Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
“よし。その感覚だ! とにかく、一人ひとり押し切るのを実行するしかない! 背後から撃たれることにだけは気を付けて!”
先生は、ただ単に自分の方針がたまたまうまくいく方針になった、窮地を脱したと思っていた。だが、そんなレベルではないことは、ナツノヒの方が先に理解していた。なぜなら、イリアの内に眠るものについて、彼女は理解があったからだ。
「ある意味で、予想していたとも。でも、ワタシはだからこそ、このまま野放しにしたい。それが結局は、ワタシのやりたいことに適う」
彼女の興味関心は、勝敗には向いていない。むしろ、ここで負ける予定であるとすら言えた。そうでなければ、むしろ面白くない。
一旦包囲された状況から抜け出して、反撃に移ろうと試みるイリアとナノ。だが、これがなかなかうまくいかない。理由は、追われている最中は敵集団が固まっていることにあった。
本当の軍レベルの規模の戦いであれば、イリアの覚醒(のようなもの)も全く役には立つまい。各個撃破の才が見出せただけであり、本当の意味で多対一はこなせない。まして、こんなに開けた遮蔽物のない環境では。
そう、鋼鉄の大地というくらいなので、植物が育つ土がない。ほぼ、スタジアムで戦っているような感覚である。市街地のような遮蔽物だらけの状況とも違う。本来だったら銃撃戦をやるような場所でもないのかもしれない。
弾幕が分厚いまま、そのまま襲いかかるのだ。
“ここは分散を狙うか。移動ルート、プラナお願い”
『了解。挟撃状態を作るにあたり最適なルートを構築し、伝達します』
支持伝達用のイヤホンには、プラナからのサインも入るようになっている。尤も、生徒達はプラナ自体を認識しつつその声を聞けるわけではないのだが、その代わりの音声サインを作成できるので問題はないらしい。
たったのふたり。それでも挟む形になると、注意の分散が明らかに効果を出しているのが分かる。
「追うな、止まれ! 楽な方だけでも速攻で落とし、対複数の状態を……」
「させない!」
ナノの方に振り向こうと攻撃を止めた、その動きをイリアは見逃さない。時間が経てば経つほど、冴えていく。
ここまで来ると、先生も気付き始める。
“アロナ。一応情報共有はしている以上、気付いているとは思うけど”
『は、はい。端的に説明をするとしたら、イリアさんは経験が無かっただけなのかと思います。だってこの動きは……どう見ても、ただの戦い慣れしていない初心者の動きとは違いますよ!?』
あるいは、何かしらの理由で自信を持てなくなっていたのだろうか。どちらにしても、ひとつ明らかなことがある。
それは、天才的なセンスがイリアの内にあること。体系化された理論と組み合わさっていないために、大いにムラがあるが、自覚さえあればもはや年少者相手に遅れは取らないだろう。
“少し、作戦を変えよう。もう少し、複雑なこともやってもらおうかな”
シンプルな位置取りと簡単な作戦だけでは、彼女には役不足(原義)であることは明らかだ。最大限、ここで明らかになった才、そしてショットガン系の得物を活かすにはどうするか。
ある意味、これも単純ではあるが、一気に接近するというのがひとつの解だろう。かき回し、反応されるよりも前にさらなる対処。ナノはそれにより、注目を外さざるを得なくなり、それが更に混乱をもたらす──というように、勝ちパターンが見えてきた。
「袋叩きだ! 今ならまだ間に合う!」
「アテシのこと舐めてんのってーの!」
あちら側の指示はいちいち大声なので行動も読みやすい。ナノも回りの速い頭の3割ほどの能力くらいでなら体を動かせるのだ。完璧に個々の動きを読み、背後からの一撃で黙らせる。
ルール上自分が戦わなければならない場面がどうしてもあるだけで、本来ならナノは司令塔側である。しかしここはそれが功を奏しており、注意力が低い者を的確に見抜いて頭にコツンと当ててみせた。
当然、人数が減れば追い詰められる。気付けば、最後のひとりとなっていた。
「ふぅ……どーだ、思い知ったかー! はははははー! 降参してもいいんだよーっ!」
自分の思わぬ活躍により、イリアは完全に調子に乗っている。高笑いが妙にぎこちない。偉そうな態度も、どう見ても不慣れそうだ。
「降参なんて、誰が……するものかぁーっ!」
「おりゃぁっ!」
最後はワンショットで〆となった。ゾロゾロと大人数でやって来たが、結果はどうもあっさりだった。
大いに悔しがり、申し訳なさそうにナツノヒの方を見る少女兵たち。しかし、それを全く気にしている様子もなく、極めて平然とした態度で、ナツノヒはさっさと先生と話し始めるのであった。
「いやあ、素晴らしいね! 良い生徒に恵まれるのは良い先生の証だよ。悪いリーダーというものは、態度ばかりで媚びるだけの部下を気に入ってしまうものだからね」
悪い気はしない。怪しいと言ってついて行かない道だってあったところを、この世界を案内してもらって、全面的に信頼して、王と戦うための力になってもらうという選択をしたのは、間違いではなかった。今ならそう信じられる。
最初に出会ったのがもしテンカ辺りだったとして、どのような関係になっていただろうか。今までの異聞帯も、そうかもしれない。例えば百鬼夜行で、中立勢力に入るところからのスタートにする選択は、明確に、あえての選択だった。
「よし、第一戦勝利の報酬をまず出すとしよう。とは言っても、物的なものは出す気は無いわけだけどね。でも欲しいものは出せる。まあ要は、昔話をしてあげようと思うんだ」
“くそう、本当に私がちょっと欲しいタイプの報酬を選んできた……”
先生だけでなく、皆似たような気持ちだった。少し、ここに由来する昔話というのは気になる。
「それじゃあ、この戦いのぶんにちょうどいいくらいの話をしよう。この鋼鉄の大地が、いかにして私達の命を運び続ける大船、
ある日、また地上を新しく知った
無秩序を、過ぎたるを欲するを嘆いた
そして、奪われた
なけなしの、しかしそれだけで十分だった宝を