Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
「調子ぃ? いやまあ、悪くはないが、大して良くもないぞ。せっかくだから、もう少し粋な戦いを見せてほしかった。武力行使に鷹羽の一族は代々不向きだが、そのぶん論戦を期待していたが拍子抜けだったな」
ため息混じりに、しかしどこか高揚した調子を残しているトリン。それを見た男は、尋ねずにはいられなくなった。
「敗北が刻一刻と近付いているのに、どうしてそこまで悠長なんだ?」
だが、この王はまるで何でもないかのように、こう答えるのだ。
「そう見えるか? だが我にとって、それは全く問題にならないのでな。うむ、引き続き面白いものを期待するとしよう。とはいえ次の者は、少し物足りないかもしれないがな」
「お前……いや、あまり言いたくはないのだが、やる気はあるのか?」
異聞帯の王である以上、多少なりともやる気でなければ困る。しかも異聞帯を俯瞰している立場である彼は、明確にやる気の感じられない王の存在も見てしまっており、かなり心配している。
会話がちゃんとできる相手は、もはやトリンのみ。彼もまた、人並みに孤独を感じるのだろう。
「うーん、やる気は、あるぞ。うん。ただなぁ」
「ただ?」
「
その見落としとは何か──それは、語る必要はない。トリンはそう判断した。それを示すかのように、フフンと笑うと、それ以降の追及は避けられた。
「なら、私の思い違いだったというわけなのか? 全く、ふざけたことを言ってくれる。だが、分からないな。それならなぜ、なおも王であり続けようとする?」
「む。それは確かに。自分でもよく分からないと言ってもいいかもしれんが……」
ふー、とまたひとつため息。ため息は幸せが逃げていくとはよく言うが、彼女にとっては、もう逃げていく幸せも尽きてきたというところ。
「いくら罪深くても、そこに生があるのなら、あると叫びたいものだろう?」
翌日。南端の海岸、方舟が停泊している場所にカイが先回りで到着していた。ため息をつきながら何かしている様子だったが、先生を見かけるなり一目散に駆け寄ってきた。
「なあ先生、ちょっといいだろうか」
“ああ、カイ! 先に来てたんだ。そうそう、医務室の……”
「設備を整えろっていう話だろう? いや、確かに使っていた道具を持ってきてくれとは言われた。そして確かに私の持ち物にはここが必要としているものが含まれていたさ。だが、うん。よく私が道具を揃えられると確信を持てたな?」
ここの医務室を担当しているのは、セナである。セナは、基本的には外科医である。一方、カイは基本的には薬学者、あるいは内科医であると言える。それでもこの医務室に必要な道具(それもかなり上質なもの)を揃えられたのは、専門以外の分野も必要性が生じるかもしれないと、オドリ基準での最低限を揃えさせられたからだ。
先生はそういった事情があるのではないか、と何となく程度に予想していた。だが、それはあくまで何となく。カイが呆れるのもやむなしだった。
“ごめんね、でも最初だけだから! これが終わったら、君の目的にも協力できると思うから!”
「はぁ……それならまだいいんだが。こんなに良い道具を捨てるのも勿体ないと思っていたところだしな。一通りやったら、もうここには留まるつもりは無いからな?」
なんとか、明らかに不満そうではあるが協力をしてもらえた。ならば、それをやっているうちに今後の方針を整える必要がある。
ウタハを方舟の外に呼び、せっかくなのでナノと一緒に話し合うことにした。
「やあ、会えて嬉しいよ。私が白石ウタハだ」
「……イケメン? あ、いや、違った、ごめん。ナノでーす」
「……何が違うんだろう?」
お互いに誤解を招きそうな会話からスタートしたが、ここからは
“とにかく、次の目的地について情報を整理しようか。ナノ、頼める?”
「うぃ。このカードにある地図はだいぶ寄ってて分かりづらいんだけど……要は、ここ」
ナノがパソコンを使って示したのは、西側だが、かなり中央に寄っている辺り。公式には、立ち入り禁止の特別区になっている場所だ。
そういったスポット自体は、よくある。
「実のところ、方舟の機能はほぼ回復しててね。だから情報収集……という名の、観光をする機会が増えてるんだ。それで、色々な場所を見に行ったけど、皆口を揃えて、立ち入り禁止が多すぎるって言ってる」
「それに、別にこの立ち入り禁止エリアって、そんなおっきくもないもんねー。ってことは、今回はそんな面倒なことする必要ないかも!」
だといいのだが。それに、面倒ではないのなら、それはそれでシンプルに重い可能性があるのでは──などと、つい悲観的に考えてしまいそうになる。
“ということは、事前情報はほぼ皆無に等しいというわけか。まあある意味いつも通り?”
「強いて言うなら、その辺りは王立学園の敷地内でも有数の市街だってところかな。正直、ちょっと楽しそうだなと思っていたよ。ああ、私も近くに行ったんだ。まさに学生街で、繁華街」
ただし、これは大陸船団基準。トリニティが比較にならないくらいには高級なものに溢れているということは断っておく。
“そんなところにある、王立公園っていうのは逆に気になるなあ……”
「気になるからこそみんな行かないんだよねー。そこに住んでないからアテシ知らないけど、表向きは色々偽情報あるんでしょ」
「大陸の心臓は、エネルギー発生施設。黄金の港は、大陸船団の経済。この公園も、何かしらの重大な意味を持つに違いない。それを隠したい理由もね」
実態はどうあれ、行くこと自体はそこまで困難ではない。だからこそ、あまりにも「なぜ」が多い場所に、これから向かわねばならないようだった。