Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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3-11:ヘルツ

 イリアの住所の情報を送ってからは、それが届くまではすぐだった。ココホルト君改良型。地面の中などの見えない空間の形状を分析できる便利マシンであることには変わりないのだが、この異聞帯で活用するための改良を少し加えたようだ。

 一番大きなポイントは、電子機器への影響を抑えた点にある。多種多様な電磁波を発して解析する都合上、そのひとつひとつは弱いとはいえ、精密機器への影響は未知数なところもあった。大地が巨大な船で出来ている以上、その影響を極限まで抑える必要がある。

 改良を施した結果、解析速度は遅くなった。

 

“でも、地上から解析をしたら確かに遅いかもしれないけど、それは補える。何せここには巨大な船内区画、あるいは「地下街」があるんだからね”

「そいつが焼け石に水程度の差じゃねーことをせいぜい祈らせてもらおうかね」

 

 レイアは冷めているが、他はかなり期待の眼差しを向けている。こういったものに興味を示すのが3名、基本的に先生に対して肯定的なのが1名、改良前の性能を知っているがゆえに信頼しているのが1名。全体的にかなりテンションが上がっているようだ。

 

 解析を実行するのは、船内区画にある公園のど真ん中。天井さえ見なければ広々とした感じといい、幼い子供たちがはしゃいでいる様子といい、まさに公園という穏やかな風景が広がる公園。その真ん中でどっしりと機械に注目する高校生集団と、引率教師。

 測量をするタイプの部活でもやっているのかな、という具合で特に怪しまれるわけではなかった。興味を示した小さな子供たちに時々絡まれるが、そのくらい。かなり堂々と解析作業を進めることができた。

 

「予め伝えられていたので、想定していたものの……やはり遅いですね、先生」

“まあカンナと私はあの超スピード解析を知っちゃってるからねぇ。皆はこれでも興奮してるみたいだよ”

 

 解析情報はナノが持ってきたPCに映し出されている。点群が船内区画の壁をかなり緻密に描いていっているのが見て取れるが、その向こう側も少しずつ見えてくる。

 せっかくなので、ここからウタハも通信を繋いで、一緒にデータを見ていくことにした。

 

『やあ皆、私は今皆が使ってる便利マシンの開発者さんだ。それで、今のところだけど……見えるかな? これってたぶん通路なんだよね。細い路地の行き止まりから、壁1枚先。ある意味、巧妙な隠し方だね』

「そうか……あの時見たのは、もしかしてそういうことだったのか?」

 

 レイアには心当たりがあるようだったが、それでも今に至るまで気にしたことがなかった、という様子だった。それもそのはず、基本的に用もなければ、近道に使えそうでもない、路地裏の中身などというものは、日常生活をしていたなら気にすることもない。

 まして、その行き止まりの向こう側に隠し通路があるなどと、変な偶然で小さな子供が思いつくというような、低確率極まる現象がなければ起きない。それなら、都度対処すればいいだけのこと。

 

「えっ、何か知らないことレイアが言い出してる。何それ、あたしに教えてくれたっていいじゃん。っていうか今教えてよ、役に立ちそうでしょ」

「そう焦るなって。まーそうだな、この路地っていうの、入り口はたぶん……あそこの角のあたりだろ? 人が出入りしてるのは、見たことがあったんだ。あんな何も無いとこに行くなんて、物好きもいたもんだとか思ってたけどな」

 

 出入りしただけで物好き扱いされるとは、よほどのものである。だが、それを目にしたところで、気にしても仕方がないから気にしない、というのがまた一般市民目線だ。

 実際のところレイアの指差す先にあった入口は、言われてみないとなかなか気付かないくらいには、存在感がない。ただの隙間を路地と言い張っているだけ、とすら言える。実際にそこから人が出入りするところをたまたま見かけたら、と想像してみると、彼女の当時の判断も理解できるところがある。()()()()()()、わざわざ詮索したくない。

 

“うーん、だいぶ狭いなぁ……大人数で入るには厳しいか。とりあえず見るだけ見るなら、私とナノと、あとひとりかふたりくらいで十分かな”

「ならこの狐を連れて行ってください。先生の監督が無ければなにをしでかすやら分かりませんので」

「うふふ……ヒドイ……でも幸せ……」

 

 とりあえずではあるが、ワカモを連れて行くことに決めた。本人が結果的に嬉しいのなら良しだろうか。

 何か争いになった場合、ナノはあまり武闘派ではないと見られるので、ワカモ頼り。閉所での戦闘に慣れている彼女には、適任かもしれないが。

 

 外から見ただけでは分からないが、路地裏はかなり入り組んでおり、解析の副産物として簡易的に作られた地図によると、行き止まりに行けずに外に出るルートも多いようだった。

 

「こーりゃ尚更、行きたくなんないよね。ってか行けないっての。用ある人はあるひとでめんどいんだろなー」

「本当にこの道で合っているのですか? 景色が変わらないと不安になります」

“合ってるはずだよ。通った道を記録してるから信じていい。ほら、たぶんここじゃない?”

 

 行き止まりに辿り着いた。解析データでは、確かにこの壁のすぐ向こうが人の通れる通路になっている。しかし、どう見てもただの壁。

 

「……たまたま通路と隣り合ってるだけで、やはりただの壁なのでは?」

“そんな気もしてくるけどねぇ。レイアの証言も記憶違いの可能性だってあるわけだし”

「アテシは信じるけどね、友達として。だから、それを確かめるために……これ仕込んじゃう」

 

 そう言ってナノが取り出したのは、超小型カメラ。常時稼働させるには電源が必要だが、この船はそこら中に電線が張り巡らされており、電源をとるのが容易になっている。

 これを使って、24時間の監視体制を作り、ここが出入りできる場所だという証拠を掴む──数日かかることも想定し、バレた場合の対処も考えておく。

 回りくどく、不確実。だがそれでいいと、彼女は信じた。

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