Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
予想していた通り、狙撃手は深追いしてはこなかった。ならば、カイの近くであれこれ行動をしない限りは、とりあえず今のところは問題なし。
安心できる条件があるのなら、これ程楽なこともあるまい。自由に作戦会議ができる。
「さて、皆薄々初めから察していたところもありそうだが……交渉におけるルールは無用、強いて言うなら交渉相手こそがルール。そういう争奪戦だということが明らかになったわけだが」
息切れしている先生の代わりに取り仕切るのは、やはりカンナだ。人を束ねる仕事をしているだけあり、こういうことは慣れている。
「じゃーもうこっちだって乗るしかないっしょ。アテシは……うん、あんまりいけないかも! レイア頼んだ〜」
「私か! いや、自信はあるぞ? いきなり振られるとビビるけどなぁ!」
「やはりその気ですか。私もご一緒致しましょう」
ナノ、レイア、ワカモと次々にやる気満々で、実力行使派の顔をし始める。せっかくの作戦会議、しかし話し合うまでもなく動きだしそうだ。よりによってナノも。
だがもちろん、待ったがかかる。
「ちょっとぉ! とりあえず殴るみたいなやり方はダメー! 別にすぐ取られるって決まったわけじゃないんだからさ、様子見も大事だよ?」
「むむ……ごめんごめん、今暴力は全てを解決するモード入ってたわ。ありがとねイリア。じゃ、必要な範囲の暴力見極めるか〜」
言い方が酷いが、要はそういうことである。強力なライバルになりそうな者がいたら排除する役。交渉をする役。交渉する役を守る役。近寄る者を牽制する役。
主に、こういった分担になるだろう。
“ふー。流石にこんなに分担したら人数が足りないかな。護衛と排除は一緒にするべきかもしれない”
「となると、戦力を集中しましょう。私はそれなりに自信がありますが、他には?」
「なめるなよ狐さん。あの日は披露できなかったけどな、私もなかなかやるってところを見せてやる」
事実、ワカモはこういう場面では頼りがいがある。レイアは未知数だが相当に自信がありそうで、しかも知る者からの信頼もありそうだ。
そうなると、必然的に決まり。他の役割も同様。
「では、牽制役は私が買って出よう。小回りにも自信がある」
「わたしもやるよ〜。ちょっとくらいならやれるやれる〜」
カンナは大陸の心臓の試練における殊勲なので信頼感は高いが、アイムはレイア以上に未知数。ただ、名乗り出たからにはそれが脈絡もないものとは思えない。
いや、むしろ脈絡がないのか。そして脈絡が無いほど彼女の場合は信じていい。唐突に正解を思いつく、という不思議な性質があるらしいことを、全面的に肯定するなら。
「じゃあ、あたしとナノは先生と一緒に話し合いをしたり指示出ししたりするってことで」
「あんたにゃーできないっしょ、そんなん。んま、アテシがついてて助かったね。それと、先生もねー」
“うん、綺麗に決まったね。いや、綺麗かな? ともかく、もう一度アタックだ”
と、再び動き出そうと廊下に出たわけであるがこれがとてつもなくうるさい。色々な方面からとにかく銃声が響いてくる。どうやら各所で争奪戦は既に起こっているらしい。
ただし、この音のうちこちらにとって関係あるものはほとんど無い。「目玉商品」はそこそこ多く、カイは中でも曰く付き扱い。加えて、通常の「商品」の取引にも
何回か勘違いで攻撃をされたが、そこでレイアが役に立った。その実力は、少なくともカンナは上回っていると言える。急激に距離を詰めてアサルトライフルを撃ち込む戦法で、勘違いしてきた者達を見事に「説得」してみせた。
ワカモも遠距離担当としてこの上ない働きをした。護衛の人選は間違っていなかったと言える。彼女らの働きもあって、大きな危険に曝されることを避けてカイの部屋に接近することに成功した。
「話を! 聞いていないのかね! この大陸船団の医療の未来の為にその力の限りを尽くせるのだぞ! 世界に誇れる道をこの外の生まれでありながら歩めることを──」
何やら偉そうな男の声が聞こえてくる。おそらくは彼も交渉をやっているのだろうが、これは先生達のような手応えがあまり無い展開であればまだマシ、というところか。
「そちらこそ、私の言葉を聞いていないのか? 興味がない。世界に誇れる? 何をだ。人助けなら、一番興味がないことだ。究極の存在……神仙。それに至るための探求が私の目的なのだから」
「嘘をつけ。そんな自分勝手な動機で、そこまで医学薬学を、その歳で極められるわけが……」
「極められるさ。所詮この世は物質界、であるなら人を弄ることが結局は人を超える道なのだから。それにだ、貴方も大概自分勝手なのに、医者をやれているようだが?」
こっそりドアに耳を近付けると、こんな会話が聞こえてきた。それから足音も。こちらに近づいてくる。どうやら退室するようなので、ドアに密着する位置からは少し離れる。
出てきた先客は、目つきの悪い猫の獣人。なるほど、この人相で医療の未来などと語るのは見た目的には変だ、と思いそうになる。だが、ひと呼吸置いてから忠告する話し方からは、一気に知性を感じさせられるものだった。
「君達も、彼女と交渉するのか? だとしたら、やめておけ。医療の技術を純粋に借りる目的で競り落とすには、奴は異常がすぎる」
“ご忠告ありがとうございます。ただ私としてはそれはむしろついでですから”
「真の目的に賛同することができるのか? それならそれはそれで君達自身が危険だ。それに、彼女は半端な額では動かないと見える。予算は十分か?」
ナノの方を見る。資金担当はとりあえず彼女だ。とは言っても大陸船団は誰もが富豪レベルの金持ちなので、誰担当でもそこまで変わらないが。
「……いちお、ウン十億とかブチ込む覚悟してたけど、どーだろ、足りるかなー……」
どうやら、今日のところは一旦退くのが賢明なようだ。