Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
黄金の港に行くための列車が出る、3時間ほど前。駅にいち早く来たのは、ナノだった。他の皆は一旦いつもの場所に集まっているだろうとは考えている。それを分かった上で、自分だけが来た。
これは、読みだ。この大陸船団の外から来た旅人が、不可思議な幼馴染について尋ねてくるのではないか。その答えとしたい内容は、本人の前では言えないことなのではないか、と。
だらしなく見えるように振る舞っている(そして、それは半ばわざとである)が、彼女は頭の回りが早い。加えて、人の思考を先読みすることについては、相当に長けていた。
その旅人達は、彼女が駅に着いてから1時間ほど経ってから、予想通り来た。
「おや? 独りでここに来たのですか?」
「まーね。色々気になってることもあるでしょ? 下手なこと話せないからさ、一応」
“お見通し、かな”
先生もこれには感心。聞きたいことがある、と切り出すまでもない。
「そゆこと。じゃ、何聞く? たっくさんネタあるけど」
“……イリアが、どういう生徒なのか。知ってる限りを教えてくれるかな? ”
何もかも読み通り。もちろん、他の可能性も想定して色々とネタを用意してきたのは本当だし、ついでに聞かれたら答えるつもりだ。だが一番直球なものが来た。
その上で、一番直球かつ、一番その実態を知らないのだが。
「おっけー。アテシの幼馴染のイリアちゃん。すっごい不思議だよねー、実際アテシからしても不思議」
「なに? 昔からの付き合いでもそうなのか?」
「うん。小1からの付き合いでも。出会う前は大陸船団の外にいたってことは知ってるんだけど、具体的にどこでどんな生活してたのかは知らない。その頃からなーんにも覚えてなかったから」
記憶喪失であろうか、それとも単に忘れただけだろうか。今に至るまで、外の記憶は一切ないという。
そもそも、外で生まれた人が真っ当に大陸船団の王立学園に通うことは困難である。しかし当然のように、同じ学び舎にいた。出自から周囲からは避けられていたが、むしろ興味を持ったのがナノだ。
「なんにも、ですか? いや、確かに失われた記憶があるのなら、説明がつきそうなところもありはするのですが……」
「あ、ワカモは心当たりある感じ?」
「ええ、大陸の心臓を前に、妙なリアクションを。あれを見て落ち着くというのは……いや、無理筋でしょうか」
少し考え込むが、結論としては「確かにそれは妙なことかもしれないけれど、弱い」ということになる。ただ、無関係と断ずるのも違う。こういった心理は、潜在的な記憶によるものである可能性もゼロとは言えるまい。
「イリアはね、やっぱり最初はうまく馴染めなかったんだ。生活上の常識のレベルで、微妙に細かくズレてるって感じ? だからさ、アテシによく聞いてきたワケ。普通の子だったらどうするの、って」
要するに、彼女は「普通」になりたかったのだ。皆と同じ人間として扱われるようになりたかったのだ。聞く相手が、多少ひねくれている(と、少なくとも本人は思っている)ナノだったのは、少し不運かもしれないが、別に常識が何もないわけではない。
あらゆる場面で、アドバイスを送り続けた。やがて、小学校高学年になる頃には、驚くほど「普通の子供」になっていた。
“妙に普通を強調していた気がするのも、そういうことだったのかな……?”
「そ。黙ってれば、普通に生きてる限りは、普通でいられるくらいに馴染んできたけど、その頃には執着みたいな感情を持ち始めちゃったってハナシ。いや、悪いことじゃないよ? ただ、ちょっと歪なの。ま、そろそろ
“時?”
「先生達が来てから、ちょっとボロ出し始めてるなってのはアテシも思ってんの。無関係とは思えないし、そういう運命の元にあると思って」
運命とは。本当だったらそんなものがあるか、疑わしいところもある。しかしその存在を、先生は、その身近にいる生徒達は、感じずにはいられない。
「君も、運命論を信じるのか。少し意外だな」
「
「ロマンチックか? あいにく私には、真実味があるように思えてならないがね」
その真実味を感じるまでは、むしろ信じていない側だったのかもしれない。しかしカンナは運命の数奇さの前線に、どういうわけかいる機会も少し多めにあった。だからだろうか。
ずっと、負ける気はあまりしていない。
「しかしそうなると、全てが明らかになる日が近いのかもしれませんね。あの人にとっても、分からないことが全て明かされる日となるでしょう。そして、全てが変わってしまうかも……」
「んにゃ〜? それでも人生の半分くらいはアテシとの付き合いあることになるんだよ〜? ダイジョブダイジョブ、少なくともアテシは友達だからさ! 皆の味方のまんまかは分かんないけど」
ナノ的にはそれで大丈夫かもしれない。所詮はちょっとした協力者くらいのもので、重要そうであっても切り捨てることが必要ならそれに問題はないのだ。
ただ当然、汎キヴォトス史は風向き次第で命綱が切れる。背筋が凍りそうなことを言うものだ。
「ちょっと〜! 先に行ってるなら連絡くらい入れてもいいじゃ〜ん!」
「ねー。もう置いてくつもりでいたよねー」
「相変わらず分からないよな、何やってるのか」
残りの3人は、これまたナノの読み通りの行動をしていた。言ってはいないが、船内の集合場所を経由していたのも完全に予想通りだった。
「いやいや、集合場所ここって話にはなったじゃん? したらここに集まるもんじゃん?」
「なったけどー! 先生もだよ、あたしの家の部屋貸してるんだから一緒に行くくらいは……」
“いや、先に行っててって言ったのは……まあ、いいや。とりあえず乗ろう。列車自体はもう乗れる状態みたいだし”
少々、グダグダではあるが。
なんとか、最北端の地域に行くことには問題がなくいられるようだった。