Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
押し合いの状態に持ち込み、自由を奪う。そうすることでようやく、攻撃を当てるチャンスを得ることができた。
しかしレイアが構えようとしたら、器用に足で対処される。なら、もうひとつ予想外を起こすしかない。だいぶ無理のあることと思いながらも、ワカモは行動に出る。
「大丈夫、余力はある……引けますっ!」
銃身を押し込みながら、トリガーは引く。これができるだけの余力がこの押し合いでもまだあるというのもまた、ちゃんと予想外だったらしい。弾丸は、ナツノヒの頬に命中した。
「至近距離、顔面、狙撃銃。なるほど、道理で、なかなか痛いわけだ。よし、第一段階は合格」
更に力を入れて、ワカモを弾き飛ばそうとする。全力で押されているとは微塵も考えていなかったため、ワカモはすぐに数歩退き、空振りに終わらせた。第一段階と言うからには、もう同じ手は通じないし、もう少し気合を入れる第二段階があるのだろう。
「なーにが合格だ! 私はお前をぶっ倒して……」
「いやいや、それじゃ過剰だよ。キミ達の目標は王様だからね。ワタシの試練で十分と思う水準の実力さえあれば倒せるよ! よし、後半戦だ!」
「んなっ! おい!」
数発足元に発砲。今度は、少しも避ける素振りがない。というより、次の攻撃のための行動に集中しているように見える。そして、確かに命中したのだが、それにリアクションをしている様子もない。
かと思えば、目の前から消えた。走り去ったとか飛び去ったとかではなく、本当に消えたように見えた。
“……なんだこれ?”
アロナとプラナが力を合わせてシッテムの箱フル回転で、出した結論。それは、この移動はワープに近いというもの。流石に、ここまで実際の移動速度と測定による速度の差が激しいと、そう見做さざるを得ない。空間自体が歪んでいる。
とにかく、出現位置をいち早く捉え、マークする必要がある。できれば、それを後まで分かるように残す。
「先生がマーキング……真後ろ? やばっ──」
「おらぁっ! 踊れいっ!」
真後ろに現れたナツノヒは、ステップを踏んでいる最中の状態がずっと続いているように見える。その手は、マシンガンを両手持ち。彼女ほどの人物でも片手持ちがもうできないくらいの出力で放つ。
その出力は、何とか回避をしようとするもギリギリで一発掠めただけのレイアが、言われた通り踊るような動きをしてしまうほど。弾丸の速さによりギリギリ横に当たるだけでも大きく押し込まれてしまい、結果的に体が回転してしまうのだ。
当然ながら、その上で痛みに悶える動きも混じる。
「おのれっ──!? ワカモ!」
相手が先程まで撃ってきていた場所を見ても、誰もいない。瞬間、次の狙いを理解する。確認のために向き直り、先生のマーキングよりも速くそれを視界に捉えた。
「なるほど、こちらの音ですね」
「分かるんだ。凄いな」
実際のところ、音を消せない弱点はナツノヒ自身が思っているよりも明確にあった。ただ、ワカモは見抜くのがかなり早い。それだけでなく、基本的にはそれを見抜かれる前に勝ててしまう実力と、この異聞帯でちゃんとした戦闘の機会が乏しいという事情もあった。どれほど強かろうと、欠点は見抜かれなければなかなか気付かない。
しかも、見抜かれたとて本来なら問題にならないレベルだったはずなのだ。ただ、今回は相手がそれをちゃんと利用できる水準にいる。
「面白い、気合いが入るなあ! ならこんなのは?」
真横、真後ろ、正面のどこかに現れるものだと思っていたが、まさかの真上も選択肢に入れてきた。そこから放つのは、高出力のロケットランチャー。もはや爆撃機が急に上空に現れたかのよう。
着弾に伴う爆発でも、鋼鉄の大地に傷は付かない。元から強度がずば抜けていた船だったのか、それとも王の力によってこの部分は守られているのか。初めての試みゆえか、撃った本人も少し驚いていた。
当然、それが当たっていなかったからといって、戸惑うようなものでもない。むしろ、一発で見抜かれて避けられるくらいの想定でいる。なので、そこから更に様々な位置取り、撃ち方を使い分けて翻弄しようと考えていた。
だが、どのような手段でこれを可能にしているのか、もう既にバレているということはあまり想定していなかったという具合だ。
“ワカモ、レイア、聞こえる? ナツノヒのやってることの仕掛けが、ある程度分かってきたんだけど”
「はい、いつでも聞いております」
「そいつは朗報、とはいえそれだからどうしたって話でもある」
“いやいや、これがなかなか大事そうなんだよ、私としてはこの仮説が正しければここからの勝ち筋が生まれてきそうだと考えていて”
その意味の大きさを理解はしているのだろう。ナツノヒの耳には聞き取りにくいように、小声で呟く。詳しく頼む、と。
「念の為、お聞きします。現実的なのですか、それは?」
“君達くらいの実力をもってすれば、ギリギリ! いいかい、ナツノヒは空間を曲げている。時間かもしれないけど、空間の方が説明がつきやすいから、こっちで説明する。つまり、高速移動は、本来
「つまり……どういうこっちゃ? いや、待て。なんとなく分かった、言いたいことは。ただ、本当にそんなことが起きていると?」
確かにそうなるかもしれないが、視認はできていない以上、信じがたい。何より絵面が想像したらえらくシュールで、現実味がない。
それでも先生は堂々と主張した。
“うん。つまり、ワープするかのように移動した瞬間に、彼女は外見上、ものすごく引き伸ばされているような形になっている可能性がある。もはや曲げることもできない、大きな的になる”
本当に信じたくはないのだが、パワー以上にその挙動がおかしいので、それは無いと言い切ることもできない。
それに、先生の言う事なら信じてもいいと思える。
「なら、狙えますか? レイアさん」
「恐ろしく難しい。だから手伝え、ワカモ」