私、悪役令嬢の継母に転生。でも、この悪役令嬢、原作と違って可愛すぎ……るわけないでしょ! 予定通り、地獄の底まで叩き落とします!   作:案内人

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 ルビーが来なくなった窓を、冷たい金網越しに眺めるだけの時間が過ぎていく。

 もう、わたくしの心は、何も感じなくなっていたはずだった。ただ、灰色の霧が立ち込めているだけ。

 その日の夕食。わたくしは、メイドに促されるまま、まるで糸の切れた操り人形のようにダイニングルームへと向かった。

 お父様と、エレオノーラ様は、もう席に着いていた。二人は、何やら楽しげに会話を交わしている。その光景は、まるで一枚の完璧な絵画のようだった。――わたくしという、汚れた染みさえなければ。

 わたくしは、音も立てずに席に着き、ただ、目の前の白い皿を見つめた。

 

 やがて、メイドたちが次々と料理を運んでくる。

 スープ、魚料理……どれも、見た目は豪華だが、わたくしにはただの色と形にしか見えない。匂いも、味も、きっとしないだろう。

 そして、メインディッシュが運ばれてきた。

 銀の大きな大皿。その中央に鎮座していたのは……。

 こんがりと、飴色に焼かれた、いくつかの、小さな、小さな鳥のローストだった。ローズマリーの緑が添えられている。

 その、あまりにも小さなサイズが、わたくしの心臓を、冷たい手で鷲掴みにした。

 

 お父様が、少し驚いたように言った。

 

「ほう、これは珍しいな。ずいぶんと小さい鳥だが……これは、コマドリか?」

 

 コマドリ――その言葉に、わたくしの頭の中が、キーン、と甲高い音を立てた。

 血の気が引いていく。指先が、氷のように冷たくなる。

 

 エレオノーラ様が、にこやかに答える。その声は、いつも通り、絹のように滑らかだ。

 

「ええ、旦那様。腕の良い猟師が、ちょうど良い大きさのものを捕らえたと、特別に分けていただいたのですわ。とてもデリケートで、素晴らしい味だそうです。滋養にも良いそうですし、リリアーナ様も、最近食が細いようでしたから、きっと喜んでくださるかと思って、料理長にお願いしたのです」

 

 彼女は、わたくしを見て、優しく微笑んだ。

 その微笑みが、今は、どんな罵声よりも恐ろしかった。

 

 嘘だ。

 嘘だと言って。

 あれが、ルビーなわけがない。

 わたくしの指からパンくずをついばんでいた、あの温かい、小さな生命が、こんな、こんがりと焼かれた肉塊になっているわけがない。

 でも、あの小ささ。あのタイミング。

 そして何より、エレオノーラ様の、あの楽しそうな瞳。

 彼女なら、やりかねない。わたくしを絶望させるためなら、どんな残酷なことでも。

 胃の奥から、酸っぱいものがこみ上げてくるのを感じた。息が、できない。目の前が、チカチカする。

 

 わたくしが恐怖に震えていると、エレオノーラ様は、まるで親切な母親のように、給仕のメイドに指示を出した。

 

「さあ、リリアーナ様の分も、取り分けて差し上げて。一番、美味しそうなところをね。骨まで柔らかく煮込んでありますから、きっと食べやすいですわよ」

 

 メイドは、躊躇うことなく、一番小さな、しかし丸々と焼かれた鳥のローストを、わたくしの皿に乗せた。

 目の前に置かれたそれに、わたくしはルビーのつぶらな瞳を重ねてしまい、ヒッ、と息を呑んだ。

 

「さあ、リリアーナ様、召し上がれ。冷めないうちに。栄養をつけないと、またお痩せになってしまいますわよ」

 

 エレオノーラ様の声が、遠くに聞こえる。まるで、水の中から聞いているようだ。

 

 わたくしは、震える手で、銀のフォークを握った。

 でも、それを肉に突き立てることなんて、できるはずがなかった。

 もし、これが本当にルビーだったら? わたくしは、友達を、食べてしまうことになる。

 考えただけで、気が狂いそうだった。

 

「……いりません……」

 

 かろうじて、それだけを呟いた。

 

「わたくし……お腹が、空いていません……。気分が、悪いのです……」

 

 その言葉に、エレオノーラ様は、わざとらしく、悲しげに眉を寄せた。

 

「まあ……せっかく、あなたのために用意したのに……。わたくしの心遣いは、迷惑でしたか……?」

 

 その姿を見て、お父様が、また怒鳴った。テーブルが僅かに揺れる。

 

「リリアーナ!! わがままを言うな! お母様が、病弱なお前のことを心配して、わざわざ用意してくださったのだぞ! それを無にするとは、何事だ!! 好き嫌いを言うんじゃない! 感謝して、早く食べなさい!」

 

 食べなさい。

 その言葉が、引き金になった。

 わたくしは、もう耐えられなかった。

 

「いやあああああ!!」

 

 わたくしは叫び声を上げ、椅子を蹴倒すようにして立ち上がり、ダイニングルームから逃げ出した。

 背後で、お父様の「こら、リリアーナ!」という怒鳴り声と、エレオノーラ様の「まあ、リリアーナ様! どうなさったの!? やはり、どこかお加減が……」という、猫なで声が聞こえた。

 

 部屋に戻り、わたくしは床に突っ伏して、胃の中のものを全て吐き出した。もう、何も残っていないはずなのに、吐き気は止まらなかった。

 もう、何も信じられない。何も食べられない。

 ダイニングルームでは、エレオノーラが「まあ……可哀想に。やはり、まだ心が……よほど、ショックなことがあったのでしょう。旦那様、あの子のことは、わたくしに任せてくださいませ。わたくしが、責任をもって……」と、アルブレヒトを巧みに慰めていた。

 そして、アルブレヒトが心配そうにリリアーナの去った方を見ている隙に、彼女は、残された小さな鳥のローストを、フォークで優雅に一口分切り取り、まるで極上の珍味を味わうかのように、ゆっくりと、そして美味しそうに、口へと運んだのだった。

 その唇には、満足げな、勝利の微笑みが浮かんでいた。

 

(ああ、本当にデリケートな味。リリアーナにも、食べさせてあげたかったわ……フフフ)




 でもどれがリリアーナのお友達の鳥かは分かんなそうだけど来てた鳥が全部同じ鳥とは限らないってオチ
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