Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
テンカと名乗ったその人物のホログラム映像は、少しずつピントが合っていくように形が整っていった。その姿はどこか無気力そうでいながら、艷のある金髪が神々しさを感じさせる不思議な少女。これが、これから目指す場所を管理する人物であろう。
「キミがここの試練を?」
『あなたは、まさか……いや。たとえそうだとしても、詮索は無用だった、かな。その通り、私が大陸の心臓における試練を担当させてもらってる。話には聞いていたけど……本当にこっち側の生徒を味方につけちゃってるんですね、先生?』
イリアを見て、妙な反応をするテンカだったが、そのことはあっさりと流される。あちらが詮索無用と考えているのなら、こちら側も同様。今はまだ、触れるべき時ではないというやつだ。
“意外かな?”
『意外というか……なんというか、神経が太いものだなあ、と。案外
どうしてこうも、ピンポイントで刺さる挑発をしてくるものだろうか。慣れているわけもないが、そのある種の厚かましさ、図太さについては、忘れかけていた。
故に、ノーコメント。複雑そうな反応をされたのが、ラインを超えてしまったがゆえだと思ったのか、テンカの方も少し気まずそうだ。
『……コホン。せっかくここまで来ていただいたのです。かなり深いところまで来られたご褒美というか、タイミングもいいというか。そんなところですので、ここで私の試練の最終目標をお伝えできれば、と』
「それは本当か!?」
普段から言いそうなセリフなのに、どういうわけか何か違和感のあるカンナの発言はさておき。これは願ってもないことだ。現状、目標が分からず、とにかく深いところまで潜っていこう、くらいの方針しかないのだから。
『ええ、まあその過程については自分で考えるなり、近くの人から聞き出すなりしてほしいですけど。私の試練の最終目標というのは……至極単純。大陸の心臓の在り処にたどり着くことです』
「うん、そんなの分かってんだわ。いや、分かってなかったんだっけ? まあいいや。大陸の心臓ってーのが何なのかとか、結局それはどこにあんのってこととか、なーんもアテシ達知らないわけ」
『そりゃ知らないでしょう。ま、同じ学び舎に通う後輩がいる以上、そのよしみでもうちょっと教えてあげてもいいけど。簡単に言うと、大陸の心臓はエンジンルーム……に、あたるもの。ただ、本質的には大陸の心臓としか言いようがないもの。この通路──つまり、動力部整備作業用通路にいる人達は、皆だいたいどこにあるかは知っている』
要は、聞き出せということである。そのためには、場合によっては強硬手段に出てもいいはずだ。元より、それをテンカも、王も容認しているものと思われる。
分かりやすくて良い。あまり銃撃戦ができない環境だが、だからこそそれ以外の戦い方に通じている者が輝く。カンナとレイアは、その口であった。
「先生。いざという時の、銃器をなるべく使わない戦闘についてはお任せを……と、言いたいところですが、そのいざという時がなるべく来ないようにする。そのような方向性で、よろしいでしょうか?」
“そうしておくべきだろうね。なるべく、慎重にいこう”
『では、私はこれにて。大陸の心臓の前でお待ちしております』
というわけで。ここからは逆に、人となるべく会うことを要求されるようになったわけである。早速先程の語尾が妙ちくりんな少女に聞こうかと思ったが、いなくなっていたので、ダメ。少し戻って労働者達が集まる部屋に行ったところで、彼女らは情報を話せる様な精神状態ではないだろう。
話が通じそうな人物に遭遇し、なるべく話し合い、無理そうなら戦闘を経て、どの方面に行けばいいかくらいは聞いておく。これだろう。マッピングはシッテムの箱の優秀なOS達に任せる。大変に忙しくさせてしまうが、彼女らが頑張ってくれるからこそ、来た道がどう繋がっているかが分かる。
“一応、テストしておこうか。方舟との通信は繋がるのかをね”
方舟と連絡を取れれば、あちら側の演算機能や技術班の力を借りることができるのではないか、という淡い期待。結論から言ってしまえば、これは外れてしまった。
異聞帯とその外部を隔てる「壁」ほどではないものの、地下深くにいるだけでは説明がつかないほどに、通信状態が悪い。今までの傾向から考えると、異空間でもない場所で満足に通信も繋がらないというのは異例だ。何せ、凍土の奥深くの空間にいても通話が問題なくできたくらいである。
「ジャミングがカンペキってことなんだろうね〜。これも王様の技術ってやつ〜?」
「そーゆーこと、なのかなぁ? んまぁ色々隠せるんだろーね。普通に道義的に隠しとくべきこととか、政治的に隠しとくべきこととか、やましいこととか、詰まってる気もするしー? ……いや、むしろ何かの副産物?」
ともかく、残念ながら外部との連絡は不可能とのことだった。ココホルト君がこれで完全に機能しないことが確定したが、それはまあいい。それよりも、あちら視点で行方不明のまま万が一があったら困る。いつも以上に、これは気合を入れなければならなさそうだ。
現状、分かっていることをまとめる。通路の構造は、今訪れている限りでは十数層に別れた階層構造のようになっている。しかし同時にそれらの層を行き来するための道も多数存在するため、そういった構造であるということを理解するのも時間がかかった。
今のところ、怪しむべき空間はない。ぎっちりと道か部屋が詰まっている。ここからは横に広い探索をしていくべきだろうが、回りきるまでに体力がもつとは思えない。
「やはり知っていそうな方に聞くしかありませんね。そう、あそこにいらっしゃる方など、どうでしょうか……?」
ワカモに目を付けられた巡回警備員らしき生徒が、そのことに気付いたようだ。可哀想に。
彼女はその瞬間に、何か良からぬことをされると直感したか、震え上がった──が、それでどうにかなるものではないのであった。