Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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3-13:Cybernecia Catharsis

 まる一日、コンピュータ技術に通じている要員をフルに動かしまくって、ようやくそれはある程度形になってくれた。ICカード1枚というごくありふれた形だったが、ここに注ぎ込まれた労力は測り難いものがある。

 

『そもそも私の専門はこういうデータ抜き出しとか、そういった分野じゃないからね。大体の部分はそちらのお仲間に頼ることになったよ。認証システムが少々古臭い様式なのは驚いたけど、古臭いのは骨子だけだったし』

 

 その古臭さというのは、このICカードという形にも表れているといえるだろう。今更こんな媒体を通じて認証を行っているのはけっこうな前時代的様式だ。まして発展度合いが著しいこの異聞帯においては、である。

 

「でもめんどかったよねー。だってすんごい手触りが独特なんだからさ。あ、イリアのために一応言っとくとものの例えだかんね、手触りってーのは」

 

 友人に比喩が通じないタイプのように言われ、不満げなイリアをよそにシステムの構造に関する解説が始まった。曰く、ここのシステムは入ることそのものはそこまで大変ではなかった。侵入を検知して勝手に作りが変わっていくという特殊な事後対応策が組まれていた。

 類を見ない、というより普通だったら無駄が多いやり方である。無駄を相当に気にしないでいられる理由があるのではないか、というくらい。だがこれが逆にかなり有効であったらしく、ナノは相当に苦しめられたらしい。

 

「わたしとあとあっち側の、ユウカさんだっけ? いなかったらやばかったよね〜」

 

 そう。急に「降りてきた」という発想と、それに基づいたユウカの計算により、この特殊すぎるコードについては解析されていったのだ。

 このアイムという生徒は、普段はかなりぼんやりとしている少女であるが、時折極めて天才的な発想を得るらしい。汎キヴォトス史側の生徒を挙げて例えるのなら、アスナが似たタイプ。ただ、あちらはどちらかというと「運そのものがいい」であるとか「勘が確実に正しい方を示す」という異能じみたものであるが、こちらは「唐突に閃いたことが必ず正解になる」と言うべきもののようで、そう都合のいいことを起こせるわけではないようだ。

 

 ともかく。こうしてツールは出来上がった。あとは、これを使うことができるのか、そもそもどうやってこのデータを読ませるのかというところを明らかにしたい。

 物理媒体がどこかにあるのか、探そうとも考えはしたのだが、今のところそれはできていない。今から現地に行くのが最良だろうか。

 

 船内区画の路地。狭いスペースにギュウギュウになりながら、今回は全員で入った。先頭にいる先生が、代表としてカードを持っていく。

 そして迷いそうになりながらも、なんとか例の行き止まりまで辿り着いた。

 

“カメラの残骸……放置されてるね。回収すべきものとは思われなかったのかな? なんか、あらゆるところが「あえて」な気も所々してきて怖いなぁ”

「あら、それでも拾えたのは悪いことではないのでしょう? あまり考えすぎず、今はそれを……」

“だね。うーん、どこかに反応しそうなところは? 片っ端から当ててみるかな”

 

 壁面がある場所はとにかく手当たり次第、ペタペタとカードを当てていく。ドアになっている壁には反応しないので、横も。これを使うだろう生徒にはそこまで身長が高くない者もそれなりにいるはずであることから、高い位置──具体的には、すぐ近くにいるワカモの肩辺りまでの高さより上くらい──は除外。とにかく押し付けるように繰り返すと、音声が流れた。

 

『認証 開始』

『ID: ATE65537』

『所有者 ■■■■■■を 認識しました』

 

“……?”

 

 今、何と「言った」? 

 何やら異常な音声が混じっていた。ノイズではない。ちゃんとした機械の読み上げ音声の体をなした、言語として発せられた音だ。しかし、IDの主の名前について、データの不備によるものか、それとも別の要因によるものか、人間には到底発せられない音になっていたようにも思われる。

 

 疑問は拭えないが、道は開けた。あまりにもあっさりした展開に、後ろから疑問に思ったイリアの声が聞こえてきた。

 

「……なんか、誘われてるみたい。ううん、何かもうそういうんじゃないね。もうぜひとも入ってください、って感じ」

「同意見だ。私としてはこれは迎撃目的だと考えている。しかし……考えている、というだけだ。逆に直感の方が、強く語りかけている。この明らかに誘うようなやり方は、敵意とは直接の関係がないものだ、と。先生、私にはどちらか判然としませんので、どちらを信用するかはお任せします」

 

 カンナとしても、このような感覚は初めてだった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()などと。思考は論理的であるが、様々な事件や思惑に触れてきた公安局長の勘というものは、そういったものを超越したところにある。

 こういった場合、直感の方が案外確度は高そうだ。というのも、人の思考の正確さ、合理性、理路整然度合いというのには限界がある。無意識的な願望であるとか、そういった不安要素に乱されることのほうがむしろ多いかもしれない。それは直感にも言えるかもしれないが、今回に限っては異常であることも考慮したい。

 

“そうだね、都合が良すぎるのかもしれないけど……本当に、都合がいいだけなのかもしれない。素直に入っていいものだと、信じよう。それに、どの道入らないという選択肢はないからね”

 

 

 扉の先の通路はあまり狭くはない。3人の横並びが、それなりに余裕をもってできる。そして、かなり薄暗い。船内区画は基本的に、明るさそのものは外と大して変わらないくらいにはあるのだが、ここはそのようにはしていないらしい。

 ライトが必要な程ではないが、それが気味の悪さを演出していた。

 

 遠くから、怒声のようなものが響いてきた。あまりにもよく響く。前からなのか後ろからなのか、それすらも分からなかった。

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