Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
アイムは、一瞬目を疑った。持ってきた装備は、アサルトライフル。チャージ機能付き、神秘の力をより強く乗せるブースト機能まで乗せている、アイム専用仕様(遊泳大陸船団の市民は皆専用仕様の武器を持っているものだが)。
フルチャージで、出せる限りの単発火力をぶつけて様子を見るつもりだったが、無傷となると意味が分からない。だが危険を感じて、即座に離脱をする判断ができたのは良かった。
「ひゃあっ! う、うわぁ〜……はっやいなぁ〜……」
離脱が遅れていたら、撥ね飛ばされていただろう。人を乗せることを一切想定していないのが明らかな恐るべき加速度で機動兵器は鋼鉄の大地を爆走開始。キヴォトスの住人は車に轢かれてもものすごく大きなケガにはならないものだが、この重量と速度ではいくらなんでも無事でいようというのは無理だ。
「危ないところだった。それで、手応えは?」
「ぜーんぜん! 間近で見たけど、傷ひとつついてる気がしないよ〜」
「なるほど。あの爆発力でか……個人の資質といったものも無関係。単純に、まともな攻撃が通らないと見ていいか」
完全に無敵、確かにその可能性はあるかもしれない。しかし、それなら最強であって然るべきである。何より、
そのような兵器が暴れていては、この異聞帯はもっと終わった歴史になっているのではないか? 故に、攻略法が存在するのではないか?
そのような発想にカンナが至るには、少しも時間はかからなかった。
「申谷カイ。この相手、どう見る?」
「うん。経験則になるが、本当にこの世の理を外れたかのような者は存在する。それは認めざるを得ない。そして、人工物というのは得てして、それを全てにおいて上回ったりはしないんだ。不思議なことにな」
「その感覚は間違ってはいないだろう。先生、そちらでこの兵器の分析はできたりしますか?」
先生がシッテムの箱の方を見ると、プラナが親指を立てていた。どうやら任せてよさそうだ。
解析ができるまでは、視覚情報から得られるものを整理する。特定の面から攻撃すると弱い、などといったことはなさそうだ。それどころか、全面後面側面といった区別があるように見えない。どの方向にも自由に動く、無骨な箱である。そこから時折射撃武器が飛び出して乱射してくるのだから、たまったものではない。
やってくること自体は、極めて単純だ。そして、そこから、もしやそこが弱点なのではないか、と思えるものがカイの脳内に思い浮かんだ。だがそれがもし正解だったなら、正気を疑いたいとも思った。狙いにくいにも程がある、と。答え合わせは、分析結果か、アイムの閃き待ち。
『解析。有意な量の情報が揃いました。とはいえ、結論としては……申し訳ありません。外装に関して、その素材は完全に未知です。広く知られていないというだけではなく、ここまでの道程を振り返っても、類似した物質に触れたことがないという意味です』
規格外の機械、未知の性質に満ちた機械には触れたことがある。「預言者」達がそれにあたる。あれも、現代科学が認知していない、という意味での未知の素材が使われていることだろう。
だが今回の装甲は、そういう枠ですらない。異常に硬いという、今知った情報以外何も分からない。合金なのか、石なのか、有機物なのかも。
“つまり……実質、何もわからない?”
『否定。分かったことは、あります。それは、あれがありとあらゆる衝撃を吸収する異次元の素材であること。そして、細かく加工することの適性が著しく低いことです』
なるほど、それなら納得がいく。見た目を整えることができないほどに、ほとんど板張りで箱を作るくらいのことしかできないほどに、加工に向いていないのだろう。そして、それなら細かい機会が詰め込まれている内装に直接攻撃を当てればいいというわけだ。
「やはりか! だとしたら、あの銃火器を出すための穴の隙間から内側を潰せということになる。弱点は分かっていても狙うのが難しいようにする、全く徹底しているな!」
一気に穴に突っ込める限りの大口径を撃ち込めるのなら良かったが、3人揃って小ぶりな得物を使うのがより一層噛み合いが悪い。あれこれ創意工夫をしていきたいところだ。
そんな中、カンナがひとつ気付きを得る。
「先生。内装を狙いに行くという方針でいくのは、前提としてですが……この謎の箱の中身、どう思われますか?」
“どうって……すごく緻密な構造だよ。これだけの武装を正確に出し入れして、しかも駆動部まであるし、出力もこれだ。装甲も軽くはないように見えるんだけどなぁ”
「それです。緻密がすぎるのです。ありとあらゆる無駄がない構造であるのならば、大きめのパーツをひとつ歪ませただけで、異変を起こせませんか?」
銃身の長い兵装を少し曲げるだけで、どれだけの変化をもたらせるだろうか。しまうだけでピッタリ収まらず、大変なことに──くらいのことは、望んでいきたいわけだが。
できるだけ1パーツが大きそうなものをとにかく狙っていこう。兵装はもちろん、その隙間から内側を。外に出しているものが変になっても、それは内側に歪みを持ち込まなければいいだけなのだから、それで対抗されては不都合だ。
と言うだけなら簡単。どの方向に急に動くかも分からない大質量の物体に付いている小さな的を狙うのはリスキーだ。
「わたしが引きつけるから、皆は狙うことに集中して!」
アイムも必死だ。遂に語尾がまったく伸びなくなった。幸い、この機動兵器は誰が操作しているでもなく、かつそこまで賢い思考をして動いているわけではないので、陽動がかなり有効。
恐怖に怯えながらも、覚悟を決めた。毎秒覚悟を決め続けている。イリアの友人の不思議ちゃんだった彼女は、いつの間にか戦う人の顔になっていた。
紙一重で、なんとか身をかわし、立ち続けることができていた。