Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
競売会の開会式、その一番初めの内容。それが、「目玉商品」の発表であった。
他の参加者は、その後の式次第に従って、馬鹿正直なくらいに式の会場に留まり続ける者も多かった。だが、そんな悠長なことはしているべきではない。特に、その中の特定の誰かを引き入れたいのであれば。
そのため、各々の目的に適った人物との交渉に行く参加者も当然いた。だが、幸いなことにカイ目当ては見たところ被りはいない。
「随分と早い訪問だ。そんなに私の力が借りたいのか?」
“まあね。嫌かな?”
「少なくとも、素直に嬉しいと思うようなことは一切ない。まるでない。神に限りなく近い存在を解き明かそうとしている私と、そもそも目的意識とかそういったところが違いすぎる。そう思わないのか?」
確かに、まるで違う。解き明かしたとて、という考えでいる節すらある。
「お前、よそ者らしいが……想像してたよりずっと、この大陸船団、その前身のオデュッセイアの歴史に詳しいな?」
「学んだものでね。とはいえ、歴史もどこからどこまで伝説かは分からない。所詮物質界でしかないこの世に、どうしてあんな形で神が成り立つ? まして、産まれそのものはただの人である者において、だ」
産まれそのものはただの人──綿津見トリンの正体について、サラリと触れてきた。
そしてこの事実こそが、他の異聞帯の王とも毛色が異なる点であるとも言えるかもしれない。神秘の極致たる怪物とは、色々と異なる。
“逆、だったりするのかもしれないよ。それを知るための力には、なれる気がする”
「逆?」
“つまり、神に近いなんていうのが、そもそも間違い。案外、
カイはもちろん、この場にいる生徒全員が大いに驚いている。声を上げるでもなく、目で。
「そ、そんな冗談言わないでくださいよ先生! 見たでしょう、あの心臓を! あれが人外の産物でなくて何なのか!」
“そう思うのも無理はないよ、カンナ。ただ、これは私が先生として培ってきた感覚に従った仮説だよ。彼女の言動は、あまりにも人間味がありすぎる。超越した存在にしてはね”
様々な子供を見てきた。大人を見てきた。人でなしも見てきたし、本当に人間ではない存在にも出くわした。異聞帯が現れてからは、より極端なシチュエーションにも遭遇した。
それ故に言えることがある。綿津見トリンは、ずっと人間の子供でいることをやめられていない。あるいは、大人になっても子供の心を捨てられていないのではないか、と。
「そうか、先生達は王とのコンタクトを取ったことがあると……なるほど、実に先生らしい考えだ。論理的に考える能力はあるだろうに、それを用いて考えた結果、論理を放棄する選択をする! でなければこんな私に対して、どうしてそんなに甘くいられるんだという話になる!」
「何を仰りたいのです? 先生の考えが、間違っているとか?」
「そんなことを言いたいわけではないさ。ただ、そういった分野はそれこそ私からすれば知ったことではない。私から見たら、ここの王は規格外の化け物としか思えない。それだけだ」
ワカモの解釈も無理はなく、事実カイも真相がそのようなものであってほしくはないと願っていた。
物質界で完結しない事柄など、それこそ管轄外であり、理解不能であり、解析不能なのだ。物質的なデータは、十分にある。その全てが、人外性を示している。
“まあ、何だろうね。君からしたら、どちらに転んでも納得がいく内容になるかもしれない。希望的観測みたいなところも──”
「待て待て、誤魔化そうとしないでもらいたいのだが? あれほどの者が、それでも人の域に留まっていると考えること自体には興味があるんだ。だから、そうだな……その仮説が正しいのなら、どう都合がいい?」
“キヴォトスを救える。カイも、正しく目指したいものを見つめ直せる”
何割かはハッタリだ。まず、この異聞帯を攻略するための決め手に必ずしもなるとは限らない。しかも、攻略できたとて、それは直ちにキヴォトスを救う手にはならない。
だが、いくらかは、あるいはある程度先の未来に、達成できることだろう。だから残りの何割かは、真実。
「それが私に得なことかは、判断しかねるな……真実がそうである可能性も考えると、無価値でもない。うん、考えておこう。何、まだ明日以降もあるんだ──」
銃声。言葉を遮るように響いたそれは、何にも当たることなく空を切る弾丸の後を追っていた。
ワカモの目が冴えていた。飛んでいる弾丸の軌道を視認することができており、そこから逆算して狙いの先と元を特定、庇うような位置につく。
「先生! ……危ないところでした。まさかこんな部屋であなた様を狙う者が現れるなんて。あそこに潜んでいるとして、こちらから返すのは難しいです」
“競合相手を暴力で引きずり下ろすのも、やり方ってわけか……ここは切り上げよう。狙撃手も、深追いはしてこないはず”
また鳴った。ワカモの脚を少し掠めた。少し痛むが、軽い擦り傷にすらならない。どうやら威嚇目的、そうでなければ相当に腕は良くないらしい。
ならやることはひとつ、逃げること。
「すまないね、私も腕がいいばかりに狙われるみたいだ。ちょっと大船の上で名声を稼ぎすぎてしまったかもしれないな。まあいい、見極めるとしよう。皆も、慎重な見極めをすることだ」
見極めも何もあるまい。最初から一本釣り狙いなのだ。諦めろと言われたような気がして、イリアも腹が立った。
「後でまた来るからねーっ! 何がなんでも、あたしだけでも!」
なかなか、かっこ悪いことを言ってしまったものだ。
「……うん? そんなに私にこだわるモチベーションがあったかな、彼女?」
カイもこれには困惑。本気で困惑してしまっているので、一応彼女の名誉のために付け足そう。
大してこの発言に動機などない、と。