真紅眼(あかめ)のモッピー   作:ナスの森

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処刑人の罠、炸裂する黒炎

 

 夜も遅いことだし、最初は冗談じゃないとデュエルを断るつもりだった。

 正直言って、丸藤少年が何かをやらかしたらからと言って、そんなのぼくの知った事では無かった。

 ……知ったことではなかった、つもりだったんだけど。

 丸藤少年のやらかした事が事だったからか、思わずキツい言い方をしてしまったのが、ぼくの肩に少し重くのしかかる。

 丸藤少年だって、まだ普通の高校1年生だ。この程度のやらかし……と言ってはいけないんだろうけれど、取り返しの付かない過ちだって何度かは犯すことだってあるだろう。覗きそのものをしていないのは不幸中の幸いだったか。

 

 そして、そんな丸藤少年を捉えていた天上院さんだったが、今回の件で丸藤少年のことを学校に言いつけて退学させることだってできたのに、天上院さんはそれをしなかった。ぼくと十代をおびき寄せるための餌として使ったぐらいで、天上院さんは丸藤少年のことを許していたのである。

 

 だから、ぼくが天上院さんとのデュエルを受けたのは、そんな丸藤少年への罪悪感を紛わらすためと、ぼくや十代とデュエルするためだけに丸藤少年のことを許してくれた天上院さんへの義理立てからだった。

 既に、丸藤少年に人質としての意味がないのだと分かっていたとしても。

 

 

     ◇

 

 

「私のターン!」

 

明日香 手札:5 → 6

 

 先行を取った明日香はドローしたカードを吟味しながら思考する。

 向こうのボートの上に立つ、今回のデュエルの相手。

 入試にてあのクロノス教諭をたった1ターンで倒し、同じくクロノス教諭を倒したあの十代すら、華麗に召喚した3体のレッドアイズの総攻撃により勝ってみせた、女顔の鋭い目つきの少年、門戸フィリア。

 入試のクロノス教諭とのデュエルや、歓迎会前の十代とのデュエルでも、そのデュエルを制したフィリアの最初のターンはどちらも先行だった。

 故に、今回先にターンを取ることができたのは幸いだと明日香は思い直す。

 

「『エトワール・サイバー』召喚!」

 

《エトワール・サイバー》

効果モンスター

星4/地属性/戦士族/攻1200/守1600

 

 モンスターゾーンにカードを置くと、水面よりアクセルジャンプをしながら現れたのは、赤と水色のボディースーツを身に纏った、燈色の髪を腰の下まで下ろしたスケーターの女性。

 

「カードを2枚伏せて、ターンエンドよ」

 

明日香 手札:6 → 3

 

 フィールドにモンスターを1体。

 リバースカードを2枚伏せてターンエンドする明日香のフィールドを、フィリアは眉一つ動かさず見つめる。その乾いた赤い瞳の奥にある思考を明日香は読み取れない。

 

「ぼくのターンだ」

 

フィリア 手札:5 → 6

 

 続いて、フィリアのターン。

 ドローしたフィリアは手札のカードを僅かの間一瞥して、モンスターゾーンにカードを置く。

 

「『処刑人-マキュラ』を攻撃表示で召喚」

 

《処刑人-マキュラ》

効果モンスター

星4/闇属性/戦士族/攻1600/守1200

 

 金と紫のアーマーを持つ戦士。

 頭部に至るまで光沢のあるアーマーで覆い隠し、その頭部アーマーのウジャド目が、無機質に明日香を睨み付ける。

 両腕には禍々しい巨大なかぎ爪を取り付けた処刑人が降臨した。

 

「そのモンスターは……」

「バトルだ。《処刑人-マキュラ》で《エトワール・サイバー》を攻撃」

 

 腕のかぎ爪を振りかぶった処刑人が、エトワール・サイバーへと肉薄する。

 その刹那の間、明日香は頭の中で、二択の選択を迫られていた。

 

(私の伏せカードなんて眼中にないっていうの? ……いえ、《処刑人-マキュラ》は確か破壊された時に、手札から罠カードを発動できるカード)

 

 伏せカードを一瞥する明日香。

 伏せたカードは《ドゥーブル・パッセ》と《聖なるバリア-ミラーフォース-》の2種類だ。

 

(ミラーフォースでマキュラを破壊すれば、フィリア君の手札から危険な罠カードが発動される可能性がある。それは避けるべき。ならば、私が取るべき選択は……)

 

「リバース(トラップ)オープン! 《ドゥーブル・パッセ》発動!」

 

 瞬間、マキュラの凶刃がエトワール・サイバーをすり抜け、後ろにいた明日香へ直接迫る。

 

「ッ!」

 

 迫り来るマキュラのかぎ爪を前に思わず身を庇う明日香。

 そして処刑人の刃が明日香を切り裂くと同時、明日香のライフポイントはそのダメージを受けていた。

 

明日香 LP:4000 → 2400

 

「……マキュラの攻撃を直接攻撃に変えて、エトワール・サイバーを守ったのか?」

「それだけじゃないわ、攻撃対象となったモンスターは相手にダイレクトアタックが出来る!」

 

 明日香のその一言に、フィリアの目が僅かばかり見開かれる。

 

「そして、エトワール・サイバーがダイレクトアタックする時、攻撃力が600ポイント上がる!」

 

《エトワール・サイバー》

攻撃力:1200 → 1800

 

 マキュラの攻撃を躱し、まるで入れ替わるようにフィリアのフィールドへと踊りかかるエトワール・サイバー。

 フィギア・スケート選手のようなフォームで水面を華麗に滑りながら、アクセル・ジャンプをかましてフィリアに接近、回転の勢いのまま、後ろ回し蹴りをフィリアに見舞う。

 

「ッ!?」

 

フィリア LP:4000 → 2200

 

 僅かに驚いたような表情で体勢を崩すフィリア。

 ……そんな彼の内心は少し、いやかなり混乱していた。

 ────いや、こっちのバトルフェイズ中にあっちのモンスターが攻撃してくるって、一体どういう処理になってるんだ!?

 ────そもそもそのカードの効果で直接攻撃できるのって、返しの自分のターンじゃなかったっけ!?

 ────あと、エトワール・サイバーの直接攻撃時の上昇値って600じゃなくて500ポイントじゃなかったっけ!?

 

「なんて女なんだ……自分のダメージも構わずあんな(トラップ)を仕掛けてくるなんて……!」

「も、門戸さん……!」

 

 フィリアの後ろで十代と翔もまた明日香の大胆なプレイイングに驚いていた。

 クールな見た目からは想像も付かない、リスキーで熱い戦術。

 大凡2人が天上院 明日香に抱いていたデュエリストとしての印象が覆されていた。

 

「……カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

 

フィリア 手札:6 → 4

 

 ……が、体勢を立て直したフィリアは攻撃を躱されたにも関わらず、内心の混乱も表に出さないまま、平然とその乾いた赤い瞳で明日香を真っ直ぐ見据え、ターンを渡した。

 

「さすがは明日香様!」

「あの門戸様を相手に先手を取りましたわ~!」

 

 明日香の大胆なプレイイングに感激するジュンコとももえ。

 

「私のターン!」

 

明日香 手札:3 → 4

 

「手札から魔法(マジック)カード《融合》を発動!」

 

 明日香が発動したのは《融合》の魔法カード。

 

「フィールドの《エトワール・サイバー》と、手札の《ブレード・スケーター》を融合し、《サイバー・ブレイダー》を融合召喚!」

 

 現れた《ブレード・スケーター》がフィールドの《エトワール・サイバー》と水面の上で合わせ鏡のような動作で滑りながら接触し、やがて竜巻が巻き起こる。

 その中心より姿を現したのは、赤と水色のボディースーツという、エトワール・サイバーから引き継いだ特徴に加えて、燈色だった髪は氷のような青に、片目だけを覆っていた眼帯は両目とも覆い隠す赤色の布へと変わっている。

 その威容は融合素材となったエトワール・サイバーと比べても段違いだった。

 

《サイバー・ブレイダー》

融合・効果モンスター

星6/地属性/戦士族/攻2100/守 800

「エトワール・サイバー」+「ブレード・スケーター」

 

「アイツも融合を使うのか……!」

「攻撃力は2100……門戸さんのマキュラを上回ってる……!?」

 

 驚く十代たち。

 

「来ましたわ、明日香様のエースモンスター……!」

「そのままあの鉤爪野郎をやっつけてなさって!」

 

 自分達が尊敬する明日香のエースモンスターの出現に歓喜の声を上げる女子陣。

 誰もが、フィリアの不利と、明日香の優勢と状況を見た、その時だった。

 

 

 

 

「この瞬間、(リバース)カードオープン」

 

 

 

 流れが、変わる。

 

 

 

「────《ヘル・ポリマー》発動」

 

 

 

 フィリアのフィールドに伏せられてあった、1枚の伏せカードが発動される。

 背後に浮かび上がった悪魔のような笑いを浮かべる炎の悪魔。その炎に包まれてもがき苦しむモンスターのイラストが描かれた罠カード。

 起き上がり、正体を現したその罠カードから禍々しい黒いオーラが滲み出た。

 

 誰もが、思いもがけないカードの発動に、表情を唖然とさせた。

 

 

 

「ヘル……ポリマーですって!?」

「……相手が融合召喚を行った時、自分フィールドのモンスター1体を生け贄にして、そのコントロールを奪うことができる」

 

 驚愕する明日香に対して、淡々と効果を説明するフィリア。

 デュエルリストの基本知識の中には入っていて当然のカード。オベリスク・ブルーの女王たる明日香には、殊更説明されるまでもない。

 

「あれって……万丈目の奴が使ってた」

「兄貴を苦しめた、相手の融合モンスターを奪うカード! まさか、門戸さんも使うなんて……」

 

 十代にアンティデュエルを仕掛けた万丈目が使っていたカードな上、十代のフェイバリットカードである《フレイム・ウィングマン》を奪って十代を苦しめたカードとして、翔はあまりこのカードにいい印象を持っていなかった。

 対して十代は、フィリアもまた万丈目と同じように対融合モンスター用の罠カードを仕掛けていたことに純粋な驚愕を抱いていた。

 

「《処刑人-マキュラ》を生け贄に、《サイバー・ブレイダー》のコントロールを得る」

 

 光に包まれ、悲鳴を上げながら消えていくマキュラ。

 代わりに、光に包まれた《サイバー・ブレイダー》が《ヘル・ポリマー》のオーラに吸い込まれていく。

 やがて……黒いオーラに包まれながら、再び水面から引き釣り出されるように姿を現した《サイバー・ブレイダー》が、アクセル・スピンした後、主である筈の明日香を睨み付けながら戦闘態勢を取った。

 

「……し、しまった……!!」

 

 自らの失態に、顔を強張らせる明日香。

 それは自分のエースモンスターを奪ったフィリアに対する怒りではなく、そのような罠に引っかかってしまった己自身に対する不甲斐なさ。

 しかも、十代が万丈目にフレイム・ウィングマンを奪われた時と同じように、自分もまた詰めが甘いと評していたその時の十代と同じようなミスを犯してしまったのだ。

 デュエリストとしては屈辱の極みと言える。

 

「更に、マキュラの効果発動。マキュラがモンスターゾーンから墓地に送られたターン、手札の罠カードを1枚発動できるようになる。

 手札から……永続罠《リビングデッドの呼び声》を発動」

 

 唖然としていた明日香が、更に顔を強張らせる。

 自身の融合モンスターを奪われた上に、あれだけ警戒していたマキュラの効果の発動まで許してしまった。

 

「再び、《処刑人-マキュラ》を攻撃表示で召喚」

 

 手札から発動した《リビング・デッド》の呼び声により、《ヘル・ポリマー》の生け贄となったマキュラが再び、墓地より姿を現す。

 融合召喚により強まる筈だった明日香の優勢は、ヘル・ポリマーとマキュラのコンボによりあっさり覆された。

 明日香の手札にはこのマキュラとサイバー・ブレイダーを倒せるモンスターはおらず、明日香は硬直したまま唖然とフィリアのフィールドを見るしかない。

 

「……このターン、私はまだ通常召喚を行っていない。私は魔法(マジック)カード《戦士の生還》を発動するわ。墓地の戦士族モンスター《エトワール・サイバー》を手札に戻す。

 ……そして、そのまま守備表示で召喚するわ。来なさい、エトワール・サイバー!」

 

《エトワール・サイバー》(守備表示)

効果モンスター

星4/地属性/戦士族/攻1200/守1600

 

「私は、このままターンエンドよ」

 

 残り1枚の伏せカードを一瞥しながら、明日香はターンをフィリアへ渡す。

 伏せカードの「ミラー・フォース」。現状、明日香が逆転を狙えるカードはこれしかない。

 ならば次のフィリアのターンで攻撃を待ち、マキュラとサイバー・ブレイダーを破壊する。そうすれば、サイバー・ブレイダーは墓地に送られるという形になるが、明日香の手元に戻ってくる。

 そうすれば、残り1枚の手札である《死者蘇生》でもう1度サイバー・ブレイダーを場に残すことができる。

 ────この2枚が、頼りね。

 手札にある1枚のカードと、フィールドの1枚の伏せカードを見ながら、明日香は逆転の機会を伺う。

 

明日香  手札:4 → 1

フィリア 手札:4 → 3

 

「あ、明日香様が一気に……」

「だ、大丈夫ですわ。明日香様ならきっと……」

 

 明日香の形成不利に不安そうに胸を押さえてデュエルを見守る女子陣。

 

 

「……それにしても、《ヘル・ポリマー》を仕掛けてくるなんて。相手が融合モンスターを使ってくるかどうかも分からないのに」

「元々、次に十代とデュエルするための対策用に入れてたんだ。……で、《エトワール・サイバー》を見た時まさかと思って仕掛けてみたけど、デッキに入れたままで正解だった」

「十代君への対策が、そのまま私への特攻になったのね……。不覚だったわ、まさかこんな基本的な罠にかかるなんて」

 

 ヘル・ポリマーをデッキに入れていた訳をフィリアから聞いた明日香はため息をついて自分のミスを呪った。

 

「まさかフィリアの奴が、万丈目と同じようにオレのHEROデッキに対抗するためのカードを入れてたなんて!? しかも同じカードを……」

「兄貴への対抗策として入れるカードが一緒……今まで信じられなかったけど、やっぱり幼馴染みなんだね」

 

 驚愕する十代と、複雑そうな表情の翔。

 十代を苦しめたカードであることに変わりは無いが、この状況ではむしろ頼もしい一手になっただけに、喜んで良いのか翔は分からない。元々、対十代用にデッキに入れてたのだと聞いて、あの万丈目の影がチラついて余計にその気持ちが強くなる。

 

「……?」

 

 そんな2人の会話が聞こえていたのだろうか、要領を得ないといった表情でフィリアが2人の方へ振り向く。

 

「……貴方と十代君がデュエルした日の夜。歓迎会の後、万丈目くんが十代くんにデュエルの誘いをかけたのよ。……アンティルール付きでね」

「────なんだって?」

 

 会話が気になってデュエルに集中できなさそうなフィリアを見かねた明日香が、ため息をつきながらそう説明すると、途端にフィリアの顔つきが変わった。

 

「……今の話、本当か。2人とも?」

「おう! デュエルは途中で中断になっちまったけど、楽しいデュエルだったぜ!」

「本当だよ。アンティデュエルの誘いなんてやめようって僕は止めたんだけど……」

「何言ってんだよ翔、あのまま続けてればオレの勝ちだったじゃないか」

「そ、そうだけど……」

 

 会話する2人を尻目に、フィリアは神妙そうに俯いて考える。

 正直、デュエルの勝敗自体はどうでもいい。

 だが問題は……万丈目が、準が十代にアンティデュエルを仕掛けたという言葉。

 明日香が噓を付くような人間には見えないし、後ろの2人もそれを肯定している。

 続けて頭の中に思い浮かんだのは、初めて会ったときに明日香が万丈目たちに対して放った「碌でもない連中」という言葉。

 ────つまり、準は本当に、十代に対してアンティデュエルを?

 明日香たちが噓を言っているようにも見えないが、その一方でその言葉を信じたくないという思いと板挟みになり、頭の中で煩悶する。……が。答えは出ない。

 

「……考えていても仕方ないか。ぼくのターン」

 

 思考を切り替え、ドローフェイズに入るフィリア。

 

フィリア 手札:3 → 4

 

「場の《処刑人-マキュラ》と、《サイバー・ブレイダー》を生け贄に捧げ……」

「ッ、まさか……!!」

 

 光に包まれていくマキュラとサイバー・ブレイダーを見て、明日香は思わず身構える。

 その輝きを見た十代が笑顔で身を乗り出した。

 

「来るぜ、翔。フィリアのエースモンスターが……!」

「うん、そうだね兄貴!」

 

 2体のモンスターがフィールドから姿を消す。

 1体はフィリアの墓地に、もう1体は明日香の墓地に。

 代わりに現れたのは、巻き上がる炎の螺旋。

 その螺旋の中より、黒き竜が咆哮を上げながら姿を現した。

 

「《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》を攻撃表示で召喚!」

 

真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)

通常モンスター

星7/闇属性/ドラゴン族/攻2400/守2000

 

「ついにレッドアイズが……!」

「マキュラの効果を発動し、このターン、手札から罠カードを1枚発動できるようになる。……バトルだ。レッドアイズでエトワール・サイバーに攻撃……ダーク・メガ・フレア!」

 

 開かれたレッドアイズの口の中から、迸る真紅の炎が発射され、エトワール・サイバーに襲いかかる。

 迫り来る真紅の炎を眼前に、明日香は目を鋭くしながら叫んだ。

 

「かかったわね! リバース罠発動、《聖なるバリア-ミラーフォース-》! 相手モンスターの攻撃宣言時、相手の攻撃表示モンスターを全て破壊する」

 

 現れたのは全てを真っ白に照らす光の壁。

 真紅の炎を反射させ、逆にレッドアイズが破壊されると思われたその時。

 

「マキュラの効果により、手札から罠カード《メタル・コート》を発動」

「……メタル・コート?」

「発動後、このカードを装備カード扱いでレッドアイズに装備」

 

 攻撃途中のレッドアイズの体が白いメタリック調の色に覆われる。

 全てをはね除ける白銀をコーティングされたレッドアイズは、その名前とは正反対に白い反射光に染まっていた。

 

「このカードを装備したモンスターは、効果では破壊されない」

「何ですって!?」

 

 真紅の炎が光の壁を貫通し、そのままエトワール・サイバーを焼き尽くす。

 再びガラ空きになった明日香のフィールド。

 一方で、フィリアのフィールドには白銀のコーティングを施され、効果破壊耐性を得たレッドアイズがいる。

 

「ミラー・フォースまで躱されるなんて……」

「ぼくはこれでターンエンドだ」

 

フィリア 手札:4 → 2

 

 唖然とする明日香を見据えながら、ターンを終えるフィリア。

 

「まだよ。私のターン、ドロー!」

 

 明日香 手札:1 → 2

 

 劣勢に立たされながらも、明日香は力強くカードをドローする。

 

 そして……ドローしたカードを見て、明日香は微笑んだ。

 

「私は手札から《死者蘇生》を発動。墓地から《サイバー・ブレイダー》を特殊召喚!」

 

《サイバー・ブレイダー》

融合・効果モンスター

星7/地属性/戦士族/攻2100/守 800

「エトワール・サイバー」+「ブレード・スケーター」

 

 再び、場に現れる明日香のエースモンスター。

 フィリアの《ヘル・ポリマー》により一時的に奪われていた彼女を取り戻せた喜びもあってか、明日香は好戦的な笑みを深くしながら、更に先ほどドローしたカードを発動させる。

 

「そして装備魔法《フュージョン・ウェポン》! これを装備する事で、《サイバー・ブレイダー》の攻撃力は3600となる!」

 

《サイバー・ブレイダー》

攻撃力:2100 → 3600/守備力:800 → 2300

 

 《サイバー・ブレイダー》の右腕に、赤いアタッチメントが取り付けられ、攻撃力が1500ポイントも上昇する。

 

「すっげー! 攻撃力が一気に3600かよ!」

「か、感心してる場合じゃないよ兄貴ぃ~!」

 

 楽しそうに興奮する十代。

 そんな十代に突っ込む翔の発言に、フィリアもまた内心で同意する。

 ────楽しそうなのは結構だが、お前は一体どちらの味方だ、と。

 

「さっきはよくもやってくれたわね! 私以外の人間に操られた《サイバー・ブレイダー》の恨みは凄まじいわよ? いきなさいサイバー・ブレイダー、レッドアイズに攻撃!」

 

 ヘル・ポリマーでサイバー・ブレイダーを奪われたことを余程根に持っていたのか、鋭い目つきと激しい剣幕で明日香が言い放つと同時、それに呼応するようにサイバー・ブレイダーが右手に装着したフュージョン・ウエポンの砲身をレッドアイズへと向ける。

 チャージされた電撃が雷鳴の如く炸裂し、白銀にコーティングされたレッドアイズへと直撃。

 激しい爆発と衝撃が水面と船を揺らす。

 

フィリア LP:2200 → 1000

 

 互いに船の上という不安定な足場でデュエルしていたせいか、攻撃宣言した明日香自身も、その他デュエルを観戦していた4人も一斉に船にまたがって必死に揺れに耐えた。

 そして、煙が晴れると同時────

 

 未だ、そこには既にいない筈の竜のシルエットがいることに、明日香は唖然となる。

 

『グオォオオオッ……!!』

 

 未だに健在な黒竜の咆哮が、周囲の煙を吹き飛ばす。

 

「どうしてレッドアイズがまだフィールドに……《メタル・コート》が消えてる!?」

「……《メタル・コート》を装備したモンスターが戦闘で破壊される場合、代わりにこのカードを破壊する事でソレを免れる」

 

 その証拠に、レッドアイズの体に纏っていた白銀のコーティングが剥がれ、再び元の黒い鱗が晒されていた。

 

「くっ……!」

 

 苦虫を噛みつぶしたような表情になる明日香。

 確かに攻撃力ではレッドアイズを上回ることができたが、装備カードの所為で破壊することは叶わず。

 自分の手札は既に0。

 対してフィリアの手札は2枚。

 向こうにも逆転の目が十分にある状態で、ターンを渡してしまうことになる。

 

「……ターンエンドよ」

 

 若干、気落ちしながらターンを終える明日香。

 

明日香 手札:2 → 0

 

「ぼくのターン」

 

フィリア 手札:2 → 3

 

 ……瞬間、フィリアの赤い目線が、明日香の胸を刺すように貫いた。

 そんな錯覚を明日香は感じ取った。

 それはデュエリストとしての勘か、ただの気のせいなのか。

 とにかく、明日香にとってそれはあまりよくない感覚だった。

 

 だが、事実としてフィリアの目は()()()()()()()()()()()()()()、自らが従える黒竜と同様の赤き目で真っ直ぐと明日香を見据えている。

 

「……《ドゥーブル・パッセ》で、マキュラの攻撃を自身に向けたのは失敗だったな」

「え?」

 

 突如として言い放ったフィリアの言葉に、明日香は訳が分からず唖然となる。

 十代も翔も、明日香の後ろにいる女子陣も同様だった。

 

「ぼくとレッドアイズの射程圏内に、お前は自ら足を踏み入れたんだ」

「ッ、まさか……!!」

 

 ドローしたカードを見ないまま、フィリアは()()()()()()()()()1枚のカードを手に取り、デュエルディスクにセットして発動した。

 そのカード名は……。

 

「魔法カード《黒炎弾》を発動。フィールドのレッドアイズの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える」

「そんな……!」

 

 後ずさる明日香。

 手札は0。伏せカードも0。

 フィールドにいる攻撃力3600の《サイバー・ブレイダー》は確かに頼もしいが、黒炎弾によるダメージは戦闘ではなく効果ダメージ。

 どれだけ攻撃力が高くなった所で無意味。

 

「覚悟はいいな?」

 

 言いながら、左手で作った指鉄砲を明日香に向けるフィリア。背後にいたレッドアイズがそれに呼応するように開けた口から渦巻く黒炎を作り始める。

 そして───

 

「黒炎弾、発射」

 

 腕を上げ、指鉄砲を撃つポーズを取ると同時、レッドアイズの口に溜められた黒炎の奔流が明日香へと発射される。

 それを防ぐ手段を、明日香は持たない。

 

「「「きゃあああああっ!!」」」

 

明日香 LP:2400 → 0

 

 黒炎に包まれ、明日香の悲鳴が木霊する。

 明日香だけではなく、黒炎のエフェクトに驚いた後ろの女子2人も同様の悲鳴を上げていた。

 

 勝利の雄叫びのつもりか、レッドアイズのソリッドビジョンが咆哮を上げながら消えていく。

 こうして長い夜は、フィリアとレッドアイズの勝利という形で幕を下ろした。

 

 

 

 

「……一つ聞かせて貰って良いかしら?」

 

 デュエル終了後、女子陣、男子陣のボートを会話できる距離まで近づけた状態で、明日香がフィリアに問いかけた。

 

「さっき発動した黒炎弾。手札に加えたのは何時なの?」

「手札にあったのは最初からだ」

「……やっぱり」

 

 最後のターン、フィリアがドローしたカードを確認しないまま勝利を確信したような台詞を言っていたことから察するに、ドローする前からフィリアの手札には《黒炎弾》のカードが既にあった。

 つまり、ドローする前からフィリアは勝利を確信していたのだ。

 

「ならどうしてレッドアイズを召喚したターンに発動しなかったのかしら? それで決着は着いていたと思うけれど?」

「……お前の伏せカードを警戒していたからだ。もし効果ダメージを防ぐ類いのモノだったら、ダメージを与えられず、その上レッドアイズが攻撃できずにお前の場にモンスターを1体残してしまうことになるからな」

「……そこまで考えていたのね」

「勿論、《メタルコート》を引けてなければ強引にでも発動していた。だがせっかくマキュラを墓地に送れて、ドローした《メタル・コート》を即座に発動できる状況だったから、伏せカードを暴いてからでも遅くはないと思ったんだ。……まぁ、結果的にその必要もなかったけど……」

 

 目を瞑りながら、悟るように言うフィリア。

 

「でも、やられた側としてはちょっと遊ばれた気分になるわね」

「別にそんなつもりはない。結果論だし、あの場でアレが最善だとぼくは思った。ダメージレースの競争だけがデュエルじゃない。肝心なのは相手の情報だろう?」

「その通りね。さすがはレッドアイズ使いだわ。今回は、完敗よ」

 

 どこか清々しいといった様子で笑いながら瞳を閉じる明日香。

 幕切れが近そうな雰囲気を感じ取ったフィリアは、思わず明日香に問いかける。

 

「そういえば、十代とのデュエルはどうする?」

「あ、そういえば……!!」

 

 フィリアに言われて、当の十代本人が思い出したかのように手を叩いて、前に出る。

 

「2人ともさっきのデュエル、凄かったぜ! おかげでこれからのデュエルのことを忘れていた。これから2人とやろうってのに、情けないぜ、へへっ」

 

 テへっと恥ずかしそうに笑いながらそう言う十代に、それ以外の面々は唖然となる。

 

「あ、兄貴もしかして、明日香さんだけじゃなくて門戸さんともデュエルするつもり!?」

「当然だろ? フィリアだって対オレ用のカードとか入れててやる気満々みたいだったし。お前の退学を賭けてどうこうっていう話はとっくに終わってるんだし、後はみんなで楽しく、思う存分デュエルができるじゃねえか!」

 

 呆気に取られる女子陣だが、やがて明日香が楽しそうに笑った後、少し疲れたような表情で十代に言う。

 

「……ごめんなさいね十代くん。今のデュエルで私も疲れちゃったし、何より今の敗北で自分のデッキを見直したくなっちゃったから、また次の機会にお願いできないかしら?」

「えぇ~!? そりゃないぜ~っ!」

 

 両手を握りながら、子供のようにゴネり始める十代。

 十代としては、2人の熱いデュエルを見せられられて滾り切ったときに、いざ自分の出番だと思えばお開きにされるという理不尽な目に合わされてる。

 そんな十代の気持ちが分かるのか、困ったように笑う明日香。

 そんな十代を宥めてきたのは、以外にもフィリアだった。

 

「……落ち着け十代。天上院は“自分のデッキを見直したい”と言っていた」

「それが何だよー」

 

 ブーっといった風に唇を尖らせながら不機嫌そうに聞き返す十代。

 ……子供か、とフィリアは内心で突っ込みつつフォローに入った。

 

「つまり、次デュエルする時は更に強くなった天上院と戦えるということだ」

「本当か!?」

 

 不機嫌そうだった十代の瞳に、一気に輝きが戻り、フィリアの方へと身を乗り出す。

 

「その時の一番手はお前だ。楽しみは後に取っておくのも悪くないかも、だろ?」

「イやったーっ! なあアンタ、期待していいんだよな!?」

「え、えぇ……勿論」

 

 子供のようにはしゃぎながら、太陽のような笑顔で聞いてくる十代に明日香は少したじろぎつつも答える。

 チラリ、とフィリアの方を少し一瞥しながら明日香は思う。

 

(……まさか、あの十代君をこうも簡単に言いくるめるなんて。次回までのプレッシャーが強くなっちゃたけれど、十代くんの期待には応えないとね……)

 

「もう夜は遅いわ。これお開きにしましょ」

「あぁ。さっきも言ったけれど、あんた強かったよ。次会う時は、オレが相手だからな!」

 

 親指で自分を指差ながら、十代はそう微笑む。

 

「フィリアも疲れただろ? 帰りはオレが漕ぐぜ」

「……悪い、任せた。正直もう眠い」

 

 ボートの上に座り込み、既にウトウトとしているフィリアに十代は苦笑しつつ、明日香の方へ向き直る。

 

「それじゃあな」

「えぇ、また」

 

 笑みながら別れをする2人だったが、そんな仲よさそうな2人の様子が気にくわなかったのか、ジュンコが間に入って嫌味を言う。

 

「……ふん! お友達が勝ったからって、次自分が明日香様に勝てるとは思わない事ね!」

「ちょっとジュンコ……」

 

 そんなジュンコを言いなだめようとする明日香だが。

 

「かもしれねえな」

 

 そんな十代の一言に、明日香を含めた女子陣が一斉に十代に向き直る。

 

「アンタつえーよ。レッドアイズを召喚した時点で勝負は着いてたってアンタは言ってたけど、黒炎弾を放たずに次に回したアンタのターンであそこまでダメージを食らうのは、フィリアだって想定外だったと思うぜ?」

「……そう、かしら」

 

 十代の後ろで既に眠りに着いているフィリアは一瞥しながら、明日香は戸惑うように返答する。

 十代の言葉は、眠りに着いているフィリアにはもう届いていない。だからこそ十代も気兼ねなく言っているのだろう。

 

「全部、彼の計算通りで。私は彼の掌の上だった、どうしてもそう思えてならないの……違うと、分かってはいるのだけれど……」

「そんな事ねーよ。1度デュエルしたから分かる。アイツ、すげー事はちゃんとすげーって思ってくれる奴だと思うぜ」

 

 1度デュエルした者同士、いや、もしくは男同士だからか。

 十代はフィリアをそんな風に評しながら、気を落とすなよ、と遠回しに明日香を元気づけようとしていた。

 そんな十代の気遣いを感じたのか、明日香は一瞬呆気に取られつつも、少し可笑しいように笑った。

 

「それじゃ、次会う時はオレともデュエルしてくれよな!」

「……えぇ、約束するわ」

 

 デュエルの約束を交わした2人。

 そのまま十代はボートの上に載せた2人を連れて、ボートを漕いで明日香たちから去って行った。

 

(あの2人、益々面白いかも……)

 

 遠くなっていく3人を見送りながら、明日香はほくそ笑んだ。

 これからの学園生活は、中等部にいたときより、ずっと楽しくなりそうだった。

 

 




・主人公
翔をキツくいった事や、デュエルする理由も翔への罪悪感や翔を庇ってくれた明日香への義理立ての意味が強く、モチベーションはあまり高くなかった。
それはそれとして相手を泳がせた挙げ句、暖めておいた黒炎弾で容赦なく焼く。

ちなみに黒炎弾を放つ際に明日香に指鉄砲を向けるシーンは、元々のモントピリアの立ち絵が此方に指鉄砲を向けるポーズを取っていた所から。

・十代
デュエルの出番が回ってこなかったことをフィリアに言いくるめられフォローされつつ、自身も気落ちする明日香をフィリアの代わりにフォローしてあげるできる男。
でも、やっぱり2人とデュエルしたかったぜ!

・丸藤翔
今回のことで主人公に対する苦手意識が深まってしまった。万丈目と同じカードを使ってたのもその意識に拍車をかけてしまった。本人はキツく言ってしまったことを凄く気にしているのだが、基本表向きドライなフィリアを見て気付けというのは無理な話である。

・明日香
ヘル・ポリマーで奪われたサイバー・ブレイダーを取り戻し、ようやく反撃開始と思い至った先、相手が暖めていた黒炎弾で敗北してしまう。
その気になればこちらがサイバー・ブレイダーで反撃する前のターンから、既に王手だった事を知って気落ちするが、十代にフォローされてなんとか立ち直る。

・クロノス教諭
多分、今回1番情緒を破壊され、そして1番曇った人。
自分が仕掛けた罠で自分が1番ダメージを負ってしまっては世話ない話である。

・閃刀姫-ロゼ
Foo↑(マスターの号令で放つ黒炎弾)気持ちぃ~
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