Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
前衛にヒナとカスミ、後衛にカンナとセナ。組み合わせはともかく、配置自体は慣れたものだ。
弾を装填しつつ、レバーを足で踏んだ勢いで跳躍、そのまま敵陣に飛び込んだヒナを先頭にして、突破戦が始まった。
“アロナ、配置図お願い”
『はい! いつもと同じように作るのは難しいですが、可能な限りで!』
GPSも、サンクトゥムタワーの権限を利用する方法も、今は使えない。ドローンを使って見たままが限界だが、それでも十分な情報がある。
全ての脱出経路を塞ぐように、万遍なく敵がいる。最短経路を素直に突破するのが最も楽だろう。これを、おそらくは後ろから追ってくる者達に包囲される前に行う必要がある。
簡単なことではないが、分かりやすくて良い。
「なんて大胆なっ……ええい、撃つぞ! 一人残らず無力化する!」
“二人組、手分けすれば難しい相手じゃないね。カンナ達も集中を乱すには十分なくらい精度がある”
少し残酷なことだが、後衛の二人は実力的にはかなり前衛とは開きがある。それでも、うまいこと使えば無駄にはならないはずだ。
実際に今も、敵が回避した先に置くように放たれたセナのグレネードがうまく効き、ヒナの単発射撃に繋いでダウンさせることに成功している。
「見事な連携、あちらのゲヘナ生同士なだけある。こちらも済んだ、先に進もう!」
“見づらいところにある分かれ道を左、そこからずっと道なりだ! このルートでいけば接敵回数はあと3回のはず!”
これだけでかなりの人数をスルーできる。とはいえ、それでも最終的には最初の見かけより多少少ない程度は相手にすることになるが。
だがなんたる幸運、うっかりなのか相手方はこちらに背を向けているではないか。
「迂闊ね、あなた達も方向音痴?」
「ぐぁっ」「うっ」「だから言っただろ、こっち向きだって!」「はいぃ〜ごめんなさいぃ〜!」
4人で待ち構えていたのを一瞬で半分にできた幸運をモノにしないはずもない。先程とほぼ同じやり方でこちらも処理。
“一時はどうなるかと思ったけど、順調だね。このまま行こう!”
「鍛えられているとは言っても、それはほぼ身体能力に限った話なのかもしれない。どうやら私達も技術面では及ぶようです」
カンナはこう分析するが、それでも万魔殿の兵隊だ。一般レベルよりは技量もあるはず。現地の実力者と圧倒的戦力がいるが故に、及んでいるとも言えるだろう。
さて、次も4人組。流石に迂闊にもそっぽを向いていたりはしない。この場合、前が4対2になる負担をうまく後ろが軽減してやる必要がある。
「くそっ、なんだこいつら!?」
「確か情報じゃ裏でちまちまやってる奴らは弱いはず。私が抜け出して叩──」
「おっとお、弱いものイジメは感心しないぞぉ?」
「弱いものとはなんだ弱いものとは……」
「大人しくしなさい! しろ、するんだっ!」
「残念だけど、それはこっちのセリフだから。セナ」
「ええ。
「話が違うじゃない! 何がどうなって……うわぁーっ!」
と、そのような心配、あるいは配慮は無用だったようだが。初めて共闘する関係が多い中を、よくやっているものだ。
だが、ここまではいい。ここまではいいのだ。問題はその次、最後に立ち塞がるもの。
最終防衛ラインの候補だからか、7人というここまでよりは多めの配置。そして、有力候補だったからなのだろう。実力ある者を、ひとり配置していた。
“君は……チアキか!”
「なるほど。そちらでも、同じ名前の生徒がいる。それは本当のことだったんですね〜。ですがそれでも自己紹介を。私、万魔殿の奥ノ院チアキというものでして」
やはり、姓だけが違う。これは異聞帯の成立過程について、ある種の示唆を与えるものであろう。少し、心に留めておこう。
「自己紹介はいいからそこ、通してもらえるかしら。なんて言っても、聞かないのでしょうけれど」
「ええ、そうですよ。本来こういうお仕事しない立場だけど、出てきたんですから。それも、あなたが危険だからなんですよ、空崎ヒナさん──
チアキは銃を構える。ハンドガン2丁。やはり知っているチアキとは違う戦闘スタイル。野性的で、しかし洗練されている低い姿勢での構え。
チアキに注目しがちだが、人数自体も多い。とはいえ多人数戦はそれこそマシンガン使いの得意分野、まずは取り巻きの処理から……そうヒナが対処しようとしたところ。
「ちょっと〜? お話の最中に他の子のことを見るのはナシじゃないですかね?」
と言いながらも、人の後ろに回る。神出鬼没なところがあったチアキも、住む世界が違うとまた違った方向性になるようだ。
思わずヒナも、反射的に銃の反動を利用してグリップ部分で殴打して対処。それでもなお動揺を隠せない。背後を急に取られる経験は、圧倒的な実力故に不足しているのだ。
「ゲヘナ生はもしかして人の背後を取るのが好きなのか!?」
“カンナ、そんなことはないと思うよ? でもこれはマズいかな”
殴って対処したとはいえ、位置的にはすぐカンナとセナ、そして先生の方に向かえる位置。当然、前衛のどちらかが動く。チアキ担当の者は他のことに対処はできないだろう。
するともう一人で6人──は、無茶だ。つまり、何人かは、身体能力で劣る後衛がやらなければならない。突破する、撃破するというのはやらなくてもいいが、作戦目標とは違う条件、「先生を守る」をクリアしなければならない。
「カスミさん、無茶を言うようですが、もう一人対処できませんか……!」
「本当に無茶を言うなぁ!? いや無理だ、これ以上来られると突破が現実的じゃなくなる!」
「セナさん、耐えてほしい。私も同じ気持ちだが、時間が……!」
“いや、本当に時間がない! 後ろからどんどん来てる!”
足音も銃声の隙間を縫うように聞こえてくる。数十人、いやそれで済む規模ではないか。距離的に、もってあと1分。
“ヒナ!”
「やってる! もう、すばしっこいったらないわね!」
「時間を稼げば終わりですからねー! このまま避け続けて──いっ!?」
刹那。
チアキの頭に一発の銃弾が当たる。おそらくはスナイパーライフル。その一瞬を見逃さず、ヒナが追撃する。これが重かったようで、チアキは雪のクッションの上に張り付いてしまった。
他の生徒も、容赦のないヘッドショットで次々とダウンしていく。思わぬ助太刀にカスミとセナは少し困惑するも、ヒナ、カンナ、先生は冷静だ。
“これはまたとない幸運だ、今のうちに! カスミ、いい感じに撒けそうな場所は?”
「あ、ああ。撒くまでもない、敷地を出てしばらく走れば諦めてくれるさ。そろそろ暗くなってきたことだし」
「うーん……あ、あれ? ちょっと皆さん、あいつら追いますよ!」
「いえ、もう脱出されてしまい……見失いました」
「何やってるんですかもう! 撤収、撤収ー!」
学園の敷地から少し離れた、廃墟の街で、一行は夜を明かす準備をしていた。
「本当にごめんなさい。情報を集めたいって学園に行ったのに、収穫が無いばかりか……」
“いいんだよ、ヒナ。それにしても驚いたよ。君もこちら側のまま学園に潜入していたなんてね”
“アル”
その背後には、便利屋68の社長こと、陸八魔アルの姿があった。