Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
「……はあん?」
その声は、苛立ちによるものか、困惑によるものか、それとももっと他のものであるのか。いずれにせよ、余裕があったら絶対に出てこないようなセリフをオドリは口にした。ここまで自分に余裕が無くなっているのか、という驚きすらある。表には決して出さないが。
「うわ、怖いなぁー。ナノってそういうの耐性ないんだよ?」
「いつの話しとんじゃ。流石にレイアに何度もおどかされて慣れたって」
「勝手に身内の話をしないでください。馬鹿にしていらっしゃる……の、でしたね。でなければあんな無遠慮極まる言葉をぶつけようなどと思わないでしょう」
酷い言われようだが、事実なのでこれは仕方ない。とはいえ、それでも彼女の方も参っているところだ。何せ、反論としてちゃんとした言葉はなかなか浮かんでこない。
「それで、どーなのさ。なんか怖かったりしない?」
「さて。恐れるとすれば、それは陛下のことかもしれませんね。底が知れないのは確かですし、この上ない重責を背負わされた身ですから。何か下手を打ったらと思うと、恐ろしくてなりません。それで言えば、イリアさん。貴女は……いや、やめておきましょう。今は、それでいいのだから」
別に無意味に、意味深なことを言ったわけではない。多少、惑わすことができればそれでいい。相手方が精神攻撃という手段に出ることにしたのだろう、ということはなんとなくオドリは察している。
なので、彼女としてもその手に出ないという選択肢はない。まして、これは彼女にしかない手札である。
とはいえ。
意味がないことはないものの、効果覿面ということはないようだ。
“なにか知っているなら、後で聞こうか。それにしても、王様か。カイも言ってたっけな、王を絶対としているように振る舞いながら、その実彼女を知り尽くそうという欲求はある。似たもの同士なんだってね”
「戯言を。ますます陛下のことが分からなくなってきました。どうしてこんな者と命運を賭けようなどと……?」
“単純なことだよ、選ぶ余地はなかった。理不尽だろうと、つまらなかろうとね”
その点では、神の如き者と先生は対等であれる。ただ、当人達にはつまらないという気持ちは少なくとも無いようだ。王は、面白がっている節すらある。
「まあ、良いでしょう。こちらもできる限りのことをするまでです。目標が同じで、争奪戦になってしまったのが貴方の運の尽き、といったところでしょうか。そう、彼女は絶対に私の手元に置いてやらねばなりません。あれは──
オドリからすれば、ある種の使命感に駆られて当たり前のように出た言葉だっただろう。しかし先生にとってはなかなかに聞き捨てならない言葉であった。
“怪物? 接収だって? それはダメだね、そんなことを言われるとこっちも全力を出さないといけなくなる”
「あら、どうして? 別に今までも全力だったのではないのかというのは置いておくとして、どうしていきなり?」
“いきなりに思えるのなら、改心が必要だね。なに、大丈夫。私はその気持ちがあるのであれば協力するし、全力でその気にさせるからさ。君も、カイもだ。多少人と考えが違ったって、何かを恐れていたって、自分の意志で人として生きていけるって示そう”
確かに問題のある人物であるかもしれないが、しかしそれでもカイが怪物であるものか。自分を諦めることなく、見失うことなく生きるべきだとせっかく示したのだ。異世界で怪物として扱われるというのはかなり困る。
「大きく出ましたね。ですが、人々がそうと認めればどうでしょう? それはもう、認める通りのものと言ってよいのではないでしょうか。一定の事実に基づく事柄に、反していなければ」
「それって、皆があの人を恐ていればって話?」
イリアの何気ない言葉に、目を泳がせる。悟られまいとしていた感情が、ついに顕になってしまう。だが、それで態度を崩してなるものか。そう自らに言い聞かせようとする。
だが当然ながら、ナノが追い打ちを狙ってくるのだ。
「んまー、そう見えるんならそう見えた方が都合いいんだろーねー。別に根っこがめちゃくちゃ怖そうにはアテシ見えなかったかなー。いや、そりゃあアヤシイ人だなーとかは考えてたけど。敵にしたら怖いけど仲間にしたら頼りがいがある的な? 悪いことした人みたいだけど、別に悪人は味方にできないでもないしー」
「……勝手になさい。ですが、本人の気持ちが私に向いていることを、ゆめゆめ忘れぬよう」
そうだ、別にカイはこのままいけば自分に応じてくれるのだから問題ない。そうすれば自分のしたいことにようやく手がつけられるのだ。
オドリはどうにか自らを落ちつけようとする。だが、思い込みだけでは解決にはなるまい。それは十分に理解していたので、次なる行動を見据えて、その場を立ち去ることにした。
その猜疑心が生じることを、最初から読み切られていることと知らずに。
一方、同じ頃。ライバルを牽制する役をやっていたカンナとアイムが、これまた手柄を挙げていた。
「どうやって隠れてるのかなとか思ったけど、なーんだ。意外とシンプルだね〜」
またアイムが適当に探して見つけ出していた。壁の中に隠していた遠隔操作の射撃装置を動かしている人物がいたのである。雇われのロボ市民であるようだ。
「大手柄だアイムさん、きっと昨日私達を襲ってきたのもこいつの装置だろう。精度に難があったのも頷ける」
「うわあああっ! 勝手に操作するな! チクショウ、意地でも隠してりゃシラを切れたってのに行動力が無駄にありやがる!」
「そうでなければ治安維持の仕事というのはできないものでね。色々と聞きたいことがある、洗いざらい話してもらおう。雇い主、受けた司令、契約内容、その他もろもろだ!」
ここで嘘をつこうと思えばつけたのかもしれないが、そんな気概も一瞬で奪われてしまうくらいには、カンナの迫り方は怖かった。あっさりと、まず一番大事なことから教えてしまうのであった。
「俺の雇い主は……オドリ様。この競売の支配者、鷹羽オドリ様だよ」