奇妙な夢を見た。
俺がVRのワールド内で、ステラリスをやっている夢だ。
”マツリ財団”というプレイヤー帝国を俺が操作している。
何故か俺のその操作を受け付けず。
一向に時間は進まない。
銀河の状況をマツリ財団の視点から見れはするのに。
そんな悪夢らしい悪夢を見たのだ。
「まあ、夢だったらよかったんだが」
「おはようございます。主よ」
俺は再び目を覚ましたが、結局この世界のままだった。
いつものワールドに、いつものエロアバター、ヒドラの信者。
ステラリスの世界ではなく、現実の方で覚めて欲しかったのだが。
「慧・椎、確認だが。マツリが最初に開拓者を入植した惑星は、アレガ星系か? それともデネヴ星系か?」
「アレガ星系の、アレガ・プライムでございます」
「どうも俺が見たのはまるっきり夢、という訳でもないようだな。これも超能力の一環かね」
俺の超能力は、まだ自分でもよく分かってはいないのだが。
ステラリスで語られている、超能力はシュラウド空間に通じていて。
シュラウド空間からこの銀河の全体へとアクセスできる、というのはどうも事実らしい。
「今日は何をするんだ。まだ本を読んでいいのか?」
昨日は慧・椎と会った後は、一人で本を読んで過ごしていたのだ。
今日も出来れば、そうしたい所である。
読書で眠くなって寝てしまったが、まだ棚にある本を全部読み切れてない。
「本日は評議会の方々が礼拝に来ています」
「俺に面会か」
「ええ。主がお目覚めになったと聞いて。是非、と」
精神主義っつーたら、まあ神に会いたいだろうしなあ。
俺が寝ている間に何があったかは知らないが。
初日は良くこの慧・椎だけで済んだものだ。
「まさか議会の議員総出じゃねえだろうな? この部屋に収まるか?」
「私を含めた評議員の幹部のみですよ。四人程ですな」
ステラリスの評議会の面々ってことね。
統治者と国防大臣と、研究部門部長と、後は国務大臣だったか?
いずれも国のトップに相応しいメンバーだな。
「当代のトップは、確か。コーウィン・アンバーだったか。他のメンバーまでは覚えていないが」
「ええ。皆、若くともマツリの中で最も謙虚で信仰深い者たちです」
ステラリスの統治者は、俺が帝国の設定で決めたので名前を憶えている。
確か、カリスマ持ちのリーダーだったかな?
暫くすると、その面々が俺の部屋へと入ってきた。
ヒドラ人の特徴は、人間である俺から見るとどれも同じように見えるのだが。
微妙に肌の色が違うのと、超能力があるので個人の判別はできる。
正面に立っているのが、この国の若き統治者である
コーウィン・アンバー、その人である。
両手には、何やらお盆のようなものを持っている。
「なんて神々しいんだ。…崇めるしかない」
コーウィンの後ろにいる奴。
肩書に国防大臣、と読み取れる奴が俺を見てありがたがっている。
こいつは見ただけで精神主義者だと分かるな。
彼らは人間じゃなくてヒドラ人なので、人間の女体なんぞに欲情しないはずなんだが。
この国防大臣には何が見えているのだろうか。
お前が見ている光は、おねーさんのヘイローとヌルテカの肌だと思います。
「口に出して御尊名を申し上げるのも恐れ多い、我らの主よ…」
「いや、そういうのは良い。お前さん達も忙しいだろうから、手短に頼む」
「では、書類上では済ませた。ということにしておきましょう」
坊さんのお偉い演説なんか聞きたくないんで。
偉い人の遮るのはなんだが。
この国は俺が一番偉いらしいんで、これくらいは大丈夫だろう。
「まずは、お近づきの印として。こちらを。長らくの間、未だ一度も召し上がられていないと聞きましたので」
コーウィンにお盆ごと差し出されたのは、グラスに入った紫の液体と謎の直方体。
匂いを嗅いでみると、液体の方はアルコールの匂いがする。
固体の方は、…なんか香ばしい、焼きたて?
「これは。ワインと、何だ。この茶色いのは?」
「動物性プランクトンのパンでございます」
「プランクトンて」
プランクトンってことは小さい虫?
ヒドラ人は多分肉食だから、食事もこういう形になったんだろうが。
俺、これ食べなきゃダメなん?
「そういえば、箸はないのか?」
「…大変申し訳ございませんが。”ハシ”、とは?」
「箸文化ねーのかよ。え、君ら食事は手づかみ? 食器は皿だけ?」
「はい。我らに、何やら不備があったようで…」
「いや、いいんだが」
ああ、手が蛇の口みたいになってるから箸文化はないのか。
俺もマナー的に手づかみで食べなきゃなんだろうが。
なんか、この茶色いのを手で触りたくねえな。
「確か、部屋のキッチンにあったかな? 自分で取ってくる」
「主の御手を煩わせて申し訳ございません」
キッチンのケースの中を漁って見ると、金属製の棒の束があった。
長さとか断面形状とか、俺の知っている箸と随分と違うようような気もするが。
彼らも部屋のインテリアというか、人間の文化を理解した上でこの部屋を作った訳ではないのだ。
俺はこの棒を二本とって箸とした。
まあ、なんかもうこれでいいや。
で、俺は出されたプランクトンを恐る恐る口にする。
箸で切るにはちょっと固かった。
お味の方は。
「
俺が知っている味に近いのは、えびせんとか、そっちの方。
程よい塩味で、まあ、不味くはなかった。
俺に出されるものだから、恐らく最高品質なのだろうが。
ただ、俺の口に合うものでもないな。
最終的には、ワインの方で全部流し込んだ。
恐らくは彼らの好みに合ったものだろうし、うん。
「ワインの方は良かった。ごちそうさま。食事の献上は、ワインの方だけを頼む。この身体食事は本来不要なんでな」
「は、では、今後はそのようにします」
食事どころか水を取らないでいるのに、長時間動き続けるとか。
俺は何をエネルギーにして動いているんだろうか?
この身体も未だ謎が多い。
でもまあ、元人間のアンドロイドが、食事を取らずにいたら発狂したとか。
食事前にそういうSFを思い出したんで。
定期的に飲み物ぐらいは飲んだ方がいいだろうとは思うが。
「慧・椎から話は聞きました。我々の議員の一人として加わるということで」
俺の食事を、コーウィン自身片付けた後(お偉いさんがすることなのか? 従者とかにやらせないの?)。
彼らは彼らにとっても重要であろう話を切り出した。
「お前さんも、俺が頂点でないことが不満かね?」
「私は、主の聡明なる判断を全面的に支持しますよ。そこの慧・椎の発言は多数派ではありますが、我々の総意ではありませんので」
「どうだか」
つーても、俺が最初に会ったヒドラは、そこの慧・椎だしな。
ヒドラが皆、狂信的な精神主義者だって偏見はある。
まあ、正確には違うとも俺は思ってはいるがね。
「そういや、俺はヒドラたちの政治のことまでは分からんのでな。そこら辺を詳しく聞いても?」
「おお、このコーウィンの言葉を聴いていただけるとは。感謝します」
俺が帝国を創造主としての立場で、議会制の神権共和制として定めたのは真実である。
とはいえ、俺はゲーム上でそう設定しただけであって。
彼らの現実的な政治を知る訳でもない。
派閥とか、どうなっているか興味はある。
「私個人はマツリにおいて少数派である、”宇宙人権会”の派閥でして。我らは強権的な権力者の出現を恐れているのですよ」
成程、と納得した。
恐らく彼も熱心な信者ではあっても、このコーウィンは慧・椎や国防大臣程に精神主義でもないのだろう。
初期の評議員自身が持つ志向は、
となると、コーウィンは
「ああ。受容ベースの平等主義っていうか、民主主義的な派閥な訳ね。帝国じゃ少数派なのに政権が取れたのか?」
「議会の指名ですので…。
日本だったら最大政党の長が、国のトップとして選ばれるんだろうだがな。
とはいえ、コーウィンも国の大半数の支持は得ているのだろう。
彼が民主主義的なリーダーに相応しい、というのも事実であるはずだ。
「そこの慧・椎や国防大臣は”伝統的長老選挙会”に属しています。6割程の議員はこの派閥ですね」
「思想はもう見た」
ちなみに精神主義者とは何かというと、”この世の物質以外に価値を認める”連中である。
対は物質主義(こちらは物質以外に価値を認めない)。
彼らの政権の特徴としては、”政治と宗教の区別をしていない”ことに尽きる。
彼らにとって政治は宗教であり、宗教とは政治であるのだ。
現実世界でも、イスラム共和制などの国家はあるにはあるが。
これは間違いなく現代日本人からしたら異質な考えであるだろうな。
「そこの。シュラウドウォーカーの導師は。また別か?」
俺は、この部屋の中で俺に次いで異質の。
ヒドラより一回りに大柄な人物の方に、顔を向けた。
彼もコーウィンの背後にいるが、彼の単なる取り巻きではないのも明らかだった。
「…」
俺の超能力で得られる情報によると、彼はヒドラとは違う人種であることが分かった。
性別は男(この場にいる奴らも全員そうだが)。
顔を隠す布からは三、四つ以上の眼が覗いている。
彼こそがマツリ財団に雇われた”シュラウドウォーカーの導師”であり、この帝国の国務大臣なのだろう。
「はい。彼は我々の政治に関しては中立の立場をとっていて」
「彼が誰に仕えている、っていったら。俺ではなく、シュラウドウォーカー中立機構にだからか?」
「そういうことになりますね」
彼のことは、…どうだろうな。
俺も、シュラウドウォーカーのことを良く知る訳ではないのだ。
この人物が大変高潔な役人である、ということ以上は俺も知らない。
それと、この国の”危機”に対しては一切の信頼ができないということも。
「ん。大体わかった。俺から伝えることはあったかな。俺に聞いておきたいことはあるか?」
「再度になりますが。主は、議会における神ではなく。議員として加わりたいとのことですよね?」
「そうだな」
昨日も言ったが、俺は権威主義的なやり方でこの帝国をいじるつもりはない。
だからこそ、一議員・一リーダーとして加わるつもりだった。
「マツリの議会においては、院によって可決された法案は主の判断を我々が解釈したものとされます。つまり、主の化身である貴方様には法律の最終的な拒否権があるということでして」
「言いたいことが分かった。俺に拒否権を用いるなってことだろ?」
ああ、俺は議会における国王みたいなものか。
議員として加わるといっても、俺がそのつもりだったらどんな議案でも拒否できるよな。
神の一声ってやつでさ。
コーウィンは、それを恐れてるんだろうな。
「ああ、考えてやるよ」
「それは、どういう」
「としか、言いようがないんだが」
この状況、民主主義の信奉者的にはどうなんだろうね。
イギリスとかは国王が法案を拒否することは滅多にないらしいが。
「一応、よっぽどの法律でない限りは拒否しないぞ? 神とはいえ、”不老長寿でしかない俺”に全権を渡すとか提案しない限りはな」
俺としては、それが一番困ることだからな。
慧・椎あたりが、議案として俺に全権を投げ渡すとかを通しそうだし。
ヒトラーみたく、民主主義の手続きをとって正式に民主主義を止めることは考えられるし。
「安心していい。神の言葉なら、聖書に書いてある。民主主義らしく、進退は自分たちで決めていい。つまりはこれまで通りってことさ」
コーウィンの言うことを信じるなら、彼は平等・受容の派閥だからな。
俺の登場は、彼の派閥が一番ピンチだろうね。
帝国の権威主義への転向は、平等・受容主義者にとって受け入れがたいだろう。
権威主義は、人権という言葉を持たないだろうし。
「俺を脅すような者がいるなら。その時は、その時だな」
「…大変申し訳ございませんが。主の玉体は我々の方で暫し”御守り”させていただきます」
それは、俺がこの部屋から出るなってこと?
ま、そっか。
どうも、俺はすぐさま議員として活動できるって訳でもないらしい。
「主よ、我らの行いを御許しください」
「予想の範疇だな。ここで延々と軟禁生活だというなら、俺は構わんよ。俺は参加する時期を指定したわけでもないしな」
**
俺が読書後の昼寝をしている間。
随分と遠くから声が聞こえる。
ついさっき会った、彼らの声だった。
「コーウィン、貴様。まさか神を独占するつもりではないだろうな?」
「そうしないために、国防大臣である卿を巻き込んだつもりだ。幸いなことに、国内において、神の存在を知るのは我々四人だけと言える」
ああ、俺という神の存在はまだ公表してないのね。
すぐさま公表されると思ってたが。
その辺りは、慧・椎の判断かな?
「はっはっは。これではコーウィン殿の派閥の影響力が大きくなりすぎてしまいますなあ」
「笑っている場合ではないぞ慧よ。どこの誰とも知らぬ馬の骨にでも渡してみよ。これは我々の民主主義の危機であるのだぞ」
「どっちでもいいのですのよねえ。我らにとっては。神の支配に何の問題があるというので?」
俺が人質にでも、取られたらヤバいもんね君等。
俺の一声でどんな法案だって通るし、どんな法案だって通らない。
そうなったらこの帝国の民主主義は終焉だろうな。
「超能力はあったでしょう? 主の存在も、いずれ証明できるものです。例え私が居なくとも、ね」
「まさか、本物の神の化身とは。慧とシュラウドウォーカーの保証がある以上、悪魔と切り捨てる訳にもいかん。いや、今からでも切り捨てるべきなのか」
俺も超能力者とはいえ、戦闘能力は多分持ってないし。
神が化身として現れるってのも、デメリットがあるもんだな。
毒殺とかは効かないにしても、俺も物理はちょっとヤバいかもな。
「それは止めて頂きたいですな。主のアバターには科学的再現性が全くありませんので」
「殺すぞ、コーウィン。神の存在証明は、我々マツリの信者達の悲願なのだぞ」
そういう点で、俺の軟禁は随分と穏当な判断だな。
彼が言う通り俺が殺されても可笑しくはなかった。
ま、受容主義が”エイリアンの浄化”なんて非道なことが出来るとも思わんがね。
「しかし、卿らの言う通りでもある。主が議会への参加を希望する以上、いずれ主の存在を公表せねばならぬのかもしれん。とはいえ、議会には時間が必要と見える。
「大変ですね。最高神祇官様は」
別に、俺の命を無理して聞く必要はないと思うが。
やはり神の命は絶対なんだろうか?
俺も面倒な権力を持たされたもんだな。
…なんだかんだ、俺も民主主義が好きなのかねえ。
愛国心とかは一切持ってないんだが。
「口を慎め。…場合によっては、貴様が継ぐ立場だぞ」
「それは勘弁願いたいですね。一研究者の立場としては、これ以上は不要ですので」
リーダー:コーウィン・アンバー
種族:軟体人
性別:男
年齢:37才
派閥:受容主義
クラス:役人
特性:カリスマ