Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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3-24:零號車輛

 大陸船団は、船らしい揺れを殆ど見せない。故に、島の上にいるのと同じ感覚でいられるばかりか、地震災害とも縁がない、暮らしやすすぎる土地である。

 そして、それと同じくらい揺れを感じないでいられるのが、今回乗った列車だった。とにかく寝心地が良く、しかも安全ときた。そんなわけで、特に何かイベントがあるでもなく、事件もなく、最北端の地に足を踏み入れた。

 

“皆おはよう。早速だけど、朝食ついでにこの地域について情報をまとめるよ”

 

 事前調査によるところでは、他の地域と比べるとかなり閑散としている僻地だということだ。流石は大陸船団といったところか、その噂に少し反して多少の賑わいはある。しかし、同時に基準も大陸船団。キヴォトス基準の地方都市レベルは、辺境の田舎も同然である。

 だが同時に、ここには他の地域からかなり独立した立ち位置にあるという意識が共有されているらしい。この周辺の生徒は同じ王立学園の生徒でありながらもほぼ別の学校というレベルで交流がない。

 

「そして、私らもまずここには滅多に来ない。本当に来ない。上流階級の中の上流階級のお嬢様とは、話がまあ合わねえの」

「レイアの言い分は、ちょっと違うかね。実際お金持ち多いよ、この辺。ただ話が合わないってーのは違くて、ほんとのとこはあっちがぜーんぜん関わってこないの。アテシはほそーいパイプあんだけどね」

 

 そのパイプというのに期待したいかもしれないが、望み薄だ。おそらく黄金の港に関わるあれこれとは関係のないところで築いている。

 より具体的には、インターネット関係。インターネットとは言うが、基本的に大陸船団内で閉じたネットワーク。それなりに腕の立つ技術者なので、要人との関係がとても浅いレベルであるわけだ。

 なお、アイムとイリアに関してはかなり無知である。そして肝心の港についてのことは、当然誰も知らない。

 

「どこに行けばいいのかわからない……まあ、いつものことかもしれないな。とはいえ難しい状況に変わりは──」

『あー、それについては我が話してもいいか?』

 

 その声が先生の持っている端末から聞こえてきているということに気付くまで、皆そこまで時間をかけなかった。

 無理なのかと思われていたシッテムの箱からの通信。一度そのシステムへの侵入を許していた以上、完全に不可能と断ずるべきではなかったのだろうが、それを踏まえてもあっさりと繋いできた。至極当然のように話に割り込んでいた辺り、前から聞かれていたか? 

 

「あれあれ陛下、アテシ達にアシストやってくれんの? 助かる〜、そうじゃなかったらただじゃおかないかんね」

『元よりただでおくつもりも無かろうに。それにしてもこの端末ガード固くない? OSふたつ並列で動かしてるのはいいとして自我あるとか、無法にも程があるが。元はこのような道具ではなかったはずなのだが』

“褒め言葉として彼女達には伝えておくよ。それで、要件は何? あるんでしょ?”

『いやな、お主らどうせ迷子になろう? 港は数日間開くが初日を逃したら終わりなのでな、迷われたら困る』

 

 試練が成り立たないから、困るということだろうか。だがそれは、別にこのようなアクションを王が起こす理由にはならない。なぜなら、彼女にとって実際問題何も困ったことではなく、好都合にすらなりうる。あるいは、勝ち確定になる。

 なので、余計に不可解なのだ。

 

“困らないよ、そっちからしたら得でしかないよ?”

『そんな無粋な展開で勝ったらこっちが無粋じゃないのって話。我そういうの嫌い。何勝負でもいいから堂々たる勝負見せてくれないかな、と思っておるのだよ我は』

 

 ナメられているのは間違いないが、それにしたって余裕が過ぎるだろう。()()()()()()()()()()()()と言わんばかりだ。

 試練を与えるとは言うものの、実力はもちろんその他の対応力を観察しつつ、単なるエンタメとして享受しているだけ、というようにすら思える。それなら、いちいち助け舟を出すのも納得がいく。確かに何も起こらない不戦勝ではつまらない。

 

「それで酷いことになっても知らないよー? わたし達って意外と凄いんだよー」

『我はもっと凄いがな。まあ聞くがいい。どこに行くべきかということで思い悩んでいるのであろう?』

 

 あまりにブレないものなので、一同揃って「まぁ、うん……」というリアクションしか返せない。ありがたいので教えてもらうが。

 

『良し。まあ意外と単純に考えて良いぞ、単純に最北端を目指すことに違いはない。時が来れば港も展開され、陸地も見えてこよう。それに人も自然に集まってくるものだろう。あまり深く考えず、のんびりと行って良し』

“……なるほど?”

 

 そんなものかよ、と言いたくなるかもしれない。だがここまでの旅で、主に先生には深く考える癖がついてしまった。こういう場面では、悪癖にもなりうる。

 それで迷走されてはつまらないから、意外と難しくないことだと教えてくれているのかもしれない。案外味方か、と思いたくなるところだが、そんなことは断じてない。

 

『最低限今日中に行けば奴との接触は叶うからな。あとはまあ話し合うが良い』

“奴……責任者の人かな”

『その通り。ここの管理を任されていることからも察せられようが、奴は根っからの商人。そも商売というものはあまり好かんのだが……ここを運営するには、どうしてもそういった筋は欠かせぬというものよ。そして故に、交渉の余地はあるはずだぞ』

 

 反応を返す前に、プツンと通信を切られてしまった。

 

「じゃあ、あれ?」

 

 イリアが指差す先には、小さな断崖の海岸が。地図上では、最北端はここになるらしい。

 ほぼ間違いはないだろう。急いでそちらへと向かおうと足を進める。右に見える海を見ていると、景色が変わってきた。

 

 陸地だ。こういった景色の変わり方を見ると、ここが船の上だと実感できる。

 むしろこちらが波を立てないことが不思議なくらいだな、と考えていたカンナの目に、信じがたいものが急に入り込んできた。

 

「狐のみならず……猿の手までもか!」

 

 遠くで歩いていたのは間違いなく、「五塵の獼猴」だった。

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