真紅眼(あかめ)のモッピー   作:ナスの森

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血肉の暴走召喚

 

 時は遡って筆記試験終直後のこと。

 

『これで筆記試験は終~了ぉ~! なお―、実技テストは午後2時から体育館で行いまーす!」

 

 オシリスレッドの寮長を務める大徳寺先生の気の抜けたような、筆記試験終了のアナウンスと共に、試験会場の出口からレッド、イエロー、ブルー寮問わず生徒たち全員が一斉に駆け出していく。

 この学園の購買部に新カードの大量入荷されたことで、実技試験前に自分のデッキを新カードで少しでも補強しようと購買部に駆け込んでいくのだ。

 

「おい、起きろ2人とも! 試験はとっくに終わったぞ!」

 

「……」

 

 試験の途中で机に突っ伏したまま寝てしまった翔と十代と、その2人を起こそうとする三沢大地の様子を一瞥した後、フィリアは別の席へと目線を向ける。

 

「万丈目さん、急ぎましょう!」

「早く行かないと!」

「分かってる」

 

 取り巻きたち2人に急かされながらも、少し疲れたように言い宥めつつ両手に持った紙束を見つめる幼馴染みの姿が目に入る。

 ……相変わらず尊大な癖して真面目だなとフィリアは内心で苦笑しつつ、彼らに近付いた。

 

 バン、と少し強めに机を叩いて彼の意識を此方へ向かわせる。

 

「お、お前は……!」

「こ、この間の!?」

 

 最初に反応したのは取り巻き2人。

 だが、フィリアはそんな2人のことなど眼中になく、その赤い目でじっと、席に座って資料と睨めっこしていた幼馴染みを見下ろしていた。

 

「……何の用だ、オレは忙しい」

 

 若干、歯ぎしりしながら苛立ち気に、万丈目と呼ばれた男もそんな目の前の幼馴染みをにらみ返した。

 

「みんな新カード狙いで忙しいのに、1人だけ黙々と答え合わせか。相変わらず尊大な癖して真面目だな」

「当然だ。些細なミスでも発覚すればオレのプライドが許さん。エリートであるオベリスクブルーなら尚更の事だ」

「……うん、そうだな。やっぱり相変わらずで安心した」

 

 一体今の会話でどこをどう安心したのか訝しむ万丈目だったが、目を悟って肩に力を抜いている様子から見るこの女顔の幼馴染みは本気で自分に関する何かで安心したのだろうと悟ってしまう。

 ────えぇい、オレの母親か貴様は!

 内心で悪態を付きつつ、万丈目は話を戻した。

 

「それで何の用だ。こんな所に突っ立ってないで、お前も実技試験に備えてカードを買いにいったらどうだ」

「勿論そうするつもり。そこで、だ」

 

 間を置いて、フィリアはその赤目を細め、万丈目に顔を近づける。

 

「っ!?」

 

 それに驚き、万丈目は反射的に顔を赤面させながら若干椅子から退くような姿勢になってしまった。

 ───―クソったれ、相変わらず男の癖してそこいらの女よりいい顔してがる……!

 実際にはそれほど近付いてはいないが、過去にいろいろあった(性癖破壊を受けた)万丈目にとっては敏感になっても仕方が無いことだった。成長して多少外見が男らしくなっているだろうかと会わない間そんな事を考えていたら、むしろ余計に磨きが掛かっているのだから、多少身についてた筈の耐性が形無しである

 

「一緒に買いに行こう、準」

「……なに?」

 

 何を言い出してくるのかと思ったら、突拍子もなくそう言われて唖然となる万丈目。

 

「お互い、目当てのカードを手に入れられるとも限らない。できるだけ人手を多くして、カードを少しでも多く買い集めた後に互いに必要なカードの交換をできるようすれば、目当てのカードを手に入れられる可能性も高くなる。多分、他にも同じ事をやる奴は出てくるだろうしな」

「……道理ではある、な」

 

 理に適っているだけに、断りづらくなる万丈目。

 これがあの遊戯十代や他の有象無象の提案ならば容赦なく突っぱねているところだが、目の前の幼馴染みは曲がりなりにも、この万丈目準が認めた人間である。

 提案を無徳にはできない。

 

「……仕方在るまい、今日だけだ。おい、お前達も協力しろ」

「で、でも……!」

「万丈目さん! こいつ最近オレ達ブルー寮の生徒に……!」

 

 やると決めた以上、人手は自分とフィリア以外にも必要だと判断した万丈目は自分の取り巻き2人にも呼びかける。

 ……が初対面の印象と、ここ最近のブルー寮生に対するフィリアの蛮行もあってか、取り巻き2人はフィリアが同行することを反対した。

 単純に格下のラーイエローと自分達が取り巻いている万丈目が一緒に行動するのが嫌だったのが1番の理由だが。

 

「冷静になれお前等。実技試験は同じ寮同士の生徒がデュエルをすることになる。つまりラーイエローのコイツがオレ達の敵になることはない。……おい、なぜ目を逸らしている?」

「……別に」

 

 万丈目の言葉に対し、意味ありげに視線を逸らしていたフィリアを見逃さなかった万丈目はすかさず訝しむが、答える様子のないフィリアに「まあいい」と思い直し、再び取り巻きたちに向き直る。

 

「故にコイツと協力し合っても互いに不利益になることはない。ならコイツの提案に乗ってみるのもありだ。それに……こいつは1度やると決めたことに対しては梃子でも動かん奴だ、昔からな……」

 

 呆れたように親指でフィリアを指さしつつそう言う万丈目に対して、取り巻き2人は不満ながらも渋々と引き下がる。

 万丈目の言うことは理に適っているのだし、表だって反論する理由はないのだが、最後の言葉から、まるで万丈目が格下のイエロー寮であるフィリアの提案に折れたかのような発言をしていることに心の底で納得できずにいた。

 幼馴染みに弱い万丈目準など、彼らの知る万丈目準ではないのだから。

 

「なら決まりだな。時は金なり、購買部へ急ぐぞ準」

「万丈目さんだ! ……相変わらずその言葉が好きなようだなお前は」

 

 そんな会話をしながら、自然とフィリアの隣に並んで試験会場の出口へ向かっていく万丈目の背中を、取り巻き2人は唖然としながら見ていた。

 

 

     ◇

 

 

「それでフィリア。お前最近オレたちオベリスクブルーの生徒にデュエルを挑みまくっているのはなぜだ」

 

 購買部で早足で向かいつつ、道中で万丈目はフィリアにそう問う。

 ここ最近目立つようになってきた幼馴染みの蛮行の噂は前々から万丈目も気になっていた。……正直な所、幼馴染みとしてはまた滅茶苦茶なことをやらかさないか気が気でないのだ。

 

「少し訳ありでな。準に迷惑はかけないつもりだ。もし泣きつく奴が出てきても無視してくれていい」

「フン、オレが態々有象無象のための敵討ちなどすると思うか。……どういうつもりか知らんが、恨みは買いすぎないようにしておけ。ただでさえお前は昔から男共から目を付けられやすかった。おまけに売り言葉に買い言葉で余計な騒ぎまで起こす」

「……つくづく、ブーメランっていう言葉ほど準に当てはまるものないな。髪型も《鎖付きブーメラン》みたいに尖ってるし」

「誰が《鎖付きブーメラン》だ! オレの髪型をそんな風に例えるのはお前くらいだぞ! あと髪弄るな!」

 

 ツンツンと自分の髪先を弄ってくるフィリアの手を払いのける万丈目だが、その動きを読んでいたのかすんでの所でフィリアの手は持ち上げられ、万丈目の手が空振る。チィ、と舌打ちをしながら前に向き直った万丈目と、心なしか少し面白そうなフィリア。

 ……そんな2人の様子を、取り巻き達は完全に間に入り込むタイミングを失ったかのように唖然としながら着いてきていた。

 本来ならば、自分達が万丈目の脇に並んで歩いている筈なのに、たった1人の格下の寮生によってその居場所を失った2人。

 ……正直な所、フィリアが万丈目の髪型を《鎖付きブーメラン》に喩えた所で少しツボにはまりそうになってしまったが、それ以上に居場所を取られた疎外感の方が大きかった。

 何より、本人の気持ちはどうあれあんな風に他人とじゃれ合う万丈目を、2人は見たことがなかった。

 

「とにかく、やるからには役に立ってもらうぞ」

「言い出しっぺだからな、当然だ」

 

 万丈目の言葉にフィリアはそう返す。

 

「お前達もだ。……おい、聞いているのか?」

 

 後ろの取り巻き2人にも呼びかける万丈目だが、肝心の取り巻き達は唖然としたままであったために反応が遅れる。

 

「は、はい!?」

「何でしょうか、万丈目さん!?」

「聞いていた通りだ。使えそうなカードは手当たり次第買い付けろ。自分のデッキに合わなそうな物でもだ。もしかしたら他の3人のデッキに合うカードかもしれんからな。買ったカードが誰のモノになるかは後で決める。それでも自分のデッキに入れたいと思うカードが見つからなかった場合……その時は文句を言わず諦めることだ。いいな?」

 

 一見、冷たい言葉とも取れるが、自分のデッキよりも合うカードがある場合は譲るとも取れる万丈目の言葉に、取り巻きたち2人はゆっくりと頷いた。

 その後、細長い廊下を通って購買部の入り口が見える所まで辿り着いた4人であったが、まだ購買部のシャッターは閉じられたままで、その前には多くのレッド、イエロー、ブルーの生徒たちがシャッターの扉を叩きながら騒いでいた。

 

『開けろ開けろーっ!!』

『早くレアカード見せろっ!』

 

 余程レアカードをお目に掛かりたいのか、彼らは今か今かと開かずのシャッターを恨めしそうに見上げている。

 その様子を、後から到着した4人が呆れたように見ていた。

 

「ふん、落ち着きのない奴らだ」

「実技試験までデッキを調整している時間がないと考えれば、分からなくはないが……」

 

 鼻で笑いながらそう言う万丈目と、呆れながらも多少の理解を示すフィリア。

 ともあれ、開店前に到着できたのであればスタートラインは彼らと同じ。それに加えて此方は人手が4人もいる。

 カードの買い占めに専念すれば、レアカードが手に入る確率も早くなるだろう。

 

 騒いでいる彼らを後ろから眺めている内に、後ろから更に大勢の足音が聞こえ、4人は一斉に後ろを振り向く。

 そこには……警備服を纏い手に警棒を携えた大勢の集団が走ってくるのが見えた。

 

「あ、アイツらはっ!?」

「避けろッ!」

 

 驚いた4人は一斉に脇道に逸れて彼らを避ける。

 取り巻き達は通路の右側に、左側にはフィリアと、咄嗟にフィリアの手を引いていた万丈目が。

 警棒で武装した大人達はそのまま脇道に逸れた4人を通り過ぎて、やがてシャッター前で待機しているアカデミア生たちを取り囲み、アカデミア生たちを無理矢理退かし始める。

 

『な、なんだ!? こいつらはーッ!!?』

 

 アカデミア生たちの驚きの声が一斉にハモる。

 無理もないだろう。

 レアカード欲しさで購買部まで運んだら、厳つい装備で武装した大人達が大勢やってきたのだから。

 驚いた彼らはそのままシャッターの前から退かされ、武装した大人達が左右にそれぞれ整列して道を作り始めた。

 

「下がれ下がれーッ!」

 

 更に男の声が廊下に響き渡る。

 何事かと其方へ振り向けば、武装した大人達の作った道を歩いてくる髭を生やした中年の男性がアタッシュケース片手にやってくる。

 ────いや、この人達海上保安庁か海自か何かかっ!?

 思わず内心でそんな突っ込みをしてしまうフィリア。おそらく島に入荷するカードを守るためにこのような武装をしているのだろうが、いざ目の前で見せられると非情にシュールであった。

 

「お前達が欲しい物は……ここにっ!!」

 

 白い軍帽を被った中年の男性は豪快にそう言いながら片手に持ったアタッシュケースを掲げる。

 おそらくあの中に入荷予定の大量の新カードが入っているのだろう。

 

 

『オオオオォ~ッ!!』

 

 

 男性の掲げたアタッシュケースを見たアカデミア生たちが一斉に拍手しながら歓喜の声を挙げる。

 アタッシュケースを持った男性はそのままシャッターを持ち上げて店舗の中へと入っていく。

 

「今、売ってやるからな?」

 

 そう言い残しながら、店舗の中へと姿を消し、シャッターが閉じる。

 中から物音が聞こえる。

 きっとアタッシュケースの中身のカードたちを店舗にならべるなど、売り出しの準備を色々しているのだろう。

 

「……いいか。開店したらまずはカードを買い集めることに専念しろ。あいつらよりもなるべく多くのカードを集めるんだ」

 

 万丈目の指示に、他の3人が一斉に頷く。

 そして暫くしてシャッターが開き始める。

 いつでも突入できるように身構える4人。

 

『ついにレアカードがぁ~!!』

 

 目を輝かせるアカデミア生たち。

 ついにシャッターが完全に開き、中の店舗の全容が明らかにとなる。

 

 

 ……しかし、いざシャッターが開くと、店舗にカードが並んでいる様子はなく。

 ……変わりに、中心の机の上に置かれてあった空のアタッシュケース。

 

 そして、その中には置き紙が置かれてある。

 その起き紙に、でかでかと書かれてあった文字が、突入した生徒達の目に入った。

 

 

 『売約済』、と。

 

 

『ないぃ~~ッ!!?』

 

 

 突入した勢いからか一斉にずっこけるアカデミアの生徒達。

 ようやくレアカードを手に入れられると思ったのも束の間、既にカードは売り切れだったのだ。

 その光景に唖然となったのは、4人も同様だった。

 他の生徒たちに負けじとカードを集める作戦を立てていたのに、そもそもカードを手に入れることができないという、前提そのものがひっくり返されてしまった。

 

「どういう事だよっ!?」

 

 納得が行かないのか、1人のオベリスクブルーの生徒がこの場にいる全員の意思を代弁するかのように、アタッシュケースの前に立っていた1人の店員が問い詰める。

 

「申し訳ありません。此方の方がお買い占めでーす」

 

 店員がそう言って、隣にいた人影に手添えすると、生徒達の視線が一斉にその人影に向かう。

 

「代金すでに、お支払い済ナ~ノ」

 

 黒い帽子を深く被り込んで素顔を隠し、黒い外套を身に包んだ謎の長身の人物が一差し指を立てながらそう言う。

 

「あ、アイツは一体!?」

「あの金髪のおかっぱ……どこかで見覚えが……」

 

 驚く万丈目。どこか聞き覚えのある声に訝しげになるフィリア。

 突然のカードの売り切れに唖然となる4人を尻目に、他の生徒たちが一斉に騒ぎ立て始める。

 

「ああぁああぁあッ!!」

「汚えぞッ!!」

「このぉッ!!」

「独り占めかよッ!」

「鬼ぃッ!!」

 

 一斉に浴びせられる非難の声など、その人物に響く様子はなく。

 カードを買い占めた謎の人物はそのまま去ってしまった。

 こうして、4人が立てたカード買い集め作戦は、思わぬ形で出鼻を挫かれ、実行すらされぬまま幕を閉じた。

 

 

     ◇

 

 

 思わぬアクシデントに遭遇してしまった。

 ぼくが立てた、「準と一緒にカードを買い集める」作戦が、こんな形で出鼻を挫かれるなんて……!!

 ……本音の所は、入荷されるカードの事はどうでもよくて、久々に準と話せればそれでよかったので、ぼく自身は別にそんなにダメージはないんだが。

 でも、準には無駄骨に付き合わせてしまったな。

 

「誰だアイツぅ~、カードを買い占めやがって!!」

「全然カードを集められなかった……どうすんだよ午後の試験!」

 

 準に集る取り巻きたちがなにやら騒いでる。

 ……彼らも同様に無駄骨に付き合わせてしまった。

 昔準に集っていた蛆虫どもと同じ匂いがするので彼らに対する印象はよくはないが、今回ばかりはこの2人に対しても罪悪感がわく。

 

「……失念していた。同じことを考える人間がいるだけならまだしも……開店前から先回りされてたなんて……」

 

 そもそも、果たして生徒の中にそのような事をできる人物がいるだろうか?

 態々開店前から店舗の中に先回りしてカードの買い占めができる人物など、この学校において余程の権力と金を持った人間じゃないとできない。

 ……まさか、覗きの件で十代を陥れようとした人間と同一人物?

 

 そこまで思い至って、ぼくは心の中で頭を横に振る。

 だってカードを買い占めたあの黒い外套の人物……どう見てもどこかで見覚えのある人物だったもん。

 下心なしで、あそこまで優しくしてくれた人があんな事をするなんて、正直信じたくはない。

 

「……慌てるな。たかが月一試験で新しいカードを仕込むこともない。それにカードを買えなかったのは他の奴らも同じだ。此方に不利な条件は1つも無い。どうせオベリスクブルーにオレを倒せる者などいないからな。ラーイエローにもお前を倒せるような人間がいるとは────」

 

 カードを買えなかったことを個々、意気消沈するぼく達3人に準が振り返りながらそう言い宥めていると。

 

 

「しかしその相手が、遊城十代だったら、どうナノーカナァ?」

 

 

 通路の隣にあった階段上から、聞き覚えのある声が聞こえ、ぼくは其方へ振り向く。

 

「……なに?」

 

 準と取り巻きたちも同様に、その階段上の人物を見上げた。

 そこには、購買部でカードを買い占めたあの黒い外套の人物が立っていた。

 

「今のままで遊城十代に勝てるノーですカァ?」

 

 若干、棒読み気味な台詞ながらも、ぼくはその人物の正体に確信を持ってしまった。

 ……正直、信じたくはない。

 この人が、こんな真似をするなんて。

 

「なッ、お前はカードを買い占めた……!」

 

 取り巻きの1人が驚いたように指差ながら言う。

 

「そのカードなら~、今ここに~……あります~の~!」

 

 そう言って黒い外套の人物はがに股になりながら、身に纏った黒い外套を開く。

 その外套の裏に隠し持っていた、購買に売られていたレアカードの数々がぼくたちの目に入った。

 ……やっぱり、この声は。

 

「……もしかして、クロノス教諭?」

「クロノス教諭だとッ!?」

 

 ぼくの言葉に驚いた準が振り向く。

 正直、ぼくだって信じたくない。

 頼むから別人であってくれと、ぼくは階段上の人物を見上げる。

 しかし、そんなぼくの願いを嘲笑うかのように、黒い外套の人物は正体を言い当てられたことがむしろ嬉しいのか、「フフフ」と笑い始め。

 

「よく気づきましたネー、シニョールフィリア。そー……(わたくし)ぃ~の、正体ぃ~は~!」

 

 帽子と外套を脱ぎ捨てると、そこにはぼくたちがよく見知った長身の人物が立っていた。

 間違いなかった。

 クロノス教諭だ。

 

「遊城十代に負けたクロノス教諭がなぜこんな所に!?」

「ダダメェッ!?」

「……準、言い方」

 

 ぼくの疑問を代弁してくれた準だったが、余計な一言でクロノス教諭がずっこけるのを見て、思わず準の肩に手を置いて諫めてしまう。

 

「その遊城十代の事で話があるのーデース。シニョール万丈目、少し耳を貸しなサーイ!」

「……」

 

 すぐさま立ち直ったクロノス教諭がそう言うや否や、準は少し訝しげな表情をしながらも歩み寄ってきたクロノス教諭に耳を貸した。

 ぼくと準の取り巻き2人は会話の内容が聞き取れないままその様子を見守るしかない。

 ……そして、暫くして準は笑みを浮かべながらクロノス教諭から距離を取った。

 一体、何で笑ってるんだ、準は?

 

「フフフ、分かりましたクロノス教諭。レアカードを頂けるというのならば、その件引き受けましょう」

 

 一体、クロノス教諭から何を頼まれたのか。

 気になったぼくは準に歩み寄ろうとして……それを遮られた。

 

「おっと~、シニョールフィリーア。貴方も、良ければ、この中から好きなレアカードを持って行くの~デース!」

 

 道を遮ったのは、クロノス教諭だった。

 ぼくと準の間を遮るように脱いだ外套を広げ、その裏側に隠された、買い占められたカードの数々が目に入る。

 でも、今のぼくはそんなことを気にしている場合じゃない。

 一体、クロノス教諭は準に何を頼んだのか知りたかった。

 

「クロノス教諭。いい加減ワケを────」

「ノンノンノンノンノンンンンンッ!」

 

 そんなぼくの口を遮るように、クロノス先生は一差し指を左右に振りながら、ぼくの耳元へ口を近づけた。

 

「大した事は頼んでないノーネ。シニョール万丈目なら難なくこなせる頼みなのノーネ。……それよりも、シニョールはこれから大事な昇格試験が待っていマース。ここは細かいことは気にせず、この中からシニョールの使えそうなカードを持って行くノーネ」

「ッ!?」

 

 その言葉に、ぼくは唖然となる。

 大事な昇格試験の話を持ちかけられたのもそうだが、先ほどのクロノス教諭のふざけたような雰囲気から一転してまた、あの時ぼくを心配してくれるような真剣な雰囲気へ豹変したのだから。

 ……一体、どちらが本当のクロノス先生なのか、いい加減分からなくなってきた。

 でも、その申し出を受けることはできない。

 

「ですがクロノス先生、ぼくは……」

「いいから!いいカーラ!」

 

 他の生徒も買えなかった中で、ぼくだけがその恩恵に預かれるのは違うと思い、断ろうとするが、思いのほかしつこくクロノス先生が食い下がってくる。

 よく見るとクロノス先生の表情に、余裕はない。

 まるで何か焦っているようだった。

 ……まるで、ぼくに何かしらの負い目があるかのような。

 

 まだ、この人の事を信じたかったぼくは、クロノス先生にある言葉をかけた。

 

「……カードは受け取ります。代わりにお願いがあります」

「何ナノーネ。先生に出来る事なら何だってするノーネ」

 

 巫山戯た態度を取ったり、時には今のような生徒思いのような顔を見せたり、一体どちらがクロノス先生の本質なのかは分からない。

 

「試験が終わった後でも構いません。余ったカードは購買に返して頂けないでしょうか? 同じことを考えていたぼくが言うのもアレですが……このままでは他の生徒たちが可哀想です」

「ウグ……そ、それーは……善処するノーネ……」

 

 気まずそうに目を逸らしながらそう答えるクロノス教諭。

 やっぱり、教諭自身も自分の行いに何も思っていないワケではないようだった。そこまでしてでも、準に頼みたいことは一体何なのか?

 最初に十代の話を準にし始めたことから、十代に関してのことなのか。

 どちらにせよ、ぼくはこの人を信じることにした。

 

 

 

 

 そして、クロノス教諭が、ぼくに対して負い目がありそうな雰囲気を醸し出していた理由を、ぼくは後に知るのだった。

 

 

 

 

「クロノス教諭の事は責めないでやってくれ。オレが無理を言って、君の試験の相手を願い出たんだ」

 

 放課後、体育館での実技試験。

 6つに振り分けられたデュエルフィールドの、その内の1つ。

 ぼくの前に立ち塞がりながらそう言う、この学園最強の生徒。

 カイザーの異名を持つ、オベリスクブルーこと丸藤亮。

 そのカイザーと、ぼくとカイザーの間に立ち、気まずそうに項垂れるクロノス教諭を見て、ようやく合点がいった。

 

 おそらく、クロノス先生はぼくの試験の相手には別のブルーの生徒を宛がうつもりだったのだろう。

 だが、どこで聞きつけたのかこの学園最強の男がぼくの試験の相手を願い出て、クロノス教諭はその願いを断り切ることができず今に至るというわけか。

 

 ……少しムカついた。

 要するに、クロノス先生は今のぼくのデッキのままでは、カイザーの相手には不足と受け取ったわけだ。

 

「明日香から話は聞いている。同じレッドアイズ使いでありながら、吹雪とはまったく異なるデッキスタイル。そのタクティクスをオレにも見せて欲しい、門戸フィリア」

 

 カイザーの言う、吹雪、という人物が誰なのかは分からない。

 ……が、そんな理由でぼくの昇格試験に割り込んでくるのはさすがにどうなんだ。

 でも、やるべきことは変わらない。

 ……懐のデッキケースにカードを見やる。勿論、中身は改造され、クロノス先生から貰ったレアカードと、そのレアカードを活かせるカードを多数投入してある。

 正直、クロノス教諭からの温情でレアカードを貰えたというのは気にくわないが、ならそのカードでクロノス教諭と、目の前の男の鼻を明かしてやるのみ。

 

「分かった。……天上院からどんな話を聞いてるのか知らないけど、負けるつもりはない」

「……感謝する」

 

「……決まりナノーネ。ならば両者、デュエルディスクを構えるのーデース!」

 

 クロノス先生の指示で、ぼくとカイザーはデュエルディスクを構えだした。

 ……このデュエル、何より後ろに準がいるんだ。

 誰が相手だろうとぼくは負けられない。

 待っていろ、また昔のようにお前の傍に行くからな、準。

 

 

 

 ……この時のぼくは、まだ知らなかった。

 ……このデュエルが切っ掛けで、ぼくと準の距離は昔のように縮まる所か。

 

 

 

 ────余計に、遠ざかってしまう結果になることを。

 

 

 

     ◇

 

 

『デュエル!』

 

 フィリア LP:4000

 カイザー LP:4000

 

「先行は君だ。カードを引きたまえ」

「なら遠慮なく」

 

 フィリア 手札:5 → 6

 

 カードを引くフィリア。

 ……6枚の手札を吟味する。

 このターンは本格的に動けない。

 故に、布石だけを残すことを決める。

 

「手札から永続魔法《凡骨の意地》を発動」

 

 《凡骨の意地》……ドローフェイズに通常モンスターをドローした時に、さらに1枚ドローできる効果を持った永続魔法だ。

 

 

「《キラー・トマト》召喚、守備表示」

 

《キラー・トマト》

効果モンスター

星4/闇属性/植物族/攻1400/守1100

 

 まるでジャックオーランタンのトマト版のような姿をしたモンスターフィリアのフィールドに現れる。

 ジャックオーランタンとの違いとして、くり抜かれた両目の穴の底に、カイザーを睨み付ける瞳があるくらいか。

 

「カードを2枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 フィリア 手札:6 → 2

 

「オレのターン、ドロー」

 

 カイザー 手札:5 → 6

 

 続けてカイザー、丸藤亮のターンだった。

 

「オレは《サイバー・ドラゴン》を攻撃表示で特殊召喚する!」

 

《サイバー・ドラゴン》

効果モンスター

星5/光属性/機械族/攻2100/守1600

 

「《サイバー・ドラゴン》……!」

 

 その姿を見て、フィリアは目を少し見開いて驚くような表情を見せる。

 

「その様子だと、効果は知っているようだな。《サイバー・ドラゴン》は相手の場にモンスターがいて、自分の場にモンスターが存在しない場合に手札から特殊召喚ができる」

 

 ────わざわざ先行を譲ってくれたのはそのためなのか、それとも……。

 相手が先に先行を譲ってくれた意図を図るフィリアであったが、フィリアとしては先行で始めさせてもらった方が都合がよかったため、余計な詮索はやめることにした。

 

「そしてこのターン、オレは通常召喚を行っていない。オレは更に、手札から《融合呪印生物-光》を守備表示で召喚!」

 

《融合呪印生物-光》

効果モンスター

星3/光属性/岩石族/攻1000/守1600

 

 あらゆる光属性のモンスターの体の一部が混ざったような、肉塊のような見た目をした岩石がカイザーのフィールドに現れる。

 かくして、フィリアの嫌な予感は的中した。

 相手はさっそく仕掛けてくる気だろう。

 ……余程のことがない限り使うことはないが、もし機械族である《レッドアイズ・ブラックメタルドラゴン》を召喚しようものならば、アレの素材として吸われてしまう可能性がある。相性は決して良くはない。

 

「悪いが、最初から容赦はしない。《融合呪印生物-光》の効果を発動! このカードは融合素材となるモンスター1体の代わりとなり、さらにこのモンスターを含む融合素材モンスターを生け贄に捧げることで、融合デッキから光属性の融合モンスターを特殊召喚できる」

 

 フィリアにとっては、今更説明されるものではない。

 

「融合呪印生物とサイバー・ドラゴンを生け贄に捧げ……《サイバー・ツイン・ドラゴン》を召喚!」

 

《サイバー・ツイン・ドラゴン》

融合・効果モンスター

星8/光属性/機械族/攻2800/守2100

 

 肉塊と機械の竜が渦の中で1つになっていくと、現れたのは双頭の機械竜。

 その見た目はサイバー・ドラゴンをただ2つ合わせただけではなく、それぞれのサイバー・ドラゴンが元になった竜の首のシルエット自体も一回り大きいものなっている。

 十分、大型モンスターと呼んで差し支えない迫力だ。

 

「《サイバー・ツイン・ドラゴン》で《キラー・トマト》に攻撃……エヴォリューション・ツイン・バースト」

 

 双頭の口から放たれた青白いエネルギーが、光線となって《キラー・トマト》に襲いかかる。

 爆散し、血肉のような果肉が焦げとなって消えていく。

 

「この瞬間、《キラー・トマト》の効果を発動だ。《キラー・トマト》が戦闘で破壊された時、デッキから攻撃力1500以下の闇属性モンスターを、攻撃表示で特殊召喚できる。来い……《ダークフレーム》!」

 

《ダークフレーム》

効果モンスター

星4/闇属性/悪魔族/攻1500/守 0

 

 遊城十代とのデュエルの時も使用した、黒い立方体の集合体のようなモンスターがフィールドに現れる。

 

「そのモンスターは、君がレッドアイズを呼び出すための布石。だがフィールドには残さない。《サイバー・ツイン・ドラゴン》は1度のバトルフェイズで2回攻撃することができる。……《ダークフレーム》を攻撃!」

 

 続けて、《サイバー・ツイン・ドラゴン》による2回目の攻撃がフィリアを襲う。

 《キラー・トマト》による特殊召喚効果は攻撃表示でしかできない以上、攻撃表示となったダークフレームが破壊されれば、今度こそフィリアは戦闘ダメージを受けてしまう。

 ……だが、迫り来る閃光を前にしてフィリアは動じる様子を見せない。

 《サイバー・ツイン・ドラゴン》の複数攻撃できる能力は知っていたし何より……()()()()()()()()()()()()()()()フィリアとしてもむしろ困る。

 《キラー・トマト》に続き、攻撃表示の《ダークフレーム》が閃光に飲み込まれ、破壊された。

 

 フィリア LP:4000 → 2700

 

 1300ダメージ。4000ライフ勝負では決して少なくない数値だ。

 

「オレは、更にカードを2枚伏せてターンエンド」

 

 カイザー 手札:6 → 2

 

 カイザーの怒濤のターンが終わりを告げる。

 ────まだまだ、この程度では終わらないだろう? 君のタクティクスを見せてくれ、門戸フィリア。

 フィリアのフィールドを見据えるカイザー。

 盤面だけで見れば自分が有利だが、フィリアの表情に焦りがないことから、フィリアが無意味にモンスターを場に出して破壊させたワケではないことは、カイザーには分かっていた。

 

「ぼくのターン、ドロー」

 

 フィリア 手札:2 → 3

 

 ドローしたカードを見やるフィリア。

 

「ドローカードは通常モンスター《真紅眼の黒竜》。よって《凡骨の意地》の効果が発動し、カードを1枚ドロー」

 

 フィリア 手札:3 → 4

 

「さらにドローしたカードは通常モンスター《ドラゴン・ゾンビ》。よってもう1枚ドロー。ドローカードは通常モンスター《デーモンの召喚》、もう1枚ドロー。ドローカードは《デビルゾア》。さらに1枚ドロー」

「これは……」

 

 そして、もう1枚ドローカードを一瞥したフィリアは、悟ったように目を閉じた。

 

「最後のドローカードは《打ち出の小槌》。《凡骨の意地》の効果はここで終了する」

 

 フィリア 手札:4 →8

 

 ────さっそく、クロノス教諭から貰ったレアカードが来てくれた。

 どういう訳だか、自分が知っている筈のソレよりも、更に強力な効果になっているそのカードが

 クロノス教諭から貰ったそのレアカードの1枚を、カイザーに向けて披露する。

 

「さらにぼくは────」

 

「オレは────」

 

 続けて手札のカードに手を取ったその瞬間、背後からも重なるように声が聞こえる。

 

 

「「魔法(マジック)カード、《打ち出の小槌》を発動!……ん?」」

 

 

 背後から聞こえた声とハモり、フィリアは思わず後ろへ向く。

 すると、相手もまた声がハモった事が気になったのか、同時に自分の方へ振り向いていた。

 そこには、同じくクロノス教諭からレアカードを貰っていた準の姿があった。

 

「「……」」

 

 なんとも言えない間が開く。

 向こうの対戦相手である十代も、観客席にいた十代の仲間たちも、対戦相手である筈のカイザーでさえその見事なハモり具合に少し唖然としているようだった。

 ……だが、後ろに準がいることを再確認したフィリアは心機一転、気合いをいれてカイザーの方へ向き直る

 

「このカードと、手札の中の不要なカードをデッキに戻してシャッフルし、その枚数分ドローできる」

 

 そう、この《打ち出の小槌》のカード。フィリアが知っているものとは効果が異なる。

 フィリアが知っている方は、《打ち出の小槌》のカードそのものは発動後に墓地に送られデッキに戻ることはなく、あくまで小槌以外の手札のカードをデッキに戻すことしかできない。だが、この同名カードは違う。

 

「《打ち出の小槌》と手札6枚全てをデッキに戻し、6枚ドロー」

 

 《打ち出の小槌》自身もデッキに戻るということは、フィリアが知っている同名(OCG)カードよりも更に1枚ドローできるということ。

 手札消費が完全にない状態でドローし直すことができるのだ。

 そして、これだけでは終わらない

 

「《打ち出の小槌》は使い捨てのカードじゃない。何度もぼくの手中に入る」

 

「再び、《打ち出の小槌》を発動。手札の2枚のカードと《打ち出の小槌》をデッキに戻し、新たに3枚のカードをドローする」

 

 3枚のカードがデッキに戻され、その枚数分、さらにドローするフィリア。

 

「ここで(リバース)カード、《リビングデッドの呼び声》を発動。自分の墓地からモンスターを一体攻撃表示で特殊召喚する。ぼくは……《ダークフレーム》を召喚!」

 

 前のターンで《サイバー・ツイン・ドラゴン》によって破壊された黒い立方体の集合体のようなモンスターが再びフィールドに舞い戻る。

 

「そして、フィールドに攻撃力1500以下のモンスターが召喚されたことにより、手札から速攻魔法《地獄の暴走召喚》を発動。召喚されたモンスター1体を選択し、デッキから更に同名モンスターを2体特殊召喚する。《ダークフレーム》2体を、続けて召喚する!」

 

 召喚された《ダークフレーム》と同じ姿をしたモンスターがさらに2体、両隣に光と共に出現する。

 

《ダークフレーム》A

効果モンスター

星4/闇属性/悪魔族/攻1500/守 0

 

《ダークフレーム》B

効果モンスター

星4/闇属性/悪魔族/攻1500/守 0

 

《ダークフレーム》C

効果モンスター

星4/闇属性/悪魔族/攻1500/守 0

 

 モンスターと呼べないような、蠢く闇の立方体が、フィールドに3体。

 モンスター同士を戦わせることをコンセプトとするデュエルモンスターズにおいては、正に異様な光景。

 不気味に蠢く闇の立方体が出そろう光景に、さしもののカイザーも嫌な冷や汗を流す。

 

(《ダークフレーム》は闇属性の最上級通常モンスターの2体分の生け贄となれる効果を持つ。そのモンスターがフィールドに3体。……さらに、《打ち出の小槌》の効果で彼は1枚のカードを除いて全ての手札を交換していた……仮に残したカードが《凡骨の意地》の発動のトリガーとなったレッドアイズだった場合……まさ、か……)

 

 ここで1つの予想が、カイザーの脳裏を過ぎる。

 ……いや、まさか、そんなことをする筈がない。

 親友だった吹雪でさえ、そのような芸当はしなかった。

 もし、《打ち出の小槌》の効果で、手札に3枚のレッドアイズが既に彼の手中にあるのだとしたら……。

 そんな事が、果たして起こり得るのか……!?

 

「まさか……!?」

「さらに永続罠発動……《血肉の代償》」

 

 今度こそ、フィリアが発動した伏せカードにカイザーは目を見開いた。

 ソリッドビジョンにより拡大されたカードビジョンに記されたテキストを、カイザーは瞬きすら忘れて読み始める。

 

《血肉の代償》

永続罠

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分メインフェイズに1000LPを払って発動できる。

このターン、自分は通常召喚を3回まで行う事ができる。

(2):相手バトルフェイズに500LPを払って発動できる。

モンスター1体の召喚を行う。

 

 発動された永続罠の一つ目の効果のテキストに、カイザーは唖然となる。

 ……まさか、本当にやるというのか?

 特殊召喚ならば、まだ分かる。

 だが本当に、この1ターンで()()()()()()3()()()()()()()()()()()とでも言うのか……!?

 

「《血肉の代償》の効果を、1000ポイントのライフを支払って発動。ぼくはこのターン、通常召喚を3回行える」

 

 フィリア LP:2700 → 1700

 

 減っていくフィリアのライフ。

 同時に、フィリアの掲げた、握り込んだ右手から、滴る血肉がフィールドに零れ墜ちる。

 ソリッドビジョンとはいえ、そのエフェクトはあまりにも痛々しい。

 だが、赤目の麗人は、お構いなしに号令をかける。

 

「我が血肉と生贄たちを捧げる。レッドアイズ たちよ、ぼくの元に集え」

 

 3体の闇の立方体が、一斉に炎の螺旋へと姿を変える。

 巻き上がった3柱の炎の螺旋はフィリアのフィールドで絡まり合いながら、暴風を巻き起こし、対戦相手であるカイザーや、観客席にいた生徒や先生たち、はてもや周りで同時に実技試験を受けていた生徒すらその光景に圧倒される。

 

 絡まり合う三本の螺旋より、彼らは姿を現した。

 

「《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》3体……暴走生贄召喚!!」

 

 滴る血肉と、3体の生け贄を捧げ。

 ここに降臨する。

 

《真紅眼の黒竜》A

攻:2400/守:2000

 

《真紅眼の黒竜》B

攻:2400 /守:2000

 

《真紅眼の黒竜》C

攻:2400 /守:2000

 

 最早、カイザーは目の前の現実を認める他なかった。

 2体分の生け贄となるモンスターを3体召喚し、さらにそれらを用いて最上級モンスターを3体生け贄召喚。

 これらを、たった1ターンの内に行うという偉業。

 

 

『グオオオオォォオオッ!!』

 

『グギャオオオォォォォッ!!』

 

『ゴアアァァアアアォアアッ!!』

 

 

 赤目の麗人の号令により降り立った3体の黒竜が一斉に咆哮を上げ、カイザーを威嚇する。

 その光景に圧倒され唖然となったカイザーだったが……暫くして、その口角を吊り上げた。

 




・主人公
クロノス先生の所業にどん引くも、前話で自分に優しくしてくれたことも思い出し、迷った末にクロノス先生を信じてレアカードを貰うことに(自分も似たような事を考えていたのもあって強くは責められなかったのもある)。
久々に万丈目と話せたので機嫌自体は上々。しかしこの後……

・万丈目
幼馴染み。クロノス先生が受けた性癖破壊は過去に既に経験済。
1ターンで真紅眼3体を生け贄召喚には普通にどん引いてるが、此方も2ターンでドラゴン・カタパルトキャノンを召喚しているため人のことは言えない。さらに言うなら主人公は《凡骨の意地》との併用で《打ち出の小槌》を引き直せたのに対し、此方は素で引き直してるため、余計におまいう。

・クロノス教諭
カイザーの頼みを断り切れず、大事な昇格試験でカイザーの相手をフィリアにさせてしまうことに罪悪感を覚え、フィリアにもレアカードを渡すことに。
……だからといってレッドアイズ3体同時生け贄召喚はさすがに予想しておらず、あんぐりと口を開けたまま見ていた。

・カイザー
アニメ版《打ち出の小槌》と《凡骨の意地》のコンボにドン引き。さらにそれでレッドアイズ3体を手札に引き寄せる主人公の、レッドアイズからの愛されぶりに驚く。そしてさすがにレッドアイズ3体同時生け贄召喚はry

でも、今回多分1番楽しんでる人。

・他一同
十代とフィリアのデュエルをそれぞれ交互で見ては驚いての大忙し。
でも、フィリアと万丈目が同時に《打ち出の小槌》を発動させた時は、「あぁ……やっぱり幼馴染みなんだな……」と苦笑した。
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