Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
まさか、ひと晩置いただけでかなり重要な瞬間が映ってしまうとは誰も思わなかった。決してこの大陸船団が監視社会というわけでもなければ、厳格に秘密を管理しているわけでもない可能性があるとはいえ、ここまであっさりと、不用心な行動をとる人物もいたものだ。
夜間に、カメラを仕掛けていたところの壁がなんと開いた映像が映ったのである。
「うわ〜、すっごい。謎すぎる技術じゃ〜ん」
アイムがこんなことを言うのも無理はなく、本当にどう見ても隙間なんてものは無かった場所が、いきなりスライドして開いたというのはかなり謎すぎる技術だ。分かりづらい扉を作るならともかく、まず壁にしか見えないように作り、開閉してなお自然というのは大したもの。
おそらくは認証式の扉であり、この先に行くことができる立場の者だけが開閉できるのだろう。そうなると、普通に開けようというのは難しそうだ。船内区画の一角の部屋は、ため息の音で満たされた。
“認証があるとして、それがどういう方式なのか、突破可能なのか……最悪物理的に破壊すればいいんだけど、他に誰も行かないような場所とはいえ騒ぎを起こしかねないから面倒だよね”
「そゆことー。つまりどうにかして開けなきゃダメってハナシ。だからま、ダメ元になるけどさ、作っちゃおうかなって思うんだよね。偽物のIDみたいなの」
イリアが一瞬止めようとしたが、思いとどまる。そういったものが犯罪なのは、異世界でも同じこと。まして、王の元に行くことを最終目的としてそれを行うなど。
だが、それもあちら側は想定済みなのかもしれない。そう考えてみると、むしろ正攻法で攻めているようでもあった。
“ならこっちの頭脳も貸してあげよう。あの子達と比べると大したことはないけど、私も心得が全くないわけでもないし、手伝うよ。少なくとも、今日いっぱいはそれに使おう”
「うぃー、助かるぅー! そいじゃ、ちょっと通信繋いでと、今日は頑張っちゃうよ──あ、いけないいけない。映像続きあんじゃん」
まだこれで終わりじゃないからと、また再生をするが、残り時間が変に短い。それに勘付いたか、カンナの口から「まさか」の一言。
そしてその予感は、当たった。突然映像が激しく乱れ、そこで映像は終了。映像の乱れ方からして、強い衝撃──それこそ、銃撃での破壊といった手段──によって、カメラが破壊されたようだ。リアルタイムで送られた映像を自動で保存していたため、映像そのものは残ったが、別の事実を明らかにされる。
「まあ、一切バレないとかは思ってはいなかったけどな……」
「警戒されちゃうかなー。認証プログラムのソースとか盗みにくくなっちゃうかなー。はー、ダル」
普通に考えて、こんなところに不審なカメラを見かけたら、関係者はセキュリティを強めるだろう。だが、「試練」というものをそこの少なくとも上層部は把握しているだろうこと、その道をわざわざ塞ごうとするかどうかということも踏まえると、影響は未知数。
少なくとも、あちら側の人員にも完全にこちらが認知されたという認識は持つべきだろう。
悪いパターンも想定しておくと、あまりのんびりしている時間はないようだ。侵入のためのデータ作成は、急ピッチで進行することになった。
一方、その頃。この世界の王は、全てを覗き見ていた。彼女には全てが見えるが、普段ならそれでどうこうということはなかった。別に自らに反抗しようとする者がいようと、自らの体制に疑問を持つ者がいようと、犯罪者がいようと、即座にそれに反応したり、まして粛清しようなどとはしていなかった。そういう意味では、あまり意味のない力だったのかもしれない。
だがこの時ばかりは、あまりにもこの力を行使するのが愉しくて仕方がなかった。世界の命運を賭けて戦おうという相手が、ここまで愉快なことをしようとは思わなかったのである。
「うーむ、なんたるパワープレイ! だがある意味これこそが正道であろうな! 実に粋である!」
相変わらず独り言でも声が大きいし、うるさい。しかし本当に高揚して仕方がないというものではあるのだろう。
涎まで垂らして、両の手を広げ立ちあがる。くるくる回る。飛び跳ねる。
「ふっふっふ、娘らよ。我が遊泳大陸船団の中枢部のセキュリティは我が作ったが……強靭にして完璧、鉄壁にして無敵であるぞ? だがそれに挑んでこそ人間というものでもあろうな! まこと、まこと尊く美しいものではないか!」
「あの、私も聞いているのですが……少々、声量に遠慮がなさすぎではありませんか、陛下?」
玉座の近くにある石柱から、ダウナーな雰囲気の声が聞こえてくる。どうやらこれを通じた通信をずっと繋げていたらしい。だとしたらその向こうからの声の言う通り、非常に遠慮のない独り言がすぎるが。
「うーん、ちょっとその言い方、不敬か?」
「そんな、滅相もございません! いえ、しかし、失言ではありました。申し訳ございません」
「良い良い、真に受けるな。我も冗談のつもりで言っただけに過ぎぬことよ。それで、状況は理解したな?」
長い間王というものをやっているのなら、その立場の隔絶感の強さはいかほどかの自覚はあろうに、軽々しく冗談などと──という感情の乗せられたため息の音が響いた。
「理解していないはずがありませんよ。偽データなんて作って私の領域に入ろうなんて、そんな不遜な真似──」
「あー、ちょっと勘違いしているな、うん。確かに我自慢のセキュリティシステムで、簡単に突破されたくない気持ちはあるのだがな……あ奴らがもっともらしいデータを作ったのなら、それは通してやってくれ」
「……??????」
遊びのつもりではない当事者の側からすれば、理解できない考え方だろう。だが、まだ遊び気分でいるこの
「その時点でひとつ勝負に負けているからな。なら報酬をやるのは当然であろう?」
「……ご自由に、私には陛下を止める権限もありませんからね。それにしたって、私達にかかる苦労のことは考えてほしいものですが」
「はは、何を言うか」
「船団の者達に、