Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
周りを見てみれば、チラチラと人が集まり、現れた港の方に向かっているように見える。このエリアを担当している人物にも会えるだろう、と踏んでそちらの方に向かっていく中で、カイがボソリと一言。
「偉そうに演説する気らしいな、オドリの奴め」
「オドリ……あちらにいらっしゃる方ですか? なんというか、すごく、はい……」
ワカモは直接的に言うことを避けているようだったが、誰もが同じ感想を抱いていた。そして、それを避けようともしないのがレイアであった。
「趣味悪っ! いくらなんでも服ゴッテゴテすぎだろ!」
見ていて気分が悪くなりそうなくらいのものだった。あまりに装飾が多すぎる服や髪飾りは、素人が見てもその全てに本物の高級品と最高の技術が詰め込まれていると分かる。
キヴォトスの総金持ち社会ことトリニティでも、ここまで着飾るものはごく少数だし、その飾りがどれも最上級品という例はまず無い。
「基本的に満ち足りた生活を送れるこの地でも、経済格差というのはあるんだな……それが、有意なものであるかどうかは別としてだが」
「ねー。確かに大陸船団でお金持ちになる意味って何だろ。考えたことなかったなー」
カンナは別にそういう考えを促すつもりは無かったのだが。だがイリアにも一理あり、この大陸船団の住人、もっと言うと市民権を有する人は基本的に、欲しいものはだいたい手に入る。
そんなところで、ここでの特殊な取引に参加してなお余るほどの金があるというのは、あまり意味がない。そういうふうに、出来ている。
さて、先生は無言でカイから写真を渡されていた。
そこにいるオドリを見てみると、装飾に紛れて見えづらかったが、マイクがその手に握られていた。そして堂々たる演説をするつもりらしい。聞きながら、彼女の元に近付くことにした。
「今日という日を心待ちにしておられた皆様、お待たせいたしました! 今期の黄金港競売、これより開始いたします!」
集まりつつあった人々から、歓声が上がる。そのボリューム的にも、思ったよりは多くの人数が集まっているらしい。
生徒と思われるものから、学園の卒業生と思しきもの、その他の市民のようなもの、様々な声が聞こえてくる。そのほぼ全てが、資産家と言えるレベルの財力を有していることもすぐに理解できる。
「皆様、ありがとうございます。例に倣って、まずは自己紹介とさせていただきます。私、代々この黄金の港と呼ばれる地を受け継いでおります、鷹羽の当代の主、オドリと申します。三日の旅路、どうぞお楽しみくださいませ」
それと共に見えてきたのは、いかにもこれで旅をしますよ、とばかりに主張してくる船だった。この船も豪華客船や空母もビックリというサイズなのだが、よく考えて見ればそれとは比べ物にならない船に、今乗っている。
「夜までに、あれに乗ればいい。では、先に行かせてもらうとしよう」
カイは演説の内容など興味がないとばかりに、さっさと港の方に行ってしまった。だが、一行はあえてゆっくりと聞いてみることにした。
それが最良だと、相も変わらず信じながら。
「さて、皆様は幸運です。残念ながら、我々人間というもの、全てが満ち足りて生きることは不可能なのです。であるから、我らが王は、大陸船団は、皆様を選んだのです。
上がる歓声からは、疑念は微塵も感じられない。
「されど、いえ、故にこそ。我々はその富を使い、さらなる富を生むための原動力として彼らを得ることこそが、礼というもの。それこそが、普遍にして不変なる不偏の原理であるのです。さあ、大いに満ち足りるため、今は思う存分捧げなさい!」
「いやはや、恐るべき理念を掲げているものだ。これは負けてれませんね先生……先生?」
こんな顔をする先生を、カンナは見たことがない。
怒り、失望、虚無。どれだろうか。あるいは一言で表すこと自体が、ナンセンスであろうか。
ただ、その口から発せられた言葉は、確かな意志だった。
“豊かになる資格、だって? それが最初から決まっているのが、不変だと? 文化の違いくらいは尊重するつもりでいるけど……認めない。私はこれを認めちゃいけない”
この世の誰一人として、苦しむために生まれてくるなどということは、あってはならないのだ。そんな原理を、認めてはならないのだ。そうでなければ、先生は「自分」を裏切ることになる。
この原理を唱えているのが、王であるのか、オドリであるのかは問題ではない。それは絶対に折り、自らの心にその証を刻み込まなければ、例え死んだとしても己を許せない。
だが、先生も大人だ。こういうときに、熱く血を滾らせて戦いを挑むのは愚策。却って、冷静になった。
与えられた条件で、完璧に勝つ。方針は変わらない。
“よし、行こう”
船に乗り込む。すぐそこに受付があった。キヴォトスではよく見るロボ市民が担当している。
「皆さんは全員、初参加ですね。では、こちらに個人情報の記入を。プライバシーポリシーも熟読ください」
個人情報の取り扱いについては、流石にちゃんとしていた。公的な機関として運営されているらしいだけのことはある。
しかも、ある程度は提供の拒否が可能であるらしい。先生、カンナ、ワカモに関しては異世界人であるので、この柔軟さは都合がいい。
「ふむう……最低限ですね。それに予算も見たところ……まあ、よろしいでしょう。メイン口座は、石弓イリア様名義のものですね。それでは、本競売について簡単な案内を──」
「必要ありませんわ」
このいかにも派手な見た目をしていそうな声は──と振り返ってみると、今回の戦いの相手が自ら出てきていた。
「お、オドリ様……!」
「この者らは、私の個人的な客として競売に招いた者です。私が自分で、伝えるべきことを伝えますから、私の部屋まで連れていきます。よろしい?」