Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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3-17:Stick Trick ShowTime!!

 豊崎テンカの趣味は、早撃ちのトレーニングをこの部屋でしつつ、時々近くの人を誘って勝負をすることだった。あまりいい相手がおらず、シミュレーターでの戦いが一番やり応えがあったようだが。

 つまり、早撃ち勝負で勝つこと。これをすることで、試練の最終目的地を訪れることを許すのだということだ。

 

「私としても、ね。戦い慣れてる人との勝負はやってみたいし、壁になることができる自信はあるわけだし、だからついさっき思いついて、そうすることに決めたの。それじゃあ、やる気のある人。出てきてくれない?」

 

 相当な自信。単純な力比べではどうしても敵わないが、ルールのある戦いには自信がある。そして、ルールを定められたことに対して、逆らう選択は許されない。

 なぜなら、たとえ強硬手段で試練を突破するような行為をしたとして、それを議長が、あるいは王が拒んだならば、もはや王の居場所を知る手段は汎キヴォトス史の者からは永久に没収される。綿津見トリンが挑んだ勝負のルールは、彼女によって保障され、その秘匿性によって担保される。

 故にどうしても、この正々堂々とした勝負に勝つ必要があった。尤も、正々堂々とやれるのなら、そういう手段をとりたいのが先生であろうが。

 

“……働かせっぱなしになるけど、頼める?”

「勿論です。元より、自信のあるジャンルのひとつですから。このような勝負としてやるのは、経験が薄いですがね」

 

 カンナはこの試練においてはかなり前に出る場面が多い。連れて行く生徒が彼女で良かったと、つくづく思わされる。

 

「うん、いかにも慣れていそう。なら始めるとしましょう。その前に、ちゃんと早撃ち勝負になるように、ルールを決めないと」

 

 テンカの提案したルールは、このようなものだった。

 

・銃を構えたら、即座に1発だけ撃たなければならない

・腕を45度以上の角度に上げたら、可能な限りすぐに構えに移行しなければならない

・射撃をしたら、銃を下ろすまで再度撃ってはいけない

・回避を目的としない移動をしてはいけない

 

「なるほど。だが多少、不備がある。相手がリロード中は、待たなければならない。これは必要なのでは?」

「そんな()()な真似、すると思って? 仮にも私が仕えている相手は、何よりも無粋を嫌うお方なのだけどね。まあ、よろしい。早く始めるとしましょうか」

 

 決闘開始(ショーダウン)

 

 姿勢は低く、視線は相手の体の中心線を捉える。ただ先に抜いただけでは、相手の後出しに狩られるのみ。だが気持ちに隙があれば、そこを突ける。

 あるいは、遅れすぎては狙いがブレる。反応速度の限界よりも速い反応を擬似的に行える先読み。それが求められるものと思い、先に腕を持ち上げたのはカンナだった。

 

 驚異的な速度。にも関わらず、姿勢も狙いも完璧。公安局長を任せられるだけのことはある、天才的な仕上がり。だが、テンカもまた驚異で返す。

 0.1秒。反応速度の理論値。それに限りなく近い速さで動きを捉え、見てから避けてみせた。当然、避けながら撃ち返す。想定よりも速く動かれたことに動揺したか、単純に遅れたか。カンナの胴には当たらなかったものの、銃弾は僅かにその長髪を焼き切った。

 

「……それなりにこだわって伸ばしていたんだがな。君も髪にはこだわりがあるように見えるが、容赦のないことだ」

「そのまま当たってれば、髪は無事だったと思うけど。それに、ショートも結構似合いそう」

「冗談のつもりか!」

 

 感情に任せて構えそうになるのを、ぐっと堪える。これは職業柄なのかもしれない。よく耐えた。

 この一発で、様々な情報をカンナは得た。その中でも特に重要なのは、相手方の戦略は徹底的な後出しだろう、ということだ。異常な反応速度は普通なら「合わせられた」と感じられるだろう。だが、彼女には動きの細部が見えていた。

 わざと後手に回ったとしか考えられない、と結論づける。ならば取れる作戦は3種類。先出しでゴリ押す。相手が痺れを切らして先に動く。そして奇策。

 

 ゴリ押しができるならそれが一番やりやすいだろう。だが、それが効くような相手とは到底思えない。ルールもゴリ押しとの相性は悪いと思われる。

 なら、相手が痺れを切らすのを待つか。それも現実的ではない。とてつもない精神力勝負になることは覚悟しておいた方がいいし、その上で仲間が待てないかもしれない。そもそも、メンタルの初期値はこちらが不利。何せ薄暗い迷路をぐるぐる回ったあとである。

 つまり、何か奇策が要る。簡単に思いつくものでは当然ないが、多少の可能性があって、そこに賭けられるだけマシだ。

 それを思いつくまでは、心を削る睨み合いとなる。

 

 

「まともに当てるのであれば、完全な不意打ちをしたいところです。少しでも悟られたら反応される、という反応速度ですから。しかし、そんなことどうやって……?」

「あんれぇ、災厄の狐とか呼ばれてるらしい人の割に正々堂々思考じゃん。んまぁ嫌いじゃないけどねアテシ。でもさ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()んじゃない?」

 

 ナノの頭の回転の速さは、おそらくは特効性のあるだろう作戦を導き出すには十分なだけのものがあった。だが、バレたらまずいし、フェアではない。故に、それを声に出すことは憚られた。

 それに実行したらしたで、相当ルール面では怪しい。細かい規定が無いためにどうしても穴がある。その穴は「常識の範囲」とでも呼ぶべきもので定められるところが大きい。だが、常識など儚いもの。

 

 一見、著しく動きが制限され、ある程度型にはまった動きしか許されないようにも見える。それ故に、動きの強制などできない、と。しかし、方法は皆無ではない。

 

「一応、確認させてもらおうか。撃ったなら、すぐに腕を下ろす。それがルールだな?」

「そうだって言ったけど。もう忘れたの? 自分でルールの抜かりも指摘したのに」

 

 何一つ意味はないように思える、このやり取り。しかしカンナは、ひとつの可能性を感じることができていた。

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