Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
三日間の競売、その二日目の始まりを告げる朝食会の場で、先生の率いる陣営は一堂に会した。作戦会議といきたいところで、急に早朝に起きたことの報告をアイムが始めたために、かなりの動揺が走った。
「するってーと。あのオドリさんは王様大好きかと思いきや。いや、大好きなのは本当? とにかく、心の底では王様穢したい! って欲求持ちってワケ? で、あのカイさんってのはちょっと親近感持ってるって感じで。先生、どう思う?」
“気持ちがあっちに傾いてるところはありそうだね。予算もあっちはほぼ無限に近い、これは相当にまずい”
「だよね〜」
うんうん、と頷いてから、うーん、と唸り始めるナノ。ケンカをしていそうで、色々とまずい。言葉巧みにカイはオドリを誘導しているようでもある。こうなると、カイ側に戦略があるようにも思えてくる。
つまりは、オドリを主としつつ、その実逆に傀儡化して、王に接近しようとしているのではないか、と。そうなると、こちらとしては今後の展開としては詰みあるのみなので、大変に厄介だ。
「今後の展開としてはって、もう詰んでるみたいなものじゃないか! どうしてくれんだよ!」
「落ち着いてください、レイアさん。必ず手はあるのです。多少荒っぽいやり方になりますが、そちらの方が私は得意ですよ。うふふ」
ワカモがこのような言い方をしている割には、実はここでは暴力的手段を示唆してはいない。彼女も脳筋ではなく、むしろ暴力で解決できると知っただけで、考える頭はあるのだ。
そして、善か悪かであればどちらかというと悪寄り。なので、自然と
「まあ、それしかないだろう。そもそも、あれは常軌を逸している。それを長所に転じさせることはできるのかもしれないがな……我々には、そもそも交渉材料もなかった。勝てる戦を申し込まれていたというところだろうな」
カンナも鋸のような歯を軋ませざるを得ない。手段を選んでいる場合ではなくなってきた。
さて、ワカモの発言をきっかけに、方針はガラリと変わった。その為には、交渉をするだけではいけない。元より、それでは勝てない。なので、特殊なシチュエーションを狙う必要性が生じてきていた。
それは、交渉に行こうとしたら、オドリと出くわすというシチュエーションである。残された戦略においては、これが前提となってくる。通常の競売はほぼ彼女なしで進行はするので、運営管理をしつつ、時間があれば参加者のひとりとして交渉も行う。それがオドリの行動パターンであるらしい、ということは1日目にある程度把握していた。
タイミングが読めるほどのデータは、物理的に集めることが不可能である。なので偶然を装うのはなかなか難しい──と思っていたのだが、ここで運が味方をする。装うまでもなく、本当に偶然、ある程度カイの部屋に近い場所で交渉チームがオドリに遭遇したのである。
「む、皆様でしたか。相も変わらず一本釣り狙いでしょうか? 他にも使えそうな人材はいくらでもありそうなものですがね」
“そうかな? 私としては彼女じゃなきゃいけないように思うけどね。それにしてもこんなところで会うなんて、誰かに用が?”
「白々しい。分かっているのでしょう、どうせ? 私は貴方と競合している相手なのです。ええ、まさかタイミングまで被るとはといったところですが」
嘘をつく気はあまり無いらしい。なら楽なところも多いが、却ってやりにくい面も多少はあるのかもしれない。言われたことは、一旦受け止めねばならないのだ。
「へー! でも残念。あたし達はあの人とはもう色々と秘密を話し合う仲。あんなことやこんなこと、ムフフすぎる内緒話までたっくさん!」
「……そこまで慣れあっておりましたか? 遣わした者は別にそんなことを話している様子を確認していないようでしたが。まあ、撃つべきと判断したくなるほどのものなのは認めますがね」
なるほど、あの時のものは──と、先生は納得していたが、ナノはともかくイリアはピンと来ていない。まあ、ここはピンと来なくてもそこまで問題はないだろう。
“でも全てを監視できているわけじゃない。秘密をひとつやふたつ、聞いていてもおかしくはない。そうは思わないかな?”
「……何を仰りたいのです」
“口癖かな? うん、
ある意味、嘘ではないのかもしれない。カイからアイムに、アイムから仲間達にと、情報を流していったのは確かなのだ。
だが、その実態についてはうまい具合に伏せた。これがどう出るのか。
答えは、どう出ることもできない。
まず手は出せない。真偽は不明、偽であるならば無用な騒ぎは起こしたくない。強く否定もできない。それは自らの弱みを見せるにも近いことだ。
だがこの言葉が示す内容について、異様なほどにオドリは危険視していた。
「なるほど、であっても……私が少し動けば、条件は等しくできそうなものですがね」
できるのは、多少の根拠がある強がりだけ。
“でも、そうしないのかな?”
「まあ、本当ならしたくはありませんが、そちらがその気であれば。私としては、彼女はその過ぎたる望み故に首輪をつけてやらねばならない存在です。当然、そんな者の考え、他の者にだけ明かした理想、そういったものに理解を示したいとは全く思えないのですが……ですがね。それでも必要とあらば。当然です、その程度のことで行儀よくしすぎるものではないのですよ」
少なくとも外面的には、オドリが先生に完全に手球に取られているように見える。だが、目標が目標ゆえ、これではまだ追い詰め足りない。もっと揺さぶりをかけてやらなければ。
そこで、ナノが動いた。彼女の言葉はかなり幼稚に聞こえるかもしれないが、その実かなり効き目はある。
「なーんかすんごい早口じゃない? なんかにビビってんの? もしかしてアテシ? なわけないか、たはー」