうしてやったら、ロゼは心なしか満足そうに目を閉じて薄く微笑んだ。
正直今回のデュエルでロゼは出てないからこうした事をする意味はないのではないかと言いたいが、実際の所で彼女はぼくに憑いている精霊であるわけで、その影響がぼくのデュエルにどれだけ及ぼしているのかは分からない。
今回のデスティニードローも、もしかしたら彼女が力を貸してくれた結果かもしれない。
……そうなると、ぼくは今まで彼女におんぶに抱っこでこのデッキを回してきたことになるんだが。
まあ何にせよ、これからの人生を彼女抜きで過ごすことなど考えれないわけで、考えるだけそこは無駄なのだろうか。この子がぼくに力を貸してくれているというのであれば、ぼくだってこの子に充実した時間を与えてあげたい。……OCGストーリーでの彼女の境遇を考えれば、余計にそうしてやりたい。
拳を合わせて満足したのか、ロゼはまたぼくの視界から消えていく。
「やっぱすげーなお前! あのクロノス先生を倒したのは伊達じゃねえって事か!」
「……それはコッチの台詞だ。ぼくも少しヒヤヒヤした」
走り寄ってくる十代にそう返す。
クロノス先生を倒したのは向こうも同じである。
危うくぼくも同じコンボでやられる所だったのだ。
「そんな……兄貴が負けるなんて……」
「でも、2人とも短いデュエルながら見事だったわ。今度は私ともやって貰いたいものね……」
外野のそんな会話を余所にぼくは十代と次のドローカードの見せ合いっこをしていた。
もし勝負が着いてなかった場合、どんなデュエル展開になっていたかを語り合いをしようという十代の案に乗ってのものだった。
「おっ、オレは次のドローカードはミラーフォースか! って事は、前のターンで焦らず守りに徹してればまだ逆転できたって事か?」
「攻撃してこなければ、場に出る『ゴースト・トークン』の数も減っただろうし、2体目のレッドアイズの生け贄召喚がしにくくなるから、派手な動きが出来なかったのは間違いないな……そうなればぼくは『冥界の宝札』の効果のドローを狙って、やむなく1体目のレッドアイズを生け贄にしていただろうから、まだ勝負は分からなかったかもな」
「あちゃ~、勝負を急ぎすぎちまったってことか……」
「そういうことだ。ぼくのドローカードは……」
十代のデッキトップのカードがミラーフォースである事が判明した次はぼくの番だった。
……尤も、十代があのターンで攻めてなかった仮定で行くと、『ゴースト・トークン』の2体リリースによるレッドアイズのアドバンス召喚が叶わず、「冥界の宝札」の効果によるドローも難しかったことを考えると、次のドロー云々を考える意味はあまりないんだよな。この世界の『スカイ・スクレイパー』……なぜか相手から攻撃した場合でも効果が発動するから、アドバンス召喚を狙わずに闇竜族の爪を装備して効果破壊耐性を得た一体目のレッドアイズを残して『ミラー・フォース』に向けて備えても、どの道戦闘では『フレイム・ウィングマン』に勝てずに“詰み”だ。相手のプレイと此方の手が上手く噛み合っての勝利だったのだとつくづく実感させられるな。
そう思いながらも、次のドローカードを引いてみると。
《レッドアイズ・ブラックメタルドラゴン》
☆8/闇属性/機会族/攻:2800/守:2400
・このカードは通常召喚できない。
・「メタル化・魔法反射装甲」を装備している自分フィールドの「真紅眼の黒竜」1体をリリースした場合にデッキから特殊召喚できる。
「……」
「お、おーい、どうしたんだよフィリア」
デッキトップのカードを手に取って見つめたままぼくに、十代が心配そうな声をかけてくれる。
が、ぼくはジト目でそのカードを見つめたままだった。
……成程、これは重症だな(幻聴)。
先のターンで決着を付けられなければ、ぼくは次のターンでこの手札に来てしまうとどうにもならなくなってしまうカードを引いてしまう所だったという事だ。
一歩間違えれば冥界の宝札の効果でドローしたカードがこれだったかと思うと……勝負は更に“詰み”だったことになる。
……本当、先のターンで決着を付けることができてよかった。
でなければ本当に歓迎会に間に合わなくなっていたかもしれない。
「貴方達! 反省会もいいけれど、早くしないと歓迎会に間に合わなくなるわよ!!」
「っと、そうだった! 寮に戻るぞ! また後でなフィリア!」
「あ、ま、待ってよ兄貴!」
明日香さんの言葉で我に返った十代が慌てたようにデュエルフィールドの部屋から出て行き、丸藤少年もそれに続くのをぼくは見届ける。
「貴方も、早く行かないと遅れるわよ」
「分かってる。気になった事は確認できたし、もう行くさ」
あれが主人公、か。
正に太陽のような奴だ、と思う。
それを確認できただけでもこのデュエルは意義があったといえた。
「……ねえ、少し待ってくれないかしら」
踵を返して戻ろうとした時、後ろから明日香さんに声をかけられた。
……振り向いてみると、そこには声をかけたもののしどろもどろと視線をウロウロさせながら言葉を探している明日香さんの姿があった。
正直、凜々しい女性という、ぼくが明日香さんに抱いていた初印象とはほど遠い表情だ。
言い出したいけど、何か口にしづらいことでもあるのだろうか。
「いきなりごめんなさい。貴方が使っているレッドアイズ……他に使っている人を知らないかしら?」
「他に使っている人?」
はて、と視線を天井に向けて考えてみる。
真紅眼の黒竜を使う人物として真っ先に上げられるのは、かの伝説のデュエルリストの1人にして王様やAIBOの親友だった城ノ内 克也だろうが、そんな有名人のことを態々聞くとは思えない。ならばそれ以前の所有者だったダイナソー竜崎のことだろうかとも思ったが、彼もそれなりの有名人で態々聞くほどとは思えない。
他にも所有者で言うならば、東映版遊戯王の劇場版に登場した翔吾あたりだろうか。でも、この世界が東映版とどこまで繋がっているか分かったものではないし……気軽に上げられる名前じゃない。
「……いや、知らないな」
瞑目して、ぼくはそう答える。
上記の3人以外に思い浮かぶ人間はおらず、そうなればもうお手上げだ。
「……そう。ごめんなさいね、つまらない事を聞いて」
そんなぼくの返答を聞いた明日香さんの目には落胆の色がありありと見えた。
……もしかして遊戯王GXの中に真紅眼使いのキーキャラクターとかいたりするのか? もしそうだったらぼくは相当な地雷的なポジションにいるという事になるんだが。……考えた所で仕方ないのは分かってはいるんだが。
「じゃあぼくはもう行く。また今度」
「えぇ、また」
上記の3人以外に、ぼくの他にいるレッドアイズ使いの人物。
なぜだかロゼも心配そうに明日香さんの方を振り向いているし、確実に何かありそうななのがヒシヒシと感じてしまうのが嫌なところだ。
……願わくば、ぼくが関与しない所で解決してほしい所だと思うばかりだ。
……この頃のぼくは、そんな願いが叶うことはないと後に思い知らされるのをまだ知らなかった。
同じ“ブラック・マジシャン”使いの武藤遊戯とパンドラ。
同じ“銀河眼”使いの天城カイトとミザエル。
共通したエースモンスターを持つ者同士の衝突は、規模はどうあれ、デュエリストとしては避けられぬ運命であるということを。
◇
ラー・イエローの僚で行われた新入生の歓迎会。
黄色い壁に囲まれた広間。
黄色いテーブルクロスに覆われた長テーブルが三台並び、その長テーブルの上に用意されたそれなりに豪華な食事を、黄色い制服を身に着た新入生たちが笑顔でそれらを口に運んでいる。
口の中に広がる美味。それに対する喜びを分かち合いながら笑談する新入生達。
そんな長テーブルの端の席に座る……少女か、それとも少年か見分けが付かない銀髪の生徒が黙々と食事を取っていた。
回りの笑顔とは正反対に、ただ淡々と口に食べ物を運んでいる。
食事のペースそのものも周囲の新入生と比べると控え目で、なぜだか別の更に自分が取った食事の半分ほどを避けながら食べている。一見、嫌いなモノを避けているだけに見えるが、その生徒が食べているものと避けた皿の上に載せられた食べ物のラインナップは同じもので、もし誰か1人でも彼に感心を向けている他の新入生がいればその行動に疑問を抱くに違いなかった。
ふと、銀髪の女顔の少年──フィリアはナイフとフォークを止め、おもむろに視線だけを何もない筈の隣に向ける。
「……そんな顔するな。ちゃんと後で部屋に持って行くから」
誰もいない筈の空間に、諫めるようにそう呟く。
それからまた何もなかったかのように黙々と食事を取り始める。周りが黄色い制服を着ている中で、1人だけカラーが反転し、白色がメインとなった制服をサイドマントの如く羽織っているフィリアは、端的に言えば周りと比べて浮いていた。
試験でレッドアイズを使いあのクロノス教諭を先行1ターンで倒したことで周りからは注目されつつも、醸し出すドライな雰囲気もあってか中々近寄りがたい。
だが、暫くしてそんな彼に話しかけてくる1人の新入生がいた。
「食事が喉に通らないのかい、2番くん?」
「……お前は?」
再び両手のナイフとフォークを止めて其方へ振り向くフィリア。
そこには食事のトレーを片手に持ちながら此方を見下ろす男子生徒の姿があった。
「受験番号1番、三沢 大地だ」
「1番……そうかお前が。2番の門戸フィリアだ、よろしく。皿に避けた分は後で部屋で食べようと取っておいてるだけだ。寮長の先生に聞いてみたら大丈夫だって行ってくれたしな。それで、何か用?」
「いや何、あのクロノス教諭を先行1ターン目でレッドアイズを使って破った君に興味があって捜していたんだ」
得意げかつ、自然な笑みを浮かべたまま三沢はそう言ってトレーの上の食事を、フィリアの避けた皿の上に置く。
「お近づきの印、という奴だ。あの1番クンと同様、君ともいいライバルになれそうだと思ってね」
「……それはどうも。だが、1番クンというのは?」
「君と同じようにクロノス先生を倒した受験生がいただろう? クロノス先生とデュエルする前に、オレに『今年の受験生の中で2番目くらいに強いかも』と言ってきてね。何故かと聞いたら『自分が1番だから』と豪語していた」
「……十代か。アイツ……」
そんな三沢の言葉を聞いたフィリアは呆れたように頭を片手で抱えてため息を吐いた。
「おや、その様子だと彼とはもう話をしたのかい?」
「……歓迎会前に少しデュエルをした。結果はぼくの勝ちだったが、ギリギリだった」
「ッ!? へぇ、彼に勝ったのか! 益々君に興味が沸いてきたな。是非オレともデュエルして欲しいものだ」
「……なら、後にでもやるか?」
ぼくは構わないぞ、と淡々とした瞳に静かな闘志を宿しながらそう聞き返してくるフィリアに三沢は好戦的な笑みで返しつつ答える。
「いや、ここはデュエルアカデミアだ。今戦わずとも、いずれデュエルできる機会は巡ってくるだろうさ。その時は、オレの全力を君にぶつけさせて貰おう」
「……分かった。ならその時まで待ってる」
いずれ来る決闘の約束を取り付けた2人。
それ以降興味ないといわんばかりに食事を再開したフィリアに三沢は少し苦笑しつつも、目の前のライバルと戦える日を楽しみにしながらその場を後にした。
◇
本当は同率1位なのにあいうえお順で先だからという理由だけでぼくから1番の座を奪っていきやがった三沢さんの背中を一瞥して見届けながら、食事を続けるぼく。
みんながわいわいと笑談しながら明るく食べている中で、テーブルの端で黙々と食べているぼくだが、決してあの輪の中に混ざりたくないとか、そういう訳ではない。
ぼくなりにこれから生活を共にする同級生達と交流を深めようと意気込んでの参加だったのだが……
『……………(ジー)』
……隣で、ロゼが羨ましそうに此方を見ている。
いや、表情はないんだが……口に人差し指を当てて僅かに涎を垂らしながら此方を見ていて集中できない!
これでは周りに話しかけるどころではないではないか!?
ぼくが今できることは後で部屋に持って行くロゼの分を別の更に取り分けながら、黙々と自分の分を食べることのみ。
ならばと周りが話しかけてきてくれるかと期待していたが、歓迎会前に話しかけてきてくれた遊城十代とさっきの三沢某以外だれもぼくに話しかけてきてくれないじゃないか!?
別にそんなことしなくとも後でロゼの分は取っておくつもりだったのだが、そんな羨ましそうに見つめられてはおちおち話しかける余裕もできやしない。
あとで食べさせてもらえると分かっていても、やはりロゼの羨ましそうな目線が止むことはない。
……まあ分かるよ。
このステーキとか、切り分けられた赤いジューシーな豚肉とか、凄くおいしいし。
オベリスクブルーの歓迎会はもっと豪華との事だったが、新入生の歓迎会に用意される品としては上等すぎる部類に入るだろう。
だからって、そんなに見つめるんじゃない!
父さんや母さんと食事をしている時だってそんな顔したことなかっただろう!?
ほら、この皿に全部取り分けてあるから、これ全部食べて良いから。
そんな思いを込めながら、さりげなくロゼの分の取り分け皿をツンツンと指で突いて指し示すと、ロゼは羨ましそうな表情からは一転して、目を伏せて寂しそうに首を振った。
『……』
さっきまでの反応から察するに食べたくない訳じゃないのは確かだが、まだ何かあるんだろうか。
「……もしかして、一緒に食べたかったか?」
『……コクリ』
小さく頷くロゼに、なんとも言えない気持ちが湧き上がってくる。
……仕方ない。
ぼくの分も、後の方に少し取っておくか。
後で食べる分の中にロゼの取り分だけを取り分ける必要はない。
どうせぼくもこの歓迎会で全ては食べきれないだろうし、あとで部屋でゆっくり食べるのもいいだろう。
歓迎会が終わり、割り当てられたイエロー僚の自室に戻ったぼくたちは、テーブルの上に皿を置いて再び食事を再開した。
「こうして家以外で実体化するのは久しぶりだな」
『……パクパク』
あどけないながらも丁寧な所作でぼくが持ってきた食事を口に運んでいくロゼを見ながら呟く。
普段から被っている黒いオフィサーキャップは取り外され、鮮やかな銀髪の髪色が顕わになったロゼは普段とはまた違った可愛さがあった。
……正直言って、服装を除けばロゼとぼく……正確にはモントピリアの容姿の特徴はかなり被っている。
銀髪に、赤目に。極めつけには女性らしい童顔(だが片方は男だ)。
そんな彼女がぼくの精霊としてここにいるのは、ある種の運命を感じるというか、今世に生まれたときからずっと一緒にいる身からすれば一生を共にする共同体という認識を持つのはおかしな話ではなかった。
まあ、そんな認識を抱いているのはおそらくぼくだけで、ロゼの方はそんな事考えていないだろうが。
……姉貴も両親もここにいない今、近くにいる心許せる身内は現状このロゼのみだった。
表情を変えないながらも、その赤い目を輝かせながらおいしそうに頬張っているロゼを微笑ましく思いながら、ぼくも自分の分を口に運ぶ。
……言うまでも無いが、歓迎会である程度食べているぼくの分と、今ここで初めて食べるロゼの分ではその量の違いは歴然だ。
それでも、久々にロゼとこうした時間を過ごせるのは嬉しかった。
ロゼの存在は今世の両親にも明かしていない。
精霊というオカルトな存在の特性上、ロゼを実体化させてあげられる空間は限られている。
聞くところによればレッド寮はこのイエロー寮のような個々人に宛がわれる個室ではなく、何人かをまとめて宛がわれる共同部屋だったという話を聞いた。
同居人がいる部屋でロゼの存在を明かす訳にもいかないし、そういう意味でも個室を宛がわれるラー・イエローの僚に入れて良かった。
天上を見上げながらそんな柄にもないことを考えると、不意に目の前にジューシーに焼けたお肉の匂いが漂ってきた。
釣られて其方に視線を戻すと、ロゼが箸で掴んだ肉をぼくの口元にまで運んでいた。
「……いや、ぼくは自分の分があるから別に……」
『……フリフリ』
ぼくがやんわりと断ろうとすると、ロゼは首を横に振って、そのままアーンっといった風に口を開けて、その自分の口の中を指さした。
……これは、そういう事なのか?
「…………あーん……んッ」
『……ん』
ロゼの真似をしてアーンをしたら、その隙を見逃さないと言わんばかりに箸で掴んだお肉をぼくの口の中に突っ込んだ。
いきなりの事に状況を飲み込めないまま、ぼくは突っ込まれた口の中の肉を咀嚼する。
……そんなぼくを見たロゼは、心なしか嬉しそうだった。
口元はマフラーに覆われて分からないが、頬の緩み具合からしておそらく微笑んでいるのだろう。
……恥ずかしくなって、思わず顔を逸らした。
「……お前って……ほんとうに、さ……」
『……?』
上手く言葉にできないぼくに、ロゼはこてんと首を傾げて頭上に「?」マークを浮かべた。
この世界に、クリーブランド姉貴はいない。
今世の両親も、ぼくが家を離れてここデュエルアカデミアでの寮生活になったことで暫く会えない。
それでも、ロゼだけは一緒にいてくれる。
ロゼだって、レイに会えない、はずなのに。
そんな寂しさをおくびにも出さず、ひたすらぼくと一緒にいてくれる。
「……ありがとう」
『ッ!……ん』
そっとお礼を呟くと、ロゼのそんな短い返事が聞こえてきた。
……結局、その日の夜は寂しさのあまり、ぼくは実体化したロゼと一緒に同じベッドの中で寝たのだった。
その日の夜、準があの十代にアンティデュエルを挑んでいた事を知るのは、まだまだ先の事だった。
『……』
隣で寝る自分の愛しい
・主人公
……姉貴のことは勿論好きだし、今世の両親のことも勿論愛している。
幼馴染みの準もこの学園にいる事だし、これからの学園生活に対するモチベ自体は高いが、やっぱり寂しい。
ロゼとは共依存気味。
・閃刀姫-ロゼ
好き好きマスター好き。
十代とのデュエルで融合派兵でモンスターを呼んだ時、自分より攻撃力が僅かに高い『デーモンの召喚』を呼んだ方が普通はいいのに、迷わず
……一応、「閃刀姫-ロゼ」としての意識もないわけではない。