Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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1-9:探した、新たな仲間

 あの日。

 彼女の身には不可解なことが起きていた。オフィスを追い出され、またテント生活かとしょぼくれていた日、巨塔が現れたかと思えば、世界は一気に様変わりしていた。

 それだけではない。すぐ側にいた便利屋の社員達が、忽然と姿を消していた。名前を呼ぼうとする。

 

 ()()()()。記憶にモヤがかかる。違う。知らない誰かの記憶が、自分の中に入り込んでいる。記憶を探る邪魔をしてくる。

 ■ツ■、カ■■、■■カ──どういうわけか、欠落している。何より、()()()()()()()()というのが、あまりにも気分が悪かった。少しの間パニックに陥った後、それがストレスを緩和したのか、急激に落ち着き始める。状況を分析できるくらいにはなっていた。

 

 その記憶は、この氷雪世界で生きてきた、自分と同じ名前の少女の記憶だった。その記憶から世界について学び、起きた現象について整理する。

 どうやら、別の世界に転移した、そう呼ぶべき現象が起きている。この世界には便利屋はない。社員達にあたる人物もおそらくはいない。正確な表現をすると、この世界の自分にあたる存在に、記憶が入り込み、人格面でも支配した形となる。

 なるほど、わけがわからない。ただ、わけがわからなくとも、ひとつ彼女にとって許したくないことがあった。

 

 この世界には、アウトローが存在しえない。生きるためになりふり構えないからだ。だがそんなものは、彼女の憧れ、人生の目標とは遥かに遠い。

 アウトローの道と、仲間。これを取り戻すために、世界を探り続けた。幸い、記憶のおかげで世界には馴染めたので、それ自体は厳しいことではなかった。

 そして、情報らしい情報をひとつ掴んだところで、記憶にある名前が耳に飛び込んできた。

 

 

 

「空崎ヒナの名前を聞いて、飛びつかずにはいられなかったわ。しかも先生までついてくるなんて、こういうのってアレよね、棚からぼた餅っていうアレ」

 

 先生からしても、ゲヘナ生の中ではアルは特別頼りになる存在として数えられるので、同じく幸運と思っていた。だがここに至るまでのことを聞くに、不可解な現象が起きていることは明らかだ。

 

『話を聞く限りだと……そのアルって生徒はどうやら二重存在者になっているようだね。異聞帯側とこちら側と、ふたつの存在は当然ひとつの肉体には重いから、いらないものを削ってなんとかしている、と』

 

 ウタハは見解を述べるが、これはアルにとってはあまり良くない表現だった。

 

「いらないものとは失礼ね。大切な社員の記憶よ」

『だが事実として失われている。この世界ではいらないと、()()()()()判断した』

「〜〜っ! だいたい何なの異聞帯って! もうちょっと詳しく!」

 

 先生はなだめながら、通信の先のウタハと共に懇切丁寧に異聞帯の概念を説明してやった──のだが、案の定、話の途中でわけが分からなくなったらしく。

 

「????????」

“あーあ、ウタハ駄目だよ、あんまり難しい言い方したら”

『いや、これはどんな説明のし方でも不可避じゃないかな? そう言う先生だって人のことを言えないよ、話のレベルが合うのは嬉しいけれどね』

 

 焦点の合ってない目でどこか遠くを見ながら、体だけがバレバレの聞いているフリをしていた。まあ、ざっくりと、必要な限りは理解してくれているだろう。今まで会ってきた者達が皆素直に聞いてくれたのが異常だったのだ。

 

“ねえセナ、アルのこと診てあげられる?”

「無理です。私は外科医だというのもそうですが、そもそもこれは医者にかかるものではありません」

 

 無慈悲な対応であった。

 

「お話中のところ申し訳ありませんが、先生。少しよろしいですか」

“カンナ?”

 

 先生が、いいよと一言言う前には既に彼女は銃をアルに向けていた。アルに対する無慈悲が続く。

 

「ゲヘナ風紀委員会の指名手配に伴い、ヴァルキューレからしても捜査対象という扱いだ。分かってい──」

「あら。一応緊急事態のはずだけど、頭の堅いお巡りさんじゃない」

 

 向いた銃口をその手で握り、ぐるりと無理矢理カンナの方へと曲げる。その動きが、信じ難いほどに高速だった。たとえヒナでもこの手際には敵うまい。

 意識をその行動に向けるまでもなく、カンナは銃を手放し両手を挙げた。

 

「すまない、試させてもらった。いや、狙撃精度からして、もしやとも思ったが……あなたはどうやら、どちらかと言えば異聞帯寄りらしい」

 

 つまり、こういうことだ。

 ゲヘナ異聞帯の住人は、正史キヴォトスの住人よりも遥かに強い。カスミを見ればわかるように、正史との対応がハッキリする人物なら、元が強くても更に強くなる。今のアルは二重存在となっているが、肉体情報をはじめ、おそらくは異聞帯側が大部分を占めているのだろう。ほぼ人格と、記憶の半分だけが「陸八魔アル」だと言ってもいい。

 だがそれが、好都合でもある。何せ正史においてもゲヘナの隠れた実力者として買われていたのだ。その強化版となれば、これはとてつもない戦力増強となる。

 

「そ、そーなの……へー、私ってそんなに強くなったんだぁ……い、いや、自覚はあるのよ!? 強者が強さを自覚しないはずないじゃない!」

 

 おそらくしていなかった。していたとしても、ちょっと強くなったかも、程度だろう。周りも凄まじいことになっているので、これは仕方がない。

 それにしても、要らぬ言い訳である。

 

“ところで、アルも情報を掴んでるって話だけど”

 

 多少強引に話を持っていく。そう、一番欲しいのはそこである。学園まで行った上で収穫ナシだったのだ、ここで思わずやって来た機会はいいものであってほしい。

 

「そうそう、それ! ここでは万魔殿が、各地に戦力を派遣してるのは知ってるでしょう? 主に人がある程度住んでる地域に、監視目的で」

“ごめん、そこまで把握できてない”

 

 カスミかヒナが言ってくれてもよかったのだが。とはいえ、ただでさえ道端で誰かと会ったら強盗だったりするのだ。集落が世紀末状態にならないよう見張るのは理に適っているかもしれないが。

 

「……コホン。ともかく、ね。その派遣先について、探ってたのよ。人がいる場所の分布とか、知りたかったし。そしたら、派遣先に1箇所だけほとんど無人の地域がある、ってことが分かったの」

“なるほど、その場合は、目的が人の監視ではないか──その場所に、何かがあるか。これに限るかな”

「そう思う? さすがは先生。実際、あからさまに怪しいわ。ここだもの」

 

 どこから持ってきたのか、アルはゲヘナ異聞帯の地図を広げる。これ自体もかなりいい資料なのだが、指を差した場所というのが、なるほどそこに戦力をわざわざ送るのは明らかに怪しい、という場所だった。

 

 等高線が密集する場所に、その指は向いていた。雹を吹き出す独立峰、燃え滾るはずだった氷の大山、ヒノム。そこには何があるのだろうか。

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