陰謀論おじさん「ゴジラなんて本当にいるわけねえしwww」   作:よよよーよ・だーだだ

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放射脳おじさん「ゴジラが来たらどうすんだ」

 八月の午後、家庭裁判所の調停室は蒸し暑く、私の背中にシャツが張り付いていた。

 天井の扇風機が回っているが、焼け付くような熱気を撹拌するだけで、実際の涼しさは感じられない。週に二度、家裁の調停委員を務める私にとって、この部屋は既に馴染み深い場所だった。

 

「……それで、次の事件は?」

 

 私が訊ねると、書記官が汗を拭いながら資料を整理して答えた。

 

「……中島(なかじま)ヨシオ、六十二歳の準禁治産者申し立て事件です。申立人は長男のタロウほか家族四名。被申立人は鋳物工場を経営しており、最近になって全財産を処分してブラジルへの移住を計画しているとのことです」

 

 私は眉をひそめた。六十二歳という若さで准禁治産者の申し立てとは珍しい。

 私は続けて訊ねた。

 

「申し立ての理由は?」

「被申立人が、怪獣〈ゴジラ〉の再来を恐れて正常な判断力を失っているとのことです」

 

 私の手が止まった。怪獣ゴジラ。あの名前を聞くと、三年前の悪夢が鮮明に蘇る。

 ……突如海から現れて破壊の限りを尽くした水爆大怪獣、ゴジラ。

 あの恐るべきキングオブモンスターが都心を蹂躙し、何万人もの犠牲者を出した惨劇。私も避難所で一晩を過ごし、翌朝見た焼け野原の光景は今でも夢に出る。建物の瓦礫に埋まった死体、焼け焦げた車、そして空に漂う異臭。

 しかし、それ以来ゴジラの目撃情報はない。専門家の多くは「一度限りの災害」だったと分析している。確かに恐ろしい体験だったが、それを理由に全財産を投げ打つほどの行動に出るのは異常だろう。

 気を取り直し、私は仕事に取り掛かることにした。

 

「当事者を呼んでください」

 

 扉が開き、中島家の人々が入ってきた。

 先頭に立つ長男のタロウは四十代前半、背広を着た会社員風の男性。疲れ切った表情で、ときおり時計を気にしている。午後の有給を取って来たのだろう。

 その後ろに母親らしい老夫人、そして三十代の若い男女が続く。老婦人は中島家の母親トキコ、三十代の若い男女は次男のジロウと長女のサチコに違いない。

 そして最後に入ってきたのが中島ヨシオ本人だった。

 私は息を呑んだ。中島ヨシオは小柄で痩せた老人だったが、その目には異様な光が宿っていた。まるで何かに取り憑かれたような、深い恐怖と狂気が混在した瞳。調停室を見回すその視線は、まるで敵陣に踏み込んだような警戒心に満ちていた。

 

「……座ってください」

 

 私が促すと、家族は申立人席に、ヨシオは相手方席に座った。その手が小刻みに震えているのに気づく。

 

「それでは、申し立ての趣旨を説明してください」

 

 私の言葉を皮切りに、まず長男のタロウが立ち上がった。声が震えている。

 

「はい、父は三年前のゴジラ襲撃以来、異常な恐怖心に取り憑かれています。最初のうちは『また来るかもしれない』程度の心配だったのですが、この半年ほどで状態が悪化し、今では『必ずまた来る、その前に逃げなければ皆殺しにされる』と言って聞きません」

 

 私はタロウの表情を見つめた。深い疲労と絶望が刻まれている。

 

「……具体的にはどのような行動を?」

「まず工場の経営を放棄すると言い出しました。従業員二十名を抱える工場です。それを売り払って、ブラジルの奥地に移住すると言うのです。しかも家族全員を連れて行くと」

 

 その時、当の中島ヨシオが立ち上がった。椅子が勢いよく後ろに倒れる。

 

「何が悪い! ゴジラがまた来たらどうするんだ! あの時のことを忘れたのか!」

 

 その怒鳴り声は震えていた。私の胸に、あの日の記憶が突き刺さる。逃げ惑う人々の悲鳴、崩れ落ちる建物の轟音、そして何より、あの巨大な足音。

 そこで次男のジロウが口を挟む。

 

「父さん、でもゴジラはもう来ないって政府も言ってるじゃないですか」

「政府の言うことなど信用できるか!」

 

 そうやって家族から宥められても、ヨシオの顔は苦悶に歪むばかりだった。

 ヨシオは声を荒げて言った。

 

「あの時だって『絶対に安全』と言っていたではないか! それがどうだ! 何万人も死んだ! わしは見たんだ、あの巨大な足が建物を踏み潰していくのを! あの咆哮を聞いたんだ!」

 

 その言葉で、私は自分の心臓の鼓動が早くなるのを感じた。ヨシオの興奮が、私の中の封印された恐怖を呼び覚ましている。

 ……だが、私には調停人としての使命がある。私は努めて冷静に、声を落として答えた。

 

「……中島さん、お気持ちは分かります。あの災害は確かに恐ろしいものでした。しかし、現実的に考えて、今ある生活を突然手放し、家族全員でブラジルに移住するというのは……」

「現実的?」

 

 ヨシオが私を睨みつけた。その瞳の奥に、計り知れない恐怖が渦巻いているのが見えた。

 

「現実的でないのは、のうのうと東京にいることじゃないですか。ゴジラは海の底にいる。いつでも現れることができる。次に現われた時、わしらはどこに逃げるというのです?」

「それは……」

 

 私は答えに窮した。確かに、ゴジラが二度と現れない保証など、どこにもない。

 長女のサチコが涙声で言った。

 

「お父さん、でもゴジラが来るかどうかなんて、まだ決まったわけじゃないじゃあありませんか。もういい加減に……」

「分からない? それならなおさらブラジルに行くべきだろう!」

 

 ヨシオの声が一段と高くなった。

 

「東京よりブラジルの方がマシだ。少しでも可能性の低い場所に行くのが当然ではないか!」

「しかし、だからといって……」

 

 このように、議論は平行線をたどった。

 私は両者の話を聞きながら、自分の中で複雑な感情が渦巻いているのを感じていた。

 確かに中島ヨシオの行動は極端だ。しかし、その恐怖心は理解できる。いや、理解できるどころか、その言葉は私自身の心の奥底に眠る同じ恐怖を呼び覚ましていた。

 

「何万人が死んだ! わしは見たんだ、あの巨大な足が建物を踏み潰していくのを! あの咆哮を聞いたんだ!」

 

 たしかにヨシオの言うとおりだ。政府の言っていることなんて当てにならない。

 調停は二時間に及んだが、結論は出なかった。家族は父親の准禁治産者認定を強く求め、ヨシオは移住計画の正当性を主張し続けた。

 

「次回は来週の火曜日に行います。それまでに、双方もう一度話し合ってみてください」

 

 私がそう告げると、ヨシオは立ち上がった。

 

「話し合い? 無駄でしょう。こいつらには分からんのです。ゴジラの恐ろしさが」

 

 

 次の調停の日も、私は重い気持ちで裁判所に向かうことになった。

 一週間考えたが、結論は変わらなかった。中島ヨシオの行動は、客観的に見て異常だ。しかし、彼の恐怖が偽物ではないことも理解していた。

 ……いったいどうしたらいいのだろう。その決断をするのが私なのだということを考えると、気が重くなった。

 

 ところが調停室に入ると、意外な光景が待っていた。ヨシオの隣に、見知らぬ老人が座っている。七十歳くらいの、日焼けした顔の男性だった。

 

「調停委員さん、こちらはヤマダさんです」

 

 ヨシオが紹介した。

 

「二十年前にブラジルに移住された方で、今回、私の相談に乗ってくださっています」

 

 紹介された老人が立ち上がって挨拶した。

 

「ヤマダと申します。中島さんに頼まれて、ブラジル移住についてお話に来ました」

 

 つまり中島ヨシオは、家族を説得するためにブラジルから移住者の老人を東京に呼び寄せたのである。ヤマダ老人は七十歳の男性で、戦後すぐにブラジルに移住し、長年アマゾンの奥地で農業に従事してきたという人物だった。

 私は戸惑った。これは調停の場であって、移住相談会ではない。

 

「ヤマダさん、お気持ちは分かりますが、ここは」

「いえ、聞いてください」

 

 ヤマダ老人が遮った。

 

「私は戦後すぐにブラジルに渡りました。当時の日本は焼け野原で、希望がなかった。でもブラジルで新しい人生を始めることができました」

 

 そう言ってヤマダ老人が古いアルバムを開いた時、私は息を呑んだ。そこには広大なジャングルの写真が並んでいる。文明から完全に隔絶された、地球の果てのような場所だった。

 その片隅にポツンと映っている畑を指差しながら、ヤマダ老人は言うのだった。

 

「これが私の農場です。コーヒー豆を栽培しています。中島さんの計画も、決して無謀ではありません。土地は十分にありますし、日系人のコミュニティもしっかりしています」

 

 ヤマダ老人の言葉を受け、ヨシオは嬉々として言った。

 

「ここなら安全です。流石のゴジラもブラジルの奥地までは来ないでしょう……!」

 

 私は写真を見つめながら、異様な感覚に襲われた。これは逃避ではない。これは完全な文明の放棄だ。

 当のヨシオは満足気な一方で、家族の顔は青ざめていた。自分たちの父親が本気で移住を考えていることが改めて明らかになったからだ。

 得意気なヨシオに、長女のサチコが応えた。

 

「……お父さん、こんな僻地で生活できるわけがないでしょう。父さん、私にはユキがいるんです」

 

 そう語るサチコの声は震えていた。ユキというのは7歳の娘のことだ。

 

「二年前に離婚して、やっと生活が安定してきたところなんです。ユキも新しい小学校に慣れて、友達もできて……」

 

 サチコは涙を拭った。

 

「お父さん、ブラジルのジャングルで、7歳の子供がどうやって生活するんですか。病院も学校もないところで」

「暮らし方なんていくらでもある」

 

 そう答えるヨシオの声には、確信がこもっていた。

 

「ヤマダさんのところには発電機もある。井戸もある。畑を作れば野菜も採れる。必要最小限のものがあれば十分だ」

 

 ヨシオの言葉を聞きながら、私はヤマダ老人を見つめた。この老人は本気でヨシオを誘っているのだろうか。それとも、単なる親切心からなのか。

 ここで長男のタロウが口を開いた。

 

「ヤマダさん、父の移住理由をご存知ですか?」

 

 ヤマダ老人が答える。

 

「もちろんです。ゴジラから逃れるためでしょう?」

「では、そのことに家族が反対していることは? それについてはどう思われますか?」

「それは……」

 

 調停室に再び重い沈黙が流れた。

 ヤマダ老人は少し考えてから答えた。

 

「……私も三年前、テレビでゴジラを見ました。確かに恐ろしい怪物です。しかし、」

 

 と、ここでヤマダ老人はヨシオを見た。

 

「逃げることが解決になるでしょうか? ゴジラは海を渡ってブラジルにも来るかもしれません」

「なっ……!?」

 

 途端、ヨシオの顔が青ざめた。

 

「そ、そんなっ、ブラジルまでは……っ」

「分からないでしょう? 相手は我々の常識が通じない存在なのですから」

 

 私は内心で「よく言ってくれた」と思った。この老人なら、ヨシオを現実に引き戻してくれるかもしれない。

 ヨシオはなおも反駁しようとしたが、ヤマダ老人はそれを遮った。

 

「し、しかし……っ!」

「……中島さん、お気持ちはよく分かります。私も最初は同じような気持ちでブラジルに来ました。戦争から逃れたい、新しい生活を始めたい、そんな思いで」

 

 ヤマダ老人の声は穏やかだったが、その奥に深い経験に裏打ちされた重みがあった。

 ヤマダ老人の表情が曇り、重々しく口を開いた。

 

「……実は、私にも息子がいました。日本に残した長男です。戦後の混乱で、家族がバラバラになって……私だけブラジルに渡ったのです」

 

 ヨシオが身を乗り出した。

 

「息子さんは?」

「二十年間、一度も会えませんでした。手紙のやり取りだけ。息子が死んだとき、私はブラジルにいました」

 

 ヤマダ老人はヨシオを見つめた。ヨシオもまた真剣に、ヤマダ老人の話を聞いていた。

 

「中島さん、家族と離ればなれになる辛さを、あなたは本当に理解していますか? 移住というのは簡単なものではありません。特に家族全員での移住となると、なおさらです。お子さんたちが反対している以上、無理に連れて行っても幸せにはなれないでしょう。家族が心を一つにして、お互いに支え合わないと、移住は成功しません。一人でも反対する人がいれば、その移住は失敗に終わります」

 

 ヤマダ老人の諭すような言葉に、中島家の家族の表情が明るくなった。しかし、ヨシオの顔は逆に暗くなっていった。

 

「……つまり、家族の協力が得られなければ、移住はあきらめるべきだと?」

 

 震える声で訊ねるヨシオに、ヤマダ老人は静かに、だが毅然と答えた。

 

「そういうことです。移住は個人の決断ではありません。家族全員の決断なのです」

 

 その瞬間、私はヨシオの表情が変わるのを見た。それまでの希望が消え、深い絶望が浮かんだ。彼の最後の頼みの綱が断たれたのだ。

 

「それに、中島さんはもう六十二歳です。今からジャングルの奥地で、そんな過酷な生活に耐えられますか」

 

 私が訊ねると、ヨシオは私を見つめて答えた。

 

「耐えられるかどうかじゃありません。ゴジラに殺されるよりはましだ」

 

 その言葉に込められた絶望的な覚悟に、私は言葉を失った。この人は本気でゴジラから逃れたいのだ。

 長男のタロウが必死に説得を試みた。

 

「父さん、もしゴジラがまた現れたとしても、今度は対策ができてるじゃないですか。Gフォースや自衛隊も準備しているし、避難計画もある」

「避難計画?」

 

 ヨシオは苦笑した。その表情に、深い失望が浮かんでいる。

 

「あの時の避難計画がどうだったか忘れたのか。みんな慌てふためいて、結局何の役にも立たなかった。自衛隊だって歯が立たなかったではないか」

 

 私は自分の記憶を辿った。確かにその通りだった。

 三年前のゴジラ襲撃時、自衛隊の兵器はほとんど効果がなく、最終的にはとある科学者が開発した特殊な化学兵器(オキシジェンデストロイヤー)でようやく撃退できた。しかも、その科学者は発明の秘密を抱えたまま死亡し、同じ化学兵器を再度製造することは不可能になったと言われている。

 

「……分かりました」

 

 私は重い口調で言った。

 

「中島さんの心配も理解できます。しかし、現実問題として、家族全員の生活を考えると」

「現実、現実と言いいますがな」

 

 ヨシオが私を遮った。その目に宿る光が、ますます異常に見えた。

 

「一番現実的でないのは、ゴジラの再来を考慮しないことではないでしょうか。あれは自然災害ではない。意志を持った生物です。一度現れた以上、また現れる可能性は十分にある」

 

 私はその論理に反論できなかった。科学的な根拠はないが、ヨシオの言い分にも一理あった。

 それに、とヨシオが続けた。

 

「わしは工場の資産を全て売り払っても構わない。そのお金でブラジルに土地を買い、家族を養うことができる。ヤマダさんのところで農業を学べば、やがて自立もできるだろう」

「で、でも、その資産は家族のものでもあるでしょう!?」

 

 長男のタロウの声が上ずっていた。

 

「僕たちも工場で働いてきました。それを勝手に処分する権利があるんですか」

「わしの工場だ。わしが決めることだ」

「法律上はそうかもしれませんが、でも家族の同意なしに」

「家族の同意?」

 

 ヨシオの顔が歪んだ。

 

「お前たちがゴジラに殺されそうになった時、ゴジラに同意を求めるのか?」

 

 私は調停室の空気が重くなるのを感じた。家族の絶望、中島ヨシオの狂気じみた確信、そして私自身の内なる恐怖。すべてが混じり合って、息苦しい雰囲気を作り出していた。

 

「来月末には移住する」

 

 ヨシオが宣言した。

 

「それまでに工場の売却を完了させる。従業員には退職金を払う。家族が来ないというなら、わし一人でも行く」

 

 その言葉に込められた孤独感が、私の胸を締め付けた。

 

 

 その夜、私は自宅で中島家の資料を読み返しながら、深い困惑に陥っていた。

 家族の訴状、中島ヨシオの反論書、工場の経営状況を示す書類。どれを読んでも、この問題の複雑さが浮き彫りになるだけだった。

 中島ヨシオの主張は確かに極端だ。しかし、完全に的外れというわけでもない。私自身、あのゴジラの襲撃を体験している。あの恐怖は、簡単に忘れられるものではなかった。

 

 翌日、私は中島家の工場を見に行った。

 東京の下町にある小さな鋳物工場で、従業員が黙々と作業をしていた。しかし、その表情は暗く、不安に満ちていた。

 

「中島社長は本当におかしくなってしまいました」

 

 私が訪れたとき、工場長のタナカが私に説明した。その顔には深い疲労が刻まれている。

 

「最初はただの心配だったんです。『ゴジラがまた来たらどうしよう』程度の。でも、だんだんエスカレートして、今では工場にいることすら恐がっています」

「具体的には?」

「海の方角を異常に気にします。ちょっとでも変わった音がすると、『ゴジラが来た』と言って震え上がります。この前は救急車のサイレンを聞いて、『ゴジラの咆哮だ』と言って作業場から逃げ出しました」

 

 私は背筋が寒くなった。これは単なる心配のレベルを超えている。

 

「従業員の皆さんはどう思っているのですか?」

「正直なところ、困っています」

 

 タナカの声が沈んだ。

 

「皆、家族がいますし、急に仕事を失うわけにはいきません。でも、社長の状態では工場の経営も不安定で」

 

 私は工場を後にしながら、複雑な心境だった。ヨシオの恐怖は理解できるが、それが周囲の人々に与える影響は深刻だった。

 

 

 その週末、私は家族と映画を見に行った。上映されていたのは、偶然にも三年前のゴジラ襲撃を扱ったドキュメンタリー映画だった。

 スクリーンに映し出される巨大な怪物の姿を見て、私は改めてあの日の恐怖を思い出した。ビルを踏み潰しながら進む巨体、耳をつんざく咆哮、撃ち放たれる凶悪無比の放射熱線。私の手が無意識に震えていた。

 映画館を出ると、妻が言った。

 

「あの時は本当に怖かったわね。でも、もう過去のことよ」

「そうだね」

 

 私は答えたが、心の中では疑問が渦巻いていた。本当に過去のことなのだろうか。ゴジラが二度と現れない保証はあるのだろうか。

 そして、もし再び現れたら、私たちはどうすればいいのだろうか。

 

 

 最終的な調停の日がやってきた。

 私は朝から緊張していた。この日の決断が、中島家の運命を決めることになる。

 調停室には、いつものメンバーが集まった。しかし、雰囲気は前回とは大きく違っていた。家族の表情はより深刻で、ヨシオの目には諦めに似た光が宿っていた。

 

「それでは、最終的な話し合いを始めます」

 

 私が口を開いた時、自分の声が震えているのに気づいた。

 

「……中島さん、この一週間で考えは変わりましたか?」

 

 ヨシオは静かに首を振った。

 

「……変わりません。むしろ、確信が深まりました。昨夜、また夢を見たのです。ゴジラが東京湾から現れて、この街を破壊する夢を」

 

 私は身震いした。私も同じような夢を見ることがあった。

 長男のタロウが口を開いた。

 

「それは夢でしょう、お父さん」

「夢と現実の区別はついているつもりだ」

 

 ヨシオの声は静かだったが、その奥に深い絶望が込められていた。

 

「でも、夢を理由に現実の決断をするのは」

「現実の決断?」

 

 ヨシオの声に力がこもった。

 

「現実を見ていないのはお前たちの方だ。わしは工場の売却手続きを進めている。来週には契約が成立する予定だ」

「勝手に進めないでください!」

 

 長男のタロウが立ち上がった。私は彼の絶望的な表情を見て、胸が痛んだ。

 

「それで私たちの生活はどうなるんですか!」

「生活ならブラジルでできる。むしろ、そちらの方が安全で健康的だ」

「でも私たちは行きません!」

 

 妻のトキコが静かに立ち上がった。

 

「……ねえ、あなた。私たちには孫もいるのですよ」

 

 トキコは写真立てを取り出した。サチコの娘、ユキちゃんの屈託のない笑顔。

 

「この子をジャングルに連れて行くおつもりですか。この子の将来はどうなるんです」

 

 トキコの声には、30年以上連れ添った妻の重みがあった。

 

「あなたが工場を始めたとき、私は文句を言いませんでした。従業員の給料が遅れたときも、家計をやりくりして支えました。でも今度ばかりは……」

 

 トキコの目に涙が浮かんだ。

 

「今度ばかりは、付いていけません」

「そうよ、そうだわ!」

 

 娘のサチコも立ち上がった。

 

「お父さん一人で勝手に行ってください!」

 

 その瞬間、ヨシオの表情が変わった。それまでの頑固さが消え、深い悲しみが浮かんだ。私は彼の心が折れる音を聞いたような気がした。

 

「……独りで行けと言うのか」

「私たちにはそれぞれの生活がありますから」

「生活、生活と言うが」

 

 ヨシオの声が震えていた。

 

「ゴジラに殺されてしまえば生活も何もないではないか」

「もうゴジラの話はやめてください!」

 

 次男のジロウが叫んだ。

 

「ゴジラなんてもう来ないんです! お父さんの妄想です!」

「妄想?」

 

 ヨシオの顔が真っ赤になった。

 

「わしが見たものが妄想だと? あの時の恐怖が妄想だと?」

 

 その声は震えていた。

 

「分からない、お前たちには分からないんだ! あの日、わしが銀座で見たものを、聞いた音を、感じた恐怖を! 死ぬのは構わない、でも、ゴジラに踏み潰されるのは嫌なんだ。そんな無意味な死に方は嫌なんだ!」

「そんなことを言われたって……!」

 

 父と息子の、そして家族全員を巻き込んだ激しい口論が始まった。私は仲裁しようとしたが、両者の感情は抑えられなかった。調停室の空気が重くなり、私は息苦しさを感じた。

 

「……分かった」

 

 ヨシオが突然静かになった。

 

「お前たちがそう言うなら、わし一人で行く。だが、後悔するなよ。ゴジラが現れた時、わしの言葉を思い出すがいい」

「お父さん」

 

 長女のサチコが泣き声で言った。

 

「どうしてそんなに頑固なんですか。私たちのことを少しは考えてください」

「考えているからこそ、ブラジルに行くのだ。お前たちの命を守りたいのだ」

「でも、その方法が間違っているんです」

「間違っている? では、正しい方法を教えてくれ。ゴジラが現れた時、どうやって身を守るのだ?」

「そ、それは……」

 

 ……誰も答えられなかった。

 確かに、またゴジラが再び現れた場合の対策は、誰にも分からなかった。私も、いやきっと(おおやけ)に安全を謳っている政府でさえ、明確な答えなど持ってはいないだろう。

 私は深いため息をついた。

 

「……中島さん、お聞きします。もし家族の皆さんが一緒に行かないとおっしゃっても、お一人でブラジルに行かれるのですか?」

 

 ヨシオは長い間沈黙した。その沈黙の中に、計り知れない孤独と絶望が込められていた。そして、ゆっくりと口を開いた。

 

「……行きます。わしは死ぬのはやむを得んと思っています。歳ですから。だが、ゴジラに踏み潰されて死ぬのは嫌だ」

 

 その言葉に込められた魂の叫びに、私は胸を突かれた。同時に、自分の心の奥底に眠る同じ恐怖が呼び覚まされるのを感じた。

 

 

 調停委員会の判断は、家族の申し立てを認めるものだった。

 中島ヨシオは准禁治産者とされ、財産の処分には後見人の同意が必要となった。

 判決文を読み上げながら、私の手は震えていた。

 

「判決の理由として、以下の点が挙げられます。一、被申立人のゴジラに対する恐怖は理解できるが、その対処法が現実的ではない。二、全財産を投げ打っての移住は、本人及び家族の生活を危険にさらす。三、被申立人の判断力に一時的な障害が認められる……」

 

 ヨシオは判決を聞いても、特に激しい反応は示さなかった。ただ、深いため息をついて、うつむいていた。

 その姿に、私は深い罪悪感を覚えた。この男の悲痛な願いを、私は法の下に踏み躙ろうとしている。

 

「……父さん」

 

 長男のタロウが安堵し切った表情で近づいた。

 

「これで工場も守れます。みんなで力を合わせて」

 

 ヨシオは顔を上げて、息子を見た。その表情は歯を食いしばった険しいものだった。

 

「……お前たちには分からんのだ。本当の恐怖が」

 

 とうとうヨシオは家族の前に跪き、涙を流し始めた。土下座だ。

 その光景に、私は言葉を失った。誇り高い老人が、ここまで身を低くしている。

 ヨシオは言った。

 

「頼む。一緒にブラジルに行ってくれ。皆、わしの言うことを聞いてくれ」

 

 その姿に、タロウの表情が苦悶に歪んだ。こんなふうに父が土下座するのを見るのは、きっと生まれて初めてだったろう。

 タロウとジロウの声が詰まった。

 

「父さん……僕だって行けるものなら」

「でも、僕らには妻がいます。マンションのローンもあります。会社も簡単には辞められません」

 

 その隣で、サチコが泣きながら言った。

 

「お父さん、私は一度人生に失敗してるんです。今度こそ、ユキと二人で安定した生活を……」

 

 妻のトキコが、宥めるように夫の肩に手を置いた。

 

「みんなで東京で普通に暮らしましょう。お父さんも、ゴジラのことは忘れて」

「忘れることなどできない」

 

 ヨシオもまた泣いていた。

 

「わしだって普通に暮らしたい。だが、恐怖が消えないのだ。あの怪物がまた現れるような気がしてならないのだ」

「大丈夫です、お父さん。私たちがいます。何があっても、家族みんなで乗り越えましょう」

 

 そっと寄り添う家族たちだったが、しかし、ヨシオの表情は変わらなかった。絶望的な顔で、じっと海の方角を見つめたままだ。

 私はその光景を目の当たりにしながら、胸の奥で何かが崩れ落ちてゆくのを感じていた。

 

 

 准禁治産者の審判が下されてから、一か月が経った。

 中島ヨシオは財産を自由に処分できなくなり、ブラジル移住の計画は完全に頓挫した。

 私は時々、あの事件のことを考えた。中島ヨシオの行動は確かに異常だったが、彼の恐怖は本物だった。ゴジラという前例のない脅威に対して、人間はどう対処すべきなのか。明確な答えはなかった。

 ある雨の夜、電話が鳴った。

 

「……調停委員さんですか? 中島です」

 

 中島ヨシオの長男タロウからだった。声に緊張があった。

 「どうされましたか?」、そう訊ねると、タロウは恐るべきことを口にした。

 

「父が、工場に火をつけました……!」

 

 すぐさま現場に急ぐと、中島家の工場は既に炎に包まれていた。消防車が何台も駆けつけているが、火の勢いは収まらない。私は消防士たちの間を縫って前に出た。

 そして見た。炎の中に人影があった。ヨシオだった。彼は炎の中で、何かを叫んでいた。

 

「燃えろ! 全部燃えてしまえ! ゴジラが来る前に!」

 

 私は身震いした。彼の顔には、狂気と解放感が混在していた。

 消防士たちが彼を救出した時、ヨシオは重度の火傷を負っていた。しかし、意識ははっきりしており、救急車の中でも同じことを繰り返していた。

 

「工場を燃やした。これでゴジラに破壊されることはない。わしが先に壊してしまった」

 

 私は救急車に同乗した。ヨシオの火傷した手が、私の手を握った。

 

「調停委員さん、分かっていただけるでしょう。こうすれば皆ブラジルに行くしかない。わしは正しかった。ゴジラに破壊される前に、自分で破壊したのです……!」

 

 その瞬間、私は彼の気持ちが理解できたような気がした。絶望的な状況に対する、最後の抵抗だったのだ。

 家族たち全員が病院に駆けつけた時、ヨシオは既に鎮静剤を投与されていた。医師の説明では、火傷は重傷だが、命に別状はないということだった。

 

「……でも、精神状態が異常です」

 

 医師が家族に説明した。

 

「放火の動機も支離滅裂で、現実認識に障害があるようです。精神科での治療が必要でしょう」

 

 私は病院の廊下で、中島家の人々を見つめていた。長男のタロウは頭を抱え、妻のトキコは泣いていた。工場は全焼し、従業員は全員失業、その上父親は精神的に異常をきたしている。まさに最悪の事態だった。

 

 

 三週間後、私は病院を訪れた。中島ヨシオの様子を見舞うためだ。

 病院は都心から離れた閑静な場所にあった。庭には木が植えられ、季節外れの花が数輪咲いていた。

 中島ヨシオは個室にいた。火傷の治療は順調に進んでいるようで、包帯は以前より少なくなっていた。しかし、私が最も驚いたのは、その表情だ。

 

「……やあ、調停委員さん」

 

 ヨシオは明るい笑顔で迎えた。

 

「よく来てくださった。ここはいいところですよ」

 

 その朗らかさに、私は戸惑った。あの絶望的だった男はどこに行ったのか。

 「調子はいかがですか?」、とりあえずそう訊ねるとヨシオは穏やかな面持ちでこう答えた。

 

「とてもいいです。空気がきれいで、静かで。何より安全です」

 

 それからヨシオは窓の外を指した。

 

「ここならゴジラは来ません。()()()()()()()()()のです」

 

 私は息を呑んだ。地球から脱出、いったい何を言っているのだろう。思わず聞き返すと、ヨシオは心から安らかな様子でこう答えたのだった。

 

「気がついたんです。いつの間にか、別の惑星に来ていたんです。だからもう、ゴジラの心配はありません。最初は地球によく似た星だと思いましたが、よく観察すると違います。太陽の色が違う。空の青さが違う。きっと私が眠っている間に、宇宙船で運ばれたんでしょう」

 

 私は医師を呼ぼうと思ったが、ヨシオの穏やかな表情を見て、思いとどまった。

 ……きっと中島ヨシオは現在の状況を受け入れるために、独特の解釈をしているのだ。自分が地球を離れて別の惑星にいると思うことで、ゴジラの恐怖から逃れようとしている。一種の防衛機制という奴だろう。

 ヨシオは心の底から嬉しそうに語り続ける。

 

「本当は家族も一緒に来れればよかったんですが、まあ、地球にいても、きっと大丈夫でしょう。私がここで見守っていますから」

 

 その時、窓の外で雷が鳴った。夕立だ。ヨシオの表情が一変した。

 

「あ」

 

 彼は窓に駆け寄り、外を見つめた。雨雲の間から、夕日が差し込んでいる。

 ヨシオの声に緊張が戻った。

 

「調停委員さん、見てください、見てください! 地球が燃えています!」

 

 私は窓を見た。ただの眩い太陽光が見えるだけだった。しかし、ヨシオの目には、それが燃え盛る地球に見えているようだった。

 ヨシオは興奮して叫んだ。

 

「ゴジラが地球を破壊しているのです! 脱出して正解でした! あの星はもうおしまいです! 助けなければ! 家族を助けなければ……!!」

 

 看護師が慌てて駆けつけ、ヨシオを落ち着かせた。鎮静剤を投与され、ヨシオは再びベッドに横になった。

 私が病室を出たとき、廊下で中島ヨシオの長男であるタロウと出会った。

 

「……調停委員さん、父の様子はいかがでしたか?」

 

 私は何と答えていいか分からなかった。

 ときどき穏やかになることもあるんです、とタロウが続けた。

 

「でも、夕焼けを見ると、ああなってしまう。地球が燃えていると言って」

 

 病院の外に出ると、確かに夕焼けが美しかった。オレンジ色の空で、まるで世界が燃えているかのように見えた。

 

「回復の見込みは?」

「……難しいところだと言われました」

 

 けれど、そう答えるタロウの様子はどこかほっとしたような様子でもあった。

 タロウは続けて言った。

 

「しかし父自身は幸せそうです。無理に現実を受け入れさせることが、必ずしも良い結果をもたらすとは限りませんから」

 

 ……私は病院を後にしながら、深く考え込んだ。

 中島ヨシオは確かに現実から逃避していた。しかし、それは彼なりの生き方だった。ゴジラの恐怖に苛まれ続けるよりも、別の星にいると信じる方が幸せなのかもしれない。

 

 そして、私自身の中にも、同じような逃避願望があることを認めざるを得なかった。

 

 あの災害は、ゴジラは確かに多くの人々に深い傷を残した。中島ヨシオのように極端な反応を示す人は少数だったが、心の奥で同じような不安を抱えている人は多いはずだ。

 そして私自身も、その一人だった。ヨシオほど極端ではないが、私もゴジラの再来を恐れていた。夜中に目を覚まし、あの巨大な足音を思い出すことがある。街を歩いていて、突然あの日の恐怖が蘇ることがある。

 中島ヨシオの恐怖は、決して無根拠ではない。ゴジラが二度と現れない保証はどこにもないのだ。彼の恐怖は、ある意味で正常な反応だったのかもしれない……そんなふうに思えてならない。

 

 

 それから一年が過ぎた。

 私は時々、中島ヨシオを見舞いに行った。容態は安定しており、相変わらず自分が別の星にいると信じていた。家族の訪問時も、「地球から来た懐かしい人たち」として彼らを迎えていた。

 ある日、私が病院を訪れると、ヨシオは庭でリハビリをしていた。火傷の跡はほとんど目立たなくなり、身体的には健康を取り戻していた。

 

「調子はいかがですか?」

「おかげさまで、この星にもすっかり慣れました」

 

 ヨシオは穏やかに答えた。

 

「空気がきれいで、食べ物もおいしい。何より、安全です」

 

 その時、空の向こうから飛行機の音が聞こえてきた。ヨシオは空を見上げ、手を振った。

 

「地球からの訪問者ですね。この星はよく地球人が見学に来るのです」

 

 私は苦笑した。飛行機を地球からの宇宙船だと思っているのだろう。

 ちょうどそのとき、長女のサチコが娘を連れてやってきた。家族の団欒の中、ヨシオの孫にあたるユキちゃんがこんなことを言った。

 

「おじいちゃんは宇宙にいるの?」

 

 サチコがユキちゃんに説明するのに困っていると、ヨシオが微笑みながら答えた。

 

「そうだよ。おじいちゃんは宇宙から、ユキちゃんを見守っているんだ」

 

 ユキちゃんは嬉しそうに手を振った。

 

「おじいちゃん、地球は平和?」

「ああ、今のところは平和だ。でも、おじいちゃんがしっかり見張ってるからね」

「そっか。ありがとう、おじいちゃん!」

 

 家族たちが帰ったあと、私はふと気になったことを訊ねてみた。

 

「……地球のことは心配ではありませんか?」

 

 途端、ヨシオの表情が曇った。

 

「……心配です」

 

 そう答えるヨシオの姿はかつての恐慌状態とは異なるが、根底にあるものは同じもののように思えた。

 中島ヨシオという人間の根底にあるもの、それは家族への愛情だ。ヨシオは言った。

 

「ゴジラがいる限り、あの星に平和は訪れないでしょう。でも、わしにはもうどうすることもできないのです」

 

 ……確かに、中島ヨシオは現実から逃避している。

 しかし、同時に彼は家族を愛し続けている。歪んだ形ではあるが、彼なりに家族を守ろうとしているのだ。

 それはかつて自らの工場に火をつけてしまったときから変わらない、中島ヨシオという人間の根幹にあるものだった。

 

 

 中島ヨシオの家族は何とか生活を立て直した。

 工場の跡地は売却され、長男のタロウは別の会社に就職した。長女サチコは再婚して引っ越し、次男のジロウも独立したらしい。

 ……私は調停委員として、中島ヨシオの准禁治産者申し立てを認めた。法的には正しい判断だったと思う。

 しかし、人として正しかったかどうかは、今でも分からない。中島ヨシオは狂人だったのか、それとも我々よりも鋭敏に危険を察知していた予言者だったのか……答えは出ない。

 海洋異常現象のニュースが流れるたびに、私は不安になる。そして夕焼けが特に美しい日には思い出すのだ、中島ヨシオの悲壮な叫びを。

 

「現実的でないのは、のうのうと東京にいることじゃないですか。ゴジラは海の底にいる。いつでも現れることができる。次に現われた時、わしらはどこに逃げるというのです?」

「お前たちがゴジラに殺されそうになった時、ゴジラに同意を求めるのか?」

「頼む。一緒にブラジルに行ってくれ。皆、わしの言うことを聞いてくれ」

 

 その言葉は、現代に生きる人々の根源的な不安を表現していた。怪獣だけではない、自然災害、事故、犯罪……様々な脅威に囲まれた現代社会で、人は何を信じ、どう生きるべきなのか。

 

 中島ヨシオは自分なりの答えを見つけた。それは現実逃避かもしれないが、彼にとっては唯一の救いだった。別の星で平和に暮らすという幻想の中で、彼は恐怖から解放されていた。

 そして今、遠い星で、中島ヨシオは平和に暮らしている。少なくとも彼自身はそう信じている。それが彼にとっての、最良の結末だったのかもしれない。

 

「ゴジラが地球を破壊しているのです! 脱出して正解でした! あの星はもうおしまいです! 助けなければ! 家族を助けなければ……!!」

 

 ……もしかすると、彼は正しかったのかもしれない。

 そして、いつかゴジラが戻ってきた時、我々はあの警告を思い出すのかもしれない。その時になって私たちは、ようやく彼の言葉の重さを理解するのかもしれない。

 

 この美しい夕焼けを見る度に、私は中島ヨシオという人物の顛末について思い出すのである。




ちなみに「禁治産者」という制度及び用語ですが、2000年の法改正により「成年後見制度」に置き換えられており現在は使われていません。でもニュアンス変わっちゃうし、敢えて禁治産者のままにしています。
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