Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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1-11:無敵戦車隊

 この異聞帯には、車はほとんど流通していない。経済というものは大部分が崩壊しているし、資材も少なく、技術は独占されている。ゆえにその技術を独占する組織が、自己の目的のために製造したものに限られる。

 もっと言うならば、万魔殿が軍事目的に、特殊装備として運用するものとして、車は独占されているのだ。そしてそれこそが、その絶対的な立場を保障している。

 

“戦車……!?重工業が行える世界だとは思えなかったんだけどなぁ!?”

 

 万魔殿の戦車隊。正史と比べても、その規模は遜色ない──どころか、少し大きいくらいである。その中でも精鋭が揃う部隊が、目の前に現れた。

 

「顔を出す前から、どういうわけか心で感じられました。イロハとイブキちゃんがいます、もちろん異聞帯側に」

 

 セナの言葉通り、先頭の車両から顔を出したのはイロハとイブキの顔。だがイロハがこんなに眉間に皺を寄せているのを見たことがある者はいなかったし、イブキの目つきがここまで無になるのは、誰一人想像したこともなかった。

 おそらく、最も変化が大きく見えている二人だろう。彼女らの姿を知る者はかなりショックを隠せないでいた。

 

「顔をわざわざ見せるとはねえ。交渉でもするかい?」

 

 カスミは堂々と、前に出て言い放つ。その小さな身体に、あまりにも冷ややかな視線が戦車上から向けられていた。

 

「先程の砲撃を見て、そのような意思があると解釈するとは。はぁ……おめでたいものですね、奥座敷カスミ」

「そっちがそういう気なのかというのを聞いたわけではないとも。するかどうか聞いただけだし、その返答に関係なく私は話すだけ話す気で──」

「では、話し合いは終了とさせてもらいましょう。いよいよ、処分を告知する理由ができたのです」

 

 会話をしようという気は毛頭ないようだ。だがそれに納得がいく先生ではない。

 

“せめて処分の理由は聞かせてほしいな。なぜ痛い目に遭うか分からないと人は覚えないよ”

「あなたは……ああ、なるほど。だとすれば尚更、必要です。地下の探索自体、褒められたことではないですが、明確にゲヘナの理念に反している証拠と──」

「イロハ先輩、そんなに話しちゃダメだよ」

 

 諫めるイブキの声は、聞いたことがないくらい平坦で、生気を感じない声色。先生はそれを聞いて、どこか悲しくなった。より世界の本質的な部分が見えた気がした。

 だが情報は増えた。諫められるのも納得なくらいイロハは話し過ぎていた。観測データから疑惑が生まれていたことが、確信に変わった。

 

「そうですね、では──我々を否定する者達を、これより撃滅します。総員、戦闘準備」

 

 戦車の群れが一斉に動きだす。砲弾が飛び交う中で、退路も塞ぎにかかってくる。

 

「弾薬を節約しながら、この数を相手にするのは骨が折れるかも。そっちは任せるわ、陸八魔アル」

「ええ、戦車相手もできるのがスナイパー、常識を破ってこそアウトロー。あいつらにも、ヒナにも覚えてもらわなくっちゃ」

 

 アルは、かつて活躍したという伝説のスナイパーの話を思い出していた。数千人規模の戦車隊を少人数で壊滅させたという、凄腕の狙撃手集団。そのリーダーに至っては、「戦車の砲身に銃弾を撃ち込んで爆発させた」などというエピソードまであった。

 このエピソード自体は、流石に嘘だということは彼女も知っている。実際にやったことがあったし、戦車は別に爆発しなかったから。だが、スナイパーと戦車が戦えるのは本当だったし、その真似が今ならできるのではないかと、そういう気がしていた。

 

「悪いけどセナ、アシストもらえるかしら? 戦車へのトドメには榴弾が向いてるの」

「お任せを。連射性が低くて申し訳ないところですが、やれる限りを尽くします」

 

 ヒナは単独、アルはセナと協力とくると、必然的にカスミとカンナが協力することになる、という流れができた。この二人もまた、互いにうまい具合に敵を翻弄する動きで仕留めていく。パワー面では他に劣る中、テクニックは負けていない。

 

 と、まるで優勢でありそうに言わせてもらったが、実際にはそんなことはない。むしろかなりギリギリ感が強い。数は多いし、動きも見た目以上に迅速で、戦車の砲撃はもちろん、顔を出してマシンガンや散弾ショットの弾幕を張ってきたりするので、いちいち鬱陶しい。

 強者が何人かチームに含まれていたとしても、人数一桁はあまりに力不足である。アロナから情報の嵐をぶつけられながら、先生はこれが負け戦になるだろうということを悟っていた。

 

“皆、分かっているかもしれないけれど、一応私の口から言わせてもらうね。この戦いの目標は──()()()()()だ。どうにかして撒くことだ!”

 

 だが、どうやって撒けるというのか。周囲に視界を妨げるものはほとんど無い。ただ道を切り開いて、そこからひたすら逃げたとして、果てしない追いかけっこが始まるだけだ。

 

「逃げるとしても、あっちが見失うまで食い止める殿が不可欠。私ならやれると思うけど、どうする?」

「ダメだ!」

 

 ヒナの提案に待ったをかけたのは、カスミだった。

 

“もしかして”

「私が任されよう。大丈夫、考えが正しければそのうち皆と合流できるはずだ。いい具合の逃げ道が出来たら、そこから私を置いていくといい」

“はずだって、それが無理だったらどうするんだ!”

「それは、今から渡すものに頼ってほしい」

 

 彼女が手渡したのは、暗号らしきメモ。落ち着いてから読み解けということなのだろうか。少なくともこの場では解けないぐらい難解だ。

 

“これは?”

「一応これ単体だけで読めるようにはしている。場所を示す内容になっているから、そこに向かってくれ。さあ、早く!」

 

 これに反発するのは、無理にでも全員で逃げるか全員で勝とうとするのは、ここではやるべきではないと先生は直感している。たとえ生徒を守ることが第一と考えている彼であっても、それはやってはいけないと思ったのだ。

 まだ敵配置が手薄な方面を見ると、自然にこちら側の生徒達が集まっている。

 

“抜け道はそこだ! 切り開け!”

 

 敵戦車の間を縫って走る。立ち塞がられたらヒナが壊し、乗り上げて進む。背中はカンナとアルに任せる。他の障害物は、セナが取り除く。多少の被弾はもはや気にならない。もしシッテムの箱の防御が無かったとしても、この場面であれば先生は駆け抜けていたかもしれない。

 

「そうだ、それでいい。私は今までどうにかやれていた。今回だってどうにかしてみせるさ」

 

 異界からの仲間を背に、カスミは不敵に笑ってみせた。

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