《天竜》の伝説   作:PAPA

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第十説:巻き込まれる

無法地帯に繰り広げられる剣戟。

ミホークとシャンクスは打ち合い続ける.

もう何十合切り結んだかわからない。

互いに相手の隙を突こうしては受け流され、流した後に反撃しようともすぐに相手は立ち直る。

それの繰り返し。

決定打が入れられず、お互いに攻めあぐねている状態だった。

とは言え、その剣戟は常人には全く見えない程の速度で交わされている。

もし誰かがそれを目撃していたら膠着状態にあるなど分からず、ただ惚けて感嘆するばかりだっただろう。

それ程までに凄まじくも美しい剣戟だった。

また打ち合っている二人は気付いていないが、その余波で周囲は凄まじい事になっていた。

一合切り結ぶ度に地面に鋭い刃の斬撃が深く刻み込まれ、二人が踏み込む度にその衝撃に耐えられず地面に亀裂が走る。

最初は平坦だった場所は今や見る影もなく凹凸だらけ。

それでも二人の剣の応酬は止まることはなかった。

 

「おわっと!?」

 

しかし、何の偶然か不意にシャンクスが体勢を崩す。

余波で生まれた地面の窪み。

それに足を取られた。

剣戟の均衡が崩れる。

 

「好機!」

 

その隙を見逃す剣士などこの世に存在しない。

瞬時にミホークは黒刀「夜」を片手で横薙ぎに振るう。

 

一閃―――。

 

未だ世界最強の剣士ではないとは言え、一人で偉大なる航路(グランドライン)の前半の海を乗り越えた剣士。

その研ぎ澄まされた刃は離れた場所に聳え立つヤルキマン・マングローブを両断した。

が、断つべき相手には躱されていた。

体勢を崩した、ように見せかけたシャンクスは放たれた必殺の一撃を地に這うかの如く身を伏せて躱していた。

そのまま飛び起きるかのように隙を見せたミホークの懐に入って覇気を纏わせた剣を振るう――――判断を瞬時に変えて、後ろへ飛び退いた。

 

「誘いを利用して誘おうとするなんて嫌な奴だな。鷹の目」

 

「あんな見え透いた誘いを掛けるからだ」

 

シャンクスの額を一筋の汗が流れ落ちる。

あのまま飛び込んでいたら、間違いなく串刺しにされていた。

両手で黒刀を振るわず、片手で振るったのは返す刀で攻撃する為だったのだ。

 

 

「全くもって一筋縄ではいかねえな」

 

「闘いとはそういうモノだろう」

 

お互いに仕切り直して得物を構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギドーと別れた俺は一人、無法地帯を歩いていた。

 

うーん、やばいな。

海軍の動きが予想以上に早い。

もう中将が出てくるとは思いもしなかった。

この時代の中将っていうと後に大将になるサカズキやボルサリーノ、クザンが所属しているはずだ。

もしこの島に来ているのが彼らだった場合はシャボンディ諸島が原作並みに被害甚大になる可能性は大きい。

自然系(ロギア)の能力は周囲に与える影響が大きすぎる。

こりゃ呑気に海賊たちの見物を考えてる場合じゃないかも。

まずは命を一番に考えないと。

巻き込まれて死ぬなんて溜まったものじゃない。

でもやっぱり一目でいいから見てみたい気持ちもあるのは隠しきれない。

そんな風に悶々と考えていると上からミシミシと嫌な音が聞こえてきた。

上を見上げる。

 

「嘘だろ」

 

ヤルキマン・マングローブが落ちてこようとしていた。

 

「うおおおお!!」

 

俺は剃を使い全速力でその場を離れる。

間一髪でヤルキマン・マングローブは落ちてきた。

落ちた衝撃で吹き飛ばされてゴロゴロと地面を転がり、そのまま大の字で仰向けになる。

唐突に訪れた命の危機に心臓がバクバクと鼓動し続けるのを感じつつ俺は決意した。

よし、帰ろう。

命を大事に。

 

俺は立ち上がろうとした。

瞬間、天地が引っ繰り返った。

人間、本気で驚くと声すら上げるのを忘れるものである。

何かにまた吹き飛ばされた事がわかったのは、再び大の字で仰向けになった時だった。

もうやだ。

一体何でこんな目に。

 

「チクショー、こんなにしんどい戦闘は久々だ」

 

砂埃の舞う中、聞き覚えのある声がした。

この声は───。

甲高い金属音と共に砂埃が一気に散る。

その姿を認めた時、何でこんなところにいるんだと叫びたくなった。

晴れた視界に映ったのは、あのシャンクスだった。

同時にシャンクスもこちらに気づいて驚いた顔で見てきた。

 

「お前さっきの坊主!何でこんなところに!」

 

シャンクスは驚いていたが頭を振って、すぐに真剣な表情になる。

 

「おい、鷹の目! 子供がいて巻き添えになりそうだからちょっとタンマっ!?」

 

シャンクスが突然、体をひねる。

その赤髪が数本、ひらりと宙に舞う。

 

「決闘に待てなどないぞ。赤髪」

 

シャンクスの視線の先に身の丈程もある黒刀を携えた男が立っていた。

誰がどう見てもあのミホークだった。

状況的に決闘中ですねコレ。

やばいここにいたら絶対死ぬ。

 

「頭の固い奴だな、っと!」

 

鋭い金属音と共に空気が震動した。

 

「坊主! すまんが抑えるので精一杯だ。頑張って逃げてくれ! 坊主ぐらいの強さなら独りでも大丈夫だろう?」

 

気がついた時にはさっきまでそこにいたはずのシャンクスはミホークと鍔迫り合いをしていた。

嘘だろおい。

目で追えないどころの速さじゃない。

いつの間に動いたのかさえ全く認識できなかった。

それに俺が普通の子供じゃない強さを持っているのもバレてるっぽい。

たぶん見聞色の覇気だ。

でもそんなことより今は─────

 

「言われなくても逃げます!」

 

俺は全力で剃を使って逃げ出す。

あんな戦いに巻き込まれたら今の俺じゃ命がいくつあっても足りない。

今にも斬撃が飛んできて真っ二つにされそうな場所になんていられるか。

しかし、突然降ってきた大きい真っ赤な何かに出鼻を挫かれて足を止めてしまう。

ってマグマじゃねーかこれ!

弾かれたように空を見上げると、巨大な拳型のマグマが雨のように降ってきていた。

 

「ふざけんなあああ!!」

 

悪態をつきながら必死に降ってくるマグマを躱す。

次から次へと何でこんな目に合わなければならないんだ。

あ、まずい。

マグマのせいで無事な足場がもう近くにない。

見上げると目の前にマグマの拳―――が縦に裂けた。

 

「ふいー。間一髪だな」

 

シャンクスだった。

ギリギリのところでマグマを斬って助けてくれたようだ。

本当に死ぬかと思った。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「いやいや、元々こっちが巻き込んだんだ。礼を言われる道理なんてねえさ」

 

そう言った後、シャンクスは地面に落ちたマグマの一つを睨みつける。

 

「で、こんな子供を巻き込んで攻撃を仕掛けてくるのが正義の海軍様のやり方かい?」

 

「ぬかせ海賊が。こんな無法地帯にいて六式を使い、海賊といるガキが無害な訳がない」

 

そのマグマはある男の形になる。

海賊を必要以上に悪と憎み、完全撲滅を願う男。

悪魔の実でも希少な自然系(ロギア)のマグマグの実の能力者で後の海軍大将。

サカズキ。その男だった。

送り込まれた中将ってサカズキの事だったのか。

またよりによって海賊絶対殺すマンをよこすなんて。

島の被害が洒落にならない事になるぞ。

それにさっきから何か嫌な話の流れになってる気がするし。

 

「すまん、鷹の目。決闘どころじゃなくなりそうだ」

 

シャンクスの言葉に興醒めと言わんばかりにミホークは溜息をついた。

 

「下らん。俺は行かせてもらう」

 

「誰も逃がしはせんぞ」

 

いつの間にか周囲を海兵たちに囲まれていた。

完全武装の海兵たちによる包囲で何門もの迫撃砲が俺たちに狙いをつけている。

それに何人か明らかに他の雑兵とは違う手練れが混ざっている。

本気で俺達をここで仕留めるつもりらしい。

 

「邪魔をするなら斬り伏せるまで」

 

ミホークは黒刀を構える。

ダメだ。

この感じはなし崩し的に俺も海軍とやりあう流れだ。

何とかこの状況を切り抜けないと。

 

「えーっと、僕は関係ないので帰っても」

 

「ほざけ小僧。後でそこの海賊との関係と何処でその六式を覚えたのか吐いてもらうからのう!」

 

取り付く島もなかった。

こんなことならさっさとマリージョアに帰ればよかった。

今更天竜人だと暴露しても聞く耳すら持ってくれないだろう。

後悔先に立たず。

とにかく今は生き残ることを考えなければ。

ふとシャンクスが俺の頭にポンと手を置いた。

 

「悪いな、坊主。巻き込んじまって。ちょっと下がってな。お前は俺が責任持って守るさ」

 

不安にさせまいとしてるのかニッカリと笑顔を浮かべるシャンクス。

ダメだ。

彼の足手まといになる訳にはいかない。

未来の大将相手に俺を守りながらじゃ勝てるものも勝てなくなる。

 

「大丈夫です。あのマグマの相手は無理ですけど、アレ以外なら何とかなります」

 

俺は能力を発動させ、人獣型に変身する。

 

「こいつは驚いた。その年で能力者か」

 

「やはりただの小僧ではないか。吐いてもらう事が増えたのう」

 

俺が能力者だったことが判明して、俄かに場がざわつく。

やっぱり子供が能力者なんて相当珍しいんだな。

 

「よし。なら俺があのマグマ野郎の隙を何とかして作るから、その時になったら全力で包囲を抜けろ。できるか?」

 

シャンクスが願ってもない提案を耳打ちしてくれる。

当然乗らない選択肢はない。

 

「もちろん。死にたくないですから」

 

「よし、じゃあ行くか。あまり気負うなよ坊主!」

 

「はいっ!」

 

シャンクス、ミホークと共に並び立って海軍と対峙する。

命の危機に晒されているとは言え、この二人と一緒に戦うって考えると興奮してくる。

きっと大丈夫だ。

相手が未来の海軍大将とは言え、こっちも未来の四皇と七武海がいるんだ。

負けることはないはずだ。

 

ボコボコと音を立ててサカズキのマグマが膨れ上がっていく。

 

「誰一人逃すつもりはない。ここで終わりじゃ海賊(クズ)共!」

 


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