Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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3-20:Imprinting

 ──先代機長、■■ ■■(名義削除済み)による日誌より

 

 上半期の任期を終え、中間決算を一通り終えた。行政文書は残ると思われるが、そこに介在する意図並びに方針なども文書記録に残すため、日誌に概要も記したい。

 今回の決算を受けて、代議院には労務員の増員を提案したが、20年ほど前の機長の提案による議決が未だ有効であるため、返事は思わしくない。由々しき事態である。生産が間に合わなくなることを危惧して供給計画を厳格にしたものであるようだが、此度のケースに柔軟に対応できない。

 上半期に下級労務員だけで、活動停止が10件報告されている。また活動力の減退が下級上級共に報告される量が増えており、心配事は絶えない。労働力の損耗スピードが異例であり、事前の備蓄により火急とはならずに済んでいるものの、早めに手を打つに越したことはない。

 だがあろうことか、代議院は補正予算を組もうとするどころか、私のやり方を咎めようという気でいるらしい。全くもって嘆かわしいことである。曰く、労務員の扱い方に問題があり、それ故に損耗も激しくなっているという。その筈はないだろうということは、これを読むだろう後世の機長らには知られていると期待する。労働力の扱いについては、以前より消耗品の一種としての認識が一般化していたはずであり、大陸船団の管理における一種の原則であったはずである。

 すなわちこの統計的異変は単なる事故であり、偶発的な結果である。従って、それに対応するための資金の割り振りが行われるのは道理であるはずだ。だというのに現場に責任を押し付けるとは、代議院も腐ったものである。

 私の意図を、せめて次代機長に指名しているテンカが理解してくれることを祈るばかりだ。彼女はもはや数少ない私の理解者であるが、私自身もすっかり疑心暗鬼になっていることが分かる。

 どうか、彼女が正しく私の後継者となることを願う。

 [追記:豊崎テンカ 本記録の執筆者は遊泳大陸船団の秩序に関わる問題を抱えているものと見做され、個人情報記録を抹消の上処置されました。本記録の内容は危険思想であることを留意しない形での利用を禁止することが決議されています]

 

 

「先代は倫理観に問題がある人だった。労務員といえども人である以上、仮に道具だったとしても同じように、大事にしないとダメになるし、仕事は遅く雑になる。要は、()()()()()()()()()()()()の人だったわけ」

 

 テンカの声は、王の使いとしての事務的な会話の時よりも、カンナとの勝負の時よりも、更に熱量を落としている。あらゆる点で、尊敬するに値しなかったらしい。先代に理解者と思われていた彼女だが、トドメを刺したのもまた彼女であった。

 だが、狂犬は噛み付かずにはいられなかった。

 

「では、今は倫理的に問題がないと? その労務員の中には、もはやまともな思考ができないくらいに精神的に摩耗している者までいるようだが?」

「あれは摩耗してるんじゃなくて、それしか知らないだけ。バイタルもメンタルも、実は正常。いえ、そちらの基準では、まともではないのかも」

「だとしたら……!」

「ここは、そういうところなの。分かれとは言わない。結局のところ先代のような人だって、機長には不適格というだけで、大陸船団のどこにでもいるんだから」

 

 言ってみれば、異聞帯の持つ歪んだ部分を体現したかのような人物がいたというわけである。安定した暮らしの裏で、苦しむ人物の存在。それをより極端に形にしようとする者。

 しかし逆に、そのような人物の行いに先んじて待ったをかける議決を提案した人物も、20年ほど前にいたという話である。その当時の記録も、当然のように残っていた。

 

 

 ──第481期機長、源エルの声明

 

 私達は偉大なる王がこの海の何処かに座すようになって以降、満ち足りた生活を約束された。しかしながら、それは私達のように王の約束の下にない人々に支えられている。畢竟、私達は全てが満ち足りて、豊かであれるようには出来ていない。そして、全ての人が労働から解放されることはない。

 我々は究極的には、押し付けているだけにすぎない。それが大いなる我らが王の許しにより、認められているだけにすぎない。

 このようなことを明確に言語化する必要性に迫られている理由とは他でもなく、労働力の扱いの見直しの必要性が生じているからである。労働による生産性だけでなく、労務員そのものの生産が間に合っていないのではないか、という可能性が指摘されている。調査員を派遣して採取したデータは、客観的に有意な傾向は示さなかったが、供給減少の兆しは可能性としてある、ともしていた。

 旧体制下キヴォトスの倫理観を持ち出すことにもなるが、元よりこのシステムはその倫理観を完全に転回させることにより作られた。だがその働きは多分に人工的で、故に歪である。これは人工的な手によってバランスを取らねばならない。それを、400年余りの長きに渡り、放置したツケが回ってくる可能性が見えている。

 早いうちに対処するに越したことはない。加えて、この対処を行うことに関して、我々としても損になることは実のところほとんどない。人の生命力に胡座をかき、数を過信しすぎた我々は、今こそ質による効率化という古き思想に立ち返る機会を得た。よってここに、労務員取扱強化案を提示し、遊泳大陸船団によるキヴォトスの秩序をより安定的なものとしたい。

 

 

「これが、今に至る遊泳大陸船団の管理職の倫理観の基本を作るに至った、歴史的な声明だったわけ」

“……まあ、否定をするわけにもいかない。ただ、なんというか、回帰しちゃったんだね。そういうところに”

 

 先生が、キヴォトスにやってくるよりも前のこと。ある話を聞いたことがあった。

 古の賢人達も、奴隷制を肯定していたと。それは、実のところ合理的な面もあったと。当然ながら、今はそんなことはなく、キヴォトスもまた、とっくの昔にそのような思想は卒業していた。

 

 だがこの異聞帯は、あえてそこに戻ってくることで、そして理想を抱いた王がいつまでも君臨し続けることで、その在り方を保っている。

 少し、本質に近付いてきただろうか。

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