Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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1-10:ヒノムの山調査隊

 翌朝出発して、目的地に辿り着く頃にはもう日が高くなってきていた。南中高度は相当に高いのだが、しかし薄く曇った空から降ってくるのは雪。これが移動中に感じていた妙な違和感の正体だと先生が気付いたのは、山が目と鼻の先まで来た頃のことだった。

 

「私達の知るヒノムは、火山だというのもそうだけど……禁足地、アビスの入り口でもある。だけれど、見たところそれらしい地形は見当たらないわね」

 

 三大校にそれぞれ存在する、謎の多いロケーション達。先生はミレニアムの廃墟には足を踏み入れたし、トリニティのカタコンベについてもその先にあるものと関わったことがある。一方で、ゲヘナのアビスについては未知の点が多い。

 だが、ゲヘナの「悪魔」達にとっては、それは重要な土地なのだろう。そしてそれが見当たらないのなら、異聞帯にはそれが無い、ということか。あるいは、氷の封印が塞いでしまったか。

 ともかく、アビスとの関連性は抜きにしても、万魔殿が定期的に戦力を送ってまで何かをしたいものが、ここにはあるはずなのだ。そこで昨夜、先生はウタハに注文をしていた。

 

“ウタハ、アレはできた?”

『バッチリだよ先生。エアトンさんが、自分の得意分野だって細かい調整までかなりやってくれてね、本当に助かったよ。もうそろそろ合流できるはず』

 

 待つこと数分、ドローンがひとつ飛んできた。それなりにこちらに接近してから急に見えるようになるという現れ方からして、特殊な光学迷彩をしているのだろうか。

 先生が周囲を把握するために用意したドローンとは明らかに異なる、様々な機能が盛り込まれたことはよく分かる──変な話、ダサいデザイン。多分気にしなかったのだろう。ウタハがそういう方向に舵を切るのは意外だが、エアトンの設計思想だろうか。

 

『合流したね、それが探索支援ユニット。名前はまだない。先生の「箱」が接続できるようになってるはずだよ』

“まさに注文通り、いやそれ以上だね。じゃあアロナ、操作はよろしく”

 

 あいあいさー、とあまり普段は聞かない種類の張り切った声が先生の耳に入ると、細かく旋回するような動きで支援ユニットが飛行し始めた。

 

「おおー、動いてるじゃないか。ところでこれは何を探査してるんだい?」

“ああ、それはねカスミ……”

『おっと、制作物の解説は私の役割だよ。この場にいない説明好きの後輩のぶんもしっかりやらせてもらうからね』

 

 まあ、要するに。

 このドローンが調べられるのは、様々な「量子力学的粒子」であるという。微細な粒子と、波動くらいに思えばいい。

 特に電磁波、あるいはフォトンというものを大いに活用するが、音や原子、素粒子といったものも観測する。これにより、上空から地中にスキャンをかけて、大まかな地中の構造を見られるというわけである。得られる情報はかなりざっくりとしたものになるが、それでこの場は十分だ。

 

「飛びながらも、調べているのは地中か……俄然気になってきた!」

『ほんとに大雑把だけどね。スキャンモードは継続的に使っちゃいけないものだし。何せスキャンのために人体に有害な電磁波もレーザーでガンガン飛ばすんだ。1回あたり0.3秒まで、1調査あたり10回まで、自分から100m以上の距離は確保する。いいね?』

 

 とりあえず、山をグルリと回りながら、頂上からある程度麓に近いところまでスキャンに入るようにして距離と角度を調整する。結果としてkm単位で距離をとったりもしているので、健康被害はあまり出なさそうだ。

 ともかく、1箇所目。

 

『解析はそれなりに時間がかかるから、そのつもりで。最終的な結論は人の手で出すから、もっと時間がかかるよ』

“じゃあ、こっちもそのつもりでいこう。データは採ったらすぐに送るね”

 

 一応回数制限があるため、次の調査スポットはかなり先。これは時間がかかりそうだ。日付が変わるより先にやりきれるだろうか。そもそも夜になってからどうしたものか。

 

 そんなことを考えつつ、3箇所目のスキャンを終えたタイミングで、入電。

 

『最低限、山の中の温度分布についてのAI分析ができたところなんだけれどね。不自然に温度が低い領域がいくつかあるみたいだ。深いところは、火山のマグマの通り道や溜まり場を彷彿とさせるけれど……そこまで深くない、人力でいけそうなくらいのところに()()()も見えるのが気になるかな』

 

“これはいよいよ10回分やったら何が見えてくるのか気になってきたね。本当に怪しいところがここにあったなんて”

「万魔殿の上層部は絶対に何か知ってるわね、これ。絶対私はそんなのがあるって分かってたけど!」

 

 あまり意味のない見栄を相変わらず張っているアル。

 それを微笑みながら見守る先生をよそに、カスミとヒナが話し合っていた。

 

「一応、聞いておきたいことがあるのだけれど、いい?」

「ちょうど話のネタに困っていた。なんでも聞いておくれよ」

「地下に何かあるらしい、っていうことがあのドローンで調べてわかってきているけれど。あなた、発掘とかってできる? あと、そういうことの仲間とか」

「……驚いたね。そういうところでも通じ合っているとは。歴史の収束力なのか、それとも別の要因か、ますます気になってきた」

「できるってことでいいのね。よかった」

 

 そのまま順調に調査は進んでいる──かのように、思われた。4箇所目、5箇所目と進んで、かなりしっかりとしたビジョンが方舟の方でも作られていた。

 そして今、6回目のスキャンが終わった。

 

“そろそろデータも出揃ってきてるはずだし、日も下がってきた。そろそろ今日は休むことも視野に──”

 

 そう言った矢先。遠くから音が聞こえてきた。エンジン音、重いものがこちらにやって来る音、そして普通の車輪とは違うものが地面を這う音。その音の正体がちらりと姿を見せたその時。

 

 爆音と共に、ドローンが撃ち落とされた。

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