Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
先にしていた話というのは、遊泳大陸船団が最初に差し掛かった問題のこと。巨大な船。作ってそこを拠点に王国を作り上げようとしたトリンは、材料も海の広さも足りないという問題に直面した。
それを解決する方法についての話。
“沿岸の自治区を制圧したんなら、そこを利用して自治区を広げていくんじゃダメなの?”
「ダメだね。彼女は自らを王として、キヴォトスの自治区というシステムすらも、不健全で捨てるべきだと考えたから。あの王様も随分と思い切ったものだよ。自治区の土地を利用するどころか、大陸船団のために
接収した、という言葉の意味が、一同は理解できなかった。それは自治区を広げていくのとどのように違うのか。土地の接収というのは──ワカモが、思い至った。
「まさか、地面をまるごと削って、接着を……?」
「その通り。なかなか思い切った発想だよね、大地をそのまま材料にしてしまおうなんて。財を持つことを許していない人々は土地を持つ必要が無いんだって。人でなしだってキミ達は思うかな。でも、それがワタシ達の結論だ」
「はーん? 王サマの結論っしょそんなん。アテシ達そんなこと認めた覚えないんだけど」
ナノの反論は、ある程度のところまでは尤もだと言えるだろう。しかし、虚しくもある。なぜなら、そういった人々の犠牲の上で成り立つ幸福を生まれた時から労せず享受しているのは、彼女もそうだからだ。
そして、返答もまた虚しい。
「ああ、ワタシ達というのは、大陸船団の人々のことではないよ。王様と、ワタシと……もしかしたら、イリアも。そう、これはワタシ達の問題なんだ」
「あたし……?」
「もう、そろそろだよ。分かるから。うん、それで、船内区画をついでに集めた大量の船を鉱物資源で作った繋ぎの金属を利用して作って、外壁は土で固めて岩肌を作って、これにかなりのリソースを使ったからキヴォトスの海はかなり広がった。陸地が分断されたところもいくつかある」
陸を削って単純に減らしただけではない。陸だった部分を海中深くにある部分のパーツとして使った量があまりにも膨大だったため、若干の海面上昇を引き起こしていた。
“キヴォトスには、外部との関わりもあったと思うんだけどな……海面上昇を勝手に引き起こして、問題にならないはずがない”
「もう既にその頃には、正真正銘世界の王だったからね。キヴォトスに武力介入するのも禁忌らしいし。そして巨大な勢力でもって、遂に連邦生徒会まで傀儡とした」
つまり、強大にして永遠なる支配者として君臨した綿津見トリンによるオデュッセイア、改めトリトンの遊泳大陸船団によって、土地を物理的に掠め取られつつキヴォトスの全土は征服された。海の者によって、陸地の全ては統一されたのだ。
ある意味、この世界が異聞帯として本来の歴史から切り離された理由でもあるだろう。キヴォトスとしての大前提、学園都市としての体制を破壊したこと。そして、完全に固定化された社会システムを作り、繁栄の終点を定め、そこに居座ることを決めてしまったこと。これが、異聞たる所以の一角なのは間違いない。
「それで王様は何を思ったか? 何をすることを思いついたのか? その辺りのことは……後にしておこう。話しながらだんだんとウズウズしてしょうがないんだ。実力に自信がある人、残ってるんだよね? 早くワタシとやろう」
確かに、じわじわと息が荒くなっているのがわかる。早く落ち着かせてやらないと、どうなることか分からない。戦闘に入ると落ち着くかもしれない、というのもなかなか変な話ではあるが。
「では、私ワカモと……」
「レイアでお相手させてもらおうか」
“一応、こっちが出せる戦力では、これが一番強く出られるけど……自信の程は?”
一切の油断は無いつもりだ。だから驕ったような言い方は避けた。それでも、驕りと思われただろうか。いや、むしろ、ナツノヒがあえて驕っているのか。
「無いなんて言ったら、やる気なくすよね?」
こう言ってのけるくらいの余裕があるようだった。
「この……っ!」
レイアは挑発に乗りやすい質なのだろう。マシンガンを抱えてナツノヒの方に向かって、走り出す──
その踏み切りを行った瞬間。もう戻れなくなった瞬間。違和感に気付く。ナツノヒが先程まで昔話をしていたのは、先生にほど近い位置だった。何事もなかったかのように受け入れていたが、考えてみればなぜ、余裕をもって戦えるくらい遠くにいるのだ?
「喧嘩っ早い子だぁ! そういうのワタシは好きだなあ!」
「なん……で」
「だけどダメ出しだよ! 迷った人から負けてくんだからさ! 飛べい!」
ロケットランチャー。それは本来片腕で扱うものではない。両手で扱うにしても、脚でしっかり安定性を確保して、反動をがっしりと抑え込まなければ扱えない代物であるはずだ。
しかし、ナツノヒはそれを左腕一本で、ハンドガンでのように使っている。いや、ハンドガンでも本来は完全に片手で扱うものではないはずだ。
初見の者は、それを見てどうしても驚かざるを得ない。そして、そんな意味の分からないことができてしまう存在相手に戦うこととは何を意味するのか、受け止められなくなる。
その迷いは、敗れることに直結するのだ。
「ん……ぐぐぐ……っ!」
「捕まえたっ! 無闇に突っ込むのは下策です。わけがわからないのなら、これからわかっていけばいい……なんて、先生のようなことを言ってしまいました」
おそらく、先生が同じような台詞を発するシチュエーションは、このようなものではないだろうが。とにかく、吹っ飛ばされたレイアはワカモがキャッチしてくれた。
ロケットランチャー直撃ということになったとしても、まだレイアは立てる。しかし、そのタフネスがあったところで、打開策が見えているわけではない。おまけにナツノヒはワカモの言葉に思いっきり頷く余裕っぷりなので、余計に腹が立ってきている。
「あら、カーリーに吹っ飛ばされてもまだ無事かあ。いいね、気に入った」
カーリー。名前にこだわってなさそうなナツノヒだが、しかし彼女はロケットランチャーにその名を着けた。
戦いの女神の名であるという。