Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
その言葉の意味を理解するのにかかった時間は、短くても数秒。長いと、ここから先の会話を聞きながら、それでも数分は理解を拒んでいた。
最初に理解したのは、やはりナノだった。
「ちょ……ちょいちょい、神? 娘? 本気?」
「本気も何も、事実だからね。ワタシは綿津見トリンという人物が腹を痛めて産んだ子供だよ。尤も、同じ姓は名乗っていないし、滅多なことでは名乗らないけどね。ナツノヒというのも彼女から貰った名前じゃない」
王の娘として生まれながら、与えられた名前を名乗らず、同じ一族の名を持たずにいる。何かしらの異端者であるということだろうか。
“じゃあ、仲が悪かったり?”
「さあね。ここの試練を任されるってなっても、妙にしんみりしてただけだった。ただ、うん。
“突破してほしい……か。狙いは何なんだろう”
「それは、次の試練を受け持つ人物が教えてくれるはず。ともかく、ワタシは神として生まれた。どういうわけか、時空間を制御できる存在になった。まあ、暴力にしか使えたことはないかな」
俄には信じがたい能力だが、むしろこれくらいの能力が本来キヴォトスにはあるべきなのかもしれない。あまりにも内面に向いた形で拡張されている傾向があるが、片鱗はあるのだ。
さて、その次に疑問を呈したのはカイであった。
「それについてだが。ただひとりだけ神として生んだ娘、という話だった。それについて、詳しく聞かせてもらおう。可能であれば、神を神たらしめるものについてもだ」
「……彼女は神になるため、演算機構を借りたんだ。キヴォトス旧時代の、神の存在証明の演算機構。本来は、なんてことない機械を異常に拡張して実行していたものを、肉体と頭脳に移植する。おぞましい外法で、身体機能の拡張、自身の神性の証明をするばかりか、王たる器でそのまま支配してしまった。生まれながらにして王になるべきだと彼女は信じていたらしいけど、どうも本当にそれは正しかったみたいだね」
恐るべき外法。それはすなわち、かの神を騙るモノの力を貰い受けるばかりか、王としてその冠までもを支配するというもの。遊泳大陸船団の建設は、ある意味それが汎キヴォトス史で行ったように、演算装置、容れ物の代わりになりうるものを作っていたのだろうか。
だが、それもその役割では不要だった。器に入ったようでいて、パーツにされてしまったのだから。
「なるほど、人外の域に達することができた、その理由は十分に理解した。それにしても、そうか……残念だな。そんなやり方は再現性がない。最低でも私が、可能ならば広く一般に使えそうな方法という枠にはない。大人しく仙丹の研究に戻るとしようか……」
“その研究、本当に大人しい?”
「言ってくれるな先生。だがすまないね、私は今ちょっと本気で凹んでいる。そっとしておいてほしい」
元より、あまり期待できるとは思っていなかったが、本物の神が人の身から生まれた世界であるとするならば、もしやと思うところはあったのだ。
甘い話は無かった。自分の研究も、実際に意味があるかどうかは未だ分からない。それでも多少は期待したかった。
「まあ、何か分かったところで実らなかったんじゃないかな。実のところ、別に彼女は人をやめられたわけじゃない。いや、それが望みなのだとしたら、それでいいんだけれども」
“ところで、その……君の、妹にあたる人っていうのは、いるの?”
「いい質問だね。うん、綿津見トリンの娘という意味なら、たくさんいる。ただ、ワタシ以外はちゃんと人だ。だから多くは老いて死んだ。時々病んで死んだ。たまに、母に抗って敗れて死んだ。今命がある王の娘は……ワタシの他には、ひとりかふたり程度しかいない」
だから常に、疑問だった。どうして自分だけが、ずっとこのままなのかと。その疑問を忘れるために、強さを極め始めた。人を鍛え始めた。その人員を集めるための資金はあった。
良い暇潰し、と呼ぶべきものにはなっていたのかもしれない。
「ナツノヒ……さん。あたしからも、いい?」
「いいとも。今一番質問をしてほしかったのは、キミだからさ、イリア」
「……なんで質問増やすかなぁ。ま、これは答えてくんないでしょ、どうせ。なんか、なんとなく分かるんだ。でも、あたしが用意してた質問には答えてもらう」
「なるほど。よし、答えてあげよう。今答えない方がキミ達に都合がいいもの以外は、何だっていい」
「──どこかで……会ったこと、あったかな?」
ふわりと、風が吹いた気がした。それは、確実にナツノヒの内に既視感を根付かせるようなものだった。
イリアは同じ種類のものを、最初から感じていた。なるほど、分かってはいたが、やはり縁はあるらしい。だが、その感覚が分かったからこそ、あくまで事実でもって応答する他ない。
「いいや。今日会うのが初めてだよ。ワタシはキミを知っていた。キミはなんとなくワタシを知っている気がした。それだけだよ」
会ったことなんてない。それで納得するならいい。
「……そっか。それじゃあ」
「うん。皆もいいかな。これでワタシの試練は正真正銘終了だ。始まりの地、鋼鉄の大地を任された王の娘、
そんなことを言って、次の目的地に関するヒントは何もくれなかった。確実に分かるのは、彼女の発言は全くもって無意味ではないということだけ。
その日はそのまま帰り、解散することになった。
その夜。イリアはまた夢を見た。
前に見た夢で乗っていた、船の上。しかしあの子供はいない。いるのは、イリアと、「ママ」だけ。
「ようやく、ここまで来たんだな。よく、ここまでやり切った」
「あたしは……何もやってないよ。でも、なんかもうすぐ、一番大事な役割を担えるような、そんな気がする」