さて、いったん落ち着いて今の状況を整理しよう。
俺は悪魔の実を食べてしまった。
これはまぎれもない事実だ。
このことから二つのことが分かる。
一つめ、俺はかなづちになってしまった。
それは別にいい。
俺は泳ぎが好きなわけではないからな。
重要なのは次、二つめだ。
俺は何かの能力者になってしまったということ。
何の能力かは分からない以上、無闇に能力を発動させるのは危険だ。
ということでいつもの鍛錬をするときの小島に来ている。
ここなら多少荒っぽいことが起こっても大丈夫だ。
というかここでいつも荒っぽいことしてるしね。
今回は俺とガイア以外に母様と父様も来ている。
それはなぜか?
事の発端は昨日、俺が悪魔の実を食べた直後のことである。
「吐け!!吐くのじゃテラマキア!!」
「む、無理ですよ。父様!胸ぐら掴んで揺らさないでください!」
そう言うと父様はやっと放してくれたが、膝をついて落ち込みはじめた。
「ああ、なんてことじゃ…。よりにもよって悪魔の実じゃなんて。こんなことがバレたら今度こそ…」
「まあまあ、ゾディアック。落ち着いて」
母様が父様を慰めようとする。
「これが落ち着いていられるか!元はといえばお前のせいじゃぞ!お前がテラマキアに悪魔の実を…!」
「いつまでもウジウジ言ってるんじゃありません!!」
母様の一喝。
マジでびっくりした…!
父様も驚いてのけぞっている。
「食べてしまったものは仕方ないのですから、今の現状に対することを考えなさい」
「う、うむ。そうじゃのう。すまんかった、サマルドリア」
「分かればいいのです」
とりあえず納得する父様。
ていうか母様もっともらしいこと言ってるけど完全に自分の責任を誤魔化してるよね?
それでよく納得する父様はある意味すごい。
本当に尻に敷かれてるなあ。
「お風呂、お先にいただきましたーってどうしたんですか?」
ガイアが風呂から上がってきた。
空気読めよ。
「あら、ガイアさん。ちょっと聞いてくださる?」
「はあ…」
母様がガイアに事情を説明する。
そして全てを聞き終わったガイアは深いため息をついた。
「テラ。お前って奴は…」
「あはは…。成りゆきで食べちゃった」
そんな俺の能天気なことを言う俺を見てガイアはもう一度ため息をついた。
「なんだか最近、ため息をつきっぱなしな気がするな」
「なあ、ガイア。さっきから能力を使いたくて体がウズウズしてるんだけど能力使っていいかな?」
その証拠にさっきから体が若干熱い気がする。
「ダメだ抑えろ。もしその能力が危険なものだったらどうする?それに能力の扱いはかなり難しいんだ。下手に使うと周りに甚大な被害をもたらしかねないんだからな」
「うっ…」
ちぇっ、分かったよ。
確かにここは家の中だし、何より父様と母様がいる。
もし能力を使って危害が及んだら目も当てられないからな。
「能力の把握は明日、いつもの鍛錬の小島でするからな」
「あの、ガイアさん」
母様が躊躇いがちにガイアに話しかける。
どうしたんだ?
「明日の鍛錬、私が見に行ってもよろしいでしょうか?」
「なっ!?」
「何を言うのですか!?母様!」
驚愕する俺とガイア。
「テラマキアが悪魔の実を食べたのは私にも責任がありますからね」
勇ましい母様。
「ですが何が起こるか分かりませんよ?命の保証もできませんし…」
「覚悟の上です」
「しかし…」
「こう言ったらサマルドリアは絶対に譲らんよ、ガイア君」
父様が前に歩みでてくる。
「昔からこうじゃからな」
「当たり前でしょ。それに私が行くからにはあなたも来るのでしょう?」
「当然じゃ」
ガイアはしばらく黙っていたが諦めたかのように体の力を抜き、
「…分かりました。連れて行きましょう」
「ありがとうございます。ガイアさん」
「ですが絶対に私の指示に従ってくださいね」
「うむ、礼を言う。ガイア君」
というわけで父様や母様もいるのである。
「さあ、テラ。いつでもいいぞ!」
ガイアは父様と母様の前に何が起きても守れるように立っている。
「ああ、行くぞ!」
俺は能力を発動させた。
その瞬間体の形が変わり始める。
骨格が変わり、筋肉が隆起していくのが分かる。
これはあれか!
もしかしてあの動物系幻獣種のドラゴンか!
天竜人なだけに!
すると突然、どんどん大きくなると思っていた体変化が止まった。
あれ?
ドラゴンってこんな大きさなの?
「これはまたすごいのを引き当てたな…!」
「まあ…!」
「体長10メートルぐらいはあるかのう!」
皆が感嘆の息を漏らす。
「動物系幻獣種か…」
!!
やったぜ!
やっぱりドラゴンだったんだ!!
「へへっ、見たかガイア!俺はドラゴンだぞ!」
「はあ?」
ガイアが間の抜けた声をだす。
「何言ってんだ、テラ?自分の体をよく見ろよ」
え?
俺は慌てて自分の体を調べる。
手のひらには柔らかい肉球。
口には鋭く抜きん出て尖った二つの牙。
頭には丸っこい耳。
尻にはふさふさの尻尾。
そして何より全身を覆う雪の様に真っ白な毛並み。
「ねえ、ガイア。これってまさか…」
「ようやく気づいたか」
ガイアが呆れたように言う。
「お前が食ったのは動物系幻獣種ネコネコの実モデル〝白虎〟だ」
えええええ!!
そんなーーーー!!
何で虎なんだよ!
龍虎相討つのドラゴンのライバルの方じゃないか!!
普通は絶対にドラゴンだろ!!
天竜人なだけに!
空気読めよ世界!!
「ウガアアア!!」
苛ついて思わず叫んでしまう。
その時、物凄い強風が巻き起こった。
「うわっ!何だ!?」
「きゃあ!」
「サマルドリア!」
「くそっ!〝大地の揺りかご〟(ガイア・エッグ)!!」
ガイアが能力を発動し、父様と母様を強風から守る。
「こら!!テラ!これは恐らくお前の力だ!早く何とかしろ!」
「ええっ!何とかしろと言われても…」
風は依然として荒れ狂い続けている。
「だったら能力を解除しろ!そうするば止まるはずだ!」
「わ、分かった!」
俺は急いで能力を解除し、獣型から人型に戻る。
それと同時に荒れ狂っていた風もおさまった。
「ふう…」
ガイアは能力を解除して父様と母様を解放する。
「だから言っただろ。能力の制御は難しいから一歩間違えば甚大な被害をもたらしかねないって」
「ごめん…ガイア。それよりどうしてあの風が俺の力だって分かったんだ?」
「ん?それは勘だ」
「勘かよ!」
思わずツッコミをしてしまった。
「ふむ、にしても風を操れるのか…。これは強力だな」
ガイアはブツブツと独り言を言いながら考え込んでしまう。
「テラマキア…」
「母様」
母様が近づいてきた。
「母様。俺には近づかない方がいいですよ。俺はいつまた力が暴発するか分からない化け物なん───」
俺は最後まで言えなかった。
何故なら、
「どう…して…」
抱きしめられていたからだ。
「どうしてもこうしてもないでしょ。あなたは化け物である前に私たちの息子なのよ」
「そうじゃ。だから愛し続けるに決まっておろう」
「それだけはこれからも変わりないわ」
ああ…
なんて…
なんて暖かくて優しいんだろう…
俺はこの時心の底から思った。
父様と母様の子どもでよかった、と───