真紅眼(あかめ)のモッピー   作:ナスの森

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モントピリアの新規衣装。
ほろ酔いの表情……エッチだ、開けた胸……なんてエッチなんだ、露出したふともも……すげえエッチだ……即買い……しちまった。


月一試験。そして立ちはだかる……

 

『あいつら、碌でもない連中なんだから』

 

 まるで親の敵でも見るような表情で準たちの背中を睨み付けながらそう言う天上院さんの言葉が脳裏を過ぎる。

 準は確かに昔から尊大な奴だったが、碌でもない奴じゃない。

 ……そう、ぼくは言い返したが。

 今思えば、あの時の準は、ぼくが初めて会ったときの準に戻っているような、そんな気がした。

 それが分かっていて尚、ぼくは準にいい顔(できていたかはともかく)をしながら近付いた。

 それでも、時間を重ねることで1番の親友になれたと、少なくともぼくは思ってる。

 確かに尊大だけど、決してプライドを持っていない訳ではなくて、実は案外ノリがよくて、そして実はデュエルのカードも引きもすごくて、準は己が思うがまま、コンボに必要なカードを引き寄せる力があった。

 当人は計算の上で成り立っているコンボだと言う。実際それもそうなのだろうが、それを当然の如く可能にするツキが、準にはあったんだ。

 

 だから、周りがどうこう言おうが関係なく、ぼくは準はすごい奴なんだって思うようになった。

 でも準がそういったすごくて、一緒にいて楽しいと思えるような面を見せてくれるようになったのは、一緒に行動するようになってから結構な時間が経ったときだった。

 

 準の周りに集まる蛆虫ども……と僕は準の現在の取り巻き達に対してそう言ったが、嘗められないように、準の後ろ盾を欲しくて近付いたという意味ではぼくもその蛆虫の一匹には変わりない。

 

 この学園で再会したばかりの準は、そんなぼくという蛆虫が寄りつく前の準に、戻っているような気がしたのだ。

 ……嫌な予感が、迸る。

 勿論、それもまた準の一つの顔だということは理解している。

 ……している、のだが。

 

「浮かない顔をしているな」

「っ!?」

 

 食堂の席でメニューに手を付けずに考え込んでいたら、ぼくから1番の座を奪ったにっくき三沢さんが話しかけてきた。

 ……いや、別にそんなに憎んでいないのだが。たかがあいうえお順で先だったからという理由だけで1番を取られるなんて釈然としないじゃないか。

 

「何か悩み事か」

「お前には関係ない。……ただ、少し考え事をしていただけだ」

「食事に10分も口を付けない程のもの、か?」

「……ん?」

 

 三沢さんに言われて、思わず時計の方に目を向ける。

 食事を卓において座ってから、既に10分以上が経過していた。

 

「……いつの間に」

「時間も忘れて考え事なんてよっぽどだ。何かあるなら相談に乗るが?」

 

 前から思っていたが、やっぱりこいついい奴なんだよな。

 だからと言って、今のぼくの悩みを三沢君に言ったところで解決できるかどうか。

 ……ぼくはいま、二つの選択肢を迫られている。

 準のことは暫く静観し、遠くから見守るか。

 それとも、すぐにでも昔のように準の傍に収まり、また一緒にバカをやりながら過ごしつつ、この学園中に広まっている準に関する噂が本当かどうか確かめるか。

 ……前者を選ぶのは簡単だ。後者を少々時間と手間がかかる。

 悩んだ末、ぼくは三沢くんに準の名前を伏せつつ悩みを打ち明かすことにした。

 

「オベリスクブルーに昔の友達がいる?」

「あぁ。だがこのアカデミアでソイツに関するいい噂をまるで聞かない。……確かに、尊大な奴だが、そこまで言われる程ではなかったと、思うんだ」

「今の時点でブルー所属ということは、中等部の時からこのアカデミアにいたのだろう。なら高等部で入学した君は、アカデミアに入ってからのソイツのことは知らないのも当然じゃないか?」

「……天上院にも同じ事を言われたな。アカデミアに入って以降のアイツを、ぼくは知らない」

 

 何せ、こっちは何の報せもなく、準はある日突然いなくなったんだ。

 ぼくの前から姿を消して一体どこで何をしているのかと思っていたら、まさかこんな所にいたなんて思いも寄らなかった。

 そう考えると、アカデミアに入れたのは本当に僥倖だったと思う。

 

「オレはその友達の事は知らないから何も言えないが。この学園のオベリスクブルー……というより、オベリスクブルーからラーイエローの生徒は総じて下のクラスの寮を見下す傾向がある。オレ達の学年はまだソレに染まっていないが、何度か話をした高等部入学の二年生や三年生は、既にこの学園の風習に染まってしまっている印象を受けた」

「……何が言いたい?」

 

 三沢さんが言わんとしていることが頭の中で予想され、ぼくは思わず三沢さんを睨み付ける。

 ……準も、そうなってしまっていると言いたいのだろうか。

 レッド寮の十代を夜な夜な誘い出し、アンティデュエルを仕掛けるような奴に。

 

「そう睨むな。君の顔で睨まれるとこっちも気が気でなくなるよ」

「……ごめん。続けてくれ」

「ましてや、オレ達と同じ学園でオベリスクブルーということは、下手したらオレが話した先輩たちよりも長くこの島に在籍している可能性だってある。……3年という月日は、1人の人間を変えてしまうには十分な時間だろう。その月日で、君の友達がその風習に染まってしまっている可能性も……言いたくはないが、決してないとは言えない」

 

 現実味のある三沢さんの言葉が肩に重くのしかかる。

 少し目を伏せて申し訳なさそうな三沢さんの表情を見て、少しだけ我に返る。

 ……三沢さんもこんな事は言いたくないだろうに。それでもぼくの悩みに真剣に答えてくれているのだ。

 三沢さんに矛先を向けるのは、そもそも違う。

 

「……でも、どちらにしても、それを確かめるには今のぼくとアイツでは距離がありすぎる」

「なら、君のやる事は決まっているんじゃないか? 今のままではこの学校の風習が邪魔してそう易々と近づけさせて貰えないだろう。……だが、同じ寮になれば話は別だ。そうなれば周りも格差云々で文句は付けられなくなるさ」

 

 三沢さんの言葉でハッと目が覚める。

 三沢さんが言ってくれたことは、前々から考えていたことだ。

 あの日、天上院さんのデュエルで準のことを聞いたあの日から考えていた。

 でも、ぼくにはこのアカデミアで目標があった。

 

 ラーイエローのまま、オベリスクブルーに下克上をしたかった。

 個人単位ではなく、最高神(姉貴)の名を持つ寮が、他の神の下の扱いなどあってはならないと。

 あの海馬社長がどんな忖度でこんな序列に仕立てたのかは不明だが。

 でも、そんなぼく自身の拘りなど持っている場合ではない。

 

「今のままではアイツに集る蛆虫共も邪魔だし、あいつ自身も素直に答えてくれないだろし。……やるしか、ないか」

「どうやら、決心が着いたようだな」

「……あぁ、ぼくのやる事なんて最初から決まっていた」

 

 コップに注がれた紅茶の水面に映る自分の顔を見ながら、ぼくは決意を固める。

 どの道、下克上どうこうはぼくの自己満足でしかない。

 優先すべきことが、ある。

 

「ありがとう。お前に相談してよかった」

「力になれたのならいい。できれば置いて行かれる前に、お前と白黒付けたい所だったがな」

 

 すぐに置いて行かれそうだ、と三沢さんは残念そうに笑う。

 別に三沢さんとデュエルしたくないわけじゃないが、まあそうだろうな。

 三沢さんは相手に合わせて、その対策に時間をかけるタイプだ。対僕用のデッキを作るのにだって、それなりに時間を要するだろう。

 対して、ぼくは準の所に行くために、そんな時間をかけるつもりはない。

 ぼくと三沢さんが別々の寮になるとしたら、そんな事になる時間はまずないだろう。

 

 

 

 寮での食事を終えた後、イエロー寮の自室に戻ったぼくは、窓から遠くに見えるブルー男子寮を見つめながら、考えに耽る。

 いや、考えては居ない。

 既にやることは決まっている。

 だがその前に、謝らなくてはいけない相手がいる。

 

「……申し訳ありません、姉貴」

 

 ここにはいないクリーブランド姉貴に謝罪する。

 

太陽神(あねき)こそが最上級であること証明するために、ラーイエローをエリート寮として押し上げたいと思っていましたが……そんな時間はなさそうです」

 

 クロノス教諭には、もう色々聞き出してある。

 どのような条件でオベリスクブルーに上がれるのか。

 また、最短で高等部入学のイエロー生がブルー生になれるためにはどれくらいの期間が必要か。

 

「ブルー生に相応しいデュエル実績と、好成績の維持。……そしてやってくる、昇格試験。その試験を受ける権利を手に入られる最短期間は、最初の月一試験時。……この試験時までが勝負どころか」

 

 その試験までに、なるべく多くの格上(ブルー)寮の生徒にデュエルを仕掛け、勝利を重ね続ける。

 その実績をアカデミア側に認められつつ、好成績を維持していけば、最短入学一ヶ月でブルー寮に入れる。

 少し無作法になるけど、あいつらのプライドの高さを考えれば、此方の挑発にはすぐ乗ってきてくれるだろう。さすがに、どいつもが準にひっついている蛆虫どもと同じような奴らとも限らないだろうけども。

 

「時は金なり。この月一試験で、ブルー寮に上がってみせる。待ってろ、準」

 

 遠くにそびえ立つ、まるで中世ヨーロッパの上流階級の屋敷のごとくそびえ立つブルー寮を見据えながら、ぼくは決意した。

 ……後ろでロゼが、心配そうに此方を見つめていたことに、気付かずに。

 

 

 

 ────そして、月一試験間近。

 

 

 

「オレのターン!」

 

 男子ブルー生 手札:5 → 6

 

 僕の目の前には、まるで親の仇でも見るかのような目でぼくを睨み付けながら先行を取るブルー寮の生徒がいる。

 ……この1ヶ月間、散々なくらいには多くのブルー寮生達のプライドをへし折ってきた自覚はあるから、コイツのぼくに対する敵意は間違いじゃない。

 ……これは、もしブルー寮に上がったら馴染むまでに少し面倒なことになるかもしれない。だが上がってしまえば、格下寮生だからという文句も封殺してしまえる。そうなった時にどう吠えるのか、少し見物だなと、割とそんな下衆な思考が脳裏を過ぎる。

 

「手札から魔法カード《デビルズ・サンクチュアリ》を発動! その効果により、フィールド上に《メタルデビル・トークン》を特殊召喚」

 

 《デビルズ・サンクチュアリ》か。やっぱり便利なカードだな。

 即席の壁としてもそうだが、何よりノーコストで召喚権を使わずにフィールドにモンスターを増やせるという点。

 ぼくもレッドアイズの生け贄要因としてよく使っているカードだ。

 ただ残念な点は、原作みたいに《増殖》で増やせない点だが、これは《デビルズ・サンクチュアリ》よりもOCGではクリボーにしか使えなくなった《増殖》側の問題だから、別にこのカード側に落ち度はない。

 

「そして《メタルデビル・トークン》を生け贄に、《エメラルド・ドラゴン》を攻撃表示で召喚!」

 

《エメラルド・ドラゴン》

通常モンスター

星6/風属性/ドラゴン族/攻2400/守1400

 

 現れたのは、エメラルド色の体表を持つドラゴン。

 風属性・ドラゴン属性の、生け贄1体で召喚できる上級モンスターとしては高い攻撃力を持つドラゴンが顕現する。

 美しさもそうだが、口から垂れてる髭のような体毛がどことなく歴戦の老兵のような威厳も兼ね備えている。

 

「オレはこれでターンエンドだ。この《エメラルド・ドラゴン》の攻撃力はお前のレッドアイズの攻撃力と同じ。しかもレッドアイズと違って一体の生け贄で出せる。レッドアイズが出てくる前にコイツで焼尽くしてやる!」

 

男子ブルー生 手札:6 → 4

 

 ぼくのレッドアイズと違って1体の生け贄で出せるのは魅力だし、ビジュアルもいいしで得意気になるのは分かるんだが……伏せカードはなし、か。

 ……手札を一瞥する。これは行けるな。

 

「ぼくのターン」

 

フィリア 手札:5 → 6

 

「装備魔法《巨大化》を発動。お前の《エメラルド・ドラゴン》に装備」

 

《エメラルド・ドラゴン》

攻撃力 変化なし

 

「ライフが並んでいるのに巨大化を……どういうつもりだ!?」

 

 これから分かることだ。

 まあじっくり見てろ。この1ターン、な。

 

「《処刑人-マキュラ》を召喚。さらに儀式魔法《黒竜降臨》を発動。フィールドのマキュラを生け贄に捧げ、手札から儀式モンスター《黒竜の聖騎士(ナイト・オブ・ブラックドラゴン)》を儀式召喚」

 

 儀式魔法発動と共に、マキュラの足下から黒い台座と、その左右に設置された黄金の斧のような小さな柱が地面から登るように出現する。

 台座の上で腕を交差させ片膝を着いたマキュラが闇に包まれていく。

 ……正直、潔く自ら生け贄になることを受け入れるかのようなマキュラの姿勢は少しかっこいいと思ってしまった。天上院とのデュエルでヘル・ポリマーの生け贄にした時は苦しそうにうめいていたから、多少の罪悪感があったんだが。

 マキュラを包み込んだが闇が姿を変えていき、やがて黒竜に跨がった、不敵な笑みを浮かべる黒騎士が姿を現した。

 よし、これで準備は整った。

 

「墓地のマキュラの効果を発動。マキュラがモンスターゾーンから墓地に送られたことで、ぼくはこのターン、手札から1枚だけ罠カードを発動することが可能になる。

 ……更に、《黒竜の聖騎士(ナイト・オブ・ブラックドラゴン)》の効果を発動。このモンスターを生け贄に捧げる事で、手札・デッキから『レッドアイズ』モンスターを1体特殊召喚することができる」

「デ、デッキからレッドアイズだと!?」

 

 驚く相手。

 

「デッキより、真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)を攻撃表示で召喚」

 

真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)

通常モンスター

星7/闇属性/ドラゴン族/攻2400/守2000

 

 黒騎士を包み込んだ炎の螺旋より姿を現したのは、我が愛おしき相棒、レッドアイズ。

 レアカードといえど、最上級モンスターにしては低い攻撃力。

 この世界の限られたカードプール、限られた可能性。その中でも、勝利をもぎ取り続けて見せる。

 

「だ、だが……攻撃力は並んでいる。相打ち狙いか!?」

 

 そんなことするわけないだろう。

 現時点でぼくの手札消費は既に4枚。対して相手はたったの2枚。

 態々そうまでして相打ちを狙うなどアド損極まりない。

 手札を使い潰すからには、目指すはワンキルのみ。

 

「手札から魔法カード《黒炎弾》を発動。このターン、レッドアイズの戦闘を放棄する変わりに、その元々の攻撃力分のダメージを相手に与える」

「なっ────」

 

 絶句する相手。

 口を開けたレッドアイズの口から放たれた黒い炎が、そんな相手に容赦なく放たれる。

 鈍い悲鳴と共に炎に包まれた相手のライフポイントが一気に削れた。

 

男子ブルー生 LP:4000 → 1600

 

「更に、ぼくのライフがお前のライフを上回ったことにより、《巨大化》の効果でお前の《エメラルド・ドラゴン》の攻撃力は半減する」

「あ、あぁ……」

 

《エメラルド・ドラゴン》

攻撃力 2400 → 1200

 

 弱体化するエメラルドを見上げながら、ガタガタを膝を笑わせる相手。

 体を震わせながら、両手に持った手札を凝視し始めるのを見て、何ともいえない感覚になる。

 既に手札が残り1枚まで使い切ったぼくとは違い、4枚も手札があるのなら次のターンで巻き返せる可能性は十分にある。

 自慢のエメラルド・ドラゴンの攻撃力を半減されたとはいえ、レッドアイズは攻撃できず、このままいけばターンは自分に返ってくると思うことだろう。

 ……でも、残念だけど次に回す気はない。

 

「さらにぼくは、マキュラの効果により手札から《メタル化・魔法反射装甲》を発動」

「メ、メタル化?」

 

 唖然とする相手。

 レッドアイズが攻撃できない今、もうぼくが何もしてくることはないと思っていたのだろう。

 

「発動後、このカードは装備カードとなり、装備モンスターは攻撃力が300ポイントアップする」

 

真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)

攻撃力:2400 → 2700

 

 レッドアイズの体のシルエットが膨張するように大きくなり、さらにその全身の黒い鱗が光沢を放つようになる。

 原作の城之内 対 キースのようにそのまま機械化するような見た目になるのではなく、あくまで《真紅眼の黒竜》のままメタル化しているような見た目だ。

 

「こ、攻撃力2700……でも、《黒炎弾》を放ったレッドアイズは攻撃できない筈。次のターンで巻き返して……」

「あくまでこのレッドアイズは、な」

 

 重ねて言うぼくに、相手はさらにえっ、と言い淀む。

 

「ぼくは魔法反射装甲を装着したレッドアイズを生け贄に捧げ────」

 

 デュエルディスクからデッキを掴み、あるカードを取り出し。

 正直、魔法反射装甲を装着した普通のレッドアイズの方が強いし、このカードはどちらかと言うと、“アレ”を出すための願掛け用に入れてるものなのだが、こういう場面では約に立つのだ。

 

「デッキより《レッドアイズ・ブラックメタルドラゴン》を特殊召喚!」

 

《レッドアイズ・ブラックメタルドラゴン》

効果モンスター

星8/闇属性/機械族/攻2800/守2400

 

 鋼の装甲を纏ったレッドアイズが光に包まれ、更に大きな炎の螺旋を巻き上げる。

 それと共に姿を現したのは、機械化されたレッドアイズ。

 全身を鋼鉄で覆われたことにより、元よりもシルエットが一回り大きくなり、更に細かった四肢も、巨爪を備えた厳ついモノに変貌を遂げている。

 嘴の下に見える歯茎の部分には数本のネジが並ぶように打ち込まれており、四肢の関節も球体関節に変化していることからも、この黒竜が機械化されていることを暗に象徴している。

 

「こ、攻撃力2800だって……!? でも、攻撃することは、まさか……」

「そうだ。新たな特殊召喚されたこのカードは、黒炎弾のデメリットを受けていない。つまり、お前のモンスターに攻撃する事が可能になる」

「あ、あぁ……!」

 

 己の敗北を悟ったのだろうか、ゆっくりと相手の姿勢が崩れ落ちる。

 相手の残りライフは1600。

 そして場には攻撃力が半減され1200となったエメラルド・ドラゴンしかいない。

 攻撃力2800のブラックメタルドラゴンの攻撃で、丁度ライフが0になる。

 

「《レッドアイズ・ブラックメタルドラゴン》で《エメラルド・ドラゴン》に攻撃……ダーク・メタル・フレア!」

 

 通常のレッドアイズとは異なる、スパークを纏った真紅の炎弾がレッドアイズの開けた口にチャージされていく。

 やがて、チャージされた炎弾がエメラルド・ドラゴンに炸裂。

 砕け散ってゆくエメラルド・ドラゴンの悲鳴と共に、デュエル終了の合図が告げられた。

 

男子ブルー生 LP:1600 → 0

 

「ま、負けた……オレのエメラルド・ドラゴンが……たった1ターンで」

 

 崩れ落ちた姿勢のままブツブツと呟くブルー生を一瞥した後、ぼくは周りの野次馬を睨み付ける。

 ……正確には、目の前で崩れ落ちているブルー生と同じように、デュエルで倒してぼくが地に這いつくばせた同じオベリスクブルーの生徒達だ。

 同級生と、中には上級生の先輩たちも混ざっている。

 

「ク、クソッ……」

「オレ達エリート寮のオベリスクブルーが……なぜ格下のイエローに……!?」

「こんなの何かの間違いだ!」

 

 格下の寮の生徒に敗北されたことを受け入れられないのか。

 負けた悔しさから腕を地面に着いたままぼくを睨み付けるブルー生たち。

 

「間違いだと思うのなら、もっと連れてくればいい」

「……何だと」

「偶々ブルーの中でお前達が弱かっただけの可能性もある。格下に負けたことを受け入れられないのなら、仲間でも連れてくれば良い。尤も────」

 

 目を瞑って、少し間を開ける。

 正直、こんな挑発を言うのはぼくのキャラじゃない。

 ひどい事を言っている自覚はある。

 でも、今のぼくは一刻も早く準の所へ行かなければいけない。多少汚れを被ってでも、格上の寮の生徒たちに対する勝ち星を少しでも増やしておきたい。

 ……だから、ごめんよ。

 

安全地帯(ブルーライン)でぬくぬくと過ごしてきた奴らが、ぼくに勝てるとは思えないけど」

「お、お前……!!」

 

 歯ぎしりを上げ、表情に青筋を浮かべるブルー生たち。

 勿論、本心で言っているわけではない。

 でも、ぼくもなりふり構っているわけにはいかない。

 いったいどれくらい勝ち星を重ねればいいのか、クロノス教諭も明言してくれなかった以上、ぼくにできることはこれだけなのだ。

 

「覚えていろよ。この屈辱は必ず晴らしてやるッ!!」

 

 そんな捨て台詞を吐きながら、ぼくに敗れたブルー寮生たちはぼくから背を向けて立ち去ってしまった。

 ……もっと仲間を呼んできてくれると有り難かったのだが、今日はもうここまでだろうか。もう何十人とデュエルしたのか分からない。

 

「……結局、“これ”は出せないままか」

 

 1枚のカードを取り出しながら、呟く。

 これだけデュエルをしたのに、デッキに入れているにも関わらず、結局は出せなかったことに落胆してため息を吐く。

 ブラックメタルドラゴンの方は問題なく出せるのだから、そろそろコイツも来てくれたっていいだろうに。そもそも召喚条件自体はブラックメタルドラゴンより余程簡単なのに、なぜ頑なにコイツも、そのキーカードも手札に来てくれないのやら。

 ……まあ、結局は勝てているから問題はないのだろうけれど。

 

「おーい、フィリアぁ~ッ!」

 

 ……そんな事を考えていたら、遠くから聞き覚えるのある声が聞こえて其方に振り返る。

 ぼくに笑顔で駆け寄ってくる十代と、その後を追ってくる丸藤少年の姿があった。

 ……十代はともかく、今は丸藤少年とはなるべく顔を合わせたくはなかったな。

 あんなことを言った手前、どうも顔を合わせづらい。まあ、ぼくの自業自得なんだが。

 

「十代か。何か用?」

「聞いたぜフィリア。何でも最近、オベリスクブルーの生徒相手にデュエルしまくってるって!」

「……少し訳ありでな。強引にでも挑ませてもらってる」

 

 期待を込めた眼差しでぼくを見る十代の目を見て、ぼくは十代が言いたいことを一瞬で悟った。

 そもそも、普通ならなぜぼくがオベリスクブルーの生徒たちを相手に辻デュエルを仕掛けまくっているかを聞くところだろう。……現に、後ろの丸藤少年はそれを聞きたがってそうに見える。

 だが、十代の場合は別だ。

 

「なあなあ、オレともデュエルしてくれよ! この間のデュエルで負けてからさ、ずっとお前にリベンジしてえって思ってたんだ」

 

 十代にとって、ぼくが今デュエルを仕掛けまくっている動機はどうでもいいのだろう。

 せっかくぼくがやる気になっているのなら、そうである内にデュエルをしたいと思ってここに来たって所か。

 でも、悪いけど今は十代の要求に応えることはできない。

 時間は押している。

 筆記試験のための時間も確保したいし、デュエルに費やす時間は全てブルー生とのデュエルに回したいのだ。

 だから、そう断ろうとして。

 

 

「シニョール・フィリーア!!」

 

 

 またしても、遠くからぼくを呼ぶ声が聞こえた。

 他人をそんな独特な呼び方する人間など、ぼくは一人しか知らない。

 ぼくも、十代たちも一斉に其方へ振り向く。

 この広大なデュエルフィールドの入り口から入ってきた人物が、ゆっくりとぼくの方へ歩み寄ってきた。

 

「クロノス先生!」

「げっ、ドロップアウトボーイも一緒デスーカ……ま、今は別にいいノーネ。シニョール・フィリア!」

「……はい」

 

 一瞬、十代のことを忌々しげに睨みつつも、ぼくの方へ視線を戻したクロノス先生が呼びかけてくる。

 

「以前話した、月一試験と、それに伴う昇格試験で話があるノーネ。至急、私の職員室まで来るように。要件はそれだけなノーネ」

 

 真面目な顔をしてそう話すクロノス教諭に、ぼくの肩の力も思わず張ってしまった。

 ここ最近の辻デュエルについては当然、クロノス教諭だって把握している筈だ。

 昇格試験を受ける水準まで達しているかどうか、気になる所だ。

 

「それデーワ、シニョール・フィリア。職員室で待っているノーネ」

 

 そう言い残して、デュエルフィールドから去って行くクロノス教諭。

 残された十代たちとぼく。

 

「昇格試験って、フィリアお前……」

「まさか門戸さん……今までブルーの人達にデュエルを仕掛けていたのって……!」

 

 クロノス教諭の話を聞いていた2人は、ぼくが何のためにブルー生に辻デュエルを仕掛けまくっていたか察したようだった。

 唖然となっていた2人の内に、先に笑顔になってぼくに詰め寄ったのは十代だった。

 

「やったじゃねえかフィリア! ついに念願のオベリスクブルーに昇格って事だろ!?」

 

 自分のことのように喜んでくれる十代に、些か毒気が抜かれる。

 三沢さんもそうだったが、十代も底抜けにいい奴なものだから、心が汚れているぼくにとっては2人とも眩しく見えてしまうのだ。

 

「まだ一ヶ月しか経ってないのに……でも、門戸さんなら当然だよね。明日香さんにも、兄貴にも勝ってるんだし……」

 

 ぼくから目を逸らし、控えめにそう呟く丸藤少年。

 ……やっぱり、ぼくのことは苦手か丸藤少年。

 自業自得だと分かっていても少しクるな。

 

「まだ昇格すると決まったわけじゃない。今回の月一試験でどうなるか……クロノス先生はその事についてぼくに話をしたいんだろう。……待たせるわけにはいかないから、行ってくる」

「おう! お前ならすぐオベリスクブルーに昇格できるぜ!」

 

 笑顔で応援してくれる十代に対し、背を向けたぼくは軽く手を挙げて礼をする。

 どうあれ、応援してくれる同級生がいるとやる気が出てくるものである。

 

 

 

 

「ここ最近、シニョールがオベリスクブルーの生徒たちを相手に、連勝していることは此方も把握しているノーネ」

「……左様でしたか」

 

 机の座るクロノス先生の前に立ちながら、ぼくはクロノス先生の話を聞く。

 

「元々、シニョールはシニョール三沢と並んで入試一位の成績で入学した最も優秀な生徒ナノーネ。このような事はしなくとも、シニョールのブルー昇格は時間の問題だったノーネ」

「それでは……」

 

 話を促すぼくに対し、クロノス先生は目を瞑って無言で頷く。

 

「本来ならーば、もう少し時間をかけてから昇格試験を行うのです~が、既にシニョールにそんな時間をかける必要はないの~ね。

 今回の月一試験……(わたしく)から、シニョールの実技試験の相手になるブルーの生徒を1人選ばせて貰うノーネ。もしシニョールがそのデュエルに勝つことができれーば……」

 

 ────シニョールも、晴れてオベリスクブルーの1人なノーネ。

 そう続けたクロノス先生の言葉に、やっと少し、肩の荷が下りたような気分になる。

 

「……ありがとう、ございます」

「礼を言うのはまだ早いノーネ。シニョールが我がオベリスクブルーの生徒になれるかどうかは、その実技試験の勝敗にかかってるノーネ。気を抜かず、それを忘れぬようにしながら試験に臨むノーネ」

「分かりました。……では、ぼくはこれで」

 

 クロノス先生に一礼して立ち去ろうとする。

 

「あぁ~それとぉ~、シニョールフィリア。少し待つノーネ!」

 

 出口の扉の取っ手に手をかけたその時、後ろからクロノス先生に呼び止められた。

 どこか慌てているような口調で言われたので、気になって思わず振り向くと、机から立ったクロノス先生がそのままぼくに歩み寄ってきた。

 

「……最近、調子はどうなノーネ?」

 

 ぼくの近くまで歩み寄ってきたクロノス先生は、ぼくに目線を合わせるように少しかがみ込んでそう聞いてきた。

 

「……どう、とは?」

 

 意味が分からず、クロノス先生に聞き返す。

 正直、この人に対するぼくの印象は、先行1ターン目でぼくの黒炎弾でワンキルされた人という事しかないので、ここでそんな事を聞かれるのは少し不意打ちを食らった気分だった。

 

「……何も無いならいいノーネ」

「……?」

 

 訳が分からずにいると、クロノス先生はぼくの両肩に手を置き、ぼくの目を見た。

 見た目だけでもインパクトのある先生なのだが、そんな人がこの距離で真剣な表情で見てくるのは、何か奇妙に感じてしまう。

 

「何かあったら、必ずこの私に言うノーネ。シニョールがオベリスクブルーの生徒になれ~ば、私も手厚くシニョールをフォローすることが出来るノーネ。例えどんな事があろうとも、先生はシニョールフィリアの味方なノーネ」

「は、はぁ……」

 

 これは、先生なりに応援してくれているのだろうか。

 ……それとも、何か別の意図があっての発言なのだろうか。

 でも、今までぼくの容姿で勘違いして寄ってきた男たちからの悪意のような視線を、この人からは感じられないのだ。

 

「言いたい事はそれだけなノーネ。それでは、試験頑張るノーネ」

 

 そう言ってぼくの肩から手を離し、クロノス教諭は机の椅子に戻っていった。

 ……正直、授業中は丸藤少年に恥を掻かせたり、逆に入試で負けたことを十代に茶化されて恥を掻いたりしていた姿を見ていただけに、ぼくのこの人に対する印象が180度変えられた瞬間でもあった。

 

 

 

 

 そして、月一試験当日。

 

 

 

 筆記試験を終えた後の、体育館での実技試験。

 広大なデュエルフィールドが、六つのスペースに分けられ、計12人が試験を受けられる体勢となっていた。

 ぼくの立っている位置の後ろに設けられたスペースには、十代と向かい合っている準の姿があった。

 つまり、ぼくは今は違うデュエルスペースに立っている準と背中合わせの位置に立っている。

 ……準の相手は、なぜかオシリスレッドの十代なのも気になる。

 気になる……のだが。

 

 

「……な、なんで……」

 

 

 それ以上に、ぼくの実技試験の相手としてデュエルフィールドに上がってきた相手に、ぼくは唖然とする他なかった。

 間に立つクロノス先生を見やると、何故だか申し訳なさそうに項垂れていた。

 ……それだけで、少なくとも、クロノス先生の嫌がらせ、という訳ではなさそうなのが分かる。

 

 ……と、なれば……。

 目の前でデュエルディスクを携えながら立ちはだかるその人物に、再び視線を戻す。

 そこには────。

 

「入試で会って以来だな」

 

 確かに、入試で試験を受ける前に、その人物は天上院さんと一緒に少しだけ話をした人物だった。それでも、その時は目の前に立つ彼がどういう人物かをぼくは知らなかった。

 

「クロノス教諭の事は責めないでやってくれ。オレが無理を言って、君の試験の相手を願い出たんだ」

 

 唖然とするぼくに構わず、その人物はデュエルディスクを構え出す。

 

「明日香から話は聞いている。同じレッドアイズ使いでありながら、吹雪とはまったく異なるデッキスタイル。そのタクティクスをオレにも見せて欲しい、門戸フィリア」

 

 この学園の最強、カイザーの異名を持つ青年が。

 実技試験の相手としてぼくの前に立っていたのだ。

 




・主人公
一刻も早く準に近づこうと自らの野望(笑)を蹴ってブルー昇格を決意。
……でもクロノス先生は妙に優しくて面食らうしで、実技試験に立ちはだかるまさかの相手にさらに面食らう。
更に翔の覗きの一件でメンタルが安定しているとも言えない。
主人公の明日はどっちだ!?

・クロノス教諭
自分が仕掛けた覗きの件で、性癖破壊と共に主人公の過去も知ってしまって実は曇っていた人。性癖破壊はされたが、それはそれとして主人公にかけた言葉は純粋に一生徒を思ってでのものである。

・万丈目
レアカードを貰って十代の相手を引き受けたまではいいが……なぜよりもよってアイツと背中合わせなんだ!?

・カイザー
明日香から十代や自分とのデュエルの話を聞いて主人公に興味を示し、クロノス先生に無理を言って主人公の実技試験の相手を願い出た人。
同じレッドアイズ使いとして入試の時から主人公に興味を持っていたが、どうやら自分の知る親友とも異なる戦い方であると聞いていても立ってもいられなかった。
あとは、同じ灯台部として親友の手がかりを少しでも掴めればと思っている。
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