Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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3-19:Prometheus

 約束はしっかりと守られた。

 光景を作り上げていた映像の中から、明らかに機械的な質感が姿を現す。それは明らかに、ドアだった。もっと言うと、エレベーターのドア。

 

「ここから降っていった先に、本物の大陸の心臓……あなた達の、目的地があります。当然、これでなんの邪魔もなく辿り着くことを私は認めるけれど……その前に。ひとつだけいいかな……そこの、オオカミさん?」

「カンナだ」

「カンナさん。あの戦法は驚いたけど、何をしたかったのかは分かったの。でも、どうしても分かんなくて。なんで、私がどっちに避けるか分かったの?」

 

 あの一射の際、彼女は「鈍い」と言った。確実に当てる確信でも無かったなら、出てくるとは思えない一言である。きっと意味があるだろう、そう考えたのだ。

 それを尋ねられた当人は、なんだそんなことか、と拍子抜けして逆に驚きたくなった。

 

「目が泳いでいた。思考に余裕がなかった。なら、ハッキリと目線が向いた方に避けると思うのは、自然では?」

「……はぁーあ。負けた」

 

 エレベーターを開けて、先に中に入る。かなり大きく、大人数でありながら全員乗って、先生が少女達に押し潰されるような酷い絵面を避ける余裕もあった。

 だが、このようなところにある、重要な場所にあるエレベーターともなれば、大人数で入ることを想定する必要はない。機長さえ行ければいいのだから。

 

“こんなに広いエレベーターって、用意する必要あるの?”

「うん、鋭い。やっぱりこういうことを想定していたから、かなって……ううん、今のは悪い冗談、忘れて。きっとただの見栄っ張り。ここを作った人の、ね」

 

 ここを作った人、というのは誰なのか。十中八九は王であろうが、他の誰だとしても、相当な大物であり、こんなことを言ってのけることができるのは、ずいぶんな言論の自由である。

 頂点にいる王が横暴そうな割には、何かと緩い異聞帯である。ここまで全てが緩くいられるようなキヴォトスではなく、故に歪みが垣間見えるが。

 

 エレベーターが止まった。巨大なエンジンが動いている光景であったり、巨大なモーターが回っている部屋を想像したくなるところだったが、そんなものは開いたドアの先には無かった。

 そこにあったのは、コードに繋がれた肉塊が入った容器。その肉塊はかなり大きく、脈打っていた。

 

「これが……大陸の心臓。文字通りの、心臓。私達の王が、自らの心臓の肉を切り取って、培養して、改造して作り上げたと言われている、理外のエネルギー発生装置」

 

 実際にこれを取り囲む計器の数々を見ると、膨大にも程があるエネルギーを常時生成していることがわかる。複数の大都市の電力を賄っても、まだ多少は余るほどの巨大さだ。

 

“と、いうことは……王様の細胞は、この大陸船団の運営のためのエネルギーをひとりで賄えるように出来てる、ってこと? スケールが大きすぎるよ、どうなってるんだか”

 

 正確には、エネルギーの全ては負担できていない。それでも多少本人が手を加えればどうにかなることであり、またそうするまでもなく発電所が各地で稼働している。エネルギーの補填や予備電源の役割を担っている。

 

「仕事量は、無制限に上がるわけじゃないんだなぁ……でも、うん。これほぼ、というか広い意味なら永久機関じゃない? それも、第一種に近い種類。アテシの知る限りじゃ無理で不可能でおとぎ話! ってシステムだって感じだった気がするんだけど〜」

「確かに。ここだけ見たら、そう見えるのも無理は無いのかもしれない。けれど、これは陛下自身に依存して動いてるから、永久機関があるとしたらそっちだし、それがあるようには、私には思えない」

 

 いずれにせよ、綿津見トリンとは得体の知れない怪物のようなものであるかように思えてならない情報ばかりが出てくる。得体の知れない怪物に近しいものは今までも相手してきたところではあるが。

 

 さて、ここに着いてからというもの、イリアの様子が少しおかしい。心臓だという肉塊を眺め、ボーッとしている。テンカと先生とナノの話が進行している最中も、どこか上の空。

 それを心配したのはワカモ。狐面を外し、面と向かって声をかける。

 

「あの、もしもし? 何か、気になることでもあったこでしょうか?」

「……あ! う、ううん! なんかさ、この音を聞いてたらなんか落ち着くなぁって……どうして、かなぁ?」

「落ち着く、ですか? この脈動の音が? なんというか、ええと……変わった趣味を、お持ちでいらっしゃる、というか……」

 

 遠慮がちにしつつ、その実何一つオブラートに包んでいない発言に、流石のイリアもショック。別にそういう趣味があって、そのような感覚を抱いているわけではないのだが。

 

「うっそー、ワカモ分かんない!?」

「ええ、むしろとても……はい、気味が悪いと思います。見た目もそうですが、音も。何か特殊な趣味があるに決まっています」

「そういうんじゃないんだけどなー……なんというか、本能に訴える感じ? うーん、ほんとにあたしが変わってるだけのような気がしてきたかも」

 

 実際のところ、ある程度は合っているものと思われる。もはや普通の生徒を名乗るには無理がありすぎるのだが、そうだとしてなんだというのか。

 だとしても、理由があるはずだ。そしてそれを、きっと彼女は知り得ない。きっと今知ることは、許されていない。

 

 一方で、アイムとレイア、それにカンナは部屋の奥の調査を始めていた。なにか役立つ資料があったりしないか、と端末を見てみると、そこにはアーカイブ資料があった。

 過去に、大陸の心臓を管理していた人物──すなわち、歴代の「機長」が残した記録の数々。この世界で地位のある者がどのような在り方をしていたのか、それを知るにはいい資料だ。

 何年分が保存されているのだろうか。極めて膨大なので、いくらかかいつまんで見るしかない。

 

 やがてそのその資料に先生も興味を示し、皆で手分けして閲覧し始めた。

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