Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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3-22:Hyperion

 イリアが飛び起きてから二度寝した、その直後のことである。

 大陸の心臓への道ではできなかった方舟との通信を、早朝に先生は繋げていた。早い時間ゆえにまだ起きていない者も多いだろうとは思っていたが、思い立ったら待ちきれなくなった。

 

『おはよう先生。早起きは慣れっこかい? それとも徹夜? だとしたら私もけっこう慣れてるよ、今日もした』

 

 予想に反して、出たのはウタハだった。徹夜をする要因についてはいくつか心当たりがある。方舟の修理ついでに、よく発展した異聞帯の技術を学んだり改造を施したか。

 もしくは、渡したデータによるものか。

 

“大陸の心臓について、色々な記録のコピーをとって来たのはもう見た?”

『一通りはね。ただ、私の持っている常識はその内容を受け入れたがっていない、というのが実際のところだよ。この遊泳大陸船団という場所で使われているエネルギーの膨大さを考えると、余計にね』

 

 実は裏で、主にユウカがこの異聞帯におけるエネルギー使用量を軽く調査していた。異聞帯の発展が著しいことから、その度合いの目安としてやってみたものである。

 それによると、汎キヴォトス史基準なら自治区複数個レベルのエネルギーを「南側の都市部だけで」使っているらしい。その大部分が、あの脈打つ肉塊で賄われているのだという。

 

“改めて、凄まじいね”

『本当にそうだよ。あれが綿津見トリンの生体から作られたものであるのなら、はっきり言って異常だ。何があったらそんなものが生まれるのか、何一つ想像がつかない。いや、もしかしたら、それが逆になんでもないところから来ているのかもしれないけど』

 

 邪推が邪推を呼ぶ。それほどの存在がどうして、ここまで人々と距離が近いのかというのも、なぜそんな力を割くことになってまでこの船を動かしているのかというのも。まともな考えでは到底及ばない。

 全力を尽くされたなら、もう勝ちようはない。だがそうそう大陸の心臓を自分のために使うようにも思えない。最終的に脅威たりうるか否か、未だ不明瞭だ。

 

“単純な戦力を集めたところで、まず敵うとは思えないかな。ただいくら考えたところで、どうにかできそうにない……”

『なら、敵う方法をここから探せばいい。綱渡りだけど、それでどうにか切り抜けてきた。それに賭けるしかないよ』

“いつもの、みたいに言うね。想像よりもヒヤヒヤしてるんだよ?”

 

 苦笑いのような笑い声が響く。どうしても弱気にならざるを得なくなっているようだ。

 その途中で、ウタハの「あっ」という声が入り込んだ。

 

“どうしたの急に”

『いや、試練をひとつ切り抜けた件に関しては、現状ここまでとして、だよ。ついでの頼み事についてはどうにかなったかい?』

“なったと思う? こんな地下通路で”

『なるほど、それもそうか』

 

 医療に必要な器具などは、なかなか一般人が買える場所にはない。調達を頼まれていたのだが、薬ひとつとってもなかなかうまくいかないものである。

 

“器具とかは、難しいだろうけど……薬品とかは手に入らない?”

『色々転用できるからかな。かなり厳格に販売が管理されててね、よそ者は買えないよ。そもそも異聞帯での資金調達は難しいし、何よりここ、物価高すぎ! 市民総富豪社会! そんなものには当然、闇がある──なんてことは、もう既に目にしていたんだったね』

 

 薄暗い、遥か下の場所で労働させられている者達がいた。さらに記録資料にあることを信じるのなら、何人もそれで死んでいる。使い捨てられている。それがもはや当たり前になっている。

 その上で、ある程度気を使う取り組みはあったとしても、人を使う者と使われる者の差は、絶対に埋まらない。埋める手段は、徹底的に奪われているように見えた。

 豊崎テンカ。彼女もまた、罪なき者ではない。であるからこそ、彼女はこれをさらけ出したようにも思われる。それを咎めるべきか、咎めることがそもそもできるのかは、分からない。

 

“テンカとも関係が深いらしい、黄金の港……詳しく知っておきたいことがたくさんありそうだ”

『不自然なくらいに溢れている富の源泉、ってところかな。どうか気を付けて。いや本当に、命の保証が無いからね』

 

 通信を切ってから、先生は呟く。デリケートな話題だからと、あえて共有はしなかった。本人に対しても、詮索をするつもりはない。

 だが、確かに聞いてしまったからには、気になってしまうものだ。

 

“……ママ、って言ってたよね”

 

 

 ✽✽✽

 

 

「もしもし。さっき、お電話くださったのですか? 申し訳ありません、ちょうど陛下に繋いでいたものですから」

『陛下、か。まあ君としては外せないだろうな。だが不思議だよ、そこまで王を尊ぶ心を持ちながら私なんかに出資するなんて』

「何度も言っているでしょう。私はそれ故にこそ興味があるのだと。あれほどに超越的であることは一体……」

『そう言いながら、大して彼女のことは知らないようだがなあ?』

「慎みなさい。そのような不遜は。まるで、陛下が()()()()()()()()()()()()()()は」

『慎まない。元より彼女は私の王ではない。ただそうだな、敬うべき相手ではあるかもしれない。超越的なのは確かだ』

 

『本題に入ろう。明後日の開港取引で、一旦契約切れになるわけだが』

「ええ。延長も考えていたのですが、残念です。先程の見過ごすわけにいかない振る舞いで、そのことも考え直さねばならなく──」

『なるほど。言質はとった。せっかく、ひとつ研究が実ろうとしていたというのにな。いや、才があるというのも考えものだよ。自らの信念に反する結果を、反論の余地なく、見出せてしまうんだから』

「……詳しく」

『いやあ、残念ながら今明かすわけにはいかない。次に契約する相手にしか明かせない秘密になる予定だ。もし君に先に知られてはばら撒きからの大混乱となりかねない。研究としては第一歩だが、それでも為政者は隠したくなるには十分だ』

「わかりました。では競売の目玉として並べさせてはいただきます。ですが、その叡智は必ず私が買わせていただく」

『それはそれは。楽しみにしておくよ』

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