Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
左手にはロケットランチャー。名を、「カーリー」という。右手には、改造重機関銃。こちらの名を「マリーチ」という。当然ながらこれらは、同時に持つものでもなければ片手で扱うものでもなく、まして持ちながら軽快に動き回って扱うものでもない。
しかし、ナツノヒには、そのような常識は通用しない。ワカモも大概、高い戦闘能力を有する七囚人の武闘派の一角であるが、それでも目の前の恐るべき光景に、自分もまだまだ常識の範囲内で生きているのだと思い知らされる。
「……先生。あなた様の知る生徒に、あれ程の者はおりましたか……?」
“完全にいないって言おうとすると、なんか変な情報が邪魔してくるなぁ……いや、でもある意味アケミよりも凄いことしてないかな……?”
あちらも大概なことをしていた。重機関銃やロケットランチャーをアサルトライフルかのように扱ったかと思えば、もはや生身が銃と言わんばかりに砲弾をパンチ射出などなど。
しかし、それを踏まえても更にもう一段階上にいるように思われる。あちらはアサルトライフル扱いなら、こちらはもはやハンドガン扱いだ。しかもそれが細身の体によって行われているというのがより一層恐ろしく見える。
「その、アケミってのも気になるが……要は、常識の限界をさらにぶち抜いたってことだろ。なんて奴を相手にすることに……いてて」
「無理はなさらず、と言いたいところですが。互いに、無理をせねば勝てないのかもしれませんね」
本当なら、こんなことを言っている暇もない。相手は余裕ゆえに待ってくれているだけのこと。
随分な慢心だが、この地の支配者として、自分に勝つことを試練として課すことを選んだからには、むしろそれをせずして何が支配者かというところか。全く強者というのも楽ではない。
「準備オッケー? オッケーだね、よし、ゴー!」
突っ込んでくる。先程のレイアの突撃と比較すると、信じがたいほどの速度の差。迎撃などできるはずもなく、まず退避。退避しつつ、何発か撃ってみるが、身をかわして避けられた。
“力もそうだけど、一番凄まじいのは速度だ。いや、たまに速度とかそういう問題じゃないことをやってる気がする”
『多分、その感覚は合ってるんじゃないでしょうか。実際に、データ上でもそんな動きをしているように見えますし……』
アロナによると、速度の実測値と時間あたりの移動距離が一致していないらしい。双方は本来
速度の定義部分に関わる、何かしらの異常が発生していることは明らかだ。そうでなければ、同じものが違う数値などあり得るまい。
“一応、攻めること自体はふたり共できているみたいだけど、見た感じこれは、そもそも当たってないのかな? 何かカラクリが……?”
カラクリがあったところで、それを解決することができるものであろうか。単純に速いというのは脅威なのだ。キヴォトス基準で考えると、戦術もへったくれもない小学校低学年の児童ですら、倍速で動く能力を得たらそれだけで並の高校生に対抗できると言える。
ましてただでさえ強い人物が速さに関わる何かしらの能力を持つのであれば、その速さ自体が対策に対する対策になる。
「マリーチ、薙ぎ払え!」
右手でブンブンとヘビーマシンガンを振り回す。弾の軌道がもはや鞭のようだ。弾幕だとか、そういうレベルではない。地を這わせるように撃ち出したためか、高い場所をカバーしていなかったために、咄嗟に飛ぶ判断ができたが、ワカモは気が気でなかった。着地までに、この無防備を突かれてしまわないかと。
これは杞憂だった。だが接近しなければ、あの手この手で近付きにくくしてくるというのが見えてきた。一気に距離を詰めて、動きの自由度を制限しなければ。
「レイアさん、やはり近距離が鍵です!」
「おい、私がどうなったか……いや、逆に、そうか。近付かれるの嫌なんだろ、遠距離の方が得意なんだろ? なあ!」
いきなり吹っ飛ばしたのにも、理由があるはずなのだ。近距離の方が得意なら、あんな爆発力で飛ばすのは愚策もいいところ。しかも、近付いて来ないのはそういうことだろう。
ただし、これには多少の思い違いを含んでいるところがある。確かに、ワカモの予想通り、遠距離を保たれてはなかなか勝ち筋も見えてこない。だが、一度あちらからも突っ込んできていたことを無視している。
それだけ距離を離されると無理すぎるということでもあるのだが。
「随分とナメたことを言ってくれる。いやあ、確かにワタシは王様のお墨付きで、遠距離だと最強なんだ。代わりに近距離が弱いなんてのは、単純が過ぎるよ諸君」
その手の人物を見たことがある人物なら、この言い分に対して、一定の納得をすることだろう。
「ワタシは、遠距離が最強な代わりに、近距離が鬼……らしいぞっ!」
王はそのようにナツノヒの実力を評した。様々な、大袈裟とも思えるような称賛の言葉を考えたが、これに落ち着いた。
ちなみに他の候補は、「戦闘機の娘」とか、「戦神の神たる戦士」だとか、そういったものなのだが、気取り過ぎないほうが良さそうということだった。実際に、一番本質を捉えた表現であった。
マシンガンを撃ちながら振り回し、同時に近付いてきたレイアにロケットランチャー──カーリーを向ける。もちろんこれ自体は読めていたので、射撃のタイミングを読んで狙いを外すことを試みる。
しかし、このナツノヒ、そういった小手先の策には見てから対応ができてしまうらしい。大概過ぎる化け物だ。普通だったらこれは致命的失策になり、詰みである。しかし、コンビであるのならば、まだ失策ではない。
「ふんっ! ……いくらあなた程の実力者でも、手が足りなければどうしようもありませんでしょう?」
「ほー。その銃剣って飾りじゃなかったんだ。いや、このまま使う機会はそう多くないと見たぞ。思いつきかな?」
砲身が銃剣で押さえつけられ、僅かながら狙いを付けることが困難になった。余裕そうな反応をされたが、初めて「予想外」をできたのは収穫だった。